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おひがんの話 5


牡丹の背に、二本の卒塔婆が括られている。

はちは、水がたんまり注がれたバケツを両手に持たされ、
その小さな背の後ろに続く。

狭い通路の両サイドには、故人のための集合住宅が並び、
花が飾られ、整頓されているものもあれば、
かなり年季の入ったものまである。

一体何人が、この地に眠っているのか。
いつかここに自分も埋まる日が来る。
それは明日かあさってか。
仮にその日がいつかわかったとしたら、
まず真っ先に、何をすればいいのだろうか。

一体何をするだろうか。

「はち、ぼんやりしてますね?」

横に立つしろが、覗きこんできた。
時折、しろは鋭い面を見せる。
その半分でも、普段発揮してくれれば。
はちの願いは、今のところ天には届いていないようだ。

「なんでもねぇよ。ほら、お前も持て。」

バケツを片方差し出すが、しろは首を横に振り、

「僕、箸より重たいものは持てないんです。」

柄杓片手に余裕綽々、ごくごく平然と、笑顔で答えたもうた。

「いっぺんに掃除機やら洗濯物入りのカゴやら抱えて、
階段を往復している奴が何を言うか。」


「はちは授業中によく、廊下に立たされてましたよね。
そうそう、ちょうどそんな灰色のバケツを持たされて。
本当にお似合いですよ。」


「んな昔の話、すっかり忘れたわ。
余計な事ばっか、覚えてんじゃねぇよ。」


「ほら、ちゃんと覚えてるじゃないですか。」

はちはくすりと笑うしろから視線を外し、溜息をついた。



「ところでよ、見回りってなにすんだよ。」

気まずさを振り払うため前方へ問うと、牡丹は振り返った。

そこにあった勝ち誇ったような、得意げな笑顔。


「仮堂長。眼鏡を磨いて、その眼に刻みつけるんだぞ。」

言うと、唐突に横の墓へ駆けよるやいなや、
自らの指を、花瓶に入った供物に触れさせた。

牡丹は目を閉じ、一言つぶやいた。


「一体どういう事なんだ…?」


元気の峠を越え、朽ち果てるのを待つまでであった一輪の花。

それが、見る見るうちに背筋を伸ばしていくではないか。


魔法をかけられているかのようだ、と。

はちは頬をつねり、しろは頬を上気させ拍手を送った。

どうやら夢ではないようだ。

牡丹はにぃっと笑う。


「こんな命の終着点でも、生きるものがいるんだぞ。」

少女は得意げに、ブーツのカカトを鳴らした。

「生の果てに安らかなる眠りと、鮮やかなる色を。
深見ヶ原墓地憑者の、あたしの使命。」


その瞳は、紫紺を帯びているように、はちには見えた。


続きです⇒おひがんの話 6


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テーマ : オリジナル小説
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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