もきゅもきゅもきゅもきゅ

ぼたん

「もきゅもきゅもきゅもきゅ…………」

黒蝶堂縁側での風景。
おひがんの話 後日談←こちらを参照くださいv 

彼女が食べている物→おまんじゅうです^^
おまんじゅうに、見えないですが。
中身は、かなり甘いこしあん。

外はもちもち、中はほくほく。

牡丹さん?食べ過ぎると、卒塔婆を振り回せなくなりますよvってな感じで。

私は、よく食べる女の子が好きなのです。

新しい拡張子で保存してるので、ちょいと重たくなったかもしれません><

追記からお返事です⇒茜さん
拍手だけの方も、ありがとうございます!

続きを読む

スポンサーサイト

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

しごとの話


【しごとの話】

「なんだこいつは…。」

はちは、机上に放置されている紙を持ちあげ、まじまじと見つめた。
一枚のチラシ。「新規入居者募集!」の文字が嫌でも視界に入る。
その下。
新設ビル建設予定地の場所と、オープン日時がデカデカと載っている。

「まさか、『これは安い!この機会に、マンションでも買いましょう!』とか言うんじゃねぇだろうな…?」

はちは、眉根を寄せた。
笑顔のまま、しろは人差し指をたてるだろう。その様が、いとも簡単に想像できる。
すべてを勢いで乗り越えようとするあの性格は、なんとかならんものか。
彼の嘆きは、いつもいつも、あさっての方向に打ち返されてしまうのだが。

「…いや。あいつも、そんな金なんざどこにもねぇってことくらい、知ってるだろ。」

なら、これみよがしに堂長席に置かれた広告が意味するのはなにか。
裏をメモ用紙として使えって事か。
と思い、裏返したが
予想していた白いスペースはそこになく、違う不動産の記事で埋め尽くされていた。

「駅の近くか。」

再び表を見、
意味も無く、住所を確認する。
そして、チラシを机に戻し、ずれた眼鏡をかけなおす。

と、更に下の方に書かれてある、マンションのオープン価格に気がついた。
ふと思い立ち、引き出しから電卓を取り出してみる。

今の収入で、どれくらいのローンを組めば、マンションは購入できるのか?
ぼちぼちと、数字をはじいてみる。

…はちは、途中で計算を放棄した。

貧困なる未来に対する蜂起を、今すぐにでも起こしてやりたい。
そんな気分に陥った。
電卓の電源を勢いよく切り、乱暴な手つきで、元の位置に戻す。

「一生働いても、玄関とベランダくらいしか買えねぇぞ…」

いや、それは家とは呼べないだろ。と、一人寂しく、自らにツッコミを繰り出す。

そして、古いながらも雨風の凌げる家があることに、ひどく感謝したのであった。




星がキラキラと輝いている。

その真下。

纏わせていたコンクリートを剥がれ、掘り返された土の覗く地面。
敷地内に建つのは、半分取り壊されている、年季の入ったアパート。
明日残りを処分するのだろう。
材木と化した【家だった物体】の欠片を踏みつぶす、巨大な車体。

王座する、黄色のショベルカー。
騒がしく働いていた昼とは違い、今は沈黙を保っている。

そして、ショベルアームのちょうど天辺。
手を伸ばせば、星を掴めそうな。夜空に最も近い場所。
両者は、そこにいた。

「次の持主と建造物は、こちらで調べるわ。」

フリーコールから聞こえてくる機械の音声を思わせる、事務的な抑揚の無い声。
少女は、返事の無い少年の横顔をじっと見る。

「諸行無常、栄枯必衰。ここを出て人間は、どこに行くの?」

変声期を経ていない、少々高めの声で少年は、淡々と言葉を紡いだ。
近寄ってきた少女に、なんの警戒心も抱いていないようだ。その瞳は、焦点を結んではいない。

「知識を欲しているのなら、堂長に問いなさい。」

少年は、少女を知っていた。
黒蝶堂。憑者と人間の中継地点。
少女は、そこの憑者だということを。

しばしの沈黙。
少年は、抱えた油菓子の袋から中身を取り出し、黙々と口へ運ぶ。
ぱりぱりぱりと、揚げたじゃがいもが割れる音で、辺りに一定のリズムが刻まれる。
そのリズムに合わせて、ショベルカーから投げだしていた足を、ふらふらと揺らしている。

やはり、横に立つ少女を意に介す風は、一つも無い。

何も映っていない、虚空を見つめる少年の横顔に、少女は口を開いた。

「食べなさい。甘い物が好きでしょう?」

肩から下げたポーチから取り出した、小さな包み紙。
口の中でぐにゃぐにゃと逃げ惑う、一口サイズの砂糖菓子。

しろが先日買ってきてくれたものだ。

少年は、手元のスナック菓子を脇に置き、少女から菓子を受け取った。

「グミ…だね。」

途端に訪れた、袋の暗転。
ばらばらばらと、まるで、はらはらと舞う大粒の雪のように地へ降って行くスナック菓子。

それを気にも留めない少年。
先ほどとは種類の違う咀嚼音が、夜の工事現場に響く。

生温かい夜風が車体の間を通り過ぎ、
月が、雲隠れから姿を見せ始めた。
注いでくる月光が、少年と少女の表情を鮮明に照らしていく。

「ねぇ、ここはどうなるの。」

少年の視線は、空に向けられたままだ。
独り言と言っても、差し支えない呟き。

「堂長に問いなさい。」

少女は彼の呟きを拾い、短く返す。冷たくも感じられる、凹凸の無い声音。

「ねぇ、僕はこれからどうしたらいいの。」

少年は続ける。視線を、もらった砂糖菓子の包みに移す。
膝の上に散らばった、8つの銀紙。
その一つに手を伸ばし、剥ぎ、口へ投げる。甘ったるい匂いが、口中に広がる。

「堂長に、問いなさい。」

先程と同じ、相も変わらない声音。

少年は、足元をみた。
面影の微かに残る家。さら地となった、自分の憑場。
消えた人間達。新たな地へ旅立った、人間達。
彼らが自分に気づくことは、結局最後まで無かった。
…いや、子どもには気づかれていた。自分を見付ける度、
その眼が絵に描いたように丸くなっていたのを、少年は思い出す。

しばしの間。
手元のグミは、すっかり無くなっていた。
小さく、唾を飲み込む音が聞こえた。

そして、膝の上で丸められた少年の拳に力がこもるのを、少女は見落とさなかった。

「…ねぇ、僕はどうして、捨てられたの?」

「あなたがここにいるのは、あなたを必要とする者がいるから。」

一瞬の間も持たせず、少女は言い放った。
その言葉を、予見していたように。

少年は、俯いていた顔をはっとあげ、少女を見つめた。

ここにきて、初めてまともに少年の瞳に映った、傍らの少女の顔。
彼女は無表情ではあったが、そこには
内面からの、凛とした、確固たる自信がにじみ出ている。

「嘘ばっかり、だ。」

堂々とした少女の様子とは対照的に、少年の語尾が震えていた。
頭を抱え、目はこれでもかと言わんばかりに見開かれている。

「現にこうして話しているあなたは、私に必要よ。」

混乱する脳内に、少女の言葉が沁みこんでくる。

「それは今だけ、でしょ?」

首を強く左右に振り、必死で否定する。だが、少女からは目が離せない。

「あなたに会う前までは、ね。」

少女も、目を逸らさない。

「だけど、あなたに会った今から先は、そうもいかないわ。」

目を逸らさぬまま、感情の揺らぎを全く見せず、

「あなたを孤独にはしない。そのために、黒蝶堂は存しているの。」

おごりも、慈悲の心も感じられない声で、
さも当然の如く、少女は言い放った。
それはまるで、

「台風が来れば、学校は休みになるわ。当然じゃない。」

と告げているようだ。

「…堂長に会えば、わかる?」

少年の弱弱しく、か細い声は、闇に溶けてしまいそうである。

「そのための堂長よ。」

少年は、少女から、ハンカチを手渡された。
歪な兎がプリントされた、お世辞にも趣味が良いとは言えない絵柄。

両手で顔をぺたぺたと触る。
あぁ、これは無様だ。
少年はここで初めて、自分が涙を流しているという事実に気がついた。
鼻水も涙も、ぼろぼろと際限なく零れており、
手首で拭う際に土が付着してしまった顔は、文字通り、
見るも無残と言わんばかりに、ぐちゃぐちゃになっていた。

