『夜闇に映る幻』

お久しぶりです。

金曜に短編あげるといいながら、今までの放置っぷりに自分で苦笑しているところです。
…11月が明日で終わるだなんて、信じられない。

そう言えば、先日初めて「時をかける少女」見ました。
また見たいなぁ、と思える作品でしたね。

てなわけで、短編更新♪
今回も、一話完結です。さくさくと読めるので、よろしければどうぞv


先にこちらを読んでくださると、ちょいといいかもしれません。⇒『風の香り』
時系列が、これの後になってます。

【はちの月企画 一日一短編】
『夜闇に映る幻』


『結城家』通夜――

買い出しの帰路、歩道の脇に立てられた看板。
その傍を通り過ぎ、軽自動車が一台通れる程度の狭い砂利道を歩けば、ざりざりざりと小石が擦れる音が2人分生じる。
すでに陽は落ち、等間隔に並ぶ街灯の光はとても弱い。
はちとしろ、並んで帰る2人の前から、足音が聞こえてきた。
音は徐々に大きくなり、はちは道路の縁石側に体を寄せた。

「あ、こんばんは!」

しろが明るい声をあげる。隣を通り抜けようとしていたはちは足を止め、眼鏡を掛け直す。
見覚えのある、小柄な影がそこに在った。

「こんばんはなんだぞ!」

乱暴な言葉遣いに乗った、変声期前の少年の様な声。

袴姿に卒塔婆を背負った二つ結びの少女、深見ヶ原墓地の憑物・牡丹。
しかし、影は二つある。はちは再び目を凝らす。
牡丹と連れだっているのは、初老の男性だった。
はちより頭一つ分低めの背丈。豊かな白髪に黒目がちの瞳が印象的で、実際の年齢よりも若く見えているのかもしれない。
こんばんは、と軽く会釈をされ、はちも慌ててそれに応じる。

「こんな夜にどこへ行かれるんですか?」

しろが問う。牡丹は御勤めなんだぞと、はにかんだ。そして、男性を右手の親指で差し、

「こいつ、先走って墓に来たんだ。まったく、驚いたぞ。」

大げさな手振りで、肩をすくめた。

「いやはや、せっかちな性分なもので。」

「せっかち」という言葉には似合わない穏やかな表情と声音で、彼は目尻のしわを一層深める。

「久方ぶりに顔を合わす者も居るだろうから、焦って来ずともいいんだぞ。」

「こんな時じゃないと、集まんないからなぁ。」

遠くを見通すように目を細めた男性は、はちと目が合い、にこっと笑う。
突然射抜くような目で見られ、はちは戸惑う。
結果、笑ったつもりが、引き攣った笑いになってしまった。

「そうかもしれないな。」

牡丹は胸を張って男に同意し、場を引き継ぐ。
しろと彼女は二言、三言程度の挨拶を交わした後、じゃあまた、と別れた。



「はち、見ましたか?」

別れて数分後。彼女達の姿が見えなくなった頃、しろは口を開いた。

「なにを。」

歩くたび、買物袋が徐々に重たくなってくる。

「彼、靴を履いてませんでした。」

彼、おそらく先程の人物…名前は、何と言ったか。はちは大した興味も持たず、はぁ、と生返事を返す。

「裸足だったのか?」

この砂利道を素足で歩くとは、なかなか分厚い足裏の皮を持ち合わせているようだ、と彼は思う。
だが、しろは極めて神妙な面持ちで。

「いえ、その…。」

目を伏せ、左右にキョロキョロと。言葉を探しているようだ。
そして、足を止めた。

「なんだよ、はっきり言えよ。」

はちが振り返る前、白い彼からぽつりと一言。

「…膝から下が、ありませんでした。」

「あぁ、なるほど。…って、え?」

耳を疑うはち。しろは俯いたまま返事をする。

「だから、膝から下が無かったんですって。」

「…さ、錯覚だろ?」

止まったしろの顔を見る前に、再度はちは前方を向く。
自然と早足になっているが、彼が気付くはずもない。
夜の闇が無数の人の手になり、背後から伸びてくる感覚に追われているからだ。

「ジョウダンも休み休みにしてくれねぇと、俺も突っ込み疲れちまうぜ。お前もぼけ疲れだろ?やだねぇ、幻覚って誰もが見るなんてなぁ。そうそう今晩のメニューがカレーだけに、オレ達おつかれー…なんてな!やっぱ…」

それを振り払うかのように、呪詛の様に言葉が次々と零れていく。
が、最後まで言い切る事が出来なかった。

背後の気配が消えたからだ。



おい!
はちは、ぱっと目を向ける。
広がるは、月光に照らされた砂利の一本道。

しろの姿が、ない。

腕に鳥肌。
心臓がキンキンに冷やされた塩水に浸けられたような気さえする。


彼は、気がつかなかった。


焦りを隠せない自分の背中に、白い手が伸びている事に。

そして。

ピタリ。
布越しに届く異様な低温が、はちの首筋に触れた。

「うわぁぁぁあ!!!」

手に提げた買い物袋が地に落下し、食材がぐしゃりと音を立てる。
夜に相応しくない、なんとも近所迷惑な叫び声が辺りに散らばった。



「大丈夫ですか?」

手の正体は、しろであった。
変温動物であるしろは、外気で体を冷やしてしまったようだ。
内蔵が口からでかかり、言葉を失っているはちへ、

「はちこそ、地に足付けてくださいね。」

朗らかな注意が飛ぶ。
はちは、我に返った。霞む視界を、頬を叩く事で正常にする。

「一応聞くが、オレの足は二本あるか。」

まるで『夜闇に映る幻』を突きつけられたはちは、息も絶え絶えしろに問うた。

しろは笑って答える。

「なら、幽鬼さんにでも聞いてみますか?」

「幽鬼じゃねぇ!結城さんだ!」

文字が見える目を持つはちは、過呼吸になりながらも、すかさず突っ込みを入れた。


【終】

月光に中てられると、気が狂うと聞きましたがほんとうでしょうか。

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『風の香り』

前記事に、たくさんの拍手ありがとうございます♪

頂いたコメントの返事をしましたので、よろしければご覧ください。

私は一夜明けても、トップ記事が見慣れません(笑)
変えた事を忘れていたのもあるのですが、しろの目が強すぎたのかなぁ…?とか思ったり。
もしかしたら、早々に変更するかもしれません。

今日の夕方、黒猫と2羽のカラスが、日向でぼんやりしているのを見ました。
思わず足を止めて、じっと観察してました。

猫と鳥なのに仲がよさそうで、外気は寒かったんですけど、心はぽかぽかな気分になりました。

…夕飯は、鳥の空揚げだったんですけどね。
前もこんな事があった気がします。


鶏肉おいしい。

↓↓というわけで、本日の更新です↓↓
今回も、一話完結です。


【はちの月企画 一日一短編】

『風の香り』

風が強い。
しろが買い出しに行くと言うので、はちは荷物持ちとして駆り出されている。
しろ曰く、本日大セール、なのだそうだ。
どこからともなく漂ってくる、夕飯の匂いがはちの鼻孔をくすぐる『風の香り』。

これは…

「カレーの匂いって、食欲湧きますよね。」

はちの心を読んだかの如く、隣のしろが話しかける。

「まぁな。」

「一種の”麻薬”ですよね。」

「お前は風邪をひいたときに、カレー粉を処方された事があるのか?」

真面目な顔で、はちは問う。
問うと言うよりも、「ねぇよな、勿論。」と言わんばかり。確認の意が強い語気だ。

「もし匂いに色がついていたら、カレーは黄色ですよね。」

「お前は同じ鍋に居るニンジンの気持ちを考えたことがあるのか?」

「確かにそうですね。」と、顎に手を添えるしろ。「ううむ、なら何色なんでしょう?」と小さく呟いている。
声を掛けると、はっとした表情ではちに滔々と説き始めた。

「とにかく、その色は風に乗って、僕らに届くんですよ。」

「その仮定に立つなら、他の料理も色を持つようになるんだろ?」

「絵具を溶かしたカラフルな世界の完成ですね!」

目をキラキラと輝かせながら、「おぉ!」と奇声…もとい、喜声を上げるしろ。
彼に対して、

「視界が悪くなるだろうが。」

色の代わりに、冷たいツッコミが届いた。

日暮れの街は、暖かな色で彩られている。
蛍光色から地味な色味まで、各々が思い通りの服を着飾り、老いから若いまでが行き交う街中。
アーケードに並ぶ店からは、それぞれを飾る音楽が洩れ、不協和音を奏でている。

世界中どこでも見られる現象だろうが、色の飽和状態がこんなにひどい世界も、そうそうあるまい。

「はちは今でも十分、視界が狭いじゃないですか。」

「近視なだけで、視野が狭ぇわけじゃねぇ。」

と、はちが返せば、しろが驚いた表情を浮かべる。
今度ははちが、彼の脳内を読む事に成功したようだ。

目的の店が見えてきた。
この付近では大型の部類に入る、庶民御用達のスーパーだ。

2人の駄弁りは、まだまだ続く。

「風に色がついたら、服が黄ばんで大変なことになるだろうが。」

「クリーニング屋さんの数が、コンビニ並みに増えましょうね。」

店に内包されたクリーニング店の看板を指しながら、しろは明るい声を出す。

「カレー被害で、カレー禁止令が出るかもな。」

「それじゃ、覚せい剤みたいじゃないですか!」

慌てる彼は、「やっぱり色なんていらないですね!」と取り繕う。
はちは鼻で笑いながら、

「まさに”麻薬”ってわけだ。」

続けて、「今日の夕飯はカレーにするか」と、提案した。

スーパーの自動扉が開く。

「髪に色が移れば、お前の名前も【しろ】から【きばみ】になるかもな。」

「そうなれば、シャンプーの代わりに漂白剤を使うだけです。」

夕飯前の買い出しに、店内は賑わっていた。
しろは買物カゴを取る。

「そうしたら、まずは薬品のチェックですね!」

と、野菜売り場を素通りして、日用品コーナーへ進むしろ。
その後ろ姿を見送りながら、はちは溜息一つ。

「…今度は、洗う髪が無くなるぞ。」

【終】

お勧めのブリーチを、きばみに教えてやってください。

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へんこう!

