【小話】黒蝶堂の年の瀬【更新】

大みそかですね!
てことで、小話更新です。鬼桐さんの続きと年の瀬の風景を少し。
よろしければお付き合いください!

【黒蝶堂の年の瀬】

「大掃除ですよ!」

カーテンレールが金切り声をあげた。
部屋の主は跳び起き、枕元の眼鏡を装着する。

「な、なんだ!?」

「だから、大掃除なんですってば!」

だからほら、これどうぞ。
青い目を輝かせる同居人が渡すは、大量の新聞紙とバケツ、それに、複数枚の白い布である。

渡されたはちは夢と現実の狭間で尋ねる。

「・・・今、いったい何時だ。」

開かれたカーテンから覗く冬の空は、まだ暗い。
しろは階段をかけ降りながら答える。

「おそれ多くも、朝の四時ですよ!」

「・・・そうか。」

数秒後。
はちは暖かな布団へ、再び陥落した。



時は流れて夕方五時。
掃除は未だ終わらず、黒川はちはヘトヘトになりながら堂内の書物を整理している。厳しい監視がついているから、休憩することすらままならない。

その監視人が、

「ちょっと買い物に行ってきますよ。サボったら許しませんからね!」

びしりとはちを指さし、表戸を締めた。

「・・・わかってるっての。」

そして、堂内に一人取り残されて数分後。
はちは頃合いを見はからい、散歩に出た。



月は雲隠れし、星の瞬く夜空が頭上に広がる。
吐く息が白い。アーケードの皆皆は早々に店を畳み、思った以上に静かである。「今年も終わりだな」と、一人感慨に耽っていると。

「あと二歩、こっちに寄って頂戴。」

「へ?」

「ほら。」

聞き覚えのある声にぐいと、力強く引かれた。
同時に、「パツン!」と破裂音。

瞬間、数秒前まで居たコンクリートに、六角星が刻まれた。弾痕から、白い煙が立ち上り、

「な、な、ななな!?実弾!」

はちはさぁっと青くなった。
彼を引いた少女・ゆりは

「さぁ、年末の挨拶にむかって頂戴。」

近くのビルの戸を開き、淡々と告げた。



店の屋上には、立ち入り禁止の看板が下げられていたようだ。今、その看板は蜂の巣になり、階段の途中に投げ捨てられている。

屋上の端に座り込む影が二つ確認できた。
六角星のエンブレムが光る帽子の男と、ゴーグルが目立つ少年の後ろ姿である。黄色い男の腕が、反動で振り上がる。

と。
突然、急ブレーキ音が響いた。
下の世界でどよめきが広がっている。喧噪が一回り大きくなった。

帽子の男が振り返る。

「貴様が、呆けて歩いてるからだっ!」

「堂長、三歩右よ。」

傍らにいるゆりの指示通り動く。
と、先頃まで居たはずの空中に、何かが目にも留まらぬ速さで飛んでいった。
それが鉛の塊であることを、はちは知る由もない。

「ここは日本だ!人を銃で狙える国じゃねぇんだよ!」

「杞憂だな。隊長は百発百二十中さ!」

「・・・越えてんじゃねぇか!」

「それくらい凄いってことだよ、人間。」

得意げな顔で言うのは、構える鬼桐の側に控えているゴーグルの少年・カコである。

ため息をつくしかないなと、はちはため息をつく。
と、帽子の男・鬼桐は目を光らせ叫んだ。

「事故は未然に防げって言うだろうが!」

だから、危なっかしい動きの人間を片っ端から撃ち抜いてやってるんだ!口には空気の塊をお見舞いし、弾は足下を狙ってるから問題はない!これは正義のためだ!