「ぷれぜんとじゃないから、ちゃんと返しに来て頂戴。
空腹なら、健康的な食事を準備できるわ。」


「…堂長は、僕を受け入れてくれる?」

途切れ途切れの、突拍子もなく、的を得ない問いにも、少女は言い淀まない。
少々笑みをたたえた口元で、少年の欲する言葉を与える。

しかし、それは、すべてではなく、ちらつかせる程度に留まる。
不安と期待の中間地点で、彼を置き去りにするかのように、

「懸念が杞憂に変わる瞬間は、自分の目で確かめて頂戴。」

意地の悪い笑みを浮かべた少女・ゆりは、少年をその場に残し、車体から飛び降りる。

「約束よ。それはちゃんと洗って、直接私に返して頂戴。大事なものだから絶対よ。」

振り返ってそう言い放つと、月光照らす帰路を歩き始めた。

ゆりの手によって、見上げれば首が痛くなるほど、大幅に上げられたハードルを、
たった一人の力で乗り越えていかなければならないという近未来。

この時のはちはまだ、知る由も無かった。

-少年が黒蝶堂の戸を叩く、数日前の話。


【終】


テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

門限は守ろう。

【たのしい楽しい家庭菜園】の続きっぽいもの。

その日の夜。

↓↓


「夕飯の時間はとっくに過ぎているのに、帰ってこないなんて…。
 これは、おしおきしかないですよね…?ねぇ、ゆりちゃん。」




門限は守ろう。


「…しろ、屋上に行ってきて頂戴。あと、その凶器は置いていくこと。」

「屋上?どうしてですか…あ!

「もしかしたら、空腹で倒れてるかもしれないわ。」

門限は、守ろう。

そして、人を締めだした事実も、きちんと覚えておこうね!←


しろが持つのは、MY箸ならぬ、MY
といっても、夕飯の準備をしてるだけですよv
まさか刺そうだなんて、そんなことは…笑

ですが、包丁に見えないですねぇ。あれれ。

そして、ヤンデレ彼女に愛されて夜も眠れないなんとかとは、一切関係ありません。
描いた後に、構図かぶりに気づいたんだぜ…。


しろは感情豊かで、
斜め上方向に、全力でポジティブ(`・ω・´)

基本的に、笑顔がトレードマークの彼ですが、
頻繁に全力で怒ったり泣いたり、はちとケンカしたりしています。

なのに、いっつも笑ってるところばっかり描いてしまう(´・ω・`)

カメラを向けられると、いつでも笑顔を準備できるっていう特技を持っています。

蛇足ですが、
「夕飯なにがいい?」と聞いて、「なんでも良い」と答えられるのが一番困りますよね。

追記からお返事です⇒ゆささん、若野さん、shingetuさん、misia2009さん
拍手だけの方も、ありがとうございます♪



ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください^^♪



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

家庭菜園その後

草むしり終了後。

↓↓

家庭菜園続き

「…あれ?開かねぇぞ。そこに誰かいるんだろ!おい、開けろって!」

「泥だらけの人間を易々と、自分の憑場に侵入させるほど、私は甘くないの。」

「ちゃんと風呂に入るから、泥だってすぐに落ちるだろ!」

「えー、扉のこっち側にも匂いがきてますよ^^♪」

^^♪じゃねぇ!そりゃ肥料の匂いだ!オレの体臭じゃねぇよ!誓ってもいい!」

「はちの笑顔ほど、胡散臭いものはないですよ^^♪」

「お前にだけは、言われたくねぇよ!いっつもへらへらしやがって!」

「表情筋をあまりに使わないから、笑い方を忘れたのかと思ってたわ。」

「お前ら…!オレが笑ったら悪ぃってのかよ!いいから開けろ!」

もうしばらく続く、押し問答。
続きはご自由にどうぞ^^♪

仕事をさぼって日ごろ見せない眩しい笑顔で、家庭菜園に没頭
↓↓
結果
↓↓
なんとなーくモヤモヤした思いを各々抱かされた
ゆりとしろの手で、屋上に締めだされた、はち。
その理由は、それぞれ違う気がします。


扉描く気なかった。

扉に全然見えなくてすみません。

追記からお返事です⇒夢さん、茜さん
遅くなって申し訳ないです…!
拍手だけの方も、ありがとうございます★☆


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください^^♪



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)

続きを読む

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

雨上がりの話 8 (完)

カレーの食べ過ぎで、気持ち悪い^q^

やることがたまりすぎて爆発しそうなのに、なぜか部屋を掃除している自分。
…困った。八方ふさがりとはこのことか。


呟きは置いておいて、今日は小話の更新です!
なんだか久しぶりな気がする。
「雨上がりの話」の続編ですv


ついに、最終回…?


↓↓前回まではこちら↓↓

雨上がりの話1
雨上がりの話2
雨上がりの話3
雨上がりの話4
雨上がりの話5
雨上がりの話6
雨上がりの話7

↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓


【雨上がりの話 8】

「おはようございます…?はち、今日も顔色悪いですけど、余り眠れませんでした?」

食卓へやってきたはちの顔を見ると、しろは自らの目元を指した。
はちの目元のひどい隈。
日を追うごとにひどくなるそれは、今朝も、治っていない。

「表が明るくなってから、少し眠れたみたいだがな…。
パトカーに追われるところで目が覚めた…。」


はちは欠伸ではなく、溜息で応えた。
欠伸をする精気さえ、はちには残っていない。

「またその夢ですか。」

白飯と梅干、みそ汁の載ったお盆を、しろが運ぶ。
どれも通常の半分の量。
ここ一週間で、はちの食欲は激減していた。

しろは、はちが衰弱している理由に、気が付いているのか、いないのか。

「おとといはチョコレートに飲み込まれた。そんときの気持ち悪い感触が、まだ残ってやがる…。」

普段よりも、ゆったりとした、起伏のない声。
はちは、寝癖のついた後頭部を、くしゃくしゃと邪険に掻いた。

傘の持ち主は、未だに現れていない。

通常よりも青白い顔に浮かぶ、落ちくぼんだ瞳。
その眼で、堂内を見渡す。

存すべき存在がいないことに、たった今気がついた。

「…ゆりはどうした?」

「帰ってきてませんよ。」

「…え?」

寝不足の頭では、理解が一瞬遅れる。
しろが、目を伏せた。

「…昨晩から、ちょっと用事があるって言って。心配です。」

「…大丈夫だろ、あいつは。」

心なしか痩せた頬で、はちは食卓に座る。

その傍らには、忌々しい傘。
最早これが傍に無いと、不安で仕方がな…

…無い。

二階へ駆けあがる。
早送りのビデオのように。
あらゆる場所を文字通り、ひっくり返すが如く。
しろは

「どうしたんですかぁ?」

と、間延びした声をかけ、はちの様子を観察している。

「ねぇんだよ!」


「やっと、見つけたわ。」

心当たりは、最初からあった。
いや、一つしかなかったと言った方が正しい。
傘が持ちこまれてから数日間、ありとあらゆる場所を当たり、手掛かりを探していた。

そして、

「捕まえた。」

屋根の下には、月光きらめく繁華街の世界で、おぼつかない足取りを携えた人影。
夜明け前が一番暗いとは、よく言ったものだ。
空気全体に沁み込んだ、残存する酒と香水の匂いに、ゆりは顔をしかめた。