hachi13-2.png

トップ記事のイラストを差し替えました。
↑図は下書きです。

色塗ったら、目が不気味な感じになったね…
ページを開くたび、びっくりします。

トップの一記事に二枚も絵があるのが、前からずっと気になっていたので、
狭いと文句を言われながらも、二人で一枚のキャンパスに収まってもらいました。

改めて見ると、しろの右腕が長すぎるが…まぁいい。

「…狭ぇんだから、ちったぁ落ち着いてくれ。」

「割を食うのはいつだってはちですね!」

とかなんとか言ってそうです。

目の書き方を試行中。絵を描くって、難しいけど、やっぱり楽しい。
最高の現実逃避手段です←

夢さんのところで踏んだ地雷(11月中にイラスト1枚)も、ぼちぼち消化せねば…。
コメ返をいたしましたので、よろしければご覧ください。

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『群青の海』

こたつを出した途端、こたつで寝てしまいました。
おかげで寒気がします。
いやぁ、こいつは魔物です。
この吸引力は、ダイソンに採用されるべき。

てなわけで、短編更新ですv
一話完結が楽でいいです。よろしければ下からどうぞ。


【はちの月企画 一日一短編】

『群青の海』


「『群青の海』に沈めます。」

「まて、話せばわかる。」

暖かな西日差し込む黒蝶堂。
表通りは家路を急ぐ人間と、夜の街へ繰り出す人間が互いにすれ違い、賑やかな様態を醸し出している。
対照的に、冷やかな空気の店内。

話は、冒頭に戻る。

普段の朗らかな表情はどこへやら。
射るような視線が向かいのはちに対して、ぐさりぐさりと突き刺さる。
彼の碧色の瞳は、ひどく澄んでいて、美しいガラス玉のよう。

…しかし、少しも笑っていない。
感情が見られるのは、口元に、造りものの笑みが浮かぶ箇所のみ。

冷気が彼の体から溢れているかと思うばかりに、黒蝶堂の温度が着々と下がっている。


指の腹に力を入れる。
指の先には、彼のお気に入りである”マイ包丁”が握られていた。

「それとも、ここで刺されますか?」

刃先がギラリと不気味な色を顕にする。

「ま、まて!話せばわかる。」

喉元に刃を突き付けられ、上擦った声をあげるのは、黒川はちだ。

「はち、寒いわ。何とかして頂戴。」

音源は、本棚の上。
分厚い本を抱えるのは、自称黒蝶堂憑者の少女・ゆりだ。
下界で騒ぐ彼らを見下ろし、氷山しろより発せられていると思われる冷気を指摘する。

「な、何とかっつっても…!」

彼女の方へ顔を向けるのも命がけだ。切っ先が皮膚を割いてしまわぬよう、慎重に首を回す。

一方のしろは、微動だにしない。
はちから視線を外す事無く、無言で堂長席の前に立つ。
ただ彼を取り巻く涼やか…否、冷やかすぎる空気の渦が、すべてを物語っていた。

「一体何があったの。」

「そ、それがだな…。」

少女は本を閉じ、はちに疑問を投げかけた。

寒いわ、と寒さなど微塵も感じさせない無感動な声で言い放ちながら、ふわりと地上へ降りてきた。

「はちが僕のアイスを食べたんです。」

「腹が減ってたんだ。仕方ねぇだろ。」

「つまり、勝手に食べたって事じゃないですか!」

「オレは一本しか食ってねぇよ!
それなのに、一日で棒アイス一箱空けるなんざ、正気の沙汰じゃねぇっての!」


刃物を忘却の彼方に、声を荒げるしろに対して眉をひそめるはち。

彼の指差す先には、空にされた冷菓の箱の山が築かれたゴミ箱があった。

「あの家はアイスしか食ってねぇって誤解されるレベルだぞ!」

「そう言って、僕のアイスを取った事実を正当化しようとしても無駄ですよ!」

しろが刃の先端をはちの首に突き付けた途端、格段に室温が下がった。

「あ、あぶねぇから仕舞えって!」

はちは口元を引き攣らせる。くしゃみが出そうだが我慢だ。

くしゃみ→前方への反動→刺傷→鮮血ルートが、目に浮かんでいる。

ゆりは両者の言い分を聞くと、組んでいた腕を解き、はちに立つよう命じた。
はちは言われるがまま席を立つ。
その間、片時も、しろの視線が離される事は無い。

「必要な時に手元にないならば、それは存在しないも同じ。」

諭すかのように、ゆりは落ち着いた声音を発し始めた。
相変わらず、外見にそぐわぬ泰然ぶりだ。

「失ってからだと、遅いの。」

はちは目を瞑り、彼女の声に耳を傾ける。

「…まぁ、な。」

「しろは菓子を所望していて、それはあなたが自分で胃に収めた。」

「事実だ。」

彼女は言葉を切り、少々の間を取る。

そして、冷やかな笑みを浮かべた。

「というわけで、はち。腹を割きなさい。」

「なるほど、一理あるな。丁度いい具合に道具もあるし。」

はちはしろから包丁を受け取り、目の高さまで持ち上げる。
切れ味に問題はなさそうだ。
後は、この服だと都合が悪いから着替えて、
臓物で汚れると掃除が大変だから、何かシートを引いて。
取り出した物を納める容器を準備して…。

と、溶けない様に氷が必要か。

「…って、だまされねぇぞ!第一、もう原形を留めてねぇよ!」

ゆりの三段論法に、思わず納得しかけた彼は、自分の頬をぱしりと叩いた。
自分だけに届くよう、「正気に戻れ」と呟く。

「何を言ってるんですか、はち。」

しろは、にこり…いや、ひやりと笑った。

「世界の冷菓は僕の物ですし、はちの物は僕の物なんです。

はちに残された道は、たったの二つ。『群青の海』に沈むか、ここで腹を括るか。」


「いい医者を紹介するから、案ずる事は無いわ。私としては、後者を選んでほしい所ね。」

まともな思考回路の者がいない空間。

その後響いた一筋の断末魔。

室温が北極と化した堂内で、はちは”文字通り”肝を冷やした。

【終】

こたつでアイスは、人類の叡智。

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『現し世の世界』

たくさんの拍手、コメントいただき感謝です(●^^●)
それぞれの記事にコメント返信をつけましたので、よろしければご覧くださいませ。


ところで皆さんは、お酒を飲まれるのでしょうか?
私は、たまーに飲みます。付き合い程度。
酔っぱらって赤くなる人をみると、ちょっとだけ羨ましくもあります。
顔に出ない私は立ち上がった時に、ふらりとめまいがしてやっと気づくのです。
あ、身体にアルコールが入っている、と(笑)

限界まで挑戦するのも一興ですが、やっぱり「ほろよい」が一番楽しい気がします。

で、なんの話かと言えば、短編更新です。
一話完結型、よろしければお付き合いください。
その前にこちらを読んでおくと、大体の意味はつかめます⇒水色しずく


【はちの月企画 一日一短編】

『現し世の世界』

氷山しろは、深見ヶ原墓地に向かっていた。
と言っても、はちが死んだわけではない。
理由は単純。牡丹に会うためだ。

作った白菜の漬物は口に合うだろうか。
この間は切らしていた饅頭も、先日のお詫びをこめて持ってきた。

「だから、一緒に食べましょう。」

そんな事を考えていると、陽気な彼女の様が思い出されて、自然と頬が綻ぶのだ。

到着した遥光南西の果て。
深見ヶ原墓地は驚くほど静かで、身が引き締まるほど厳粛な空気が流れている。

黒川家の墓前に花を添え、線香を立てる。
はちの祖父・伊織を生前慕った者からの贈物だろうか、
冷たい墓石の脇には、いつかのようにワンカップ酒が備えられている。

今日は風が強い。
野草が一束、石を支えにして置かれ、風に小さく揺れていた。

手早く掃除をし、合掌を捧げていると

「おぉ、殊勝なことだな。」

コツコツとブーツが地を蹴る音と共に、背後から声を掛けられた。

しろが視線を翻し、斜め下方向にやれば、茶けた髪を二つに括った少女が立っていた。
彼女は手に持っている卒塔婆を背に預け、着物の袖を軽く捲くり上げる。

「牡丹ちゃん!こんにちは。」

「こんにちは、なんだぞ!」

深見ヶ原墓地憑者・牡丹は元気よく、眩しい笑顔で言い放った。


「ここは、静かなところですね。」

手土産を渡すと、牡丹はにかっと笑い、今すぐ食べると言った。
墓場中央にある小さな広場。その中心には、いつかの一本の木がある。

風に揺られ、紅葉しつつある枝葉がサラサラと音を立てる。

「賑やかな墓場というのも、新しくていいかもしれないな。」

饅頭を両手に持ち、無我夢中で頬張る牡丹。
のどに詰まらせかけた彼女へ温かいお茶を差し出すと、喉が上下に動き、
瞬く間に水位は下がっていく。

彼女は水が苦手だが、飲む事はできるのか。
しろの懸念事項は音もなく消え、安堵へと変わった。


しばしの談笑。
この間の詫びを言えば、牡丹は気にするなと笑い飛ばす。

「ゆりの言う通り、蚊は多いのは確かだ。でも、ここでしか存在できない者だっているんだぞ。」

牡丹は言う。

「ほら。」

しろは、彼女が指差す先を目を凝らして見た。
乱立する墓石と卒塔婆の山。その境にできた通路の向こう。

…の、更に向こうの向こうの向こう。

遊具は無い。
その上、狭いスペース。
足場は砂利のこの場所。
空き地が無くなったと言われる現代でも、遊び場としては不適切極まりないこの場。

であるのにもかかわらず、はしゃぐ声が聞こえる。

小学校に入学したばかりか。
それほどの年頃の子どもたちが数人、元気よく遊んでいた。

彼らは二手に分かれ、4対4となり手を繋いでいる。

「はないちもんめ、ですね。」

「あぁ、奴らはあの遊びが好きなんだぞ。」

彼らを見る牡丹の目は、さながら面倒見の良い姉のようなものである。
と、彼女の視線に気づいたのか、彼らの内の数人が、こちらに手を振ってきた。

しろは手を振り返す。
子どもが好きな彼は、一緒に遊びたそうで、今にも駆けだす一歩手前のポーズをとっている。

「牡丹ちゃん、僕らも行きませんか?」

「しろ副長、もう逝きたいのか?」

「もう?今しか行く時は無いですよね?」

疑問符を浮かべるしろの隣、牡丹は一人立ち上がり、彼らの元へ歩く。

彼女は彼らと言葉を交わしている。
彼女の周りに、あっという間に人だかりができた。

彼らが引き留めるのも聞かず、再び戻ってきた牡丹。

「『お兄ちゃんに渡して』なんだそうなんだぞ。」

彼女が差し出したのは、一本の赤いかざぐるま。
一筋の風が、その羽を回す。

「いいんですか!ありがとうございます。」

「あいつらの面倒をみるのも私の仕事だからな。ここは託児所では無いと言うのに…。」

言葉とは裏腹に、彼らを見つめる視線は優しい。
その横顔に、しろは問うた。

「牡丹ちゃん、あの子たちは、どこから遊びに来てるんですか?」

しろの他意の無い質問。
にもかかわらず、牡丹は言葉を失った。

しばしの沈黙。

無音が、両者の間を通り抜けていく。
墓地特有のしっとりとした湿気を含む風が、しろの肌を撫ぜていった。

その風に乗り、呟きともとれる声が牡丹から零れる。

「…しろ副長も、『こちら側』に来るか?」

答えの代わりに返ってきた質問。
牡丹は口元を引き結び、珍しく真面目な顔だ。

その瞳が、わずかばかり光を発し、長い髪飾りがひらひらと靡く。

しろは少しばかり考えた後、かざぐるまへ息を吹きかける。
その回転が止まる頃、いつものように人差し指を突き立てた。

「いえ、僕にはまだこっちの世界でする事がある気がしますので、遠慮しときます。」

笑顔で言い切る彼に、牡丹は面食らう。

そして自らの真剣さを薙ぎ払うように、笑い声を上げた。

「『現し世の世界』と『こちら側』を繋ぐ扉は、すぐそこにあるからな。道案内程度なら、してやってもいいんだぞ。」

彼女は白い歯をのぞかせ、へたくそなウインクをかました。

【終】

しろがメインの話も、新鮮でいいかもしれない。

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『空色のかばん』

hachi12.png     botan6.png

なんとなく落書き放置。
牡丹、ごめん。

ふと思う事があるのです。
もし私がこの場に来れなくなったら、こいつらはどうなるのだろう、と。

このブログは私個人のプライベートルームのような存在で、
彼らを動かすのは私が主で。
もしここに来れなくなったら、こいつらの生活も留まってしまうのだろうか?

今からその時に備えて、設定帳を描いておいたり、影武者とかを立てといた方がいいのかとか。

…大変暇を持て余した末の、妄想をお送りしました。

↓↓さてさて、本日の更新は、はちの月企画ですv一話完結なので、ごゆるりとどうぞv↓↓



【はちの月企画 一日一短編】

『空色のかばん』


「お弁当屋さんにもらったんです。」

喜々として、かぼちゃの煮物を皿に盛り付けていくしろ。
黒蝶堂の夕飯には、必ず一品向かいの弁当屋のメニューが加わる。
それらはすべて店主の手作りである。
弁当の余りだと言って、毎日やってきては黒蝶堂に置いて行くのだ。

「お世話になりっぱなしで、本当に申し訳ないですね。」

しろはうーんと腕を組み、暫くの後

「これです!」

ぴこん!と音が鳴るほどに、顔を跳ね上げた。



次の日の昼下がり。

「…何をやってんだお前は。」

はちは2階のしろの部屋に居た。
ごそごそがたがたと騒がしい音が1階まで届き、何事かと思って様子を見に来たところだ。

「はち知りません?」

「何が。」

はちはぶっきらぼうに答える。機嫌が悪いのではなく、これが彼の地だ。

「僕らが小学生の頃、修学旅行で使った鞄ですよ。あの『空色のかばん』です。」

「あー、どこに仕舞ったかね。」

しろが調べている襖を覗き込む。ここは彼専用のスペースだ。
がらくたと不必要なものと、用途不明の物と、それから必要な日用雑貨が少し。

まったく、こいつは何をため込んでいるんだ、とはちはげんなりする。

「もう、あんまり見ないでください!」

しろは無理やり襖からはちを引き剥がすと、再びそのがらくた置き場に顔を突っ込んだ。
溜息をついたはちは、その場に座り込み、ふっと湧いた疑問を問う。

「今更あんなもん、何に使うんだ?旅行にでも行くのか?」

「違いますよ。僕ら、向かいのお弁当屋さんにお世話になりっぱなしじゃないですか。」

顔を突っ込んだまま、しろは声を返してくる。

「そうだな。」

はちはあくびを一つ。昼のこの時間帯は、どうも眠たくて仕方がない。

「だから、何か恩返しがしたいと思って、探してるんです。」

「だから、その経緯を詳しく説明しろっての。」

「違いますよ。僕ら、向かいのお弁当屋さんにお世話にな」

「そこはもう聞いた。」

こいつと話していると本当に疲れる。はちは息を吐く。
しろは片側の襖を閉めると、反対側の戸を開き、荷物を漁り始める。

「お弁当屋さんに娘さんがいらっしゃるじゃないですか。」

「そうなのか?つーか、あの人結婚してるのか?」

初耳だ。
店主の女性は、若々しいと言うよりは娘のようで、むしろ年下と言われても納得できそうな容姿であるからだ。
交流と言えば、朝方に挨拶したり、回覧板を回したりする程度。

