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【小話】”感”と”勘”【更新】

【”感”と”勘”】

宵闇の中、彼女の眼下に割り込んだ白い車体。頭上に光る赤いテールランプが彼女の瞳に反射して、まるで彼女の眼球そのものが赤く光を放っているかのようで。
部外者の車たちが泥を跳ね、ハンドルを強引に切り、走り抜けていく。

雨足が、一層強くなってきた。

「傘くらい、持ってくるべきだぞ。」

「なぜ、貴方がここに?」

「もちろん、直感だぞ。」

「「感」じゃなくて、「勘」でしょう?」

「だからそうだ・・・ん?違うのか?」

彼女の隣。青紫色の発光体を背後に漂わせ、番傘を傾けるツインテールの少女は不可思議そうな顔で、姿を現した。

「お前の難しい理屈は理解不能だぞ。」

「雨の日は事故が多い・・・そんな簡単な推測さえ、貴方には不要なのね。」

「だって、わかっちゃうんだぞ。」

特に、こどもの場合はな。
少女・牡丹はそう付け足しながら、視線を移す。

担架が足早に運ばれていく。掛けられた布が小高く盛り上がり、救急車へ呑み込まれていった。

救急隊員の足下には、鉄屑と化した自転車が、ひしゃげたままに転がっている。へし折られたビニール傘の隣で、雨に打たれている。スクール鞄から飛び出た生徒手帳が濡れ、男子生徒の顔写真が、ゆっくりと暗く溶けていく。

「”また”、予知したのか?」

牡丹はゆりを見やり、問うた。
この場で事故が起きることも、犠牲者が出ることも、彼女には事前に分かっていたのか。だから、誰よりも先にこの、事故が「一番よく見える」場所にいることが出来ているのか、と。
疑うのでもなく訝るのでもなく、まっすぐに目を向けてくる牡丹に、ゆりは無感動な声で、