藍色の世界で、相手の顔は、よく見えない。

「捕まったねぇ。」

頭上から言葉が降ってくるようだ。

言葉とは裏腹。
相手の声に焦りはなく、余裕すら窺える。

「単刀直入に問うわ。これはあなたの物?」

手元の黄色い傘を、足元へ放る。
できれば、近寄りたくない相手である。

怖いわけではない。
が、
距離をとっておいて、しかるべきな相手だ。

「そう。」

「部下を使ったの?」

「怪しい。」

月光に照らされた、淡い黄色に飴模様が視界に入った。

「確かに、あなたには不釣り合いね。あのお金は?」

「餞別。」

「祝儀にしては、随分安いわね。」

「祝儀じゃない。香典。」

「舌を抜くわよ。牛タンならぬ、鳥タンね。」

ゆりの減らず口に、男は肩をすくめた。
どこか演技じみた動作でもある。

「今の堂長に。」

「贔屓?それとも、女に飽きちゃったの?」

男の纏う雰囲気が微かに揺れた。
笑っているようだ。

「贔屓じゃない。同情。

怪我無いは堂長だけ、でしょ。」


男の口角が、僅かに上がったのが見えた。

あぁ、やはりこいつの策略だったのか。
はちだけが、災難を避けられたこと。

いや。

災難の側から、避けられていたこと。

ゆりは僅かに、息をのんだ。
自分の憑場に、他者が関与しているのに、侵略の事実に気づけない。
できる者も、限られている。
だからこそ、この男は、特殊だ。

感情を押し殺した声で、言葉を紡ぐ。

「遠くから観察するなんて、随分趣味がいいのね。」

「今回だけ。」

観察が今回だけというのか、それとも、贔屓が今回だけなのか。

少なくとも、次回があるのだ、と示唆しているようだ。

「返すわ。もう楽しんだでしょう?」

「それなりに。」

男は楽しそうだ。
単語の端々に、好奇の色が見え隠れしている。

「今日はおしゃべりじゃないのね。」

「もう朝が近い。」

笑みを含ませた言葉に、偽りはなさそうだ。

「夜行性にはきついわね。」


ゆりは踵を返し、場を後にした。


傘を拾った男。幼児用のそれには、到底入りきらない体。

ゆりが立ち去る前、最後に言い残した台詞が思い出された。

「不自然だけど、普通の喋り方もできるんじゃない。」

ほんの少し、スズメの涙程度に、感情のこもった声だった。
男は睡魔に襲われた頭で、文字を選ぶ。

「慣れない。無駄口、避けるが吉。」

なんて、と、男は呟きながら内心苦笑する。
こんな目立つ所で、下手に口を滑らせるわけにはいかない。

自分から闇を破るわけにはいかない。

黒装束をまとった姿は、陽が明けるのを待たず、煙のようにすっと、音も無く消えた。

それはまさに、立つ鳥跡を濁さず。を体現するかの如くであった。

明るくなりつつある東の空に、鳥の鳴き声が響いた。




「おかえりなさいゆりちゃん!」

「…ただいま。」

真っ白い犬が駆けてくる錯覚。

ゆりは、黄色い傘を持っていた。

「あ、やっぱりゆりちゃんが持っていたんですね!」

「てめぇ…!一言言いやがれってんだ!」

これは、打ち出の小づちでは無い。
見た目はまったく同じだが、
本当の、単なる幼児向けの傘である。
本物は、本来の持ち主である男に渡してしまったからだ。

「ちょっと思う事があってね。」

「…まさか【ちょこれーと☆はうす】建造しちまったのか?」

はちは傘を受け取り、大事そうに抱えた。
恐る恐る問う彼に、ゆりは「さぁね」と言葉を濁す。

はちが、青い顔をする。さぁっと、血の気が引く音が聞こえるようだ。

その時、戸が開かれる音がした。
入ってきたのは幼い少年。黄色い帽子と鞄、それに、幼稚園指定の青い制服。

「あの、僕この辺りで傘をなくしちゃったんですけど。」

はきはきとした態度。
どこからどう見ても、黄色い飴玉模様の傘が似合う風体だ!

はちは素早く立ち上がり、立ちくらみを覚えながらも、少年に近寄った。

少々上擦った声と共に、少年に傘を差し出す。

「ほら、これだろ。こんな大事な物、もう失くすんじゃねぇぞ。」

と、そのとき。

一体何を思ったか、はちが傘を自分の目に近付けた。
眼鏡をかけ直し、じっと見つめる。

ゆりは彼の振る舞いに、違和感を覚えた。

もしや。

「…あ。これ…?」

はちが眉をひそめる。

ゆりは、はっとした。その感情の高まりは波風の立たない、自分にだけわかる程度だったが。

まさか傘が偽物だと、はちに気付かれたのか?
違和感は、確信に変わりつつあった。

一瞬にして、ゆりの頭脳の中で、そろばんが、はじかれる。
はちを察しのいい性格だとは、正直思っていない。
…まぁ、鈍感ほどではないかしら、との予断が、そろばんの邪魔をする。

もし気付いたのだとしたら、それはなぜなのか?
察しが良いのは、むしろしろの方だろうとの判断を、変更せねばならないだろうか。

原因を探るため、目をつぶる。
そして、合点がいった。
単純な話だと、ゆりは悟った。
偶然が生み出した、必然の結論。
判断の変更も、必要なさそうだ。

「こいつ直ってやがる。…あぁ、そうか。ゆり、直してくれてたんだな。」

「えぇ。だから、忌々しい金具は必要ないのよ。特に、銀色のは、ね。」

はちのポケットに、本物の傘の金具が入っている。
ゆりはたった今、それに気がついた。
今まで気づくのが遅れたのも、黒装束のせいだろう。
調子だけでなく、気までも狂いそうだと、ゆりは思わず下唇を噛む。

「あいつ、今度捕まえたら、ただじゃおかないから。
唐揚げにして、夜のおかずにしてやるわ。」


脳裏によぎった黒装束を、脳内に引きずり込んで、ぎったんぎったんに伸すゆり。
余った分は、肉を割き、粉をまぶし、高温の油で揚げ、店頭に並べればいいだろう。
美辞麗句を並べれば、もしかしたら、売れるかもしれない。
揚げ物の中身がなんであろうと、きっと人間は鶏肉と信じて疑わないだろうから。

言葉では、表現のしようがない。
いわゆる、年齢指定が入りそうな勢いになるのを、
ゆり自身、気が付いていない。
しかも。
自然と顔に笑みが浮かんでいることにすら、気付いていないようである。


