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【小話】一な花丸【更新】

「ー人でしたね。」

「・・・0人だろ。」

「だから、ー人です。」

「・・・だから、0人だ。」

今日も今日とて、彼との会話はかみ合わないなと、首をひねった。永いこと隣人をつとめているというのに、だ。

本日のお客様数と題されたフリップを立てた隣人は、伸びそうな程勢いよく、首を左右に振る。「僕のことを見てください」と主張する、まぶしくうるさい彼の青い視線を見返せば、「ほらほら」と台紙が更に迫ってきた。仕方がないと、観念する。首を斜めに向ける。体を横に倒す。手にしたフリップを逆さまにする。しばし眺め、

「・・・まさか。」

それらしき答えが頭に浮かんだ。

「そうですよ。」

発する前、しろは人差し指で大気の層に断絶を入れるかのごとく、横一文字を切った。意図したのは、斜線や空欄のようなものかと理解を揃えた。

「・・・結局、答えは同じだったってわけか。」

合致は僥倖だが、歴然たる事実に「哀しくならないか?」と問われれば嘘になるなと、ため息が出た。まぁ、誰も問いやしないが。

フリップに赤で花丸を書き入れたしろは、

「ないことを表現するのは、難しいですね。」

腕を組み、おおげさにうなってみせた。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【小話】焦茶中毒【更新】

本棚の上で、少女は板チョコレートをかじった。食べ進めるにつれ、銀色の包み紙が次々と宙に放られる。地上へ到達するまでの滞空時間の合間に折り畳まれたそれは、ゴミ箱にゆっくりと積み重なっていく。

箱より溢れそうになっているチョコレートの包みを見たしろは、

「やめられないことを、「中毒性がある」と言うんですよね?」

体調は大丈夫なんでしょうかと、彼女を気遣った。
すると、当の少女は、甘味から手を離すことなく、書棚の上にて言葉を継いだ。

「貴方達も、黒川はち中毒かつ氷山しろ中毒であり続けているでしょう。」

「・・・んな症状なんざ、聞いたことがねぇよ。」

肩をすくめたのは堂長席のはちである。
彼は壁のカレンダーを見やり、最近の出来事を順々に思い返し始めた。

数分後、彼はぼそりと

「・・・オレたちは、まさしく見事かつ立派に、”日常中毒”ってわけか。」

日頃の、理解し難い事象の連発を振り返って、ため息を吐いた。すると、横から湯のみが差し出された。

緑と紫の入り交じった細長い草の束を添えたしろは「これで毒性が弱まりますよ」と、あっけらかんと言い放った。

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【小話】濃紺の湖畔【更新】

「これは珍しい絵ですよ!」

「・・・んなわけがねぇだろ。」

「フィクションでは、よくあることですよ。」

「現実は、作り物とは別に決まってんだろ。」

「とにかく!」

客人が切り出し、黒蝶堂同士のやりとりをぶつ切りにすると、「薄ら寒いから、ここで供養してくれ。」と、ある作家の作品を押しつけ、自分の掌を持参の瓶から取り出した塩で揉んだ。続けて黒蝶堂の洗面所の蛇口をひねり、水流が止まる前に消えていった。

「すぐ調査が必要ですね!」

「・・・勝手にやってくれ。」

その日の夜半、昼寝を経て万全の体調を整えたしろは、黒蝶堂の片隅に立てかけておいた絵の前にしゃがみこんだ。山々に囲まれた湖畔だろう、水面に夜空と月の映る世界で、とんがり帽子の人間が釣り糸を桟橋からたらしこんでいる。幻想的で、涼やかな絵画であり、「不気味さはどこにもないな」と昼間のはちは漏らした。

さて、どこから調べましょうかと歩を進めたしろは、その水面を指でなぞる。
しかし、それは失敗に終わる。
意志に反して、彼の指は水面から水中へ飲み込まれた。

「君、大丈夫かい?」

水面から頭を出し、辺りを見渡す。足が着かないため、立ち泳ぎをしつつ、遠くに見える桟橋へ近寄っていく。太陽が休んでいるため、水温は低いのだろうが彼は周りの温度に鈍感であり、何の差し支えもなかった。