一方のしろは、夕方になると黒蝶堂向かいのアーケードで彼女と世間話をしているから、
いろいろと詳しいのだろう。

「えぇ、その娘さんが今度、学校行事で泊りがけのキャンプに行くらしいんですよ。
でも、その時に使う鞄が無いそうで。よかったらうちのを使ってもらおうと思いまして…」


「あぁ、なるほど。お前も、た ま に は いい事考えるじゃねぇか。」

はちの強調虚しく、ナイスアイデアでしょう!と、胸を張るしろ。
はちは立ち上がり、しろの背後に立つ。白い髪を眼下に、押入れの上段を覗き込む。
すると押入れの奥。見覚えのある水色の側面が見えた。

「おい、あったぞ。」

「本当ですか!やりましたね!」

そう言うしろはその場でぴょんと跳ね、後頭部をはちの顎で強打した。
…悶絶したのは、はちの方だった。
唇を切ったはちを押しのけ、しろはかばんに手を伸ばす。
押入れを上下に分ける板に足を掛け、「せぇのっ」と勢いをつける。

手を伸ばす。ギリギリの位置で鞄の手提げ紐に指がかかった。
それを引っ張り出す。

と、もともとガタがきていた足場が、しろの重みでバキリと割れた。
彼の体は、畳の上で唇を拭っていたはちの上に投げ出され…

「あら?」

はちの茶色い髪が、目の前に見える。つむじ辺りの髪の毛が、ふわふわと揺れている。

しろの下敷きとなったはちは、

「『青色のお荷物』は、オレにはちょっと重たすぎる、な…。」

と言うと、がっくりと意識を失った。

『空色のかばん』を手に入れたしろは、自分が荷物と称された事に怒るわけでもなく

「うまいうまい!」と、嬉しそうに手を叩いた。

【終】

お弁当屋さんの詳細は、また後日に描ければ描きますb

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『灰色の影』

知らないままのほうがよかった、って事を知ってしまったような気がする。
こんばんは、秋雨です。めっきり寒くなりました。
さきほど家の向かいでサイレンが鳴りまして、

「ついに捕まるのか。ここまでだな…」

と、意味のわからない事を思ったものです。
火事かと思って焦ったぜ!
ですが、パトカーとか警察官さんとか見ると、なぜか不安になります。

罪になるような事なんて、特に何もしてない…よね?

たくさんぱちぱちありがとうございます♪
非公開コメのお返事を追記からしてますのでどぞーです♪


↓↓てなわけで、本日分の更新です↓↓一話完結です↓↓

先にこちらを読まれた方がいいかもしれません⇒夕闇に流れる

【はちの月企画 一日一短編】

『灰色の影』

黒川はちは夜中に目覚め、暫くのタイムラグの後、着替えてこっそりと表へ出た。
到着したのは、街の端を流れる小川の脇。
小川の上には橋が架かり、その上から小川を北に南に見やれば、どちらも遠くに似たような橋が見える。
夜風が肌に突き刺さる。寒いと言うよりも、痛い。
なぜ上着を着てこなかったのか、と今更ながら後悔するが、やはり後の祭りだ。

人の気配はまったくない。ごくごく僅かな車の往来。
そのライトに照らされる橋の上のはち。
欄干に手を乗せると、異様なほどの冷気が指先から体全体まで冷やしていく。
小川を覗き込めば、街灯に光を反射させる水面がひどく暗く、
幾人もの苦しみを湛えたものののように思えた。

「なんてな。」

その声には覇気がない。
言いようのない罪悪感の様な胸中の重みに引き摺られ、水面へと落ちてしまいそうになるのを、
腹筋と足に力を入れ、なんとか耐える。

「遥光の夜は気をつけなさい。境界があやふやになるからね。」

祖父の口癖が耳に蘇る。何が危ねぇんだ、と呆れた当時の自分。
しかし今になって、なんとなくその意味がわかる気がする。

と、足元の橋。
その向こう側の水面が、石を投げ入れたかのように大きく揺れた。
はちははっと我に返ると、揺れる水面にごくりと唾を飲み込む。
そして踵を返すと、ゆっくりとした足取りで、ある場所へと向かった。

河原。
そよそよと水の流れる音。さらさらと夜風が草むらを揺らす音。
そこは、10数年前と変わらない景色ではちを迎えた。

柔らかな土の上に腰を下ろす。満月が綺麗な夜だ。

昔の夢を見た。
ただそれだけの理由で、ここにやってきた。

はちは脇に携えたスーパーのビニール袋から、緑色の細長い物体を取り出し、
地面に皿を置くと、その上にそれを横たえる。
棘が指に刺さるほど、青々しく、新鮮なきゅうりだ。
弁当用に製造されているマヨネーズの小袋を添えると、少々離れた場所にある茂みに身をひそめた。

「一体何をやってんだか。」

はちは息を吐く。意識は完全に覚醒していて、寝ぼけているわけではない。
夢遊病の類で、自分が何をしているか自覚がない、というわけでもない。
だが、この自らの行動には突っ込まざるを得ない。
何を得るわけでもないと言うのに。

観察し始めてどのくらいの時が経っただろうか。
しばしの自問自答にも飽きた頃。
はちは視界に一つの影を見つけ、体を強張らせる。水面が波紋を描く。
街灯の光は届かない。月からの光は反射し、小川の闇に飲み込まれる。

その影は、水をかきわけながらこちらに近づいてくる。
はちは場を動けない。
想像してはいたが、まさか本当に来るとは。
いつかの、あの晩が思い出される。

あの時は傍に祖父が居た。
幼い自分は、何が起こるのかさえ分からなかった。
だが、今は一人。
しかも、来る存在はおぼろげながらも何かわかる。

であるのに。

どうしても、腰が抜けてしまって動けないでいる。
視線は話せない…違う。離せない。
心臓が口から飛び出そうなほどの早鐘。
鳥肌が止まらない。
落ち着け、着座はしているんだから、心も座りよくなれ。

脳裏によぎるは、得体の知れない深緑色の、いぼのついた気味の悪い腕。
赤と青に光る、巨大な目玉のような物体。

暗い闇の中をゆったりとしたペースで進むその影は、目前の川岸に迫っていた。
呼吸が浅く、目にはうっすら涙。
こんなこと、あってはならない。
ありえねぇんだよ!と立ちあがって叫び出したい。
本当なら、立ちあがって叫んだついでに、走って逃げだしたい。

であるのに。

地面に体が縫いつけられたの如く、体が全く動かない。

緊張の糸が、ぴんと張り詰めた。

”彼”は水中から顔を出す事無く川岸にその腕を伸ばすと、あっという間にキュウリを
手に取り、すぐさま引っ込めた。
隣に置いたマヨネーズも、反対の腕でかっさらうかのように奪いとる。

残された小皿と、はち。



すべては、あっという間の出来事だった。



「な、なんだよ、大した事無いじゃねぇか。」



呼気の多い言葉が、自然と口から零れた。
四つん這いで前方に進む。
水底は覗き込めず、それどころか、皿に手の届くぎりぎりの位置までしか進めない。

「まったく、感謝の一つでも言ったらどうなんだっつーの。」

手を伸ばしながら、文句を垂れる。

だが、皿の端に指が掛かった時、”それ”は起きた。

水面が激しく揺れたと同時に、はちの右手首が強い力で押さえつけられた。


違う、押さえつけられたのではない。
手首が、水かきのついた両生類のような手に、掴まれたのだ。

冷たく、ぺたりとした独特の感触に、はちは言葉を失う。
力は強い。
足に力が入らず、水辺に引き摺られていく。
川岸でのせめぎ合いはひどく一方的なもので、服も顔も泥だらけだ。

「ここに一人で来てはいけないよ。神隠しにあってしまうからね。」

祖父の言葉が耳に蘇る。
そんなアドバイス、実践では何の役にもたたねぇじゃねぇか、と宛ての無いツッコミを飲み込む。
緑色の腕が水辺へ落ちる。
黒く、流れのある水が目前に迫った。

「くっそ…!」

はちに抵抗する気概が生まれたが、後の祭り。
力は圧倒的に相手が強い上、引きずるよりも引きずられる方がつらい。
姿勢もあちらが有利。
もう駄目だ。
ぎゅっと目をつぶる。瞼の裏に『灰色の影』が見えた。

「何をしてるの。しっかりして頂戴。」

聞き覚えのある声に目を開けると、自分を掴む緑の腕に、三本のナイフが立っていた。

…違う、ナイフでは無く、ペン先の尖った万年筆だ。

緑の腕は、全くの未練を残さず、あっという間に闇へと消えていった。

はちは手を自らへ引き寄せる。
手首にひどい痣ができているのがやけに生々しい。

橋の上に人の姿が見えた。
背後に月を背負った、でかいリボンの影が川岸まで届く。
それはふっと橋を蹴り、はちの元へと降りてきた。

「ごきげんよう、黒川はち。こんな夜中に一人で歩くなんて、命知らずも甚だしいわよ。」

「…ご、ごきげんよう。」

少女は相変わらず、一つも表情の浮かばない声音で言い放つ。
はちは少女が近寄ってくると、思わず後ずさった。

「あなたがここで何をしていたのかなんて、どうでもいいわ。」

「なら、なんで来たんだよ。」

「黒蝶堂から皿が一枚無くなったから。しかも、こんな夜中に。」

「たった一枚の、何の変哲もない皿を探しに御苦労なこった。」

はちは冷や汗を垂らす。
森で熊に会ってしまったような気分だ。
夜に一番会ってはならない存在と、会ってしまった。
そんな気がしている。

だが少女は皿を地から拾い上げると、くるりと踵を返す。

「だけど、お皿は回収できたから許すわ。」

「そんなに大事なもんなのか?」

「そうじゃないと困るわ。」

言葉の意図が分からず、眉根を寄せるはち。
少女・ゆりは皿を空へ放り投げ、再度キャッチすると、

「ついでに、あなたも見つけたから。」

ぽそりと呟くと、まっすぐに歩み始めた。

言葉の届かなかったはちは、彼女の後ろを不可解な表情で着いて行く。
もちろん、背後を振り返る事はできなかった。

【終】


まんねんひつこうげき!はお約束になりつつある…


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『蝶々結び』

一日②短編のペースで話を描いています。
こんばんは、秋雨です。
描くと言っても、あいつらがべらべらと喋ったり、バカなことしたり、大人げなかったりするところを
文字に起こす作業なだけで、楽しんでやってます。


なので、話の背景が推測しにくかったり、意味の通じない会話を繰り広げていたりするのは、

つまり、その、仕様でs(殴

根本は繋がっているので、ふーんという気分で読んでくだされば、これほど嬉しい事はありません。

と、前置きが長くなりましたが本日の更新は、はちの月企画です♪
また一話完結を置いていきます、【夢のあと】はしばしのお待ちを…(汗)

↓↓よろしければどぞどぞ、お付き合いくださいませ↓↓


はちの月企画 一日一短編

『蝶々結び』


「はち、また曲がってますよ。」

黒蝶堂の朝。朝食後、自らの食器を流しへ置く為、黒川はちが立ちあがった時だ。
声をかけた人物、氷山しろは、人が四人座れば満席となってしまうちゃぶ台を、異様なまでに白く光る
台拭きで丁寧に拭いている最中だ。