言い放ち、帽子から覗く鋭い眼光で、地上を見下ろした。

「その考え方、嫌いじゃないわ。」

ゆりが明るい夜空の下に姿を見せた。
鬼桐のくわえる煙草の灰が、一掴み落ちた。

「ごきげんよう、極北東の万鬼。」

「・・・ゆり嬢、元気そうだな。」

「そうでもないわ。」

「斜に構えるところも変わってないな。」

「そうかしら。」

彼女はゆったりと、彼らに近寄っていく。屋上を踏みしめる音が二者分。静かな対立のような、剣呑な空気に、はちは体が震えるのを感じた。

鬼桐は再度、下界を見やった。

「事故が多いのはぼうとしている人間が多いからだ!堂長も見てればわかる!」

ほら、まるで、あいつみたいな!
黒い手袋が指さす先に、白い後ろ頭。鼻歌でも歌っているのか、足取りは軽く、どこか危なっかしい。

「・・・げ!」

はちは呻いた。

あの白髪は、間違いなくしろである。
帰っとかねぇと、面倒なことになりそうだ。例えば、帰宅したら掃除する部屋が氷漬けになっていそうな。

「・・・あり得ねぇけどな。」

だが、早く帰るに越したことはない。はちは慌てて、階段を下りようときびすを返した。

そのとき。
鬼桐は短銃を構え、トリガーを、躊躇なく引いた。
乾いた音が、辺りに響いた。

しかし、どういうことか。
こちらを見ていないしろは、ステップを変え、ひらりとかわした。

数秒後。
ははっと乾いた笑いが宙を舞った。

それをこぼしたのは、事の顛末を見送ったはちである。

「あいつ・・・やるじゃねぇか。」

その隣に、イライライラと、音が聞こえてきそうな鬼桐が青筋を浮かべている。再び指をかけ、照準を絞る。しかし、結果は同じくしてふわりとよけたしろにより、弾丸は明後日の方向に飛んでいった。

後ろに控えるカコが、青い顔をしている。

「おかしいだろうがあっ!」

「お、落ち着いてください隊「やっぱりお前等がくると禄な事がないっ!」

「隊長!百発百十八中になっただけですか「黒蝶堂、来年も宜しくするなっ!」

「あら、来年の話をするなんて

「鬼が笑いますよ。」

ゆりの言葉を継いだのは、いつの間にか屋上に到着したしろである。
「声が聞こえたので。」彼は小さくはにかんだ。

「一つ情報を提供するわ。」

悔しさを隠そうともしない鬼桐に、ゆりは持参した本を開いた。

「10分後、四條境通りで車の自損事故。負傷人1、負傷「者」1。」

鬼桐の動きがピタリと止まり、煙草からまっすぐ煙が立ちのぼる。

「・・・四條境だな。」

ゆりの顔を念力で歪めようとしているかのごとき目力で、彼は低くうなる。「間違いないわ」との返事を受け、鬼桐はカコを呼びつけた。

「は。」

「事件だ。私も直ぐ向かう。」

鬼桐の言葉から瞬間後。
カコは体を液状化させ、屋上の床面に溶けて消えた。

はちはぼそりとつぶやく。

「・・・まさか、起きるわけねぇだろ。」

すると、

「お前は、ゆり嬢を信じないのかっ!?」

鬼桐に喉元を締め上げられた。

「そう言われても・・・」

どれだけ直近でも、未来なんて誰にもわかんねぇだろ。
はちは、鬼桐の言動の意図が分からず、苦しみにもだえる。

「善良な者からの重要な情報提供だ。動かぬわけにはいかん!」

鬼桐はホルダーに短筒を収め、はちをなげうった。
途端、彼の姿は闇に消えた。

はちは派手に尻餅をつき、ごほごほとむせ、なんだったんだよと、頭痛に頭を抱える。

「災難だったわね」

いつもより楽しげに声をかけるは、ゆりである。
涙目になりながら、はちは問うた。

「・・・てめぇこそ、大丈夫か?」

「私も、騙して良い相手くらいは選んでるわ。」

本を閉じ、簡単なことよと前置きして彼女は告げる。

「事故が起これば予知の正確性が、起きなければ彼らの行動が未来を変えたことの証明になるわ。」

「・・・そんなもんか?」

「何れにせよ、彼らが働くことで無為な事件が防げたわ。」

「ところで、真実はどっちなんですか?」

事故が起きるんですか?
不安げに問うしろに、ゆりはほんの僅かに目を細め、

「貴方たちの心のままに。」

言葉をはぐらかした。

「・・・まぁいいけどよ、どっちでも。」

はちは呟き。

「・・・さて、帰るとするか。」

下界の喧噪が元に戻ったことを確認し、今度こそ、くるりときびすを返した。しろが笑いながら

「おそばを食べてもうひと頑張りですよ!」

買ってきた材料を高々と持ち上げた。

「・・・どんだけやれば、気が済むんだ。」

力ない苦笑いを浮かべては、はちは黒蝶堂への帰路を照らす星々を見上げた。

【完】

≪あとがき≫

今年の更新はこれでおしまいです。
来年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
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【小話】鬼桐さんと黒蝶堂【更新】

