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【小話】思い出したのは【更新】

「忘れていることが、ありませんか?」

堂長席にて数十年前の月刊釣り雑誌をめくっていたはちに、キラキラした瞳が問いかけた。晴れた日の海面を思い出させるその色に、

「・・・忘れていることを覚えていたら、忘れてるって事実に矛盾するだろうが。」

と、片肘を机に突き、その上に顎を乗せて応じた。
すると、

「理屈が上手になったわね。」

書棚の上から声が落ちた。「堂長たるもの、自分に正直に生きるがふさわしいわ」との言葉に次いで舞い降りてきた少女は、「それで、思い出せたのかしら?」と白い青年と同じくはちに問うた。羽ばたく蝶蝶を思い出させる睫が揺らぐ。

「・・・てめぇら揃って、いったい何の話をしてるんだ?」

首をひねり、何か忘れていた重要な事態があっただろうかと、はちはカレンダーに目をやった。白い。「余白に予定が書けるんですよ」と、得意満面で年末、配りにきた女性に申し訳がないほどに、白い。旧暦の日付も、祝日にちなんだイラストも、今年が旧年号の何年にあたるかまでも書かれている、立派なものだから、余白が余白としてしか使われていない現状に、一層申し訳なく感じる。
しろが「やっぱり」と小声で頷き、ゆりが首を左右に振る。

「自力で思い出してもらいたいところです。」

しろが笑えば、

「・・・なら、急を要することじゃねぇんだな。」

はちが肩を竦め、

「貴方にしては随分と勘が冴えているわね。」

ゆりが瞳を細める。

はちは記憶をたどる。最近の話か、もしくは、過去の話か。記念日のようなものを覚えるのは、得意ではないのだがと後頭部を掻く。記憶ならば、蘇ってくるかも知れない。

しろに向き合い、眉間のしわを寄せる。

「・・・お前が教室でいじめられているところを、オレが助けた日か。」

「ぶぶーハズレです!あれは、春うららかな暖かい日のことですよ。」

当てずっぽうだと何発撃っても当たらないですよと、しろは人差し指を立てた。戦略が読まれていると悟ったはちは、深い深いため息を吐いた。

【了】


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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

2015.1.12で

2015.1.12で、当HPはまるっと5年を迎えました。
先の1年は、私生活の環境の変化もあり、なかなか定期的な更新ができなかったな…と思うばかりで、来てくださる皆様には大変申し訳ないなと感じてました。

次の6年目では、それが少しでも改善できるよう、そして質を落とさないよう、黒蝶堂と一緒に成長していきたいと思います。

来てくださる方、読んでくださる方、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。

秋雨

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【小話】活字中毒悪食人間【更新】

「どのあたりに、置きますか?」

「…適当に並べればいいだろ。」

書物を左手に、黒川はちへ示すは同居人の氷山しろである。先日買い取った本は料理に関する論述本であったから、しろが少しの間借りていたのであった。「わかりましたよ」と言う彼が書棚の影に隠れる。数分後、はちは堂長席を立ち、しろの腕をとった。

「…待て待て。」

「ちょうど焼きあがるようにしますよ?」

しろは首を傾げた。古びたトースターに、書物の半分程が埋もれている。

「…客から見えねえと、意味ねぇだろうが。」

「適当って言ったのは、はちですよ!」

「適当ってのは、いい加減って意味じゃねぇよ。」

「適当な場所ですよ、ここが!」

「どこがだよ!?」

言い争ううちに、しろの手から、書物が落下した。書物は本来ならば食パンが一枚挟まる程の幅の箇所に、ちょうど収まった。まったくこいつは何を考えているんだと、はちは大げさにため息をつく。幸いなのは、このトースターが現役をずいぶん前に引退して、現在は単なる骨董品としての価値しかないところだろう。コンセントにつないでも、火が通らない。だから、引き抜けばいいだけの話だ。

