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おひがんの話 6


「生の果てに安らかなる眠りと、鮮やかなる色を。
深見ヶ原墓地憑者の、あたしの使命。」


「なんで二回言うんだよ。」

「あたしの決め台詞だから。」

「くっだらねぇ。」

今度は肩を、衝撃が襲った。
遅れてきた痛みに、はちは両手のバケツを手放さざるを得なかった。

「縁起でもねぇもの、振り回してんじゃねぇよ…」


ひとりごとのように呟く。
ずきずきと痛む左肩を右手で抑えるが、大した効果はない。
しゃがみこみ、立ち上がれないままに、牡丹を見上げた。


「お水あげときましょう。」


察しよく、しろが柄杓をバケツへ投入し、花瓶にゆっくりと注ぎ始めた。



その後ろ姿を見ているうちに、痛みが分散されていった。
はちは体をほぐす目的で、背伸びをひとつ。
絶対アザになったな…


ひりひりするそれを、さすっていると、
隣に佇む牡丹が、身を乗り出し、
食い入るような顔でしろを見ているのに気が付いた。


心なしか、頬が紅潮しているようだ。


「おい、どうかしたのか?」


返答なし。

今一度、音量を上げて呼びかければ、


「あ、い、いや、な、なな、なんでもっ、ないん、だぞ!」

「明らかに動揺してんじゃねぇか。」


先ほどまでの余裕しゃくしゃく態度はどこへやら。
はじかれたように反応した。


「ほら、ここ。」


険しい顔で、はちが自分の口元を指す。
はっと牡丹は、口から流れ出たのであろう透明の液体を、
慌てて袖で拭った。


「だから、なんでもないんだぞ!」


言葉と同時に、空を切り裂く卒塔婆。


あ、かわせた。


はちがそう驚くほどに、見切れるほどに、まったくもってキレがない。


更に赤味を増した表情で、肩を上下させる牡丹は、
うすら涙をためた瞳で、ぎりっとはちを睨みつけた。




なんだかよくわからないが。




勝ったな。

はちはここぞとばかりに、鼻で笑った。



ちょうどその時、水やり及び合掌を終えたしろが振り返った。


不思議そうに両者を見渡す。


その眼に映る、涙目の牡丹と、意地の悪い笑みを浮かべたはち。


そしておもむろにはちへ近づくと、

何の前触れもなく、はちの左足を力一杯踏みつけた。


踏みつけるというよりは、
小指方面の骨を砕こうとする意志が感じられる衝撃波、
と言った方が正しいだろうか。



突然の襲撃に、うめき声を上げる暇もなく悶絶するはち。


そのネクタイを乱暴に引き、


「女の子を泣かせるなんて、最低ですよね?」


目前わずか数センチ。

首が締まり霞みゆく視界の中、

決して崩れる事のない、絶対零度の笑顔がうつった。


続きです⇒おひがんの話 7
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テーマ : オリジナル小説
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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