スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【質流れの数値測定器は、真実を語れるや否や(ソーダ味)】

【質流れの数値測定器は、真実を語れるや否や(ソーダ味)】

「あちぃ・・・。」

湿度76%、室温32℃。
真夏日真っ直中の、黒蝶堂の昼下がり。
暑い暑いと唸る主が座る堂長席の真向かいには、机に両手を突っぱねるしろの姿があった。

「はちー、アイス食べても」

「駄目だ。」

「どうしてですか!」

有無を言わせぬ速度で却下され、最後まで言い切れなかったしろが右頬を膨らませる。はちはあきれ顔で、机の脇、しろの足下を指さした。

「ほら、ゴミ箱に積もった小袋の山を見ろ。」

そこには、朝方よりアイスを断続的に食した証拠があった。小分けにされたアイスの袋と木製の棒が、堂長席近傍のゴミ箱に多量に捨てられており、それは1つを除き、全てが白い彼の仕業なのである。

「明らかに食いすぎだ。それに」

涼しげな顔が視界いっぱいに広がり、はちはため息を吐いた。

「暑いと思ってねぇんじゃねぇの?」

すると、白い彼は人差し指を立て、ふふんと鼻を鳴らし、

「心頭滅却すれば、火もまた涼し、ですよ。」

それは僕の遺した名言です!と言わんばかりの表情をする。

「・・・お前の脳内は、いつも沸いてるもんな。」

「えぇ。おかげさまで、次々とアイデアが沸き上がってくるんですよ。」

熱気で朦朧とする意識の中、単純なのか、ややこしいのか不明な思考回路を持つ人間を相手にし、はちは頭を抱えたくなる。相変わらず皮肉の通じない奴だ。

そんな彼の嘆きは、誰にも届くことは無い。

「体温測定したらいかが。」

と。
ふいに、本棚の上から言葉が降ってきた。
数秒も待たず、今度は少女が降ってきた。

「・・・何を突然。」

少女・ゆりは、はちの疑問にも応えず、分厚い本を片手で抱え、反対側の手をくるりと一回転させる。

すると、はちの背方向より凄まじいスピードで飛来する物があった。背後より迫り来る風圧に、本能が思わず身を屈めさせる。
結果的に、つむじへの襲撃を間一髪で避けたはちは、それがゆりの手に収まる様を見逃した。

彼が言葉を失っている間に、彼女よりしろへと渡されたのは、ごくごく普通の、デジタル表記の体温計であった。

しろは嬉しそうに受け取り、白い体温計を脇に挟みこむ。

「・・・風邪でもねぇのに。」

そんな呟きが空を飛んで数分後。
ぴぴぴぴぴと、間の抜けた音が堂内に響いた。



はちの眼鏡に押しつけられたモニターが表示するは、「EROOR」のアルファベット。

「おい、計れてねぇぞ。壊れてんじゃねぇのか?」

はちの指摘に、しろは体温計を自分にかざす。
すると、ぽんっと音を立てるかのように、大きな疑問符が彼に浮かんだ。
続いて、戸惑いと落胆が順を追って表情に顕れる。

「そうだ、僕、これじゃ計れなかったんです。」

しゅんとしょげるしろの意味するところが解らず、今度ははちの頭に疑問符が浮かぶ。そして、疑問を解決する前に、しろが「あ!」と声を上げた。

「伊織おじいちゃんから貰ったのがありました!」

と言いながら、奥間へ引っ込んで行く。戻ってきた彼が手にしていたのは、中央に水銀の入った銀色の線が走る、アナログ式の体温計であった。彼は透明の先端を、戸惑いなく口にした。

「おい、水銀中毒になるぞ!」

「大丈夫ですって。おじいちゃんが言ってましたので。」

「バカか!やめとけ!」

取り上げようとするはちと、それをくわえながらも素早く避けるしろが騒いでいる間に、体温計はその末端を点滅させた。

「計れました!」

しろが右手を計りにかけ、差し出した物へ、三者それぞれが視線を注ぎ、目盛りを読む。

最初に口を開いたのは、ゆりであった。

「32℃、予想通りね。」

次に、

「・・・壊れてるな。間違って、室温を計っちまったんじゃねぇのか。」

はちは、最も可能性のある結論を導き出す。人間の体温にしちゃ低すぎるんだから、これが妥当な線だろう、と。

「歩く温度計と呼んでくれても良いですよ。」

しろは楽しげに笑うだけである。

「・・・どこの会社が作ってんだ。」

「星形のマークが入ってたはずです。」

しろの言葉に、はちが体温計を裏返した。
そこには、三方向に茎が伸びた星を形どったような花の絵が描写されてあった。3本のうち、2本は赤と青で彩色されており、透き通る程の繊細さである。社名も製造元も記載がなく、はちは眉間の皺を一層深めた。