「ほら、この金も持っていけ。」

はちが差し出す茶色の菓子箱の中には、傘から零れてきた金銭全てが入っている。
小銭がじゃらりと、音を立てた。
だが少年は、首を横に振る。

「僕、知らない人から物貰っちゃだめだって、母さんに言われてますから。」

歳不相応とも思われる、はきはきとしたもの言い。
はちも負けじと食い下がる。

売り言葉に、買われぬ言葉の押し問答。

その末期。

「だから!貰ってくれねぇと困るんだって!オレの存在が、
こいつで狂わされてんのは、間違いねぇんだからよ!」


小さな少年に食ってかかる、
何とも大人げないと評すべき、はちの姿勢に、
しろから言葉の鉄槌が下るのは、時間の問題だった。

「はちの存在なんて、彼の人生にこれっぽっちも関係ないでしょう!
自分の存在価値は、駅の自動改札に通れるか通れないかで判断してください!」


「オレの人生は線路上にはねぇ!
駅がありゃ、こんな、次元のずれた、ふざけた道を進んでねぇよ!」


「ちょっとだけ、かっこいい台詞だと思ったじゃないですか!」

「これが精一杯だ!」


「うるさい!」

ゆりが怒鳴る。はちの足元に浮遊感。
見事に掬われた。いや、掬われていた。

転倒、暗転、白い天井。痛覚。意識混濁、一歩手前。

しろが顔を覗き込んでくる。

「…はち、にやにやしてて気持ち悪いですよ。」
「…うるせぇよ。」

しろの指摘も否定せず、はちはしばし天井を仰いだ。
あぁ、悔しい。悔しいが。

これがオレなんだ。

「…オレは、ここにいるんだな。」

口元に笑みがこぼれ、留める事ができない。
そして、タイミング良く、腹の虫が鳴った。


結局、金銭は手元に残ったまま、少年を見送ってしまった。

「僕にくれたってことにしていいです。そして、僕が進呈したってことにしてください。」

見かけに似合わない思考回路と口調で、はちたちを説得した少年は、
深々とお辞儀をした。

「しっかりした子がいるんですねぇ。」

しろはほぅっと、感心したように目を細めた。

「だな。…どうすっかな、これ。」

「警察はまずいですし、募金したらどうですか?氷山募金がお勧めですよ。」

「そんな胡散臭ぇとこに募金するわけねぇだろ、氷山しろ。」

「なら、ちょこれーとを買いに行きましょう。」

「じゃあ僕は、アイスとラムネがいいです!」

「…仕方ねぇ。板チョコなら一枚、駄菓子なら100円までだからな。」

けちーとのユニゾンが、後方から聞こえるが、はちはそれを華麗に無視する。

まぁ、なにはともあれ、これで一安心だな。

はちの顔に、安堵の笑みが浮かんだ。


【終】

追記から、しょうもないあとがき

ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)

続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

さいどめにゅー変更

ゆり

「…こんな僻地に迷い込むなんて、あなたも随分、運が無いのね。」

登場者の欄を、変更しました。
↑↑ゆりのイラスト差し替えです。↑↑

ちなみに、牡丹も少し前に差し替えてましたv
リボンも確定させて、ちょっと笑ってる表情にしましたが、どうでしょうかねぇ。

新しいイラストは、
小さいので、見づらいですが…
クリックされると粗が目立つので、非推奨です(汗)
うーん、赤が綺麗にでないのが気になる。あと、顔のアップがよかったかなぁ。

…とにもかくにも、早く新しいマウスを手に入れねば。

そして、サッカー見てたらこんな時間に!
道理で眠たいはずだ。
早く寝なければ…!

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

雨上がりの話 7

久々に、小話upします。
【雨上がりの話】の続編です。

はちがだべるだけの内容です。
だらだら。
…そういえば、小話で【はちだけ】が一人で登場するのは、今回が初めてかもしれない。
今更ながらの、モラトリアム(笑)っぽいもの。



↓↓前回分まではこちら!↓↓

雨上がりの話1
雨上がりの話2
雨上がりの話3
雨上がりの話4
雨上がりの話5
雨上がりの話6

↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓


【雨上がりの話 7】

おかしい。
自室にこもり、引き戸を閉めた後、
暗闇の中ではちは座り込んだ。

おかしい。そう思わずにはいられない。

それは、
なぜ、
【自分の身にだけ】
なにもおこらないのか、ということについてだ。

しろの言葉が思い出される。

「はちらしくないですよ!」

「…確かにそうかもしれないな。」

暗い部屋で、今更しろの言葉に同調する。

とは言っても、
自分は決して、マゾ思考ではない。

ましてや、
「堂長である自分が身代わりになる。だから、しろとゆりには手を出すな!」

と言った、
任侠と慈悲に溢れた心があるわけでもない。

断言できる。
だれしも自分の身は守りたい。そうに決まっている、と。


だが、
しろとゆりの身に降りかかっている、
悪戯ほどの小さな、「ちょっとした」災難。

【それらは本来、自分がターゲットになるべきではないのか。】

と、一般人が聞けば耳を疑うような思考が、脳内をぐるぐると
さまよっており、

「何言ってんだ、オレが一般人じゃねぇみたいな事…。」

自分の思考に、自分で突っ込みを入れている始末だ。

この思考回路には、理由がある。

今までの経験を通じ、
自分の立ち位置と言うものを、嫌と言うほど自覚している。

同様な立場の人間にしか分からない、
哀れなる、哀しい性なのだ。

例を挙げればきりが無い。

とばっちりから、割に合わない不幸。
言われの無い誤解から生じた、意識混濁。

それに伴う標的は、過程の差すらあれ、
結果はほぼ100%、自分に向けられたものであった。

それがどうしたことか。
傘のせいかどうかは全く以て不明瞭なのだが、
それが到来してから、自分の周囲が被害を被っている。

被って「くれて」いるのか。
もしくは、強制的に
被ら「されて」いるのか。

だが、誰が何のために?

疑問が疑問を呼ぶ。土台が不安定な、鉄塔の上に居るような気分だ。

暫く考えた後、一つの仮説に、たどり着いた。

「まさか…な。」

浮かび上がってきた自らの仮説に、肝が冷える思いを抱えながらも、
その思いを振り払うかの如く、首を左右に振る。

が、結局、耐えきれず、言葉にしてしまった。

「オレの存在価値は、その程度のもんじゃねぇ…よな?」

自らへの問いかけ。
だが、静かな部屋で答える者はいない。

視界の端に入った、傍らの傘を一瞥する。
口内に上がってきた、溜め息の波を、
防波堤ギリギリのところで防いだが、
胸苦しさを振り切ることは、できない。

自分を、黒蝶堂の「盾」であったとするなら、
もはや、その「盾」は必要とされていないのであろうか。

そして、それはなぜなのか。

ばかげた考えだとは、
だれよりも、自分が一番わかっている。

支離滅裂な理論展開にも、目をつぶってほしいと、だれにでもなく乞うている自分がいる。

それほどまでに、思わずにはいられない。

それほどまでに、重大な問題なのだ。

そんな、悶々とした思いを抱えながら、
そして、少しずつ
それに、心をむしばまれながら、

一週間が、亀の歩みのように、ゆったりと過ぎ去った。


【続】



次くらいで完結します。

…暗い部屋でぶつくさ言ってる人がいたら、気味悪いですよね。




ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)



テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

もっと笑ってくれればいいのに。

はち練習


でかくなった^q^

昨日、電話しながら描いたやつ。
電話はいつも、長電話になりますねぇ。
本当に、取るに足りない話を延々とv

そして、今日のイラストは見ての通りのはちですね。
最近割と、よく描いてます。

いっつも同じ表情になるのは、よろしくない。
だけど、
はちすっごく眩しい笑顔だったら、
それこそ
キャラ崩壊と言われても、
反論できない気がします(笑)

はちは、

「もっと笑ってくださいよ!」

と叱られても、

「おもしろくもねぇのに、笑えと言われても…」

ってタイプなので、

本人は普通のつもりでも、

【不機嫌そうだ】と思われる事も、しばしばです。

現実なら、KYと言われても仕方が無いね。

もっと練習します…!