板に指をかけ、勢いをつけて陸地へ伸び上がった。

彼の予想通り、そこには”かの”とんがり帽子の人物が、釣り糸を垂らしていた。しろは半拍も置かず、その背中に駆け寄った。

「本当に本物ですね!」

目をきらきらと輝かせ、その肩を叩く。

「外の世界は危険だ。」

対し、人物の応答は平坦で、冷静というよりは冷たい印象を与える。
帽子より覗く眼孔は、じっと湖に注がれたままだ。

「素人と慢心の運転手で溢れている道路が、町中に張り巡らされているんだろう?」

ズボンの裾を絞り、髪の毛を絞り、体をふるわせて水分を飛ばしたしろは、湖の向こうへ視線を向ける。湖畔には細身の樹木が転々と、体を寄せ合うことなくひょろりと立ちつくしている。
車どころか、辺りは藪に囲まれていて、釣り人はどこからきたのだろうか?その道筋はあるに違いないだろうが、弱々しい月夜の光では探すことが出来なかった。

しろは釣り人の隣に座り、湖へ足を投げ出すと、掌に顎をのせて問う。

「具合はどうですか?」

「いいよ。気分はね。」

釣果は全然ダメだが、私の性分にはとても合っていると、釣り人は沈まない浮きを眺めた。

「これからもずっと、私はここでその日を待ち続けるのだろうね。」

釣り人は帽子の鍔を上げた。
明けない夜にふさわしい、寂しげで怪しげで、それでいて涼しげな笑みを浮かべ、しろに手を差し出した。

「はちの間抜け面が見えます」と、寝起きのしろは冷静に観察した。眠った覚えのない頭が、固い床を枕にしている。よいしょと起き上がり、きょろきょろと例のものを探す。それは昨夜と同様、黒蝶堂の片隅に掛けられていた。人物は寂しげで寒そうな世界の中で、釣れるはずのない魚を待っている。

「僕、この人とお話させてもらったんです。」

「・・・額縁を準備するなんざ、用意周到だな。」

しろは近くの額縁を両手で掲げ、空白のその中に自分の上半身をはめ込んだ。
額縁越しに見る黒蝶堂は、いつもと変わらない風景を残していた。

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【小話】今宵の特別枠【更新】

「夜中に研いだ方が、雰囲気がぴったりでしょう?」

「・・・だからって、人の枕元でするんじゃねぇよ。」

だって手元が見えないんですと、しろは頬を膨らませた。寝間着のはちは、「・・・月の光とかで、なんとかしろっての」と、無茶を承知で布団の上に居直る。対し、「月が出ない夜ですよ」と、刃先を電灯の光にちらつかせたしろは、「ところで、なぜここは電気が点いているんですか?」と首を傾げた。はちが面倒くさそうに視線を投げると、「今宵は、電気が供給されない夜のはずですよ」と、しろは人差し指をたてた。

「・・・何を言ってんだ?」

そんなことは聞いていない。
第一、そんな夜が、あるはずがない。

はちが疑念を口にした途端、辺りは闇に落ちた。


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【小話】迷いの森の伝言板【更新】

「出ましたよ!」

「・・・またかよ。」

黒川はちは軍手に火ばさみを携えて、声の方へと向かう。黒蝶堂の書物の森の端へ赴けば、同居人が壁を指さし騒いでいる。視線をやれば、そこには必要以上に多いのではないかと思われる程の足を持つ、体長20センチぐらいの生き物が壁を這っていた。はさみの先を揃え、相手の軌道を読み、タイミングを計って腕を伸ばす。体を丸める動作が気味の悪さを助長させる。それをなるべく視界におさめぬようにし、同時に左手でやかましい同居人の首根をつまみ、中庭へ続く廊下へ出ると、それらをまとめて庭へと放った。

「違いますよ!」

同居人・しろは憤慨する。白い蒸気が、彼の両サイドから噴きでているかのように漫画的で、ふざけた雰囲気ではある。はちが平謝りすると、

「壁のメッセージを見ましたか?」

と空を見上げ、鼻から息を吸い込んだ。

はちは黒蝶堂に戻り、再度書物の森を歩き出す。片づけなければと思いつつも、理由は色々あって、なかなか作業に取りかかれない。しろの言葉を確かめるため、さきほどの場所へ行く。虫の居たのはこの辺だったかと目を凝らすと、壁の一部分が変色している箇所があった。毛虫の這った痕のようなそれは、よくよく眺めてみると、薄い青色に縁取られた文字になっていた。

”よる、こうえんにてまつ”

「・・・わけが、わからねぇ。」

はちは書棚を見上げる。黒蝶堂の憑者と宣う少女の姿はない。ため息が出た。

公園に到達するとすぐ、待ち人に会うことができた。
月光に照らされる少年は、夜半の公園には似つかわしくないなと、はちはぼんやりと思った。少年は弱々しい口調で「助けて、堂長」と、ブランコを強く握る。