はちが安堵したそのとき、軽快な合図音とともに、はめ込まれていた書物が飛び出した。

「…おい、まさか。」

「焼けたみたいですね!」

堂内に、香ばしい匂いが広がる。匂いの元は、飛び出てしろの手に着地した書物であることに間違いない。彼がページを開くと、理路整然と並んでいたはずの文字たちがそれぞれ巨大化し、一口サイズのクッキーのように膨れ上がっていた。

「…なんでこんなことになるんだよ。」

はちは天を仰ぐ。

「こんなことがあるんですね。」

「…ありえねぇだろ、こんなの。」

にこにこと微笑む同居人は、皿を持ち出してきて書物から活字のクッキーを山盛りに重ねた。その天に置いた「あ」をつまみあげ、とまどうことなく口に運ぶ。十分に咀嚼した後、「そういえば新鮮な蜂蜜があったはずです」と、冷蔵庫へと向かった。活字だったはずの山と、ところどころの単語の欠けた書物を前に、はちは「…これ、どうするってんだよ」と呟いた。

「活字中毒」「悪食人間」と、なかなか落ちない墨汁で両頬に書かれたはちとしろが、客人から訝しげな視線を浴びる、少し前の話である。彼女の力で書物が元に戻ったのは、言うまでもない。

【了】

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ジャンル : 小説・文学

【小話】半世紀分の秘密【更新】

「あら、久しぶりね。」

正月早々、やってきた客人は堂長席に座る黒川はちを前に、にこりと笑った。

「・・・えと、その。」

はちは客人の顔を、脳内データベースと照合し、一致する人物を高速で検索する。どこかで出会ったような気がしないでもないが、初対面のような気もする。自分が昔ここに住んでいた頃の客だろうか、それとも、先代堂長である祖父・故黒川伊織の友人だろうか。いずれにしても、名前どころか、名字すら全く出てこない。動きを止めたはちに、客は「ずいぶんと若返ったものだね。半世紀分くらい?」と、続けた。

「・・・えと、その。」

「覚えていないのも、無理はないね。」

客人は黒蝶堂内に点在する椅子のうちの一脚を引きずり、堂長席の前に設置して腰掛けた。

「お互い、年を取ったからねぇ。」

あんた何歳になったんだっけ?と問われたので、はちは頭をひねり、眉間に皺を寄せて数える。

「今年で、二十・・・」

「またまた冗談を!」

相変わらずおもしろい男だね、あんたは。
ばしばしと机を叩かれ、はちは「ははは」と乾いた笑いで応じた。妙な客が来るのは、今に始まった事ではない。



「・・・で、なんの用事っスか?」

日もとっぷりと暮れ、黒蝶堂内の室温もぐっと下がった。客人は未だ、堂長席の前で、堂長であるはちの動作、特に顔の辺りをしげしげと観察している。

「本屋に来るのに、理由がいるのかい?」

「・・・何か、オレに聞きたいことでもあるんじゃないんスか?」

「ばれちゃあ、仕方がないねぇ。」

客人は、あっさりと認めた。その潔さに、はちは拍子抜けして目が点になった。次いでの発言に、はちの目の形状は、更に球体に近くなることになる。ぐっと身を寄せてきた客人は問うた。

「あんたが若返った秘密を、私に教えてくれないか。」

堂内を、沈黙が支配した。書棚の上から、頁をめくる音が響いて、はちははっと自我を取り戻した。冷静になれ、と、自分を叱咤しつつ、シンプルな言葉を選ぶ。

「・・・あの、黒川伊織は三年前に他界したんスけど。」

すると、その言葉に押されたがごとく、客人は椅子から転がり落ちた。座っていた椅子が横倒しになり、派手な音を立てる。頁をめくる音をかき消すように、

「どっからどう見ても、伊織の若い頃と同じ顔だ!」

立ち上がった客の荒げた声には、動揺と驚愕が半々で含まれていた。

「・・・オレは孫で、本人じゃないんスよ。」

はちは必要最低限の言葉で答えを返す。すると、客人は椅子を元の位置に戻し、再度、そこに腰掛けて額を押さえた。

「てっきり、薬か手術かで、若返ったのかと。」

「・・・そんなに似てるんスかね?」

その質疑に大きく頷かれ、はちは肩をすくめて鼻から息を吐いた。まさか、大の大人がそんなおとぎ話めいた、もしくは、フィクションじみたことを信じたくなるほどに、自分は祖父の若い頃に似ているのだろうか。愕然とする客人に、どことなく申し訳ない気持ちを感じながらも、「まぁ、似てるとはよく言われるんスよ」と、なぐさめのような言葉を口にした。