追記で拍手レスです!⇒チョコさん
拍手だけの方も、ありがとうございます!


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

雨上がりの話 6

ぱちぱちありがとうございます!

HPの方は最近放置気味←なのですが、
そろそろ溜まった小話を、
ぶちこんでこねばなぁ…と考えています。

そっちのweb拍手の中身も、変えたいところです。


言うだけは、ただ^q^

そして、本日の更新は、昨日に続き、小話upです☆

↓↓前回分まではこちら!↓↓

雨上がりの話1
雨上がりの話2
雨上がりの話3
雨上がりの話4
雨上がりの話5

残り2、3回位…のはず!

↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓


【雨上がりの話 6】

「この傘は使うのは禁止だ。」

「えー」

しろが不服そうに、声のトーンを落とす。

それは、楽に稼げる道具を奪うはちへの怒り。
…というよりも、
お気に入りのおもちゃを友人に取り上げられる、幼稚園児のようだ。

興味の熱を、冷ませずにいる。一種の執着と言ってもいい。

「たりめぇだ。お前に預けりゃ、いじくりまわしてすぐ壊すだろうし、
ゆりに預けりゃ、その金遣って、
次の日からここは黒蝶堂じゃなくて、
【ちょこれーと☆はうす】になるだろうし。」


「いいわね、それ。」

まんざらでもない顔で、ゆりが右手を顎に添える。

…余計な一言だったか。

「落とし物として処理させてもらう。」

「警察に持って行くんですか?」

それ、と傘を指すしろは、未練タラタラの様子だ。

「そうだな。」

「せっかくこの間、上手く撒いたのにですか?」

しろは、首をかしげる。
特に思惑は無く、率直な疑問を、ぶつけてみた、といった感じだ。

その顔に、はちは息をのんだ。
唾が、喉元へ逆流してきた。

…忘れてた。

夜道で追われ、挟撃されそうになったこと。

白い物体を、警官に投げつけたこと。

結果として、逃亡者となったこと。

後にゆりに聞いたところ、あれは小麦粉で出来ていたらしい。

もちろん、人体には無害ではある。

当然、無害だ。だが。

…身体的には無害ではあるが、
精神的には有害だ。

今更、不安がどっと、押し寄せてきた。


害を被っているのは

ぶつけた本人つまりしろ、

ではなく、

ぶつけられた者つまり警官

でもなく。

苦労を重ね「させられ」ている人物すなわち、はちにとっては、である。



あれから音沙汰はない。

だが、警察の中に、あの夜、自分を追いかけてきた者がいるのは、間違いない。

もし引取りの手続きの際に、身元を明かす必要があったなら。

もし顔を覚えられていたとしたら。

単なる不審者で済むか、はたまた、公務執行妨害か。

事情聴取、書類送検、営業停止、逮捕…

不吉な言葉が、次から次へと湧いてくる。

交番を出る際の後ろ手に、手錠をかけられるかもしれない。



まして、

「この傘から金が降ってくるんだ!!怪しいから引取ってくれ!」

とでも言うのか。

…今度は精神科を勧められる可能性が出てくる。

明日の我が身は、どこにあるのか?

拘置所か病院か。

それとも…【ちょこれーと☆はうす】か。


すぅっと息を吸って、腹からゆっくりと出す。

…溜息ではなく、深呼吸だ。

「とにかく!これはオレが預かる。

どっかのガキの、忘れ物かもしれねぇし、持ち主が取りに来る可能性だってあるからな!」


とりあえずの様子見。

吉と出るか凶と出るかは、未来に託すという建前の、逃げの戦法を取ることにした。

そしてそのまま、両者の返事も聞かず、傘を手に、荒い足取りで二階へあがったが、

一抹の不安が、心で警鐘を鳴らしていた。


【続】

いつもと勝手が違うと、ちょっと戸惑う。
はちの葛藤と、戸惑い物語の詳細は、次の更新でv
警察沙汰は⇒ここらへんで確認できます★☆


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

雨上がりの話 5

追記でお返事です♪⇒misia2009さん、若野さん、ゆささん
拍手だけの方も、ありがとうございます★☆


※非公開コメでコメントくださった方の中で、お名前無表記の方がいらっしゃいました。
心当たりのある方は、お知らせください。予測はありますが、あくまで、推測ですので★☆


今日の更新は、【雨上がりの話】の続編upですv

長々しない予定が、相変わらずダラダラで。
お付き合い頂いている方には、ほんと、申し訳ない><


しかも、まだ完結しないのでs(殴)



↓↓前回分まではこちら!↓↓

雨上がりの話1
雨上がりの話2
雨上がりの話3
雨上がりの話4

↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓


【雨上がりの話 5】


「おいおいてめぇら、しっかりしやがれ。」

目の前に広がる、ちょっとした惨事。
こんな事は、初めてだ。
自分以外の者が、ちょっとした災難に苛まれている。
しかも、自分は未だ無傷。

これは、ちょっとした奇跡かもしれない。

【ちょっとした】がゲシュタルト崩壊しそうになっている、はちの眼前。
頭を抱えるゆりの前に、うずくまるしろ。

幸いにも、意識は両者ともあるようで、
はちは、ほっと、胸をなでおろす。

目を伏せると、視界の端に、銀がかすった。
脇に転がる、銀色の金具。
おそらく、傘の先端から外れたのだろう。

「全ての元凶は、こいつか。」

はちはそれを拾い上げ、上着のポケットにしまい込んだ。

と、隣の気配が動いた。

取り乱したのはいつのことか。
そう言わんばかりの表情で、ゆりは立ち上がる。その顔には焦りも、恥じらいも無い。
例えるなら、ドラマのNGシーンを取り直す、女優のよう。