今日の朝から、町はお正月モードに着替えているのでしょう。
こんばんは、秋雨です♪
寒空の下、木々に絡みつけたイルミネーションを取り外す作業は、とても骨の折れることでしょう。

というわけで、小話更新です。
鬼桐さんメインのはずがあれれ…と、とりあえず、どうぞ!(脱兎)


【鬼桐さんと黒蝶堂】

――夢なんて、久方ぶりだ。

赤いお嬢と、灰色の髪を持つ老爺の後ろ姿。彼らの前には、片側2車線、3台の車「だった」ものが炎上する赤黒い影と、止めどなく立ち昇る煙。まだサイレンの音さえ響いてこない、「出来立ての」事故が、調理される暇も無く散らかっている。

「鬼桐、遅かったね。」

振り返り、逆光を受けながら柔らかく応えた老爺は、黒蝶堂堂長・黒川伊織である。

――またか!

私は上がる息を噛み殺し、黒い手袋に覆われた拳を握った。

彼ら――黒蝶堂はいつも、通報を受けた私たち――遙光の憑者で構成されている警察隊よりも早く、事故現場に到達している。

それは、なぜか。
答えは、簡単だ。

「ごきげんよう、極北東の万鬼。」

もう一度、確認しよう。

・・・答えは簡単だ。

隣の少女が口元だけで笑う。
漏れたガソリンに引火したのか。背後で、小爆発が一つ起きた。

答えは、この赤い眼の少女が・・・



「じゃかしいわっ!」

破裂音が大気を裂き、鋭い軌道で空へと飛んでいく。弾道上の椿の花が一花落ち、宿り木していた雀たちが一斉に飛び立った。

「た、隊長、落ち着い「これが落ち着いてられっかあっ!」

部屋の隅へぶっとんだのは、ゴーグルの少年・カコである。暴走する鬼桐からピストルを取り上げようとし、しかし適うはずもなく、あっさり振り払われた反動が彼の体を襲った。

指先から水流を発射し、水を多量に含んだ即席のクッションを落下点に設けたカコは、間一髪、そこへ不格好な体勢になりながら飛び込むことに成功した。


平屋建ての、客人が物怖じしそうな程、剛健な純和風の建物。その嘘のように広い畳の一室で、文字通り「鬼のような」赤ら顔の男が煙草をのむ。
彼の右手には白い煙が流れ出続ける短筒。レプリカ? 否、実物のピストルである。先ほどから、縁側ごしに見える東の空が陰り始めていた。季節外れの、雷雲だ。

「仮眠するから、すぐ起こせって言ったろうがあっ!」

倒れ込んだカコを掴み上げ、ぴきぴきと額の青筋を見せつけた。



耳障りな雀たちのさえずりに、安眠を妨げられ現実に引き戻された。寝かされていた布団を抜け出す。ぼうとした頭で席に着けば、机上に積み上げられた書類の山、山、ヤマがどっと倒れ込んできた。窃盗、殺人、事故、火災、大雨などなど。紙の雪崩に埋もれた鬼桐の前で、事情も知らぬ大なり小なりの出来事が、事後報告という形で繰り広げられていく予定のようだ。

とある部下が、爽やかな笑顔で寄ってきた。

「隊長、お目覚めですか!早速ですが・・・」

「一つ聞いていいか?」

「は。」

「私は、いつ眠りに落ちたか?」

男は澱みなく答えた。

「は。ちょうど1週間前の午後5時32分ですが。」

とりあえず、池に放り投げておいた。



遙光の警察隊が担当するのは、憑者関連の事故、事件だけである。であるのに、たった1週間ばかりでこの数量はいかがなものか。どこかの誰かのように「さすが、師走といったところですね!」などと、悠長なことは言ってられない。人間どもの気が逸りすぎているか、もしくは緩んでいるからに違いない。