「お前には目が二つあるのか?」

「やだなぁ、はちにもあるじゃないですか。」

顔も上げぬまま、一心不乱に机と戯れているかと思いきや、途端にわけのわからぬ事を口走る
しろに、はちは、白い彼が何を「また」と表現しているのかに心当たりがあった。

「違う。二か所…後頭部か背中にも目があるのかって聞いてんだ。」

「やだなぁ、はちにもあるじゃないですか。」

「あるわけねぇだろ!」

食器を水に漬け、手を洗い席へ戻る。机をピカピカに磨き上げ、腰から下のエプロンで
手を拭ったしろは満足げに頷く。

その一方で、はちは上着に手をかけた。
正確には、自らの左半身。腰のあたりで上着を留めてくれている一本の紐だ。
姿見の前に立ち、鏡をのぞきこめばやはり指摘の通り、斜め四十五度程度に歪んでいた。

結び目は俗に言う『蝶々結び』にしている。
と言うのも、はちがこの服を好き好んで着ているわけではなく、ゆりが彼に与えたものだから
と言う理由で身にまとっているだけだ。その時から、彼の私服兼仕事着はこの服である。

一旦紐を解き、再度結ぶ。
すると、今度は上着の合わせがバランスを崩す。そこを直せば更にはネクタイの座りが悪くなる。

うんざりだ、とはちが言う前に溜息が出た。まったく、面倒な服だ。

そんな彼の様子をじっと観察しているしろ。その視線に気づき、はちは「何だよ。」
と睨みつける。するとしろは感慨深げに「ほう…」と息を吐いた。

「服装の乱れは心の乱れって言いますけど、その乱れが整いにくいって事はつまり…」

「悪かったな、矯正も効果の無い、歪んだ性格で。」

皆まで言わせる前に遮ったはちは、

「わかってんだよ、そんな事。」

大人げなくもへそを曲げ、ふいと視線を逸らす。

「きっとうまく結べるようになった暁には、はちも一人前の堂長になってるんでしょうね。」

無邪気な笑顔でしろは言う。
彼が一度温めた急須に湯を注ぐと、緑茶のさわやかな香りが辺りに立ち込めた。

そのさわやかさとは真逆の存在であるはちは毒づく。

「服装一つで仕事の善し悪しが決まってたまるかってんだ。
…まぁ、多少影響はあるかもしれねぇけどよ。」


運ばれてきた食後の茶を啜る。すると、自分のささくれ立った心が、幾分か落ち着いていく。
温かみが身体全体に沁み渡るような、そんな心地をはちは味わうのであった。

【終】

制服って、なんて便利で楽チンな存在なんでしょう。
学生時代には、まったく気が付きませんでした。



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『真っ白なページ』


コメントのお返事をそれぞれの記事で行いましたので、よろしければご覧ください。
本日は、会話文中心の短編更新となっております。


【はちの月企画 一日一短編】

『真っ白なページ』

『真っ白なページ』の上を、お世辞にも綺麗とは言えない歪んだ文字が並んでいく。

「いい加減なナレーションをつけるな。」

書き手、黒蝶堂堂長の黒川はちは文面から顔を上げ、背後から覗きこんでくる者を
手で邪険に払う。

「だって、はちの字は見にくいですよ。」

「醜い、な。見えるかどうかの濃さは十分だろ。」

文字の見える目を持つはちは、しろの指摘にすぐさま反論する。

「目が悪いのに、そういうとこは目聡いんですね。」

追い払われたしろは、机から少し離れた位置にて、無邪気な笑顔で言い放つ。

「聡くて結構。あとな、その表現は悪口だから、余所様で恥をかく事のねぇようにな。」

はちは日誌に再度視線を落とし、午前の出来事を記しながら注意を促す。

「わかってますって。」

「…確信犯かよ。」

ボールペンが字を紡いでいく。

「『朝は七時に起床、七時半に朝食。八時から掃除、布団を干し、洗濯。』と。それから…」

「あ、今朝の白菜の御漬物は僕が漬けた物だったって付け足しといてくださいね。」

「あ?あと5秒早く言えよ。」

「お願いします。」

「…仕方ねぇな。『朝は七時に起床、七時半に朝食。八時から掃除、布団を干し、洗濯。食器洗いは
しろが担当。階段にてゆりと鉢合わせ。何故か睨まれる。オレが悪い事をしたのか?
…ちなみに朝食の白菜は、しろが漬けたものらしい。』って、ここでこの話を蒸し返すのかよ!」


自分の記述に対し、テンポの悪い乗りツッコミをかます。

「はちがきちんと構成を考えて書き始めないからですよ!」

「誰のせいだ、誰の。」

「でも、ちゃんと毎日続けてますね。すごいと思います。」

しろの素直な称賛に、はちはふぃっと顔をそむける。

「…オレには文才なんて欠片もねぇからな。思うままに書くしかねぇのさ。」

「でもこの部分、怒られないんですか?」

そう言うしろが指差す先には、「何故か睨まれる。」の一文。

はちが現在書いている”黒蝶堂日誌”は、はちが黒蝶堂に戻り、堂長に就任させられた
日から、ゆりに命ぜられ、毎日欠かさずつけている。一日一ページ、多い時は数ページに渡って。
そして書きあげたら、黒蝶堂憑者のゆりに見せる規則となっている。

「日記を提出させるなんざ、オレは小学生かっての。」

はちは当初、散々不満不平を言ったものだ。
だがそのたびにゆりが、無言の圧力を使って、時に武力行使を伴わせながら、
はちに書く姿勢を身に着けさせたのであった。

その彼女に対する文句ともとれる記述を、彼女の目に触れるところに書くとは、
はちもなかなか命知らずだと、しろは笑いながら示唆しているようだ。

「いや、嘘を書くとゆりに踏まれるからな…。」

「喜んでるんじゃないですよ!」

「誰が踏まれて喜ぶものか!」

声を荒げるはち。冗談ですよ、と笑うしろが、言葉の先を促すと、
うんざり、と言わんばかりの表情を浮かべたはちは最短距離での説明を加えた。

「簡単に言えば事実とか、思った事とかか。オレの視点から見えたことだけを、
できるだけ詳細に書くってのが、最優先事項なんだそうだ。」


「へぇー、じゃあゆりちゃんは怒らないんですか?」

「まぁな。ほら、ここに認め印の欄があるだろ?」

ページの端には、正方形の枠が印字されている。
はちの話にしろは「ふむふむ」と真面目に耳を傾けている。

「夜に渡すと次の日の朝、ここにチェックが入って席に置かれてる。まったく、
ちゃんと読んでるんだかいねぇんだか…。」


はちは手持ちのボールペンをくるりくるりと回す。
学生時代の癖が未だに抜けないでいるようだ。

「なるほど、そういうシステムだったんですね。」
「納得納得」と、しろは頷いた。

「なら、お客様の名前もきちんと書いとくべきですよね!」

いつものように人差し指をたてるしろに、はちは溜息を一つこぼした。

「…まずは、客を呼ぶところからだな。」

【終】

なんだか前にも同じ落ちを描いた気がする…


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『夕闇に流れる』

復☆活!
なんとかいろいろ乗り越えました。
コメント拍手、ありがとうございました♪

あと、こたつ出しました。なにこれあったかい。

さて、はちの月企画の短編更新です。
今月中には、全部終わらせたい…と思いながら、一話完結をどぞーw


はちの月企画 一日一短編
『夕闇に流れる』


眼下の川を、柵に手を掛けた状態で陸橋より見下ろすのは、
小さな少年であった。
彼の後ろには、仕事帰りのスーツの群れ、買い食いに余念のない
学生の足音、夕飯の買い出しに向かう主婦の姿が入れ替わり立ち替わり流れていく。
彼の目はじっと、川の流れを見つめている。
いや、見つめているというよりは、凝視していると表現した方がしっくりくるだろう。
夕日に照らされた水面が紅の光を反射させ、その色が赤から青、そして夜の闇に吸い込まれるまでの時間帯。
黒いランドセルにつけられた名前札が、風にあおられ小さく揺れる。

「おかえり。遅かったね。」

その背に向かい、初老の男性が話しかける。だが少年は、彼には一瞥もくれず
両の手に力を込め直す。むすっとした目元には、確固とした一種の強い意志が宿っていた。

「また学校で何か言われたのかい?」

皺の刻まれた目元、優しい光が細められる。
少年は答えない。

「なら当ててみようかな。君はこう言いたいんだ。」

着物の袖に手を差し込み、少年の隣に立った男は、にこやかな顔一つ変えず口を開く。

「『全部てめぇのせいだ。オレに親が居ねぇのも、オレがあんな気味の悪い店に住んでるのも』って」

「だ、誰もそんな事言ってねぇよ。」

彼の台詞の終わる前、少々被りながら声を発する少年は慌てて顔を上げ、初めて男を見た。
両者の間に流れる、間の悪い沈黙。
ばつが悪そうに顔をそむける少年は言う。

「…ただ、ちょっと馬鹿にされただけなんだ。だから、あんたが心配する事じゃねぇよ。」

「ほう、なるほど。そう言う君が、こんな時間まで帰ってこないで、私を心配させるのは
矛盾してると思わないかい?」


にこにこと笑う男。少年には彼の台詞が完全に理解できず、「むじゅん?」と首を傾げる。

「ならそんな傷心の君に、いいものを見せてあげよう。」

「え?」

返事も聞かぬまま、彼は歩み始める。
灰色の短髪を掻きあげた彼に腕を引かれると、背負われたランドセルが
久方ぶりの運動に体を軋ませた。

到着するやいなや、

「…寒い。」

少年は文句を垂れる。

「河原だからね。」

彼は笑う。
そして、懐から緑色の物体を取り出した。

「ここに、キュウリを置く!もちろん、お皿の上にね。」

疑いの眼差しを背にひしひしと与えられながら、彼は座り込み、川辺に最も近い土砂の上
に、手持ちのキュウリ、隣にはマヨネーズのチューブを置いた。

「ちょっと待とうかね。彼はキュウリが好きだけど、とっても恥ずかしがり屋だから。」

そう言うと、少年と共に、近くの草むらに身を隠す。
何が何だか分からない少年は、されるがままその場に体を忍ばせた。

一時。
小川の流れる音。その音にうつらうつらと船を漕ぎ始めた少年は、突然の音の波に意識を覚醒させた。

「ほら、来たぞ。」

彼の声にはっとして、音の方角を見れば、そこには一本の腕が水面の「下から」伸びていた。
しかも色は緑色で、指と指の間には水かきの様なものがついている。
少年は目を疑う。この寒空の下、泳ぐ人間が居ると言うのか。

いや、自分の知っている生物とは、どれにも当てはまらない。
動物図鑑にさえ、あんな手の形状の存在はいなかったはずだ。
混乱する頭の中、目が離せないでいると、水の波が一層乱れた。
その下。
赤と青に光る眼の様なものと、少年の目があった。
ヒッと声を上げると、影は再び水面に潜んだ。

男は、ちょっと刺激が強すぎたかな、と笑う。

「ここに一人で来てはいけないよ。神隠しにあってしまうからね。」

「かみ、かくし…?」

少年は何とか言葉を絞りだす。驚きで、声が上擦っていた。
しかし、男は笑うだけで

「わかったかな?」

と答えるだけだ。

「う、うん。」

曖昧な返事に、納得したように頷く男。
そして、少年の頭を皺だらけの手で撫ぜる。

「さて、腹も減った事だ。うちに帰ろうか、はち。」


【終】

きゅうりにはマヨネーズとしょうゆ

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ひとひらの瞬き

拍手、コメントありがとうございますv
コメントの方にはコメ欄に返信しましたので、よろしければどうぞ♪
そして、


連続短編更新です!

こういうノリで、描いていきたかった。でも、まだまだ遅くない!