どれだけひいき目に見ても、外見は子役タレントどまり。
だが、ゆりには、それに見合わぬ威圧的な雰囲気がある。

1、2、3、4、5回。

彼女が傘を振り、開くと、今度は五枚の紙幣が零れた。

…五枚でも一葉だな。

はちの脳内で、しょうもない単語が生まれては、泡となって消えた。
これを口に出すのは、もう少し歳を取ってからでいい。

「確かに、小細工をした形跡はないな。」

ゆりに投げかけ、五枚を手にしたはちは、【五枚でも一葉さん】を懐へ迎え入れる。

「はち、それはいけません。」

いつの間にか、しろが復活し、隣に立っていた。
はちの右手首を掴み、にこりと笑っている。

「…わかってるよ。オレもやればいいんだろ。」

止める者はいない。
絶対的未来の予測。
覚悟はできている。
自分にも、【惨状】の制裁が下されるであろうことは明らかだ、ということに。

首を左右に振り、不吉な予感を振り払う。

大丈夫だ、なにも起こるわけがない。
いや、断じて、起こらない。

「起こらないで、欲しいんだがな…。」

はちは自らに言い聞かせると、気を落ち着かせ、傘を手に取った。


降ってきた、3枚の万札。
それを手早く、手中に収める。
そして、何か来る!と身構えた。

…が、災難は訪れない。

タライは降ってこないし、床が抜けおちる事も無い。

時間差攻撃か!と気を張るが、いつまで経っても何も起こらない。


当たり前だ。自分はただ、傘を振って、金銭を手に入れただけなのだがら。

なのに、どうしたことか。
おかしなことに、なぜか調子が狂う感触に、手を浸しているようだ。


さながら、昼寝をしたために、夜中眠りに就けなくなった。
それでも、明日の為に、眠らなければならない。
しかも、朝は早い。
だが、睡魔は一向に訪れない。

その際の、焦りの感覚に似ている。


「どうしてはちは諭吉さんなんですか!一体どういう関係ですか?!」

はちの心中の葛藤も知らず、しろが口を、への字に曲げる。

「この世界で一番縁の無い人間だ。よろしくしたいと思ってるんだが、
むこうは、オレに興味がない。…脈なしってか。」


言いながら、腑に落ちない思いがもやもやが、「重たい呼吸」となって出た。
万年筆の発射台であるゆりの手前、「溜息」と呼ぶことは避けたい。

納得できない風のしろの手に、三枚の万札。

現状を把握するのに、少々手間取った。
はちの手にしていたそれらが、いつの間にか、奪われていたのだ。

「返せ。」

「いやです。没収です。」

「あぁ!?返せよ。」

「い や で す !
はちだけ何の代償も払わないまま、ただ諭吉さんと仲良くするなんて。

…報われるなんて、はちらしくないですよ!」


「意味わかんねぇ事言ってねぇで、返せよ!」

勃発する、取っ組み合いの喧嘩。
はちが身をひるがえした瞬間、仲裁の手が下った。
飛んできたのは机上に置かれた硬貨。それらが一つの川となり、
二人の足元を固めた。

言わずもがな、仲裁人はゆりだ。

「冷静になりなさい。さもないと、次は口から注ぎこむわよ。
窒息希望の人は前へ出て頂戴。」


すみませんでした。

頭の芯が冷える思いをしたはちは、ごほんと咳払い。
そして、一つの決断を下した。

【続】


はちの独白物語っぽくなった^^
話ごとに描き方…文体がぐちゃーらなので、
もし完結したら内容変更のない程度に、統一するかもしれないです。
…しないかもしれない。


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)

続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

今日は何でしょうか?

追記でお返事です!⇒misia2009さん
拍手だけの方も、ありがとうございます★


おはようございます。

早いもので今年もあと半年
そして今月は、祝日の全くない、「憂鬱」と同義の「鬱月
まるで私の性格のように、曖昧で、はっきりしない…うだうだうだうだudud

(´・ω・`)<<中略>>(´・ω・`)

気候面でも、じめじめした空気が漂います。気も滅入るかもですね。
…ですが、私の住む地域では、梅雨の気配はまだなく、毎日夕立程度です。

おかしい…?こんなもんだったかな?

まぁ、雨の中チャリに乗って、道路の縁石に衝突するよりはだいぶいい。
みなさまも、事故などに遭われぬよう、お気を付けください。


<<こっから本題>>

突然ですが、今日は何の日かご存知ですか?

本日は6月8日。そう、⑧日。つまり、「はちの日」ですね!

ご存じない方のために説明しますと、当サイトでは毎月8日、
当サイト主人公?の黒川はちにちなんで、
彼に関する更新をしよう!ってな決まりを、設けているのですv

誰得?

↓↓ちなみに、先月までの更新はこちら↓↓

☆2月分
★3月分
☆4月分
★5月分

【6月分】

今回もイラストですv

最近更新中の小話【雨あがりの話】に、ちなんだものですので、
よろしければそちらをご一読くださいv

↓↓…あ、読まなくてもわかります↓↓

はちたちは、お金の降る傘を手に入れました。(概略)

↓↓↓↓

やっほい!

「この傘があれば、億万長者ならぬ兆万長者も夢じゃねぇな・・・!」

↓↓↓↓↓↓↓↓

なんだよ…

「…はっ!?…夢かよ。」

夢オチ?いえ、現実です。

億万長者になるのか、それともこのまま器用貧乏なのか。

詳しくは次回の小話を、参照してくださいv

ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!

七月もここで会えるよう、ひと月頑張って更新していきますv


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

雨上がりの話 4

追記でお返事ですv⇒misia2009さん、黒猫スミスさん、夢さん
拍手だけの方も、ありがとうございます!


そして、小話更新です。
いつもよりも文体がおかしい箇所があるかもしれません。
読んだ本にすぐ影響されるのは、悪い癖かも。
試行錯誤で、自分の描き方を身につけていきたいなぁ…とかいう願望


前々々回⇒雨上がりの話 1
前々回⇒雨上がりの話 2
前回⇒雨上がりの話 3

雨上がりという名の完結は、まだ先。

↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓



【雨上がりの話 4】

「これは、すごいです!」

ぱあぁーっと、表情が明るくなり、
ははぁーっと、供物を天に捧げるかのように、両手で傘を頭上に持ち上げるしろ。
その手から、さっと捧げ物が奪われた。

「何するんですか!」

しろは奪った張本人であるはちを、キッと睨む。
漫画の登場人物であるかというほど、彼は表情が豊かである。

「おい、これはどういうことだ。」

しろを無視し、
険しい表情ではちがじっと見つめるその先、ゆり。

…なんか、いつもと違うな。

はちは少しの違和感を感じ、視線を下げる。
そこで、あぁ、なるほどな、と合点がいく。

今ゆりが履いているのが、普通のスリッパだからだ。

いつも合わせる目の高さに、赤いリボンの先端が映ったから、
恐らく普段、10センチ程度は誤魔化しているのだろう、と推測する。

切り揃えられた前髪の下、眼光鋭い瞳を見る。
幸いにも、赤く染まってはいない。

「どういうことって、どういうこと?」

「とぼけるな。こんなことができるなんざ、てめぇの仕業以外に考えられねぇんだよ。」

今までの所業を振り返れば、推論は難くない。
先ほどの痛みを思い出し、はちは奥歯をぎりりと噛んで、こらえた。

一指も触れず棚を動かしたり、本を鳥のように羽ばたかせたり、
今更【偶然】を装って、百科事典の墜落事故を発生させたり。

これらはすべて、ゆりが憑者だからこそ、発生させられる現象である。
逆を言えば、ゆりにしかできないはずであり、
正体不明の、なんらかの力を使って、
傘から金を出しているように見せかけているのであろう。