これは一言言わねば気が済まない。

言う先はもちろん、黒蝶堂である。

そしてもう一つ。
これは、あくまで可能性の話であるが。

黒蝶堂のことだ。
これらの事件についての情報を整理している可能性がある。利用させてもらっても、これは、正義のためだ。感謝こそされ、文句は言わせない。

だからこそ!

鬼桐は命じる。

「堂長を呼べ!今すぐに、だっ!」

「伊織堂長は死んだんですって!」

「構わん!地獄から連れ戻せっ!」

「隊長が言うと、洒落になんないですって!」

「カコ、お前、私の言うことが聞けないのか?」

「いえ。」

きっぱりと断るカコのゴーグルが、青と赤に禍々しく光る。鬼桐は新しい煙草に火をつけ一息入れた。白い煙が、天井から縁側へ細い線を描きながら流れていく。

「ゆり嬢め・・・根に持ってやがるな・・・」

「根に・・・?」

「あれだ。ほら、この間会ったろ!」

鬼桐の脳内に、夏祭りの事が再生される。
しかし、その場にいなかったカコが、知るはずもない。
イライライラと、鬼桐の怒りのゲージがたまってくかのごとく、灰が畳に落ちていく。

カコは空気の淀みを感じ取り、冷や汗を垂らす。
おそらくは黒蝶の小娘と鬼桐の隊長が、衝突したんだろう。それも、隊長に不快感を与える結果だったに違いない。

強引に、そう推測した。

先代の伊織が堂長の任にあった頃は、警察隊と情報を共有していた黒蝶堂であった。以前は、事件の度に首を突っ込んで来ては事態をややこしくして去っていく厄介な存在であった。
にもかかわらず、ここのところはだんまりを決め込んでいる。

鬼桐は考える。

――いたらいたで調査の邪魔だが、いなければいなければで、調子が狂うことこの上ない。

利用できるものは利用したい。
だが、ゆりの嬢ちゃんは一筋縄ではいかないタイプの上、夏の夜のことを根に持っているようだ。

しかし。

「面倒だっ!私がなぜ折れなきゃならないんだっ!」

頭を抱え、机を叩けば、真っ二つに折れた。

「隊長が、自省だなんて・・・」

口を滑らせたカコの頬が、力一杯左右に引き延ばされた。

「辞世の句でも詠んでおくんだなっ!」

「ひぎれますって!」

言った瞬間、大量の水が頬からあふれた。
畳へこぼれ、水浸しになる。血は一滴も流れない。
かたまりの形を維持したまま、頬の肉片が庭先へ投げ捨てられた。

面白くないなと言わんばかりの冷たい表情で、鬼桐は手を離す。

「ここも鍛えとけっ!」

「むひへすっへ!」

「この畳、何度変えたと思ってんだっ!」

カコは傷口を押さえ、うずくまった。

と、カコの眼が、部屋の隅に転がった者の影を捉えた。一体ではない。複数いる。

彼らももちろん憑者であり、鬼桐の部下であった。
・・・生きていれば、これからも彼の部下である。
先だって、寝覚めの悪い鬼桐が暴れた後に、彼らも次々と、あちらこちらに飛ばされたのであった。