やっと、調子がつかめたので、こんな感じでがんばりたい。

↓↓てなわけで、短編更新です↓↓


はちの月企画 一日一短編

『ひとひらの瞬き』

「はち、そんなに睨まないでください。ぼくは蛙じゃないんですから。」

しろがはちの前で示したのは、紺色の丈夫な厚紙。
はちは、眼鏡の柄を親指の腹で押し上げ、じっと目を凝らす。

「子供だけじゃなくて、大人も泣き出しそうな形相になってますよ」

眉根がギリギリまで顔の中心に寄り、目は黒目だけが辛うじて見えるほど、はちは、その表紙を穴があくほどに見つめ続ける。
そして、数秒後、そこには握り拳ほどの大きさで【回覧版】と書かれている事を知った。

「最近目が見づらくなったんだよ。視力がさらに落ちたのかもな。」

「眼鏡の度が合ってないんですかねぇ?」

幼い頃から視力に支障を来していたはちにとって、眼鏡は生活を送る上での命綱。
いや、命そのものと言っても、過言ではないのかもしれない。

「なら、検診でもしてみましょう!」

「眼科にかかれ、つっても、そんな金はねぇぞ」

「知ってますよ、だから、うちですればいいのですよ」

「確かにここにはガラクタが山積みになってるが、
この中から目に当てる黒いアレとランドルト管を見つけ出せる確率は、かなり低いと思うが」


「いえいえ、もっと簡単な方法があるじゃないですか。」

しろは、自らの人差し指を、自らの顔の横に添えた。


「はち、これは何本ですか?」

楽しげな表情を浮かべるしろの向かい。
苦悩に顔を歪めるはちは、低いうなり声をあげている。

「…2本。」

「正解です!」

その言葉に息を吐き、『まばたき』としては力強く、ぎゅっと目をつぶる。
はちは自らの眼球に広がる乾燥地帯が、湿潤な雨でゆっくりと潤されていくような感覚を覚えた。

「なら、これは何本でしょう?」

後ろ手を高速で眼前に引きつけ、更に加速したスピードで右手を振動させるしろ。
指を手首から揺らせば錯覚が生じ、立てた一本の指が二本にも、三本にも見える。
その正答数から、視力を図る。医療費も、人件費もかからない簡単な方法である。
視力が落ちているとしたら、正確な本数がわからないだろう、という安易な考え方だ。
しかし、はちにとってはなかなか難しい課題になっているようで。

「…!1本だな!」
指で1を作り、意思を示す。
が、

「残念、4本でした。」

楽しげな声に、ぐぬぅ、と頭を抱えるはち。

今のところ、正答率は五分。
もちろん、彼がふざけている様子は無い。かなり苦戦しているようだ。

「やっぱり視力が落ちてるみたいですね。レンズに虫メガネでも重ねてみましょう。」

はちから眼鏡を取り、セロハンテープで虫メガネを貼り付け始めるしろ。

「おい、やめろ。」

「できました!」

はちの制止は届かないまま、
あっという間に、不格好な眼鏡ができあがった。

はちに無理やり掛け直すと、レンズの重みでズルリとズレる。

はちが戻しても、戻しても、戻しても戻しても、意味が無い。
その様を見て、しろはぷすっと噴き出した。

「笑うな!お前がやったんだろうが!」

「じゃあ、この次の問題で不正解なら、買い直しましょう。」

「え?どうしてだ?」

「だって、はちの目が見えなくなったら困りますからね。」

「大げさな…第一、そんな金があるのかよ。」

「えぇ、2000円札のお釣りがありますからね!ちょっと遣っちゃいましたから。」
えへへ、と笑むしろ。

はちは、よく分からないガラクタがテレビの上に置かれていた事を思い出す。

「ちなみに、いくらだ?」

「30円です。」

はちは悟る。
ここは、絶対に正解しなければならない、と。
さもなくば、廃棄寸前の中古の中の中古か、闇取引の結果に得られた怪しげな眼鏡を掛けさせられる事になる。

目薬をさし、虫眼鏡をはずして、臨戦態勢。

「なら、行きますよ。」

はい!と掲示される、最終問題。
はちは、つっと目を閉じ、深呼吸。

そして、『ひとひらの瞬き』がはちの眼に宿った。

しろの右手が、止まって見えるようだ。はちの口元が、にぃっと笑った。
手を使い答えを作って、しろに向かって突きだす。

「7本だな!」

「おぉ、正解です!」

「簡単だったな。」

「ならもうしばらく、その眼鏡を使い続けるしかないですね。」

「まぁ、暫くはこれでな。」

正解した達成感にまみれ、はちは珍しくすがすがしい気分を味わった。
だからこそ、何の疑問も抱かなかった。
そんな様子のはちをじっと見つめたしろは、後ろに手を回す。
そして。

「せっかく驚かそうと思ったのに、びっくりさせ甲斐がない人ですねぇ。」

「何か言ったか?」

「いえ、なんにも。」

いつもと変わらない、中性的な声音でしろは答えた。

その背後。
しろはいつの間にかはめこんだ肌と同系色の手袋を、はちが気付かない様にこっそりと外した。

「たまには、楽しげなはちを見るのも一興ですね。」

と、一人微笑みながら。

そしてしろにとっての元通り、”5本”に戻った指を翻らせると、
握りしめていた500円玉を自分の貯金箱に収めた。
これが一杯になる頃には。

「その時はきっと、ですね。」

その時は、可愛いフレームにしてほしいですねと、しろはあれやこれやと思いを巡らせた。

【終】

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【水色しずく】

はぶあぶれいく!
【夢のあと】をちょいと休憩して、読み切り短編のっけていきます。
気軽に読んでいってくださいねv


はちの月企画 一日一短編

【水色しずく】

なにか堂内が騒がしい、と黒川はちが気付いたのは、穏やかな昼下がりであった。
昼食をとり、食後の熱い茶が喉を伝い、胃へと落ちてゆく。
自分達は一階の、こじんまりとしたスペースの居間でくつろいでおり、
はちの向かいには、湯呑を傾けるしろの姿。
料理は相変わらず質素だが、若干の空腹感など、水分で補えるというものだ。
騒がしさの原因の第一候補であるしろは、翡翠色の目を一回り大きくした。

「どうしたんでしょう、お客様ですかね?」

「それにしちゃあ、やけにうるさくないか?」

様子を確認するため、はちは重たい腰を上げ、堂内へと足を運んだ。

時は少し遡る。
堂内中央、とある本棚の上。
黒蝶堂の憑者ゆりは、相も変わらず本を読んでいた。
堂長らは食事に奥間へ引っ込んでいる。

『黒蝶堂はランチタイムサービスを取り扱っているわけでもない
単なる古書店であるから、腹が減るこの時間帯に客が来る事は極めて稀有』

…これは一般論ではなく、ゆりの長年にわたる統計結果から得られた経験論である。

もちろん『ただし、例外の場合有り』との但し書きも忘れない。

そして、ゆりが分厚い本のページを捲った時、その例外が適用される事になった。

『但:このような時間帯に来る客は、よほどの好事家もしくは厄介な事情を抱えている者である可能性が高い。』

「ゆり!饅頭でも寄越すんだぞ!」

入口の引き戸を、はめ込みのガラスがひしめくほど勢いよく開けた”彼女”は、
へたくそなウインクを重ねて、堂内へ叫んだ。

「静かにして頂戴。今、いいところなのだから。」

本棚の上、ゆりは地上の彼女へ届くか届かないか、最低限の声量で叱責を飛ばす。
地上の彼女・深見ヶ原憑者の牡丹は、その数倍の声量で騒ぐ。

「客人が訪問した時は、まず茶を出すのが礼儀ってもんだぞ!」
「客人の礼義は、謙虚・謙遜の心を重んじる事よ。」

「こんな湿っぽい場所にずっといるから、そんなに顔色が悪いんだぞ!」

びしり!と人差し指を、天井付近のゆりへと突き出す。

しかしゆりは、本から顔を上げない。

「あなたみたいな性格の子が、他者の顔色をうかがうなんて高度な技術、到底無理な話よ。」

「?よくわからないけど、いいから降りてこいなんだぞ!」

疑問符が牡丹の付近に漂う。
それを振り払うように、背中に背負った二刀の卒塔婆が揺れる。

しかしゆりは、微動だにせず。口元だけが緩やかに動く。

「棚から落ちるのは、あなたの役目でしょう。」

「どういう事だ?」

綺麗な弧を描いた。

「棚から牡丹餅、って言葉知ってるかしら。」

先程から堂内が騒がしい。
はちは、誰かが来たのだと察し、堂内と室内を結ぶ引き戸を開ける。

そこは、”修羅場”と化していた。

「いいから、降りてこい!」

そう言い放つのは、顔を真っ赤に染め、ぎゃんぎゃんと地上で騒ぐ牡丹。
ゆりは涼しい顔で、本棚の上に鎮座し続ける。
その言葉が届かないと知るや否や、牡丹は後方へ下がった。

はちが見ているのも気づかず、助走をつけた牡丹。
その速度は、わずかな助走距離にもかかわらず、瞬間的に加速した。

どんっと堂内に響く鈍い音。
牡丹は、頭上にゆりの座る本棚に、全身全霊を駆けて追突したのだ。
はちは思わず目を背けた。
並び立つ本棚は、一つが倒れればドミノのように連鎖が起こる。
そして、あっという間に、マグニチュード8程の地震が発生したかのような惨状になる。

はずだった。
しかし、ゆりが指をくるりと回せば、45度程度倒れた本棚が自立性を取り戻し、
元の位置に収まった。
牡丹はその場にしゃがみこみ、涙目になりながら衝突した前頭葉付近をさする。

ゆりは初めて牡丹を見、冷徹な笑いを見せた。

「今度からはあなたの事、その”折れ曲がった猪突猛進っぷり”に敬意をこめて、
”イノシシ娘”と呼んであげるわ。」


「なるほど、”牡丹肉”だから、丁度いいな。」

横で見物していたはちは、ぽんっと掌を叩く。

「冗談じゃないんだぞ!」

地団太を踏む牡丹。
そのさまは、普段落ち着きすぎた黒蝶堂にとって異質ともとれる風景であった。

ゆりは更に言葉を重ねる。

「あなた、私の憑場が湿っぽいって指摘したけれど、あなたにだけは言われたくないわ。」

確かにな、とはちは呟く。
彼女の憑場は確か深見ヶ原”墓地”。
湿っぽいというよりは、悪寒が走る気がするが。

「生の終着点に憑くその胆力には、有る意味脱帽するけれど。」

そうだろう、と牡丹は胸を張る。

「おいおい、そいつは嫌味ってやつで…。」

はちの言葉は、ふふんと得意げに笑う牡丹に届く事は無い。

「たしかに、この店は辛気臭いからな。」

鼻高々になった牡丹は、得意げに告げる。
しかしゆりは、表情一つ、眉一つ動かさず。

「あなたは、いつも線香臭いわよ。」

無感動の声で言う。牡丹の瞳孔が狭まり、目のふちが赤く染まってゆく。

「お前、私の憑場を侮辱するのか…?」

トーンの低い音が牡丹の口から零れた。誰に届けるでもない、小さな呟き。
はちはくしゃみを一つした。風は吹きこんでこないのに、なぜだか寒気がする。

「本当の事を言ったまでよ。」

ゆりは確信犯だろう。三日月を描く口元が、通常よりもわずかに緩んでいる。
そして、文字通り見下した、相手を小馬鹿にするような表情を浮かべ、

「全体的に陰湿で、その上、藪蚊や虫も多くて。文化的生活が送れるとは到底思えないわ。」

そして、最後にトドメの一言を、ぐさりと牡丹に突き刺した。

「場は体を表す。あなたのようなイノシシ娘には、お似合いの憑場よね。」

言い放つと同時に、本をパタンと閉じる。

それは、牡丹が卒塔婆を抜いたのと、寸分の時差も無い時分であった。




「おま、お前ら落ち着け!」

地を蹴り、狭い堂内で目を光らせる牡丹。
卒塔婆が空を切ると、鋭い空気が刃物となり、肌を切り裂かんばかりの勢いで飛びかう。

実際に、数秒前の出来事。

軌道の逸れた空気の刃がはちを掠り、彼の前髪がいささか残念なことになってしまった。
今、彼は身をかがめ、本棚の脇から制止を呼ぶことしかできない。
ゆりはというと、飛び交う紫煙を帯びた刃物を、身軽な身のこなしでひょいひょいと飛び越え、
牡丹と一定の距離を保っている。

「こんのちょこまかと…!」

「典型的な敗北者のための台詞に感謝を。」

ゆりには、飛びながらにして目をつぶる余裕さえ伺える。

「う、うるさいんだぞ!」

「騒音の音源は、あなたよ。イノシシ娘。」

「だから、冗談じゃないんだぞ!」

ゆりは軌道を完全に読み、足取り軽く次々に場を確保していく。
地上に降り立っても、動きが鈍る事は無い。

地を蹴り、はちの背中を踏みつけ、「ぐえ」といううめき声を聞き送りながら、
滞空中にもかかわらず、空で本を開くと言う荒業を見せる始末。

一方、当の昔に限界を超えた牡丹は、遂には息切れをもよおし、言葉も無くその場に座り込んだ。
その頭上、先程とは二つずれた本棚の上にはゆりが座る。

最後の力を振り絞り、牡丹は卒塔婆の片方を上方へ向かって投げた。
卒塔婆は天井に衝突し、不規則な動きで跳ね返る。
それはゆりの右肩をかすめ、牡丹の手元に戻ってきた。

