白骨取扱専門店黒蝶堂 2 


仕事を終え、黒蝶堂に戻るとそこは戦場と化していた。
遠目から見ると黒い塊に見えるそれの正体は、客の群れ。

老若男女問わず、目当ての物を手にしては、喜び勇んで帰路につく。
はちはその波が収まった所を見計らい、堂内へ入った。

足を一歩踏み入れれば、そこには文字通り、真白い空間が広がっていた。
まるで磨き上げられたかのような白い壁には、自分の顔が映り込んでしまいそうになる。

昨年まで古書店を営んでいたため、一階に並び立っていた本棚も今は2階の倉庫へ押し込められ、
その跡地には何もない空間がだだっ広く続いている。

そして、店内中央に置かれた真白い椅子に、彼は座っていた。

「はち!遅いですよ。こっちは大変だったんですからね!」

旧型のレジスターの隣。
氷山しろは立ち上がり、はちを指差し頬を膨らませた。
彼の怒りに満ちた翡翠色の目だけが、この空間に色を点しているかのようであった。

「悪い。ちょっと手間取ってな。」

「まったく、毎日休む暇も無いくらいに忙しいんですから、しっかりしてください!」

はちはばつが悪そうに余所を向く。
目前のしろは椅子に戻り、傍らの電卓をはじいた。
彼が鼻歌を歌い出したから、今月も上々の売上高を記録したのだろう。

黒蝶堂は古書店を閉店し、新しい事業を展開し始めた。

その原因、もとい、事の発端は、一年前のとある事件まで遡る。

【続】

続き⇒白骨取扱専門店黒蝶堂 3
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

白骨取扱専門店黒蝶堂 1

【白骨取扱専門店黒蝶堂】

燦々と輝く太陽に桜の花びらがきらめく、春真っ盛りの季節。
黒いヘルメットに映る景色は、次々と姿を変えていく。

大通りのど真ん中を、一台の原動機付自転車が颯爽と駆け抜けていった。

前方の信号が赤から青へ。
身体に伝わる僅かな振動と共に、エンジンがうなり声を上げる。
上体を傾け、閑静な住宅街の道路へと侵入すれば、一軒家の立ち並ぶ家並みが視界いっぱいに広がった。
速度を落とし、この時期が持つ独特のまどろみを楽しむかの如く、ゆったりと進む。

と、遠くで白い物体が左右に揺れている事に彼は気がついた。

乱視の混ざる目を凝らし、レンズを通して細めた瞳が焦点を合わせる。
淡い黄色のエプロンを身にまとい、髪を一つに結えている女性が手を振っていた。
年代は30代半ば。
おそらくは、この辺りに住む主婦であろう。

減速を重ねると、背中で風にあおられていた上背ほどの長さがある旗が、自身の反復回数を減らす。
旗が止まる頃合いには丁度、彼女の前に到達していた。

彼女が「ご苦労様です」と頭を下げる。

彼もお辞儀を返す。
そして、眼鏡が外れないよう慎重にヘルメットを両手で支えながら外した。

「こんにちは、お待たせしました。」

愛想良く答え、恭しく礼を返す。
ヘルメットを脇に抱え、彼女に向き直った彼。

――黒川はちは爽やかな笑顔を浮かべ、まるで自慢するかのごとく、自前の白い歯をのぞかせた。

バイクの後部に刺さる旗には「白骨取扱専門店黒蝶堂」の文字。
彼女はそれを見やり笑みを浮かべると、期待を込めた瞳で、はちをじっと見つめた。

【続】

続き⇒ 白骨取扱専門店黒蝶堂②

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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