それでも、

「た、隊長・・・話を聞いてくだ・・・」

それぞれが各々に呟く彼らに、カコは嘆息がでるばかりである。

と、

そのうちの一者が、顔をやっとの事であげ、わずかな力の限り呻いた。

「隊長、俺たちを見捨てないでください・・・!」

少々の沈黙があたりを支配する。

鬼桐は、室内でも絶対にとろうとしない六芒星の飾りが光る帽子を、深く被り直した。

立ち上がり、彼らの前にゆったりとした足取りで近づく。

カコは生唾を飲み、事の展開を見守った。

「おい・・・」

鬼桐は彼の胸ぐらを掴み、鋭い目で噛みつかんばかりの視線で彼の目を覗いた。犬歯気味の歯が、煙草をくわえる唇の隙間から見える。

「よく聞け。」

鬼桐は顔をゆがめ、つばを飛ばす勢いである。

「お前たちが地獄送りになる日まで、お前たちは永続的に私の部下であり続けるんだろうがっ!この憑者ならぬ愚者どもがっ!」

「た、隊長・・・」

手を離し、ヘたり込む男と、周囲を見渡し、鬼桐はわずかに眼を細め、再び額に青筋を浮かべた。

「そんなくだらんことを考える暇があったら、さっさと現場へ案内しろっ!」

「はい!」

男は目を輝かせ、痣だらけの顔に誇らしげな笑みを浮かべながら、びしりと居住まいを正した。

「隊長!俺にも直接喝を!「私にも一番辛いやつを!「いや、オレに!

「仕事が先だ!さっさと行くぞ。」

次々に立つ部下たちに背を向けた鬼桐。
カコは素早く身を翻し、立ちはだかる。

「隊長!書類がまだ

「それどころじゃない!」

「しかし、

「カコ、お前が責任を持って片づけておけ!」

「で、でも、隊長の承認が必要な

「だから、現場を確認に行くんだろうがっ!」

「ですが、

「いいな、これは、隊長命令だっ!」

「そ、そんなぁ・・・」

「困ったからって黒蝶堂に頼み込むな!癪に触るからなっ!」

「それは隊長も同じことを考え

「わかったな!あと、畳換えとけっ!」

縁側をかけてくる足音が聞こえた。
飛び込んできた男は言う。

「隊長、事件発生です!」

「よっしきた。お前等、地獄の底まで着いてこいっ!」

「「「「はい、隊長!」」」」

黄に染まった瞳を光らせながら、鬼桐は外へと飛び出していった。

いつの間にか、天気は快晴。
椿の花が咲き誇る、冬の朝のこと。
取り残されたカコは、がっくりと肩を落としたのであった。

「・・・僕だって行きたいのに。」

書類がバサリと、畳に落ちて広がった。

【完】


<あとがき>

上司に恵まれないカコと、鬼桐さんのお話でした。
この続きはまた年末に!続く…かもです。黒蝶堂側を絡めて、描けたらいいな。

”夏祭りの事”は、リンクを貼っているのでそちらもよろしければ。鬼桐さん初登場シーンへ飛びます。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございましたv



テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【小話】 (後) 【更新】

沢山の拍手ありがとうございます♪とても嬉しいです。
というわけで、お待たせ(?)しました!
小話の続きを更新です。前回の分は以下のリンクからどうぞ。


【 (前) 】はこちら

【 (後) 】

彼女の話によると、「すいっちゃん」とは、人が一人跨がれるほどの長大なホウキの名前らしい。

まさか

彼らは顔を見合わせた。半信半疑のまま、二人は彼女を連れ来た道を引き返し、指さす先に先ほどの(元)ホウキ(だったもの)を据えた。すると、彼女の青白い顔は、見る見るうちに青さを増し、白みを放つかのごとく色を失った。

そして。

「きみたちどうしてくれるんだ!?」

額から血を吹き出しながら、彼女は手近にあったはちのネクタイを力一杯引っ張る。赤いネクタイに、鮮血が散った。

「ギ、ギ、ギブアップだ!」

はちが反射的に彼女の手袋をはめた腕をつかむ。と、彼女は正気に戻ったのか、

「はっ!いけないいけない。魔女はもっとクールで、意地の悪い仕返しをするんだ。」

やけに大きな独り言を呟きながら、手を離した。

「ならば、新調したらどうでしょう?」

冷静を装おうとしながらも、ふるふると体全体を震わせ、あからさまにしょげる彼女に、「そろそろ帰ろうぜ」と、うんざりした顔を隠そうともしないはちを見渡したしろは、ぴこんと人差し指を立てる。