「一矢報いてやったんだぞ。」

息絶え絶えに、牡丹はその場に仰向けで倒れこむ。
ゆりはというと、左手で肩に触れている。痛みはないのだろうか、顔に表情は浮かばない。
だが、はちはその顔に、内心の恐怖を引きずりだされるような感覚を覚えた。
ゆりの手元の分厚い本。その端が、空気の刃に切り裂かれていたのだ。



ぴかっと光源を跳ね返す、小さな銃口が見え、はちは目をこすった。
しかし、見間違いではない。
ゆりの手に握られるは、青く光る一丁の短銃。
それは、分厚い本から取り出された物であった。
牡丹は目を見開き、はちは素早く立ち上がる。

「おい、穏やかじゃねぇぞ!」

「私の本を汚した罰はうけてもらうわ。」

淡々とした声。ゆりはその短銃を持ち、本棚の上を歩く。
そして、地上へ降り立つため、棚を離れた。
その時。

「あら?」

何かに躓いたのか、ゆりはふっと姿勢を崩し、その手から短銃が離れた。
その凶器は空を舞い、はちはそれを目で追う。
とにかくこれで一安心、はちは着地予想点に到達し、キャッチしようと手を伸ばした。

だがしかし。

「はちー、お茶が入りましたよ。お客様にどうぞ差し上げて下さい。」

タイミングよく、奥間からしろがやってきた。
その手に、4個の湯呑が載ったお盆を持って。
その盆の上に、まるで図ったかのように短銃が鎮座した。

「最悪のタイミングじゃねぇか!」

はちは頭を抱える。
しろは、頭数分の湯呑が載ったお盆を堂長席に置き、文字通り降ってきた得物に手を伸ばした。
怪しげなものには近づくな、と口が酸っぱくなるまで毎日言い続けているはちの努力は、
ここでもあっさりと無視されたのである。

「はち、手を上げてください。」

銃口を向けられ、両手を顔の横に上げ、降伏のポーズをとるはち。

しかし、しろはにこにこと笑っている。

「今日は付き合いが良いですね。」

「…どういうことだ?」

大丈夫だ。きっとロックを解除しない限り引き金は引けないはずだ大丈夫だ大丈夫。
自分を納得させる言葉をまるで念仏のように唱え、焦りの心を落ち着けようとするはち。

「え?だってこれ…」

しろは切羽詰まっているはちに、少々の戸惑いを感じているようだ。

「しろ、はちの眼鏡が汚れてるわ。」

「あ、本当です!はち、動かないでくださいね!」

だがその躊躇も、ゆりの言葉に払拭される。
しろは、はちに標準を合わせる。正しくは、はちの眼鏡に対し。
そして、いとも簡単に引き金を引いた。

早鐘を打つ心臓と、火事場の馬鹿力を掛けあわせれば、出来ない事は無いのだと、
はちは痛感した。
一瞬前。
彼は体を翻らせ、間一髪、短銃の襲撃からの保身に成功した。

だが、まったく想定していなかった悲惨な現状が、彼の目前に広がっていた。

「牡丹ちゃん…?牡丹ちゃんしっかりしてください!」

はちが避けた弾道の直線上。
斜め下方への攻撃は、はちの後ろで様子をうかがっていた牡丹の額に直撃した。

ぱたりと後方に倒れる牡丹の口から、紫煙たなびく空気の塊が、はみ出していた。
いや、”塊”ではなく”魂”であろう。
それを口に戻そうと、必死に抑え込むしろ。
眉根を寄せ、口を引き結び、今にも泣き出しそうな表情だ。

しかし、引き金を引いたとき本来存在する破裂音も、焦げくさい匂いも漂っていない。
ゆりは気を失った牡丹の隣に、ふわりと参上した。

「おい、大変なことになったじゃねぇか!早く病院に連れてかねぇと…!」

「ゆりちゃん!まさかこんな事に…」

「はち、しろ。落ち着いて、よく見て頂戴。」

と言われ、両者は牡丹の顔を見やる。
おかしい。
牡丹の顔には銃痕はおろか、傷一つつけられていないのだ。
あるのは若干の水分と、濡れた着物だけ。

「おい、こいつは…」

ゆりは淡々と事実だけを述べる。

「御覧の通り、ただの水鉄砲よ。」




薄暗く、涼しい部屋。暖かい寝床に、見慣れない天井。
湿っぽいが、匂いが違う。ここは、自分の憑場ではない。
はっと飛び起き、自分の得物を探す。二刀の卒塔婆。
あれだけは、墓場まで、いや、その先の黄泉の国まで持っていかなければならない位に
大切なものだ。

「ぼ、牡丹ちゃん…!」

声の主である部屋に入ってきた白色の彼は、持っていた洗面器を取り落した。
無色透明の水が、畳に零れた。

ひぃ、と口元を歪ませ、思わず後ずさる牡丹にしろは駆け寄る。

「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい。」

上擦る声に加え、涙目になりながら牡丹を抱きしめた。

「しろ副長、何があったんだ?私は、一体どうなったんだ?」

しどろもどろになりながら、牡丹は目を白黒させる。

「おい、苦しがってるだろうが。離れてやれよ。」

しろの後ろから覗きこむのは、眼鏡の男、黒川はち。

「はち堂長、私はどうしたんだ?」

「覚えてねぇならこちらとて都合がいいや。…てのは冗談で。

てめぇが水がダメだって事、すっかり失念しててな…悪かった。」


はちは不器用に目をそむけながら、ばつが悪そうに謝罪の意を告げた。
水、という言葉に、反射的に耳をふさぐ牡丹は

「謝られる心当たりも、頭を下げられる覚えも、まったく記憶にないんだぞ。」

と、素直に白状する。
はちは安堵の表情を浮かべながら、

「そうか、ゆりが下で待ってるから、行ってやってくれ。」

そう言い残すと、2階の自室を出、階下へと降りていった。

「遅いわ。」

乾かしていたいつもの服に着替え、髪の毛を結い直しながら堂内へ戻った牡丹を迎えたのは、
相変わらず本棚の上で本を読むゆりの姿であった。

「私はどれほど意識を飛ばしていたんだ?」

「正午より夕刻。しろが詳しいわ。彼はずっと、あなたの看病をしていたから。」

「それは面倒をかけたんだぞ。」

「反省してたから、許してやって頂戴。」

「もちろんなんだぞ。」

お互いを包む沈黙。

沈黙を見抜いてか、その時しろとはちが、堂内に現れた。

「もうくだらねぇ喧嘩はやめとけよ。無意味にも程があるんだからな。」

はちの言葉は、両者の耳には届かない。

「…なにかしら?」

「いや、ゆりが待ってるとはち堂長に言われたから、何かあるのか?と思ってな。」

「言葉が欲しいの?」

「い、いや、そんな事は無いんだぞ。そもそも私自身、何が起こったのか覚えてないからな。」

焦点の定まらない瞳で、牡丹は茶化す。
そんな彼女に、ゆりは着物の袂から何かを取り出し「はい」と差し出した。
反射的に牡丹は身構えるが、ゆりの無言の圧力に負けてそろそろと受け取る。
掌に収まる程度の、小さな紫色の巾着。中央には、黒い蝶の刺繍が縫い込まれている。

「これはなんなんだ?」

「開けてみて頂戴。」

能面のようなゆりの表情に怯えながら、巾着の口を開く牡丹。
その中には、薄『水色』に透けた、琥珀のような或いはビー玉のような形状の
球体が入っていた。光にかざすと、球体内の液体がキラキラと輝く。

「綺麗なんだぞ!」

「中に入ってるのは、何の変哲もない水よ。」

ゆりの発した”水”という単語に、牡丹はそれを取り落した。
だが、すぐに我に帰り、球体を巾着でキャッチする。

「でも、綺麗でしょう。」

苦虫をかみつぶしたような表情になった牡丹であるが、

「…悪くは無いんだぞ。」

おそるおそるだがゆっくりと、それを再び手に納めた。

「その『しずく』を所持し続ければ、いつかは水に慣れるかもしれないでしょう?」

「でもこれ、もらっていいのか?」

「いいの、何故か判らないけど、沢山あるから。」

「はち、牡丹ちゃん少し、珍しい表情ですよね。」

ゆりが牡丹と心安く会話を交わしている背後で、しろがはちへと耳打ちする。

「そうか?」

牡丹はじっと、水色のしずくを覗き込んでいる。

「えぇ、ちょっと影があると言うか、どことなく哀しそうというか。」

「反省してんだろ。」

はちは興味なさげに、ふぅんと空気を抜くに留まった。

「…わかった!一生大切にするからな!」

「大したものじゃないから、邪険に扱ってくれて結構。
そんな曖昧な表現、三日で有耶無耶になってしまうわ。」


「いいや、そういうわけにはいかないんだぞ!」

巾着にしずくを入れ、丁寧な手つきで懐へとしまう牡丹。

「これは墓場まで持っていかねばな!」

そしていつものように、下手なウインクをかましたのであった。

後日、の黒蝶堂。
卒塔婆の握りの部分に、紫色の巾着がはためていた。
よくよくみれば、卒塔婆には小さな穴が開けられ、巾着の紐が通されている。

「物は大事にしたほうがいいわよ。」

「私の卒塔婆なんだから、私がじゆーに使うんだぞ。」

店の温度が更に下がるのは、また別の話。

【終】

久々登場。
誤字脱字は、朝方にまたチェックします。


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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

夢のあと まとめver.

注意:最新更新は、この下の記事からですv

こんばんは!
現在更新中の【夢のあと】を、途中までまとめてみました。

まさかこんなに長々描くとは思ってませんでしたが、
展開はまずまず進んでいくので、お暇な方はぜひぜひ読んでいってくださいv

最新の更新分は、この記事のすぐ下に載せておきます。


【主な登場者】

はちアイコン
茶色⇒堂長:はち
shiro2.png
青⇒副長:しろ
ゆりアイコン

ピンク⇒黒蝶堂憑者:ゆり

【はちの月企画 一日一短編】

お題⑬『夢のあと』


「何してんだ?」

昼食後の一時。
堂長席で茶を啜っていたはちの目に、ガタガタと音を立てている白い青年が映っていた。
青年は、にこりと笑い、物置からひっぱりだしてきたと思われるはしごを、堂長席向かいの通路に固定した。
訝しげなはちの視線を全く意に介す様子もなく、軽い足取りで登ると、

「確かこの棚の、上から2番目、右から12番目の…あ、ありました。」

一冊の本を片手に、すぐさま地上へ復帰した。

「何だそりゃ?」

青年は、再びにこりと笑い、はちの席へ接近しながら、古ぼけた表紙に一息かけた。
舞う埃に、思わずくしゃみをしたはちの前で、ページをめくり始める。
そして、一枚一枚暴いていく指の動きが、中間地点で止まった。
同時に、止まらなくなっていたくしゃみがやっと引いたはちが、涙目で青年を睨みつけた。

「おい、一体何が何だっつーんだ!」

「はち、見てください!」

少々苛立つはちの鼻先、青年・しろは、長方形の用紙を広げて突きつけた。

「何だ…おもちゃ銀行券か。」

目を細め、ピントを合わせるはちにしろは人差し指を立て、

「ほら、今は懐かしい二千円札ですよ!やっぱり、あの夢は本当だったんです!」

興奮冷めやらぬ様子で、紙幣を掲げた姿勢で、その場でくるくると回った。

「おい、狭ぇんだからやめろ!」

はちの忠告にも耳を貸さず、くるくると回り続けるしろ。
しろが紙幣に加え、席上に置いた本にも手をとろうとした瞬間、

「あっ」

っとバランスを崩し、転倒した。
器用なほどにはしごを巻き込みつつ、派手な音を立てながら後方へ倒れるしろ。
そのはしごは棚をかすめ、その結果、さらに数十冊の本が落下し、
あっという間にしろとはしごを覆ってしまった。