【目に見えない物は信じない】信条に反し、大変不本意だが、
実際傘から貨幣は落下した。

だからこそ、そうとしか考えられない。
一連の怪奇現象は、黒蝶堂憑者である、ゆりの仕業なのだ、と。


はちは確固たる自信をもって、ゆりに詰め寄った。

「私が、何のために?」

だが、ゆりに動揺は見られない。
むしろ、感情のかけらもない、人形のようであり、
氷のような冷たい印象を受ける。

「退屈しのぎだろうが。」

「傘が開く瞬間に大量の小銭を移動させて、ばらまいて、あなたたちに拾わせる
…悪いけど、私にはこれのどこがおもしろいのかさっぱりだわ。それに」


「それに?」

「憑者は無から有は創れないわ。」

「?」

疑問符を浮かべたはちに、ゆりは淡々と、言葉を紡いでいく。

「仮に私が実行するとなると、落下分の金銭が必要になる。
それを準備するとなると、あなたたちの財布は頼れないから、
金融機関から拝借することになるわ。
紙幣を両替して、大量の小銭を袋か何かに入れて、隠しておく。
黄色い傘を買って、表に立てかけ、発見されるのを待つ。それが
開かれるかどうかも、不確かな状態で。」


彼女の口調はまさに、立て板に水。
はちの脳内で合点のいく表現が見つかった。

内容処理のためのタイムラグを生じさせながらも、
確かに面倒そうだな、とはちは納得しかける。

だが、その一方で、
これだけ流暢に言えるのなら、やはり計画を立てた実行犯ではないか、と疑いの芽が残る。
まだまだ予断は許さない。

「そんなまどろっこしい事、こちらから願い下げよ。それに」

「それに?」

「全然楽しくないじゃない。」

ゆりは大げさに、肩をすくませた。
取り巻く空気が、一瞬にして緩やかな物に変わった。

「仕掛けられる方は、お金が降ってくれば喜ぶでしょう。
例え自分のであってもね。だけど全部知った上で仕掛ける側は、大して
おもしろくもないわ。利点も無い。予定調和の等価交換はい終了。

…手元に残る借金は誰が返すの?
さながら、既に結果が出た競技…さっかー?って言ったかしら。
その試合の録画を、わざわざ映画館を貸し切って、夜中にたった一人で鑑賞するがごとしね。」


「相当のファン…嗜好者か、暇人なら見るだろ。」

「喜ぶ姿を見ることだけで、退屈が解消されるなら、毎日喜ばせてあげるわよ。
でも…【造られた未来なんて、興味ねぇ】んでしょう?」


「うっ…」

聞き覚えのある言い廻しに、はちは口ごもった。

その時は上手い事言ったつもりでも、後日改めて他人の口から言われると、
意外に恥ずかしいものがある。

現実にはそういうことが往々にしてある。

「つまり、私は関与していないし、未来も創れない。
その証拠に、傘を振ってあげるわ。」


早口でまくしたてたゆりは、はちに近づき、閉じられた傘を手にした。

よく見ておいて頂戴、と二人に言う。


だが。
手に取った瞬間、何かが上へと弾かれた。

それは電灯の光を浴びながら、勢いをつけ…

「痛っ…」

ゆりの頭上を襲った。

「ゆりちゃん!」

突然の痛覚を受け、その場にうずくまったゆりに、しろが素早く反応する。

「うわっ!」

頭上落下の物体が、床に転がる。足元まで、転がる転がる。

そして今度はそれを、しろが踏みつけてしまった。

転倒。後頭部強打。ヒヨコの飛んでいるであろう、しろの視界。

まるで舞台かドラマ。示し合わせたかのような、現状。

はちの目には全てがスローモーションに見えた。

「おいおい、どうなってんだよこれは…。」


【続】


まだまだつづくよ!←
ゆりが途中で引用した台詞は、
ここらへん
で確認できます☆★


ランキングに参加中。
気が向いたら押してやってください。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!

拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
拍手だけでも大歓迎v
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

テンプレ変更

慢性頭痛ならぬ

「なんか、嫌な予感がするんだよな…」

ずっきゅんって言う、車のCMが好きです。

それにしても、でかすぎた^q^

はちは頭痛持ち。慢性的頭痛ならぬ、突発的頭痛持ち。
嫌な予感を察知します。

臨界点突破して、ぶち切れたらどうなるか…想像したくないなぁ(汗)

私も雨の日にはよく、頭が痛くなります。

【お知らせ】

①ステキサイト様を2件、追加させていただきました!
リンク欄より飛べますので、飛ぶ際はマナーを忘れずに携帯していってください。

②テンプレ変更しました!
六月なので、ちょっとは季節感を出そうかなー…と思って。

不具合等ありましたら、報告して頂けると助かります。

今日の日付が変わる頃、【雨上がりの話】の続きをupする予定です。

メモ⇒ある程度の未来は予測できると言わせたのは、案山子よりも前。びっくり。

お返事もその時に!のろのろですみません><

テーマ : イラスト
ジャンル : 趣味・実用

雨上がりの話 3

追記でお返事してます!⇒ゆささん、S.cさん
拍手だけの方もありがとうございます~v


ラノベと小説の違いはいろいろあるけれど、
なんとなく【人間らしさ】の差にあるのかな


【雨上がりの話】第三話目ですv

前々回、前回分は こちらから↓↓
雨上がりの話①
雨上がりの話②


↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓


【雨上がりの話3】

沈黙が堂内を支配するなか、しろが静寂を破るかのように口を開いた。

「もしかしてこれ、振ったら出るんじゃないですかね?

ほら、打ち出の小槌みたいに!」


キラキラと目を輝かせたしろは、
臆することなく素早い動作で黄色の傘を手に取り、それを上下に振った。



1、2、3回。



そして、傘を開いた。

だが、堂内は依然として、しんと静まったままだ。

硬貨が床に落下して音を立てる事も、転がる事もない。

当然の結果だった。

「二匹目のドジョウがいるわけねぇだろ。

一匹目もどこから湧きやがったのかわからねぇのに。」


はちは憮然とした態度で言い放った。

とは言いつつも、落胆した気分がない、と言えば嘘になる。


それでも。守らねばならぬ体裁と言うものがある。


「無から有は生まれねぇんだよ。
第一、簡単に金が手に入るなら、誰が仕事なんてするかよ。
お前は打ち出の小槌とか言うけどな、一寸法師だって、苦労に苦労を重ねて、
やっとのことで、ようよう手に入れたんだぞ。
そんな大層で大事な物を、適当に放置するかよ。第一、それは傘だ、傘。
どうみても傘だろ。それにな…」


まるで自分へ言い聞かせるように、長々と語り続けるはち。


だが、向かいに立つ両者の耳には届かない。


なぜならば。



三人の面前を、三枚の紙切れが舞っていたからだ。



「…三回だから三人。随分と空気の読める傘ね。」

ゆりが捕まえたのは、
見覚えのあるひげ面の男×3枚。

この国において次から次へと、人の手から手へ渡る、節操無し男の代表格。

「宝物としての程度は低いけど、心を奪うには丁度いい量ってとこね。」

ゆりの目には期待に満ち溢れた瞳。
そして、対照的に
鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情が映った。

二人とも、ゆりの持つ紙きれを、穴があくほどにじっと見つめていた。


【続】

短いですけどここで…!
まだまだ続くよ☆←


ランキングに参加中。
ぽちっとよろしくお願いします。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!




拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
もちろん拍手だけでも大歓迎♪
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

雨上がりの話 2

追記でお返事してます♪⇒misia2009さん、月影さん
拍手だけの方も、ありがとうございます!


更新は、小話の続きです!
唐突に変な場面から始まってます。

①はこちら⇒雨上がりの話 1
もう六月だなんて、信じないんだから!