次の瞬間、しろは両者の背中を押し、

「ほらほら早く!」

強引に、足を踏み出させた。



三者が到着したのは、遙光の街でも有数の百円ショップであった。5階建ての各フロアには、新商品から用途不明の商品までが、天井渦高く盛られ、棚の合間を縫うように、数多くの人間たちが練り歩いている。

しろは種々の料理グッズを漁り、手元のかごへと入れた。
次に、パーティグッズのコーナーへ。そして、園芸ゾーンで油を売っているはちへ

「これ買ってくださいほらほら!」

あれやこれやと絡んでいる。

「・・・駄目だ。」

「なんでですか!」

騒ぐ二人とは対照的に、少女はじっと睨みを効かせていた。「考える人」のポーズを取る指を添えた額には、真白い包帯が巻かれている。これは午後の配達に出かける際、ゆりが「持っていって頂戴」と宣い、消毒液と一緒にしろへと渡したものだ。破れた帽子とスカートには、応急処置として大きな布きれが縫われ込まれている。これも、彼女の持たせた物で、しろが応急の処置を施した結果である。

「・・・まさか本当に役立つとは、な。」

「新しいすいっちゃんは見つかりました?」

あんたが主役!と書かれたタスキをかけ、クリスマス用のとんがり帽子を頭に載せたしろが問う。

「これにする。」

彼女が手に取ったのは、コゲ茶色を基調とした外掃用のホウキであった。立てた状態で持っているために、それは彼女の背丈よりも長いことがわかる。

そこで、はちは最初の違和感を覚えた。

――こいつ、こんなに小さかったか?

予測していた目線の高さよりも更に下に、彼女の顔はあった。気のせいか、彼女の丸眼鏡も気持ち大きくなっている。というか、顔が幾分幼く、小さくなっている。
頭一つぶんほど、縮んでいるような気がしてならない。
高校生が、中学生に逆戻りしたかのような、些末な違いのような・・・。

はちは、しばしの沈黙を行使し、

――気のせいだな。

彼女の容姿を見直し、苦笑しながら結論づけた。
と、彼の視線を感じた彼女がじっと見てきたので、

「・・・黒い服に長い杖に箒で、まるで魔女だな。」

自分の邪推をごまかし、ため息混じりに感想を述べた。
すると、

「違うよ。」

「そりゃそうだ。そんなもん、いるはずねぇんだから。」

「「まるで」じゃなくて、私、本物の魔女だから。」

「そりゃそう・・・え?」

はちの戸惑いを置き去りに、彼女は平然と、

「こういうのは、イメージが大切でしょ?」

真面目な声音で答えた。

「「あれは、こうだ!」って決めつけた方が楽ちんでしょ?「正義は勝つ。だから悪は破れて当然」疑いどころのない、共通認識ってやつ。」

「・・・訳がわからねぇ。」

自然と眉がひそまるはちに、
彼女はひっひっひと、意地の悪い老婆のような声をあげて笑った。周囲の人間が商品に手を伸ばす手を止め、遠巻きに彼女を見た。



彼らは店を出、近くの公園にやってきた。
昼間でも肌を刺すような冷たい風の吹きすさぶこの季節、公園には人っ子一人いない。平日だからでもあろう。仕事に疲れた営業担当のサラリーマンの後ろ姿も、砂場で遊ぶ未就学児も、井戸端会議を繰り広げる主婦たちの姿もなかった。

黒い彼女は鼻歌を歌いながら、ホウキを握りしめている。その柄と毛を繋ぐ間には、大判のハンカチが黒いリボンで結びつけられていた。紫がかった背景に、大きな瞳、赤く吊り上がる口元が浮かぶ模様があしらわれていて。