その衝撃音に、店頭を歩く人々が驚きの表情で店の中を覗きこんでくる。

埃の舞う空間と惨状を前に、はちは

「見るならこのバカたれじゃなくて、商品の一つでも見てほしいもんだな…。」

本の山と化した元・居候に元・はしご、
そして、元・通路を見ながら、軽く現実逃避をした後、
長い永い溜息をついた。

「わかってるよ。これを片づけるのは、オレの役目だって事くらいな。」



堂内奥間にて。

「奇跡が起こったんです!」

と騒ぐ彼が、自身の治療費と巻き添えになった本の修繕費、それに、棚の修理費の合計が
2000円札一枚ぽっちでは到底賄えないという事実を知れば、少しは静かになるだろうか。

いや、

「奇跡はお金じゃ計れないんですよ!」

と主張し始めるしろの姿が目に浮かぶから、この台詞は逆効果だろう。
そんな結論に達したはちが、

「君の行動理由とその目的及び経過について、要点だけ、簡潔に詳しく述べよ。」

と、医療箱片手に、感情を切った声音で問えば、
しろは異様なほどキラキラと輝く瞳を、はちへと向けた。

「真黒い犬がいて、ふわふわーな毛並みをずっと堪能してて、すっごく可愛かったんです。」

一般人にとっては大げさとも思える身振り手振りと、感情豊かな声で応えている。
はちはふぅむ、と腕を組み、首を傾げた。
そう。
熱意は火傷しそうなほど伝わるのだが、

打ち所が悪かったのか、
手当に失敗したのか、
運悪く神経が切れたのか。

誠に的を得ない、かつ文法もむちゃくちゃな表現に、はちは脳内がかき乱されるような感覚を覚える。
突発的頭痛に眉根をひそめながらも、

「んな説明じゃ、お前の行動理由につながらねぇよ。」

と返せば、

「すごく利口なわんこでしたから、はちって名前ではありませんでしたね。」

更に不可解なヒントが与えられた。

「話は見えんが、バカにされた事はわかったぞ。」

「はちは話が目に見えるんですか!?その眼片方だけ下さい!」

「やらん!自前のがあるだろうが!」

話の通じぬ人間の相手ほど、疲れるものは無いな。
はちの口から、深い深いため息が漏れた。



「そう!ぼく、昨晩夢を見たんです!」

はちは現在、その詳細を聞き出そうと、四苦八苦しているところである。

「気づいたら枕の下で、黒い犬が眠っていてですね。」

「そんな高さのある枕じゃ、首が痛くなるだろ。」

当然だが、黒蝶堂に犬はいない。
いるのは、犬のような名前の2人。

「触っていたら、余りの手触りのよさに眠ってしまいそうになりまして。
実際少し眠ってしまったようで。」


「夢の中でも眠るなんざ、明らかに過剰睡眠だ。」

「でも、一晩で二晩分眠れるなら、かなりお得だと思いませんか?」

楽しそうに話すしろの隣、
はちが、何度目かの溜め息を漏らす。

「違う。お前は一晩で、三晩分以上の睡眠をしたんだよ。」

しろは、身振り手振りの動作をピタリと止める。
はちの台詞に、理解が追いついていかないようだ。

はちは脳内で思考を整理する。
夢の中の夢の中で眠りに落ちれば、合計は3回になる。
黒蝶堂に犬はいないから、現実世界において黒い犬は、枕の下には眠れない。
だから黒い犬は、しろが見た夢の中に登場したわけである。

つまり、現実世界で眠ったしろは、黒い犬を枕に眠りにつくという夢を見て。
夢の中のしろは、ふとした瞬間に犬に気付き、触っている内、再々度眠りに落ちた。

もしくは、気付いたのではなく、”気付いたという夢”を夢の中で見ていたのかもしれない。

最短ルートで行くと、夢の中の夢の中で、わずかな覚醒の後、眠った。
つまり、眠ったのは三回分。

この場合、三度目の睡眠は、一度目の夢の継続ともとれる。
二度目の夢の二度寝を、一晩分と数えるのは強引か。

いや、二度目とは限らないのか。
どのタイミングで黒い犬を枕にしたかは不明だから、いずれにせよ、少なくとも三晩分。
もしくは、それ以上か。

「…いろんな意味で、器用な奴だな。」

はちは深く考えない様にした。所詮は夢の話。
合わせ鏡は、無数の世界を作りだす。
それと似たようなものか。

そんな核心に迫れない、無意味ともとれるやりとりの最中。
ゆりがどこからともなく、かつ、音も無く現れた。

「しろ、それ、もしかして暴力?」

「おっ、驚かせるんじゃねぇよ!」

姿勢を崩し、がたりと音を立てるはちに、ゆりは少しも視線を寄こすそぶりはない。
少女は目を見開き、恐る恐るしろのガーゼが貼られた頬に手を伸ばす。

はちは思う。
切り揃えられた前髪の下、普段から白い顔色が、いつも以上に優れない気がするのは、気のせいか。

と、しろはしゃがみこみ、ゆりの右手を自らの左手で覆った。

「大丈夫ですよ。このくらい、大したことないのです。」

はちは思う。
しろがにこりと笑うと、ゆりの目に浮かんでいた、僅かな動揺が、だんだん収まってきた、
ような気がする、と。

一度目を閉じ、ゆっくりと開いたゆりは

「そう、大事にね。」

はちは思う。
普段よりも、数段穏やかな口ぶりで、しろを気遣ったような気がする、と。

全部が気のせいだと言われれば、そうなのだが。
ちょっといい話か?と問われれば、
「それはそう見えるだけで気のせいだ。」
と断言してやる。

と、完全に存在が空気と化しているはちは、内心、意地悪く毒づく。
ゆりは、

「ちょっと出てくるわ。」

と、誰の返事も待たず、いつも通りの、全く迷いの無い足取りで歩んでいった。
もちろん、はちには一瞥もくれずに。

そんな少女の後ろ姿を見送ったはちが、後頭部を右手で乱雑に掻く。
2人分の茶を淹れたしろが、はちの向かいに座った。

一口啜ると、はちは仕切り直しをかけた。

「…で、話の続きだが。」

しろは人差し指を立て、

「そう!ぼく、昨晩夢を見たんです。」

「そこからか!?」

仕切り直しは、失敗に終わったようだ。



「黒い犬は、僕の前を数歩歩いて、途中で振り返るんです。
ふわふわでかわいかったですし、おもしろそうだったので、ついていってみたんです。」


茶菓子のせんべいに、しろが手を伸ばしながら話す。

「面倒なことになるんだから、怪しいもんには近づくなって、いつも言ってんだろ。」

はちは、夢の中のしろの行動に苦言を呈し、茶をもう一口啜った。

はちにとっての厄介事は、たいていの場合、白色の彼からもたらせる事がほとんどであり、
逆を言えば、彼の行動さえ制限してしまえば、安寧を手に入れられるという意味を示すのだが。

はちは、未だ、彼の持ちこむトラブルに巻き込まれ続けているのが現状である。

「着いて行くと、本棚の前で犬が2度、ワンワンって鳴いたんです。」

ぱりぱりと、米菓子が米粉へ戻っていく。

「2×ワンワンって事か?」

「逆ですよ。ワンワンだから2度。
1+1=田の理論を応用すれば、1×2=犬が成り立ちます。」


言いながら、小分けに袋詰めされたせんべいの、二袋目の封は切られた。
文字が見える目を持つはちは、式に含まれる違和感を、即座に指摘する。

「1=oneに置き換えねぇと、その式は成立しないぜ。それにしても。」

はちはそこで言葉を切る。

「使い古された、なんともくだらねぇ話だ。」

すると、しろは目を細め、

「でも、この考え方が通じるって、同じ世界に住んでるからなんですよね。」

と笑う。
返事の代わりに、訝しげな表情を浮かべたはちは

「…それで?」

と先を促した。

「わんちゃんは階段を下りて、店の方に走ったんです。で、本棚の上の方を暫く見上げて
いたんですが、突然、前足でガリガリと。まるで、棚で爪とぎをしているみたいでした。」


順序立てて説明できるようになりつつあるしろに、はちは安堵する。
その成長に免じて、

「爪とぎをするのは、普通は猫だ。」

と、喉元まで上がってきたツッコミを飲み込む。
話が波に乗ってきたしろは、両手を大きく広げ、朗らかな笑顔と共に、

「それから、天井に向かって走り出したんです。」

びしりと、例の本棚、正しくはその天井付近を指差した。

「は?」

はちの安堵は、一瞬にして霧消した。

「だから、わんちゃんが本棚を駆けあがってですね。」

「ちょい、ちょっと待て。その犬は、重力を無視したのか?」

はちは自らの耳を疑い、遮る。

「そんな細かい事、どうだっていいじゃないですか。」

どうやら、聞き間違いではないようだ。
腑に落ちないはちは、

「…特に細かくも無いと思うが。」

と、抵抗の意を示す。
が、

「疑り深いと、人間不信になりますよ。」

笑顔での指摘に、はちは口をつぐまざるを得なかった。

「わんちゃんは一冊の本を前足で指し示したんです。
だから、ぼくは脚立でそれを取って…ってとこで目が覚めたんです。」


「だから夢を真に受けて、本を探してたってのか。」

呆れたと言わんばかりの、嘲笑とも苦笑いともとれる表情がはちに浮かぶ。
一方、しろは目を輝かせる。

「だから、二千円札を見つけた時、本当にびっくりしたんです。」

「単なる偶然じゃねぇの?それか、その夢自体が後付けなのかもしれねぇ。」

「どういうことですか?」

「後からお前が作り上げた物語で、それを夢って錯覚してる可能性だ。」

疑問符の浮かぶしろの向かい、
はちは腕を組み、しかめ面を更に険しくした。

「あるいは、二千円札を前もって仕込んでおいて、オレをだまそうとしてるのかもしれねぇし…
そもそも、夢ってのは現実を整理するために見てるもんだから、実際に起った事なのか…?それとも…」


ぶつくさと呪文のように唱えるはちを前に、しろは目をぱちくりと見開き、指を折る。

「…何数えてんだ?」

「いえ、はちの”仮説”と言う名の”杞憂”をですね…」

「…いつもお前を相手にしてると、イヤでもこんな性格になるっての。」

嫌味の意を込めて、一単語を区切って伝えようとするはち。
だが、彼の意向は、

「二つ、三つ…えっと、あと他にルートがありましたっけ?」

指折りに夢中になっているしろの前に、あっさりと降伏した。
しろは笑う。

「はちって、石橋を叩いて破壊したうえで、
『おい、渡れねぇんだけど!』って叫んで、回り道を探し始めるタイプですよね。」


「んな簡単に、石橋は壊れねぇよ。それに、オレは危ない橋は渡らねぇ。」

不機嫌そうにはちはそっぽを向き言い放つと、随分と温くなった茶をすする。
その時、しろの瞳がきらりと輝いた。

「そんな何かとついて無い方に朗報です!
これがあれば、あなたにもすぐ幸福が音ズレます!」


「今の生活が、すでに不協和音を奏でてるだろうが。」

はちの自虐的なツッコミが飛ぶ。

それを華麗にスルーしたしろは、怪しげな謳い文句と共に、ゴソゴソと上着を探り、
一枚の紙切れを頭上に掲示した。

「これで、はちも僕の言った事が真実だとわかるはずです。」

手に収まる程度の厚紙。
中央には、草原を駆ける黒い犬の姿が描かれていた。

「これを枕の下に敷いて眠ると、次の日にはラッキーな出来事がおこるのです!」

胸を張って言いきるしろの頬に、白い包帯がはためいた。

夜。

「信じてねぇわけじゃねぇけどよ。」

誰にともなく言った後、はちは昼間に半ば強引に押し付けられた厚紙を、
静かに寝床へ忍ばせた。

「こんなもんで幸せになれるなら、100枚でも10000枚でも積み上げてやるさ。」

湧き出してくる可能性を強引に押し込め、
半信半疑、絵を枕の下に埋め込んだはちは、ぱちぱちぱちとコードを引いて
電気を消した。

睡魔が彼を食べつくすまで、さほどの時間は要さなかった。

気付けば、はちは、だだっ広い草原の中央で寝転んでいた。

膝ほどの高さの青い草原に混じり、黄色い菜の花が風に揺れる。
空は突き抜けるほど青く、浮かぶ白い雲は混じりけのない入道雲。
背の高い建物はおろか、人工物一つ見当たらない。