【了】

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

【小話】凍りつく水玉【更新】

扉を開けると、ひさしに積もった雪がどさりと目先に落下した。視界は白く、ひゅうひゅうと吹きつける風が皮膚に痛い。半纏に手を突っ込んだ姿勢で、店の外に出る。少し離れた場所から始まるアーケードに人通りはなく、しんと静まりかえっている。最近では正月から働いている店もあるというが、その文化はまだ、この街には入ってきていないようだ。

ぼうと考えていた彼の頭に、"雹"が降ってきた。

「痛ぇ!」

こんこんこんとリズム良く頭上で跳ねたそれらは、次々と足下に転がった。慌ててひさしの下に避難するが、次いで降ってくる様子はない。その局地性に疑問を覚えたはちは、身を乗り出して空を見上げる。雪が舞い散ってはいるが、雹の降るような天候ではない。「・・・妙だな」と呟いたはちが、地に転がった雹を拾い上げると、それはビー玉のように光り、中心に竜胆の文様が浮かび上がっていた。

ただの氷の塊ではない。それに、この文様に見覚えがある。
はちは、頭上から少し視線をずらし、黒蝶堂の屋上を見た。

「・・・やっぱり、てめぇのしわざだったのか。」

不法侵入で訴えるぞと肩をすくめると、

「氷にならなければ、僕の勝ちだったのに!」

一つも反省する様子のない少年は、ぎりぎりと唇を噛んだ。
雲間から差し込む陽光に、屋上の縁に腰かけている彼のゴーグルの端が光を反射して眩しい。人差し指を天へと伸ばし、空中に浮遊する球形の水をその指の先に留めている。屋上から投げ出した足は、冷たいであろう黒蝶堂の外壁にぴたりと張り付いており、接着剤で覆われているようにも見える。

「・・・てめぇ、そこから動けねぇんじゃねぇのか?」

はちの指摘に、「僕の体は水で出来てるから、こういうこともある」と、少年はそっぽを向いた。透明の氷のようなもので膝から下が完全に外壁と一体化しているが、さして気にしている様子もない。冷たいだろうなと、はちはぼんやりと思う。対する少年は、すぐにはちへと視線を下げ、

「今年こそ、黒蝶堂を僕の水底に沈めてみせる!」

と、指先の半ば凍った水を宙に浮かせたまま、はちに指を突き出した。すると、これまた次々に、水の球が地上に飛んできた。それを額に食らわせられたはちは、負傷箇所をさする。文句の一つでも言おうと顔を上げたとき、自然と頬がひきつった。彼の攻撃に参ったわけではない。見えてしまったその光景と、これから起こるであろう現象に対する、生理現象だ。

「・・・今年も背後には、気をつけた方がいいぜ。」

彼の背後に、赤く揺れるリボンを察知したはちは、自分の視力の悪さに感謝した。少年は怪訝そうに、はちをにらんでいるだけである。はちは思う。まもなく響くであろう絶叫に耳栓で対応しておけば、屋上での少年少女の対立にも目を瞑れるだろうか、と。
黒蝶堂の少女とゴーグルの少年は、まだまだ距離が縮まりそうにない。

【了】


テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

新年あけましておめでとうございます


2015年、あけましておめでとうございます。
いつも来訪してくださる皆様、はたまた初めましての皆様、
旧年中は大変お世話になりました。
今年もどうぞ、黒蝶堂の面々ともども、黒蝶堂徒然日誌をよろしくお願いいたします。 

秋雨


とりあえず、小話を描くのが私の役目かと思いますので、
挨拶は簡単に…

テーマ : 物書きのひとりごと
ジャンル : 小説・文学

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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