「お世辞にも、洒落たデザインとは言えねぇな・・・」

それを巻き付けた本人に言えば、

「困っている魔女が落ちていたら、箒に結んであげて頂戴。」

声音から仕草から、やけに似ている物真似を披露したしろが、「ですって!」と自分に戻り笑う。

「ゆりちゃんの読み、ビンゴでしたね!」

「・・・あいつ、今日こいつと会うのがわかってたみたいじゃねぇか。」

なんなんだよまったく。

――もしかして、配達業務もあいつの仕業じゃねぇだろうな。まさかな。

そんな直感が働いたが、頭を左右に振り、彼女の姿を脳内から追い出した。

と。
嬉しそうにホウキを眺めていた黒い少女は、

「お礼に、といってはなんだけど。」

彼らに向き合い、ホウキを地面に横たえた。

「魔法、見せてあげるよ。」

彼らの返事も待たず、彼女は目を光らせた。
深緑に輝くそれが、はちに頭痛をもたらす。
衣服の下から取り出したのは大きな水晶玉であった。辺りの風景が透けて逆さまに見えるそれが、みるみる間に分裂し、1つだったそれが、彼女の足下にぼろぼろぼろと転がった。呆然と見つめていた二人のつま先にも、球体がころころと転がり、こつんと触れたため、二人は同じタイミングで我に返った。

「・・・手品だろ、どう見ても。」

痛覚にうなだれながら力なく言うも、目を輝かせ、光景に見とれている最中の隣人には届いていないようだ。自分の推測を肯定する材料も、否定する原料も落ちておらず、はちは、増え続ける水晶をぼんやりと見るにとどまった。

気づいたときには、水晶は元の一つに戻っていた。
彼女は俯き、

「でも、私、できないことがあるんだ。魔女なのに。」

「できないこと、ですか?」

「・・・空が飛べないんだよ。おかしいでしょ?」

自虐的な笑みを浮かべながら、か細い声で、口元をゆがめた。

「そうだったんですか・・・。」

「『うぃっち おん ざ すいっち』語呂も悪くないはずなのに。」

彼女は唇を噛み、肩を震わせる。

「語呂の問題じゃねぇと思うんだけどな。」

はちのつま先を、しろが思い切り踏みつけた。
彼女は顔を上げ、二人を見やった。

「努力は絶対報われるでしょ?はち堂長に、しろ副長。」

悶絶するはちが、涙の浮かんだ目をはっと開いた。

「・・・なんでオレたちの名前を?」

ここに来るまで少女の名前も、自分たちの名前も互いに明かしていないはずだ。
名乗り合う必要もなかったからだ。

「「私たち」の間で君たちを知らない「者」はいないよ、堂長。黒蝶のゆりが言ってたから、間違いないでしょ?」

「もしかして!」

しろが身を乗り出し、改めて彼女の頭の先からつま先までを見渡す。彼女はおとぎ話にでてくるかのような、「本物」の魔女のごとき、何かを企んでいるかのような不気味な笑みを浮かべ、

「君たちが生まれる、ずっとずっとずぅーっと前から、私たちは存在してるんだ。」

彼女の手のひらに、どこからともなく真っ赤な林檎が顕れた。

果物に目を奪われてたはちであるが。
ふと、少女に視線を戻す。

と。

「・・・嘘だろ?」

目を疑った。
そして、はちの違和感は、確信に変わった。

彼女の顔は、もはや少女のそれではなくなっていた。

丸まった背中に、深い皺が何本も刻まれた頬と目尻。細く、枝と皮で出来たかのような骨ばった指。艶のない髪に、筋肉の落ちた細腕。まるで別人のようなその様の中で、唯一変わらない、鋭い眼光が光る。掌の林檎が、勢いよく萎れていき、彼女の手の中で小さくなって、消えた。

少女だった老婆は、とてもよく似合う丸眼鏡を掛け直し、

「光陰矢の如しと表現した人間がいたでしょ?これから先、君たちはどれくらい生きるのか、推測は出来ても確信を持つことはできない。」

「・・・そりゃ、そうだろ。」

「しかし、どう生きるかは自分で決められるでしょ?」

「・・・そりゃ、そうかもな。」

「ならば聞くけど。」

働き盛りの女性然と変化した黒装束は、

「君たちは、何のために存在している?」

「何の為って・・・」

はちは口元をゆがめ、しろは目をぱちくりとさせた。

「先代は素晴らしい人だったよ。きみたちにも、期待していいんでしょ?」

二人の返事を待たず。

「これ、ありがとう」

ホウキ・・・もとい新「すいっちゃん」を指さし、再び熟した果実と化した林檎をしろへと放ると、彼女は去っていった。彼の手元に届いたとき、それは8等分のうさぎを模した形になっていた。