ここが世界の果てといっても、しろなら信じてしまいそうな空間である。

「広いな・・・ここは、オレの夢の中、か・・・。」

眠っているはずであるのに、意識はやけにはっきりしている。
穏やかな風が頬を撫ぜ、さらさらと草木の揺れる音が耳に心地よい。

暫くぼんやりとしていたが、うとうとと再び睡魔が襲ってきた。

はちは右頬をたたく。
そして立ち上がり、体の埃を軽く払い落とした後、メガネを人差し指で押し上げた。

夢の中で夢の中に落ちるなんてややこしい事、しろじゃあるまいし、オレは勘弁願いたいね。

背伸びを一つすると、世界はどこまでも続いていきそうな予感すらした。

その時。
黄色い草原の波に呑まれた、白い塊が視界に止まった。
じっと目を凝らすと、それと目が合う。

いやな予感が、汗となって背筋を伝う。

その途端。
自らの巨体をぶるぶると奮わせ始めた白い塊。

「ちょ、ちょっと待て!」

はちの静止も聞かず、彼(彼女?)は猛スピードではちとの間合いをつめてきた。
目も追いつかぬ速度と、身軽なフットワークで白い物体に
突進されたはちは、為す術も見つからぬ内に、腰を激しく地上に強打した。

「痛ってぇ・・・。」

後頭部が感じたのは、草原を覆う柔らかい土の匂い・・・ではなく、
凹凸のある、石のような硬度の衝撃であった。
数秒間はたまた、数分間、意識を失っていたらしく、
目を開けると、倒れた際に火花を散らせた自分の姿がフラッシュバックする。

若干の、脳しんとうの症状。

今この場が夢か現かは不明だが、その鈍い痛みだけは、現実味が非常に濃い。

辺りはなぜか暗い。そして、外気は少々肌寒い。

衝突の際吹き飛んだと思われるメガネを手探りで探し、掛け直す。
ブレた意識同士が再度手を繋いだ時、視界が徐々にしかし確実に定まっていく。

はちは気付いた。

カーテンの隙間から注いでくる月光に照らされた室内。

自分の座るは一組の布団、天井を支配する、コードの垂れ下がった電灯と
枕元の小さな戸棚。

見覚えのある風景だ。

隣室と、この部屋を結ぶ足元の金属製のレールは、先程自分が倒れていた位置と一致する。
痛みが蘇ったのか、苦々しい表情でそれを睨みつけたはちは、布団の上に上体を投げ出し

「・・・ひでぇ悪夢だったな。」

”黒蝶堂2階の自室”で、ゆっくりと息を吐いた。


【続】


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夢のあと 7

前回の更新後のコメントと拍手ありがとうございますv
うをを、がんばらねば!と気合を入れ直した次第です。
お返事をそれぞれのコメントの下に追記しましたので、よろしければどうぞ。
そして、深夜の更新です。丑三つ時です。


前回まで⇒1~6のまとめ⇒夢のあと まとめver.

切るところがおかしかったので、唐突な場面から始まります。


【夢のあと 7】

まだ起床には早い時間だろう。
朝に弱いはちは、いつもしろにたたき起こされている。
だから、今朝は珍しがられるかもしれない。

「ほら、早起きは三文の徳なんですよ。」
と笑うしろの姿が目に浮かぶ。

「もしかして、これが幸運ってやつか。」

はちは薄ら笑いをかましながら、天井を仰ぐ。

そして、足元の違和感に気付いた。
ふさふさとした、温度のある質量。
冷たくも柔らかい、小さな手に触れられているような感触。
ざらざらとした、粘着質の物体。

はちは慌てて、布団を蹴る。
目線の先。

そこには、長い尻尾を左右に大きく振る、真っ白い犬の姿があった。

犬ははちの上着の袖を銜え、はちを動かそうと躍起だ。
一方、はちは突然のことに、腰を抜かしたまま動けないで居る。

なんで、なんでうちに犬が居るんだ。

答えは明瞭、ここは再び自分の夢。
しかし先程夢は、ジ・エンドを迎えたのでは?

まったくわけがわからない。
堂内は、やけにリアルに描き出されている。

ここは、どこなんだ。今は、夢なのか?オレは、どこにいるんだ?

どれくらいの時間が経ったろうか、はちは犬に連れられ1階へ下りていた。

いつも通りに堂長席に着くと、犬はぶんぶんと尻尾を振る。
そして、その席から見える位置にある本棚を見つけると、

「ウソだろ・・・?」

一直線に、本棚を駆け上がった。
昼間にしろが説明したとおりだ。
彼は、ここには重力がないのですよとあざ笑うように、真上に向かって走ったのだ。

一冊の本を銜えて、堂長席の机上に置く。尻尾を左右に大きく振り、じっと見つめてくる視線に負けて、
はちは仕方なく、その頭をなでる。犬は心地よさそうに目を細めた。

しばらくして満足したのか。はちから少々の距離をとり、白い犬は伏せの状態を取った。

「まったく、なんだってんだよ。」

はちは机上に目をやる。一冊の古ぼけた本。
しろの話の通りだ。
夢の中が操られていると考えるなら、なんともまぁ気味の悪い話だ。
その本を開くと、次の日にはいいことがある。
はちは表紙に手をかけた。

そして。

「はち!もう朝ですから、起きて下さい!」

「・・・お前は、本当に間が悪いよな。」
「何の話ですか?」

夢は一瞬にして霧消し、本当の現実がもたらされた。

寝ぼけ眼を強引に押し開け、顔を洗い身支度を整えたはちは、階下に降りた。
台所から、朝食の準備をする音が届く。
その横を足音一つ立てずに通り抜け、堂内に到達したはちは、足の赴くままに歩く。
そして気付けば、とある本棚の向かいに立っていた。
背伸びをし、例の本を目で探す。

「まさか、な。」

あるわけないと思いつつ、覗いたそこ。
例の本は、当然といわんばかりに例の場所にあった。
ここまで一致すると、偶然で片付けるには出来すぎている反面、気味が悪い。
だが、しろの言うとおり、幸運が舞い込むとしたら?

「少しは期待してもいいのか?」

生唾をごくりと飲み込み、ページをめくる。
一枚、二枚。
もし、じいさんのヘソクリが隠されているとしたら?
その額はきっと、大金ではないだろうが、今晩のおかずを一品増やせるかもしれない。
三枚、四枚。
もしや、この本の旧所有者が随分な金持ちで。
八枚、九枚。
財布に入りきれない大金を、仕方なく本に挟んだ可能性もある。遂には気付かぬままに。
二十八枚、二十九枚。
売りに出したとか。
めくるごとに、期待は否が応でも膨らんでいく。

そして、ちょうど中間地点に達したとき、一枚の紙切れが宙を舞った。

ヒラリと地に落ちたそれを、身を屈め拾い、堂内に差し込む朝日に照らす。

「なんだ、こりゃ。」

紙幣にしては分厚い。
かといって、札束というわけではない。
裏返し、表へ返し。
布製の触覚が二本生えた厚紙。その中央には、色あせた桃色の花弁が一枚一枚、丁寧に貼り付けられており、
片隅には、透かしの入った黒い蝶をかたどるイラストが添えられている。

「なんだよ、ただのしおりか・・・。」

その声音は、寝起きだからという理由を差し引いても、低い。明らかに、落胆の色が浮かんでいるようだ。
はちはそれを堂長席の机に放り、本を乱暴な手つきで元の位置に戻す。
そして、昨日しろが使っていた脚立を畳むため、金具に手をかけた。

「まったく、使ったらちゃんと片付けろっての。」

ガタガタと音を立てて、一本足となったそれを脇に抱える。
そのとき。
背後でバサリバサリと、聞き覚えのあるいやな音。
前後不覚。
振り返れば、梯子の後方が例の本棚に刺さり、並べられた書物が床へ落下してしまっていた。
図らずも一山築いてしまった本の群れを見、飛び交う埃に咳払いをしたはちは、たいそう不機嫌な顔で脚立を置いた。
座り込み、黙々と本を立てかける。
その背中を覗き込むように、

「はちー?だいじょうぶですかぁ?」

音に呼ばれ、朝食の準備を終えたしろが堂内へと顔を出した。

「お前が使ったんだろうが」

はちは脚立を指さす。しろはにこっと笑い、
「だって、はちも使ったんでしょう?」

と言う。はちはため息一つ。

「オレのは、手の届く範囲にあったさ」

「はちも夢を見たんですね!いったい、何が入ってたんですか?」

疑問符と感嘆符が忙しないやつだ、としろを見上げるはちは、

「特に何にもなかったさ」

無愛想に言い放つ。
本を積み上げ直しきると、背伸びを一つ。
脚立を持ち上げ、訝しげな表情のしろの前を横断していく。

「オレの前に現れたのは、黒じゃなくて白い犬だったから、きっと人違い…じゃなくて、犬違いだったのさ」

【続】

誤字脱字の予感がします。
朝方にまたチェックします。


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夢のあと 6

寒いいいいですね。
もう11月とは…シンジラレナイ。

この短編が終わったら、ハロウィンネタに走るかもしれない…
なにはともあれ、続きですv


1~5のまとめ⇒夢のあと まとめver.

まとめ版を作ってみましたので、よろしければご利用ください。
↓↓まとめ版の続きはこちら↓↓


【夢のあと 6】

夜。

「信じてねぇわけじゃねぇけどよ。」

誰にともなく言った後、はちは昼間に半ば強引に押し付けられた厚紙を、
静かに寝床へ忍ばせた。

「こんなもんで幸せになれるなら、100枚でも10000枚でも積み上げてやるさ。」

湧き出してくる可能性を強引に押し込め、
半信半疑、絵を枕の下に埋め込んだはちは、ぱちぱちぱちとコードを引いて
電気を消した。

睡魔が彼を食べつくすまで、さほどの時間は要さなかった。

気付けば、はちは、だだっ広い草原の中央で寝転んでいた。

膝ほどの高さの青い草原に混じり、黄色い菜の花が風に揺れる。
空は突き抜けるほど青く、浮かぶ白い雲は混じりけのない入道雲。
背の高い建物はおろか、人工物一つ見当たらない。

ここが世界の果てといっても、しろなら信じてしまいそうな空間である。

「広いな・・・ここは、オレの夢の中、か・・・。」

眠っているはずであるのに、意識はやけにはっきりしている。
穏やかな風が頬を撫ぜ、さらさらと草木の揺れる音が耳に心地よい。

暫くぼんやりとしていたが、うとうとと再び睡魔が襲ってきた。

はちは右頬をたたく。
そして立ち上がり、体の埃を軽く払い落とした後、メガネを人差し指で押し上げた。

夢の中で夢の中に落ちるなんてややこしい事、しろじゃあるまいし、オレは勘弁願いたいね。

背伸びを一つすると、世界はどこまでも続いていきそうな予感すらした。

その時。
黄色い草原の波に呑まれた、白い塊が視界に止まった。
じっと目を凝らすと、それと目が合う。

いやな予感が、汗となって背筋を伝う。

その途端。
自らの巨体をぶるぶると奮わせ始めた白い塊。

「ちょ、ちょっと待て!」

はちの静止も聞かず、彼(彼女?)は猛スピードではちとの間合いをつめてきた。
目も追いつかぬ速度と、身軽なフットワークで白い物体に
突進されたはちは、為す術も見つからぬ内に、腰を激しく地上に強打した。

「痛ってぇ・・・。」

後頭部が感じたのは、草原を覆う柔らかい土の匂い・・・ではなく、
凹凸のある、石のような硬度の衝撃であった。
数秒間はたまた、数分間、意識を失っていたらしく、
目を開けると、倒れた際に火花を散らせた自分の姿がフラッシュバックする。

若干の、脳しんとうの症状。

今この場が夢か現かは不明だが、その鈍い痛みだけは、現実味が非常に濃い。

辺りはなぜか暗い。そして、外気は少々肌寒い。

衝突の際吹き飛んだと思われるメガネを手探りで探し、掛け直す。
ブレた意識同士が再度手を繋いだ時、視界が徐々にしかし確実に定まっていく。

はちは気付いた。

カーテンの隙間から注いでくる月光に照らされた室内。

自分の座るは一組の布団、天井を支配する、コードの垂れ下がった電灯と
枕元の小さな戸棚。

見覚えのある風景だ。

隣室と、この部屋を結ぶ足元の金属製のレールは、先程自分が倒れていた位置と一致する。
痛みが蘇ったのか、苦々しい表情でそれを睨みつけたはちは、布団の上に上体を投げ出し

「・・・ひでぇ悪夢だったな。」

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【続】

畳は意外と冷たい。

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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