「・・・ますます怪しいな。」

「これは竜胆ね。」

と、少女がはちの手から透明の棒をかっさらい、説明を加えた。「”りんどう”でしたか!」としろが放ち、「知らねぇ会社だな」とはちが返す。

ゆりは両者を見、目を伏せ、首を左右に振った。
説明するのが面倒ね、と言わんばかりの仕草ではあったが、小さな顎に指を掛けながら、

「つまり、その印は”河童の質流れ品”の意。伊織さんは、零落童子から仕入れたのね。」

はちの祖父・伊織の名を口にした。

「それを言うなら、”河童の川流れ”だろうが。」

彼女の解説を、はちのため息がせき止める。

「ますます・・・ますます得体が知れねぇぜ。」

「「零落童子」って、カコちゃんの事ですよね。珍しい物を頂いちゃってたのですね。」

顔をしかめるはちに、「有り難いです」と感慨に耽るしろ。一方、ゆりは品質の件には触れずに続ける。

「しろは、体温が変化するだけじゃないわ。推測するに、周りにも影響が波及するでしょう。」

まとまりを得ない場の空気が、ピタリと止んだ。
不思議そうな表情で一致した、自分より遙かに年下の青年どもを見上げ、ゆりは少しだけ、双眸を細めた。

「さあ、真理を得るための実験をして頂戴。」



少女の指示通りに、人間どもは準備をする。

しろの右手には、所望に所望を重ねたソーダ味のアイスが握られている。しかし、食べることは許されておらず、お預けを食らっている状況だ。棒を伝って、冷気が彼の指に届く。
誘惑に屈しそうになりながらも、しろはゆりの言葉に従い、左手の人差し指で机を突いた。

そして指を離せば、机の表面にうっすらと湿り気を帯びたような、小さなシミ跡ができた。

今度は、アイスを二本に増やし、同様の手順を踏む。すると、彼の指先から白い蒸気が立ちのぼった。

最後に、三本をまとめて握った。途端、机の上、はちの麦茶を注いだガラスコップ。その表面に付着していた水滴が、一瞬霜の様に凍り付き、再び水と化して机に吸い込まれた。

「これほど単純明快な事例もそうそう無いわね。」

ゆりはしろの手に握られた三本の内、二本を取り、一つを自分に、一つをはちへと渡した。



アイス片手に言葉を失った人間どもを見やり、ゆりは意地の悪そうな笑みを浮かべながら氷菓を舐めた。

「わわわ、これは一体どういう事なんでしょう?」

はっと我に返ったしろは、驚嘆の声を上げ、

「外気温が高すぎて、凍った水分が一瞬にして溶けて終うのよ。」

若干青白くなった顔を紅潮させながら、「すごいすごいです!」と、騒ぎ立てるしろに、ゆりが答える。

対照的に、

「・・・ドライアイスでも仕込んでるんだろ。騙されるかよ。」

馬鹿馬鹿しいと吐いて捨てたはちは、極めてドライな反応を見せながら、がぶりと氷菓を口に含んだ。

さて、

「訓練次第では、常時氷菓が食せる日が来るかもしれないわ。」

そんな少女の言葉に、しろは身を翻し、最初の姿勢で、はちへと再び迫る。机がぎしぎしと音を立てるほど勢いよく、ないよう両端をしっかりと押さえた。

「未来のために特訓しなくちゃですね!はち、今すぐ僕にアイスを恵んでください!」

「まずはその手に持った分を消費してから言うんだな!それに、過剰摂取は水銀同様、体に毒だぞ!」

大義名分を得たしろと、彼の理不尽な要求に防戦一方のはち。言い争う二人の姿を見ながら、ゆりは軽やかな足取りで地を蹴り、本棚の上に戻って行く。

彼女は口を開き、

「さぁ、面白くなってきたわ。」

感情の欠片もない声でそう呟くと、再び本の世界へと埋没し始めた。

【終】

スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

【(よくない)共犯者】

【(よくない)共犯者】

夏の朝9時。
ゆりとはちは早朝より出掛けており、黒蝶堂はいつも通り客足遠く、それでいて蒸し暑い空気が垂れ込めていた。

「暑い!足りない!干からびてしまう!」

「こんにちは、カコちゃん。」

「うわっ!人間・・・!?」

堂前にて打ち水をしていた留守番担当のしろは、放った単なる水から形成された少年の型に、躊躇無く話しかけた。
彼の右手の肘から先が液体のままに、まるでロウソクのろうが溶けかけているかのごとく、肩から垂れ下がっている。

「冷たいお茶でもどうですか?」

しろは顔見知りの少年に、涼しげな顔でにこっと微笑みかける。
一方のカコは右手をかばい、警戒心むき出しで睨んでいる。

しかしながらも、しろの人当たりの良さそうな雰囲気に圧され、結局折れたカコは、堂内へと案内されることになった。



見せたい物があるんです。
客間で冷たい麦茶と、よく冷えたキュウリを振る舞われた後。
屋上に通されたカコは、陽の当たる場所に大々的に造られた家庭菜園の前で息を呑んだ。