「僕も、つまみ出された。」

堂長は、一層の深いため息を吐く。

いったい、自分が何をしたというのだろうか。見ず知らずの子どもの面倒を何故、自分が見なければならないのだろう。

だが、まさか彼を火ばさみでつまみあげ、警察に突き出すわけにもいかない。肩をすくめる。仕方が無い。とりあえず一度、事情を聞くことにした。堂に行くぞと手を伸ばす。道中、しくしくと涙を流す彼の足音が、明らかに1人分ではないことに気が付いてしまったが、足下を極力見ず、頭を振って目的地だけをめざした。

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【小話】ズレゆく過去【更新】

暖簾をくぐった途端に広がった光景に、黒川はちは目をシロクロさせる。円形に隆起した紙屑の中央で、氷山しろはへたり込んでいた。

「…いったい、なにがあったんだ?」

呼びかけるも、しろはピクリともしない。はちはしゃがみこみ、白くて薄い紙切れを拾い上げる。すると、真中にアラビア数字、下方に選ばれた星の頭文字が記されていた。眉を顰めたはちは、つかみどころの無い、輪郭の不確かな違和感の正体を探ろうと眼球を左右に揺らした。すると、視界に入った壁掛けのカレンダーに焦点が合った。

「…そういうことか。」

気づいてしまえば、答えは簡単だった。不整合に、ざわつきを覚えたのだ。しろの肩を叩き、虚ろな瞳の意識を呼び起こす。

「あれ、どうかしたんですか?」

「…そりゃ、こっちの台詞だ。」

この日付と曜日は、なんでズレてるんだ?と、はちが問えば、しろは、未来になにか異変が起きているとしか思えませんよ!と、頭を抱えて再度うずくまった。

欠片を全て集めたはちは、さらに理解を深める。これは、年を誤った、単なる印刷屋のミスに違いない。破られたカレンダーは、一月一日より十二月三十一日まで、3年前を正確になぞっていた。祖父の亡くなった日付と曜日は、忘れたくとも忘れられない。

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【小話】持ち帰りの怪【更新】

「本は、お持ち帰りされますか?」

氷山しろはレジスターを弾いた。しばし待つ。答えは返ってこない。夜道にうずくまる妖怪に声をかけてしまったような客の表情にかち合い、まさかと、ある可能性に思い至る。背後を振り返る。が、思い違いに気がついた彼は、光の反射する水面のような、まばゆい笑顔を浮かべて問いかけた。

「温めますか?それとも、冷やしますか?」


氷山しろは、手元の書物を書棚にしまいこむ。その途中、先住の背表紙に細い指を乗せる。

「逆ですね。頭に血がのぼっちゃいます。」

「・・・関係ねぇだろ、内容にも中身にも。」

ちょうど帰ってきた黒川はちは、堂内にて独り言に興じる同居人に相づちを打った。

「・・・お前以上に変わったことは、特になかっただろ?」

堂長の言葉に、

「中身は変わらないのに、気が変わったようでした。」

どうしてですかねと、しろは腕を組んで首を傾けた。

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【小話】赤紫の免許皆伝【更新】

「蜜をよく舐めてましたね。」

「・・・随分と、昔の話だろ。」

黒蝶堂の中庭を横断中、鼻歌交じりのしろは足を止めた。背の低いずんぐりとした木々の集合体が、5の花弁を広げた花によって隙間無く埋め尽くされている。その一つに顔を寄せた。

「・・・この味噌汁は、まさか。」

「まさに、躑躅燃ゆな色です。」

その日の夕食に登場したるは、色の鮮やかな、かつ、匂いの味噌な吸い物であった。箸を動かしていたはちは、そのちぐはぐ具合に平衡感覚を失い、箸を取り落とした。くたっとしおれたそれは、鍋で煮た白菜のような外見である。しばしの逡巡を経た彼は、やはり、空腹には抗えないなと腹をくくる。目をつぶり、それを口に運んだ。予想に反し、味は問題ない。飲み込もうとした。そのとき、

「毒性があるのでしょう。」

少女の声が、口中のツツジを再度開花させた。
涙目のはちがしろを見れば、彼は得意げに

「僕、なんと免許を持っているんです。」

どこからともなく、免許証サイズのプラスチック製であろう板を提示した。
”躑躅調理師免許”と上部に書いてあるそれには、彼の顔写真と共に、有効期限が併記されている。どうやら次の更新予定日が迫っているようで、「・・・一応は、有効なんだな?だよな?」と、藁にもすがる思いで、彼に返答を求めた。

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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