おひがんの話 4


「仕事っつうか、雑用じゃねぇか…。」

ため息混じりに、はちは呟く。
あてがわれた墓地の草むしりから目線を上げると、遠くでしろが散らばった線香や、枯れてしまった花を集めているのが見えた。牡丹はコンクリートでできた垣根に座り、そのようすを監視している。

厳しい視線だ。
どうやら、逃げ出せそうにない。

牡丹と目があいそうになった瞬間、慌てて作業を再開した。

まじめに働いていれば、きっと誤解も解けるだろう。

はちが淡い期待を描いていた、

そんな時。

見ず知らずの家の、誰が眠っているかも不明の墓。
その横道で、軍手をした右手が堅い物に触れた。

「うぉっ!?びびらせんじゃねぇよ!」

ひとり叫び尻もちをついた。

おそるおそる接近し、
視界に入るは苔むした、古びた小さな茶色の鉢。

「次は見回りをするんだぞ!」

牡丹の声が届いてきた。


声を背後に、はちは覆いとなっている背の高い草をかき分け、覗きこんだ。

眼下に広がるは、透明の世界。
水面に浮かぶ、薄紅に色づいた桜の花びら。
そのさらに下で、赤と黒の二つの影が、長い尾ひれをゆらゆらと水に漂わせていた。


「やけに水位が低いな。」

穏やかな春先の気候であっても、幾分か干上がってしまったのだろう。
鉢の中央よりも下方に、彼らの世界は押し込められていた。

「はち!見回りに行きますよ!」

広大な故人のための集合住宅。
その合間にできた路地の中央で、しろが手を挙げて合図をした。

「ちょっと待ってくれ。」

傍らに流れる小川に駆け、バケツを投入。
カルキ抜きはしなくていいだろう、と無造作に水を注ぎ込んだ。
乱暴な手つきではあったが、水面は正常の値に回復した。


「これでよし、と。」

ちょうどそのとき、再度呼ばれた。

片づける暇もねぇのかよ。
仕方なくはちは、手にバケツと柄杓を携えたまま、前を行く両者に合図を送った。


続きです⇒おひがんの話⑤

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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