「キュウリが!こんなにたくさん出来てる!」

これ、はちの趣味なんですと、しろは説明を加える。

「実ははち、野菜一個一個に名前を付けてるんですよ。本人はバレてないと信じてるみたいですけど。」

見ちゃったんです。
はちが「今日もいい感じだな、○○」って呼んでる所を、と。
優しげに微笑むしろは、唖然とし、口を開きっぱなしのカコの返事も聞かず続ける。

「はちは諦観主義者を装ってますから、滅多な事じゃ本気で怒ったりしないんですけど」

そして、青い空を青い瞳で仰いだ。

「菜園に干渉したら、一発でどーん!ですよ。」

どーんとは一体・・・きっとよくない事が起こるんだろうと、カコは唇をとがらせる。
昔から、普段怒らない奴が切れたら手が着けられないと言うが、堂長もその類なのかもしれないな。
彼は、つい最近堂長に就任したとか言う黒川はちの生態に興味を覚えた。

そして、それ以上に、目前の白い男は何者なのだろう。
訝しげな瞳で観察してみる。妙に、そして常に上機嫌を保っているが、朝っぱらから酒でも呑んでいるのだろうか?

白い彼は人差し指を立てる。

「もっと僕の事で怒ってくれてもいいのに!」

「怒られたいのか?」

解ったことは、どうも変わった奴のようだという事だ。
カコは自分の上司に怒られた時の重苦しい雰囲気を思い出し、げぇ、と舌を出し、吐くポーズをとった。

「だって言うじゃないですか。怒られる内が華だ、って。」

「そういう意味じゃないと思うけど。」

「カコちゃん。」

「何だ?」

「だから、僕らは共犯です。」

「へ?」

その時。
ばたん!と、地を揺らすような激しい音がした。
二階と屋上を繋ぐ唯一の扉。
噂をすれば影、か。

片手にスコップを持つ堂長が、その前に立っていた。

「言ったじゃないですか。」

怒られたい、って。
とんでもない事を言い出す彼は、しかし顔色一つ変えず、平然と佇んでいる。
カコは訳も分からず、乱暴な足取りで、近づいて来る堂長を見やる。眼鏡のフレームがギラリと光っている。

「ずいぶん早いお帰りでしたね。」

「予定調和の為の、予定変更だ。」

「はちの河太郎を食べちゃったのは、カコちゃんですよ!」

「「なに!?」」

カコとはちが同時に声を上げる。

聞いていない!

確かに、先程のお茶の時に出されたキュウリは瑞々しくて旨かったが、それが堂長の育てた大切な物だったとは。
もしかすると。

「お前たち、僕をはめるために謀ったな!」

そうだ、白いこいつは僕を陥れる為に堂長のキュウリを敢えて喰わせたのだ。

しかし、どうも堂長の様子がおかしい。

「・・・そうか、てめぇらは共犯か。ゆりの助言通り、急いで帰ってきて正解だったぜ。」

「え、違う!共犯なのはお前たちじゃないのか!?」

「・・・正直に言わねぇと、スコップの錆にしてやるぜ。」

「はち、その台詞、あんまり括弧よくないですよ。」

「(よくない)って何だ!格好だろうがフザケやがって!」

怒りに我を忘れた堂長はしろへと飛びかかる。
しろが華麗に避けた為、はちはコンクリートの地面とぶつかり、ぐぬぅ・・・とうめき声を上げた。

今ですねと、しろは振り返り、カコへと合図を送る。

「さぁ、逃げましょう。」

いいのか、これで。
こいつはお前の上司じゃないのかと、カコはひるみ、

「お前は、何者なんだ。」

「単なる同居人ですよ。」

堂長も苦労が絶えないだろうと知った。
と、笑顔の彼の背後には、恐ろしい形相のはち堂長の姿があった。
カコは咄嗟にその顔に向かって思い切り、周囲の物質から集めた水を指先から噴射すると、再び彼はひるんだ。

自然と口の端が上がる。
こんな子供じみたいたずら、何年ぶりだろうか。

カコは笑い、頭に乗せたゴーグルで目を覆った。
レンズに陽の光が反射し、キラリと光る。右手で足下に円を描けば、コンクリートの地面がどろどろと溶け、液体状に変化した。
扉を堂長に遮られているため、疲れるが、この手段しかない。
隣のしろに声をかけ、準備はいいか?と確認する。

しろは笑いで応えた。

「共犯なら、逃げなきゃな。」



「夕飯までには帰りますよー」

「お前が作るんだろうが!」

鬼のような形相の堂長が、水際の向こうへ消えていく。しろはカコの後に続き、水の沼へと足を入れた。なるほど、この度胸はすごいなと、カコは感じた。
と、ゴーグル越しに白い彼と目があった。
そして、完璧に水へと体が飲み込まれ、溶けて終う前。

彼にしては締まりのある表情で、それでも喜々とした声音は崩さずに告げた。

「人の感情がぶつかってくる瞬間って、生きてる!って感じがしませんか?」

もっと違う方法と感情もあったろ。
カコは率直な感想を口にせず、自分たちの入り口に蓋をした。

逃亡者は、いつもは自分だけだが、今日は違う。
背負った荷物を早く空気のある場所へ脱出しなくては。
それも、夕飯を作れる時間に帰れるような場所に。


【完】


テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。