↓↓よろしければ、れっつすくろーる↓↓



【雨上がりの話 2】

「あぁ、これお財布でしたか。」

「違ぇよ!どうみても傘だろ!」

姿勢を下げ、散らばった小銭を、慌てて拾い始めるはち。
しろは傘を閉じ、それを本棚に立てかけた。
立てかける前に、それではちの頭を軽く叩く。
はちがギロリと睨んできたのだが、

「ちょっといい位置にあったので」

と、しろは笑った。


「こんなに入ってたんなら、重さで気付くだろうが。」

咎める口調で、はちはぶつくさと文句を言っている。
手近にあった空の菓子箱A4サイズ。それに次から次へと小銭を放りこんでいく。
5センチ程度の深さであるが、その下面がそろそろ見えなくなってきた。
このペースだと、フタにも詰め込んでいかなければならないだろう。

しゃがみこんだしろは、再び首をかしげる。

「全然重たくなかったんですよ。
例えるなら…朝ごはんが唐揚げとハンバーグだった嬉しい!みたいな…!」


「十分重てぇだろうが!」

「あ、夕飯の献立と混じってしまいました。」

豪華なメニューなのは、黒蝶堂むかいの弁当屋のおかげだろう。
店主は彼らをなにかと気にかけ、時々こうやって、夕飯をごちそうしてくれる。
本人いわく、

「新メニューの研究だから、代金は頂けない」

彼らにとっては、命綱と言ってもいいほどの存在なのだ。



閑話休題。

舞台戻して、黒蝶堂。



「つまり、お前の脳みそくらいに軽かった。って事だな。」

はちが自らの頭を指す。

「違います。はちは晩飯抜きと言う事ですよ?」

しろのいつも通りの笑顔には、冗談を言っている風はない。

「どうもすみませんでした。」

床に近い体勢を利用し、はちはその場に土下座をした。


数分後。

本棚の下に転がって行った小銭に、手を伸ばすはち。
ぐぬぬぬ、と顔をしかめるが、あと少し。届きそうで届かない位置にあるのだ。

その本棚のてっぺんに鎮座するゆり。
下界の騒動など我関せず。と言わんばかりだ。

「あらら、大変ね。」

そう言うと、右手の小さな指をぱちりと鳴らした。

ぎ、ぎぎぎ。

不気味な音を立てながら、誰も触れることなく、その「本棚」が動き始めた。



動く本棚ごと、無抵抗に後ろへ進むゆり。
隠れていた床が、陽の元に晒される。


「お、おぉ。…ありがとな。」

魔法をかけられているかのような、錯覚と疑うかのような、いまだに慣れない、不可解な力。

そんなはちの戸惑いに気がついたのか、
ゆりは本を傍らに置き、

「ほら、よく見ておいて頂戴。」

宙を人差し指でなぞる。
すると。

床に出来た、小銭の川。
それらに突如として訪れた、変化。
例えるなら、洪水。
見えない何かに押され、一箇所に集まる様は、日光に照らされキラキラと輝く水面を思わせる。

だが、物は言いようで、

…不気味以外の何物でもない、
はちの脳内には、地震の直前、集団で逃げだすネズミの図が浮かんでいたのだが。

ゆりがルートを描くと、従順なそれらは席を登り、机の上に隊列を作った。
そして、種類別に次々と積み重なっていき、あっという間に床の上は片付いた。
ついでに本棚の位置も元に戻した。

「すごい…!どうやったんですか!?」

しろの歓喜の声と視線に、ゆりは少しだけ口角をあげ、

「なんてことないわよ。簡単なこと。」

「だったら最初っから、やってくれりゃあいいのに。」

ぼそりと呟いたはちの足元を、本棚から飛び出した百科事典が襲った。

「手が滑ったわ。」

「てめぇ…!」

右足の親指を抑え、呻くはちを横目に、ゆりは軽やかに地へ降りた。

…はずであった。

ぷつり。

はちとしろ、二人の耳に音が届く。
そして、ゆりの耳にも。

バランスを崩した彼女は咄嗟に体勢を整え、床に膝をついた。

「大丈夫ですか、ゆりちゃん!」

「…大丈夫。」

彼女の履いていた厚みのあるぽっくり。
その赤い鼻緒が、見事に切れていた。
しかも、片方だけでは無かった。
両方。左右ともに。
まるで、示し合わせたかのようだと、はちに嫌な予感が走った。

そう、文字通り…

「【縁起】が悪いですねぇ。」

しろが外履きを持ってくる。

それを受け取り、足を通し終わったゆりは腕を組んだ。

そして、

「…随分と、厄介な物みたいね。」

誰に届かせるでもなく、ぼそりと呟く。

耳に拾ってしまったはちは眉根を寄せ、黄色い傘を見やった。


【続】

思ったより長いかも。

ランキングに参加中。
ぽちっとよろしくお願いします。



fc2ブログで当ブログは何位でしょうか…

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング!




拍手・感想・苦情等は以下のアイコンよりどうぞ!
もちろん拍手だけでも大歓迎♪
お返事は
次の記事でしてます(*´∀`*)


続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

雨上がりの話 1

【雨上がりの話】

雨上がりの夕方。
帰路を急ぐ人々の雑踏が、ガラス越しに堂内へ届く。
堂長席でひじをついたはちが、本日数十度目の溜息を吐いた。

「溜息をつくと、幸せが逃げるのよ。」

「今時迷信なんて流行んねぇよ。それに、これは深呼吸だ、深呼吸。」

ひゅるりと頬をかすめる風。
続けて、背後から聞こえた、古木の裂ける音。
たらりと流れる赤の感触。

見れば、いつぞやの万年筆が、深々と。
さもそこにあるのが当然のように、柱に突き刺さっていた。

はちは引き攣った笑いを浮かべる。
その頬に浮かぶ赤は、どうやらインクのようだ。

が。

「今度は血球をえぐるわよ。」

心なしか楽しそうなゆりは、本棚の上で微かに笑う。

「…え、縁起でもねぇことを、軽々しく口にするんじゃねぇよ。」

反論したのは、聞く方も申し訳なくなるほどの、か細い声。

「あら、【縁起】だなんて。
高尚なる『現代人』に相応しくない言葉ね。」


皮肉成分120%…だな。
はちは、浮かんだ言葉と溜息をまぜこぜにし、一気に飲み込んだ。

ふと、表に視線を移す。
すると、同時にガラス戸を開ける音が、堂内に響いた。

「これ忘れ物ですかね?」

入ってきた青い姿の青年は、大げさに首を傾げた。
その手には、幼児用と思われる、淡い黄色の傘が握られていた。

「表に立てかけられていたんです。きっと来る時は降っていた雨が、帰る時に上がってたから、
持って帰るのを忘れたんでしょう。」


「そんな小せぇガキは来てねぇぞ。元の位置に戻しときゃ、誰かが取りに来るだろ。」

しろは手にした傘をまじまじと、目の高さにまで持ち上げて見つめている。

「かわいいですね、ちょっと見ていいですか?」

はちが止めるのも聞かず、その言葉と同時にその柄を持ち直し、傘を室内で開いた。

カラフルな飴玉の包み紙が描かれた、いわゆる「ポップでキュート」なデザイン。

その中心部。
開いた途端に堂内に響いた、金属音。
はちはしろの足元に、視線を向かせざるを得なかった。

「おい、それは…?」

しろの足元には、まるでさい銭箱をひっくり返してしまったかのような大惨事が起きていた。

そう。

おびただしい量の小銭。

500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉。

これらが地を転がり、そして動きを止めたのだ。
まるで傘からこぼれてきたのかのように。

【続】

続きを読む

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中