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【小話】案ずるより抜くが早し【更新】

【案ずるより抜くが早し】

「血が流れてるみたいですね。」

しろは鋏を振りかざし、銀色輝く刃を陽の光に晒した。
彼の足下に散らばる茶けた毛髪は、

「・・・鉄錆の臭いだからな、それは。」

流れてるわけねぇだろと付け足した男の一部分「だった」ものである。彼は眉を顰めながらも、おとなしく椅子に腰掛け、しろに背中を向けている。

「はちも意外と、血気盛んな若者でしたか。」

「・・・だから、血じゃねぇよ。」

それに、[血気盛ん]ってのはそんな意味じゃねぇだろ。
言葉を返し、ため息をつくはちに、

「まったく、冗談の通じない人ですね!」

にこりと笑ったしろは躊躇いもなく、彼の鼻先に刃先を突きつけた。彼の背後から降り注ぐ日差しは、一時期よりも暖かみを増している。黒蝶堂の屋上は、一足早く春の陽気である。

「冗談まみれのお前の妄言で、耳が痛ぇんだよ。」

「ならば、耳を削ぎ落としてしまいましょうか?」

対照的にひきつった笑いのこぼれたはち。
白い彼の本当に恐ろしいのは、時に、自身の発言を実行にうつしてしまうところにある。

「勘弁してくれ・・・」

そんなはちの嘆きと重なって、

唐突に、しろが声を上げた。

「ややや!白髪発見!」

空を仰いでいたはちは、ぴくりと眉尻を上げた。

「・・・冗談だろ?」

ふふんと笑うしろが、平然と答える。

「僕が冗談を言うわけ無いでしょう?」

そして彼は断りもなく、指先に力をこめた。ぷつりと、一本の真白い髪が彼の手に収まる。

「知ってますか?白髪って、抜いたら増えるんですよ。」

「・・・聞いたことはあるな。」

「明日の朝、白髪だらけになってるかもしれませんね!」

「それは、単なる俗信だ。」

にこにこと笑う白髪の青年。彼の楽観的懸念を払い落としたはちは、短くなった前髪をかきあげ、続ける。

「知ってるか、人間の髪の毛は一日100本くらいぬけ落ちてるんだぜ。」

「そんなにですか?」

「仮に、抜いた分1に対して2増えるとしたら」

とうの昔に育毛剤は生産中止だろうし、はさみが何本だって必要だろうな。
ありえねぇだろ。だから、それはただの迷信だ。

はちは櫛を手に取り、髪をとかしながら結論づけた。

「安心してください。」

一方のしろは、えへんと胸を張る。

「はちが薄毛で悩むようになったら、ぼくが遠慮なく毟ってあげますからね!」

「・・・お前の言動が少しでも軽減されりゃ、その可能性は低くなるんだがな。」

そんな些末なやり取りの後、軽快に鋏の走る音が、再度屋上に響き渡り始めた。


≪了≫

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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