ぴょんぴょんとホウキを跨ぎ、地を蹴る少女の姿は、まるで本当に、空を飛ぶ練習をしているがごときであった。

彼女の後ろ姿が見えなくなった頃。
はちはため息一つ吐き、

「・・・生きてるから、生きてるんだろうよ。」

言えなかった言葉は、遅れて呟きとなった。
しゃりしゃりと、しろが林檎をかじる音が耳に残った。



「どう?魔女におちょくられた気分は?」

今日の日誌を書き、ゆりに提出したはちは堂長席で頬杖をつく。

「・・・どうもこうも、あまり気分のいいもんじゃねぇな。」

頭も痛ぇしよ、と続ける。

言いながらはちは、公園に向かう途中に彼女と交わした言葉を、順々に思い出していた。

「クールで冷静で」

「未来が読めて」

「人を簡単に籠絡して」

「心が読めて」

「空も飛べる」

「それが魔女なんだよ。」



「・・・魔女なんているはずねぇんだけどな。幻影だ。」

言いながら、それに当てはまる奴を、知っているとも感じていた。

はちは、改めて正面の少女を見た。
その定義に当てはめるとするならば。

――こいつが本物の魔女みたいじゃねぇか。

「誰が魔女ですって?」

「・・・だから、人の心を勝手に読むなっての。」

黒目がちの瞳を揺らしながら、少女は板に付いたニヒルな笑みを彼に返した。

「安心して頂戴。」

彼女は日誌を閉じ、彼をじっと見た。

「悪が勝っても構わないわ。」

「・・・へ?」

何を言い出しているんだ?はちは記憶の糸をたどり、黒い少女の台詞を思い出した。ゆりはその事を言っているのだろうか?

「必要とあらば、貴方が世界を征服したっていいわ。」

「本当ですか!」

食器を片づけていたしろが、ひょいと堂内に顔を覗かせる。
はちが魔王ならば、僕は影の支配者で、裏で世界を牛耳っているんですねと、くすくす笑っている。

「本当なわけねぇだろ!」

がくりと肩を落とすはちに、ゆりは眉一つ動かさず、林檎よりも赤い瞳を向けた。

「その暁には、林檎を飽く程まで食べ尽くして、笑って頂戴ね。」

「・・・オレにもわかる言語で話してくれ。」

話の展開についていけねぇんだよと、はちは混乱しながら、後頭部を掻いた。

【完】



先代とは、はちの祖父・黒川伊織のことで、先の黒蝶堂堂長。
ちょいちょい話に顔を出してきています。

最後に、タイトル

【美味しい林檎の食べ方とは】


お付き合いくださり、ありがとうございました!

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【いただきもの!】ゆあせさんから!【感謝!】

こんばんは!
いきなりですが、頂き物の紹介(もとい自慢)をしたいと思います。

【黒蝶堂へようこそ!】

ゆあせさんからいただきもの!

(クリックで原寸サイズ)

いつもお世話になっている ゆあせさん から頂いてしまいました。

見た瞬間、熱くなり過ぎて涙出ました。テンション上がりすぎて、仕事中もニヤニヤしっぱなしでした。
目がいいなぁ~背景もすごいしなぁ~塗りがすごいなぁ~こんな店なら行ってみてぇなぁ~と、1人妄想に励んでました。
どう見ても不審者です本当にありg(ry

語彙力が無くて申し訳ないのですが、言葉では言い尽くせないほど嬉しいです。
どうもありがとうございました!
こちらこそ、微力ながら応援させていただきます!

ゆあせさんの美麗なイラストが見れるのは、
こちら!からびゅーんと飛べますです!

マナーを守って、楽しいネット生活を!!(←重要)

※頂き物につき、転載、加工、お持ち帰り等、総じて ×厳禁× です。

素敵なプレゼントをありがとうございます~!
お言葉通り、今宵はとてもいい夢が見れそうです♪
見てくださった方にも、幸せな気分がおすそ分け出来ていたら嬉しいなぁ~v

勢いに乗って、次の記事で、小話載せます!

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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