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まいごの話


【まいごの話】

平日の、のどかな昼下がり。黒蝶堂には、思いも寄らぬ客が来店していた。

「あの子、どうしたんですかね。」

しろの視線の先には紺色の制服を着た、幼い女の子が表通りに佇んでいた。

その表情には遠目でもわかるほどの動揺と、焦りが浮かび、辺りをキョロキョロと見回している。

「ほっとけ。こんな街外れだ。保護者が近くにいるだろ。」

はちは席に着き、しろの淹れたコーヒーを口に運んだ。

ゆりに命ぜられた、堂内の書物を仕分けするという作業は、ゴール見えず。

作業の合間合間に、別の仕事が入り、結局終わりが遠ざかるという事態に陥っていた。

はちがその愚痴を零す前に、しろは目にも留まらぬ速さで移動し、少女に声をかけていた。



そして、冒頭に戻る。



「だから、名前と住所を言えっての!」

警察の取調べのように怒鳴りつけたはちの前で、泣きじゃくる少女。



そのとき。



はちの額に、ずっしりと重量のある辞書が特攻してきた。

「子供でも立派なお客様なのよ。邪険に扱う姿勢は許されないわ。」

いつもの本棚の上から、ゆりは言葉を投げつけた。

はちは額をさすりながら、彼女をじっと睨みつける。

もちろん、彼女がそれにひるむはずもない。

「そうだ。お菓子があったんです!よろしければどうぞ?」

涙を零し続ける少女に対し、奥に戻っていたしろ。

彼が差し出したのは、可愛らしい包み紙に入った、チョコレートだった。

「しろ!それは私の・・・」

珍しいことに、ゆりの表情に焦りの色が見えた。
彼女の大好物である、『ちょこれぇと』である。

ゆりが止める前、既にチョコレートは少女の手に渡っていた。

「あ、ありがとう。」

泣き止んだ少女は、涙を拭うこともなく、しろに礼を言った。

「あのお姉ちゃんにも言ってくれるかな?」

と言うと、思わず本棚の上から下りてきたゆりを示した。

少女は頷き、
「ありがとう、おねえちゃん。」

恥ずかしそうにうつむき、チョコレートを握り締めた。


「と、取るに足りないわ。同種の嗜好を持つ者へ嫌悪感を示すのは、憑者として回避当然の動作なのだから。」

難語の羅列に少女は首を傾げ、答えを求めるがごとく、しろを見上げた。

しろは少女の目線の高さに背をかがめ、

「どういたしまして、と言ってるのですよ。」

微笑んだ。



それからしばらくして。

黒蝶堂の重たいガラス戸が、表側から開かれた。

「もう、探したんだから!」

母親と思しき女性の顔は、少女を見るや否や安堵の表情に変わった。
少女は一瞬動きを止め、すぐに駆け出した。
母親の腕に飛び込むと、少女の言葉に出来ない言葉が堂内に洩れて響いた。

「そんなに泣かないの。あ、そうそう。今お弁当屋さんで煮物をもらっちゃったの。帰って食べようね。」

少女を諌めると、

「すみません、娘がお世話になりました。」

「ああ、たいしたことは何も。」

はちの返答に、母親は会釈をして、堂内を後にした。

「よかったですねぇ。」

しろが見送りから帰ってきた。

「弁当屋までなんて、10歩くらいじゃねぇか。よく不安になれるもんだ。」



「簡単なこと。問題なのは距離じゃないのよ。ここにいるかいないか。ただそれだけのことなの。」

ゆりは腕を組み、はちを見上げた。



「ところで、どうして子供って、はぐれてしまうのでしょうね?」

しろが右手の人差し指を立てた。

するとゆりは、


「ちゃんと見てないと、連れてかれちゃうのよ。特に、『何者かが見えてしまう』子供はね。」


表のガラス戸を開いた。

はちに頭痛が走った。いやな予感がした。

「おい、どこに行く!?」

思わず問うと、


「安心して頂戴。散歩に行くだけよ。『ちょこれぇと』を調達しにね。」

三日月形の口元で、綺麗に笑った。

「なら僕もお供します!」

しろが笑い、ゆりの隣に進んだ。

堂を出る寸前。

「はちの想像してるような野蛮なことは、しろの顔に免じてしないわ。絶対に。」

彼女は、誇らしげな顔ではちを振り返った。


【了】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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