「推測よ、あくまでも。」

”事故の発生数分前から現場に居り、衝突した瞬間も目撃した”ことは告白せず、腕を組み、目を伏せた。

「だったら、なんとかできたんじゃないのか?」

「結果は同じよ。」

ここで防いだところで、次の大通りで、今度は右折車に衝突される。それを避けれども、また次の通りで。ゆりの推測が弾き出す答えは、ただ一つ。

――彼は今宵、いずれかの車と衝突する。

「それに、忘れたのかしら?」

私たちは通常、彼らに認識されない存在だと言うことを。
ゆりの台詞を受けた牡丹はピシリと固まり、「そうだったんだぞ」と、覇気無く答えた。

「せめて、奴らがあたしらに気づけばなぁ。」

嘆息を漏らしながら、ブーツのかかとをアスファルトで鳴らし、牡丹は現場に背を向けた。

「戻るのかしら?」

彼女の憑場、深見ヶ原墓地に。

「客人が生まれてしまったからな。」

こっちの世界で言えば、「なくなってしまった」んだけど、あたしらからで言えば、「たった今、誕生した」ってことだ。彼女は顔をゆりに向けて、いたずらっぽく笑う。

「だから、もてなす準備をしなけりゃならないんだぞ。」

忙しい忙しいと漏らすその目は、どこか楽しげである。

「一つ言っておくけど」

傘から抜け出し、雨の中を戻ろうとする彼女に、ゆりは一言。すると、言葉を受けた牡丹は目を丸くし、「まさか」と、つぶやいた。

と。

牡丹の後ろ遠く、短筒片手に走ってくる、黄色い男率いる集団がゆりの目に映った。

「彼らは、いつも後手後手ね。」

ニヒルな笑みを浮かべたゆりは牡丹の手を強引に引き、彼らが到達する前に、闇夜へと行方をくらました。



「昨日、そこで事故ってんじゃねぇか。」

朝方の黒蝶堂。
昨夜の雨は既に止んでいるが、アスファルトは未だ冷たく湿っている。

寝癖をぞんざいに水をかけて直したはちは、寒い寒いと炬燵に入り込んだ。と、温もった炬燵の上、開かれた朝刊に掲載された、凄惨な自転車の写真に目を奪われた。

――四篠境にて交通事故

そのとき。炬燵の対角線上に在る、何かを感じ取った。
はっと顔を上げれば。

「何か?」

いつの間にか現れていた少女に、じろりと睨まれた。
交錯した視線に押し負け、

「何でもねぇよ。」

ふいと目をそらした。

「それはなにより」赤いリボンの少女は、両手を添えた湯呑みをゆっくりと運んだ。

「でも、よかったですよね。」

小さな台所から戸を開けたしろは、はちの言葉尻を継いだ。被害者のお話なんですけどねと、はちの左隣に座り、

「一時は意識不明だったみたいですけど、奇跡的に、かすり傷で済んだみたいですよ。」

急須を傾け、はちに茶を差し出した。

「こんな盛大にやっといて、かすり傷なのか?」

そうみたいですよ、ほら。彼の白い指が、紙面上をなぞる。「一時意識不明の重体・・・一命を取り留め軽傷」と、感情を介さない字面で報告がなされていた。

しろは「確実に、ツいてましたよね、彼」と、柔らかに笑った。

人知れず、わずかに口角を上げたのはゆりである。

「何が「直感」よ。やっぱり「勘」じゃないの。」

「・・・何か言ったか?」

「彼が幸運だったのは、事故が起きた場所よ。」

ゆりの言葉に自然と眉がひそまるはちである。脳内のあてを探し、眉間の皺が深くなる彼に、

「ゆっくり考えて頂戴。」

彼女は意味深げに投げかけ、冷えた指先で湯呑みを包み込んだ。

【完】


≪あとがき≫

やっとこさ小話更新できました。
前回の話でも「四篠境」を出したなぁと。

そんな話はこちら⇒黒蝶堂の年の瀬
黄色い男も登場してます。

最近、可もなく不可もない毎日を送っておるので、”ついてる”人間になりたい秋雨でした。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました♪


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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【イラスト】どんなことでも3年目が肝心【更新】

こんばんは!

当ブログは無事3年目に突入しました!ありがとうございます!

その記念(?)に、なにかしたいなと、乏しい発想力で考えてみました。
結論:ここ2年の黒蝶堂で登場したやつらの初登場シーンを、登場者ごとに見返してみよう!

というわけで。

時系列を整理しながら、描き散らした小話を抜粋してみました。落書き付きでお送りします。

まずはこれ⇒【こちら、黒蝶堂】

2-1

・はちとしろが、ゆりと遭遇。黒蝶堂の始まりだったりします。

次はこれ⇒【桜は散るから美しい】

2-2

・櫻坂神社の「ほのか」と、黒蝶堂の面々が挨拶を交わした話。彼女の話もまだ描ききれてないなぁ…(汗)

ちなみに、はちが日誌を書き始めたのはここから⇒【ねぐせの話】

2-3

ついでに、苦労人の彼の趣味は、家庭菜園だったりします⇒【ゆきの話】

ところで、堂長ってどんな仕事なんだ?
というわけで、登場願った深見ヶ原の少女・牡丹。猪突猛進猪娘です。

2-4
これで初登場⇒【おひがんの話】

・ブログでは、初めての長編連載。後日談はこれ⇒【おひがんの話・後日談】

次は、カコの話を紹介。

2-5

【夕闇に流れる】からの【灰色の影】そして、【雨風ゆらぎ】が、彼の三部作みたいなもんです。

2-7

・話を重ねるごとに、ゆりとの対立が深まっていってます。
・上司に恵まれない、可哀そうな存在でもあります。

彼の上司はこれ⇒2-6

・右の黄色い方。名前は鬼桐(きとう)さん。
・初登場はこれ⇒【夏夜の石畳を砕いて渡れ】

・彼の理不尽さは、ぜひお話で。
・2012年は、たくさん描いていきたい存在です。

こんなところでしょうか。
紹介しきれなかった話が、他にもたくさんありますが…また次の機会に。

ちなみに、小話倉庫はこれ2011年のお話2010年のお話


3年目も、どうぞよろしくお願いします!

秋雨

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【小話】道楽息子と電波青年【更新】

【道楽息子と電波青年】

昼過ぎの黒蝶堂に、来客があった。
一人で店にやってきた初老の男性は、かかとでせわしなく音を立てながらまくしたてている。原因は一つ。気に入りの作家による作品が、以前は店に置いてあったのに、今は存在していないと言う。
堂長席に座りその話を聞かされたはちは参考までに、「以前」とはいつくらいかと尋ねた。

憮然とした表情で、彼は答える。

「かれこれ、10年ほど前になるか。」

「そんな昔の話をされても・・・」そう言おうとしたはちの言葉は、突如として顕れた眼球への痛覚にかき消された。眼鏡を外し目をこすれば、1本の髪の毛が手に付着した。どうやら、長くなってきた前髪が入り込んでしまっていたらしい。
はちの小さなトラブルにも気づかず、客は続ける。
昔はこうではなかった。先代・黒川伊織の時ならば。彼なら気を利かせて商品をとり置いてくれたはずだ、と。

そして、

「・・・これだから道楽息子は。」

世間知らずなのだ、と吐き捨てた。
ぴきぴきと、はちの額に青筋が走ったが、彼が何かを言い返す前に、男は店を後にしてしまった。



「遊んだ覚えなんて一つもねぇ!」

夜時。黒川はちはそう言うとワンカップ酒・・・ではなく、湯呑みの茶を一息に飲み干した。筋の通らない不条理きわまり無い暴言に、彼としては珍しく、怒りの感情を表にしていた。

「第一、息子じゃねぇよ!孫だ、孫!」

「不機嫌な人に食べさせるご飯はありませんよ!」

食卓を一にする隣人の言葉が終わると同時。
ぐるきゅるるるると、典型的な腹の虫が部屋に響いた。
腹の主は慌てて、自分の茶碗と汁椀を引き寄せる。

隣人・しろは「そんなに怒る必要もないでしょう」と、慰めるわけでもなく、どちらかと言えば明日の天気予報を告げるキャスターのような妙なイントネーションで言った。

彼も気が立ってただけで、言葉に深い意味なんて無いですって。

こいつにしては珍しくまともなことを言っているなと、はちは希少な動物を見るような目を向け、彼の言葉に耳を傾ける。

それに――と、調子づいてきたしろは続ける。

「はちのことが全部わかっちゃう人なんて、僕だけで十分ですよ。」

「・・・」

はちは、自信満々に宣う電波青年の言葉に、返す言葉もない。窮したはちは、

「・・・なら、オレが今なにを考えているか、わかるな?」

決して答えの分かるはずがない問いを投げた。
人の心が読めるなんぞ、ありえるはずがないんだからな。

すると、

「もちろん!」

しろは朗らかな笑みを浮かべた。途端、彼はあぐらをくみ、両の手の人差し指をこめかみに当て、顔を伏せた。とんちでも考えているかのようである。
ぶつぶつと何かを唱え、数秒後。

「わかりましたよ!」

まっすぐに、はちの目を見据えた。
そして、右手をつきだし、推理ものに登場する探偵が、犯人を名指しする時のお決まりのポーズで。

『・・・今日の晩飯は魚か。嫌いじゃねぇが、今日は魚じゃなくて、肉の気分だったがな・・・食べるけどよ。』です!」

やけに似ている声真似をしながら、ビシリと、断言した。

「な・・・!」

はちは箸を落とした。

なぜだ、なぜそこまでわかった!?顔に出ていたのか?ひきつる頬をそのままに、顔を触るが答えは出ない。犯行が暴かれた犯人のようにうなだれ、言葉を失った。

前に立ったしろは、慈愛と憐憫の二つを併せ持った瞳を彼に向けた。

そして――、一転。

「やっぱり、ご飯抜きですね。」

冷たい眼差しをはちに投げ捨てながら、焼き魚の乗った大皿を、台所へと運んだのであった。

【完】


≪あとがき≫

忙しい時、ご飯を食べる時間は、作る時間よりも短いような気が。
今年も小話作ろうと考え中なので、どうぞよろしくお願いします。


テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

あけましておめでとうございます

新年あけましておめでとうございます。

昨年は多くの方にご訪問いただき、誠にありがとうございました。
2011年は一昨年にも増して、たくさんのコメント、拍手などを頂戴し、大変嬉しく思うと同時に、
あまり更新する時間がとれず、もっと精進しなければと言う思いをより一層強くした一年でした。

2012年も黒蝶堂ともども、当ブログをご贔屓いただければ、
大変嬉しく思います。
これからも、宜しくお願いいたします。

秋雨



…てなわけで。
堅苦しい挨拶はこの辺にして。

おはようございます。
今年こそは日記(アナログ版)を続けたい(願望)秋雨です。

年末はバタバタと忙しく、それでいて多くの人と再会してとても刺激の多い日々でした。
気づけば今日から、通常通りの生活…(涙)
もっと休みたい!
しかし、あまり休むと、体が鈍ってリズムに乗れなくなるのでこのくらいがちょうどよいかなと思うことにします。

皆さんは、どんな年の瀬&年越しだったでしょうか?
いつかは正月休みに旅行に行ってみたいなぁ~^^♪

それでは、行って来ます!

テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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