おひがんの話 10


光は燃え、熱気が汗となり肌を伝う。
戦地は小さな広場に移っていた。

「行ったか。」

はちとしろの駆けていく後ろ姿が、闇に紛れていく。
振り返りそうになるしろを、はちが遮り、足をもつれさせるが如く墓地の外へ走っていく。

恐怖に怯えた彼らを、これ以上近づけてはならない。
その様子を見、汗を浮かべ、牡丹は微かに笑った。

それでいい。それがいい。

確認した牡丹は、光に焦点を合わせた。
軽やかな身のこなしで、飛び込んでくる光を次々に撃墜する。

背を樹木に付け、地に落ちたそれに足元の土を覆い被せる。
これで熱はいくらかとれるはずだ。

この子達は、ただ熱くなりすぎているだけだ。
深見ヶ原墓地憑者の牡丹ができることは、その熱を拭い去ってやること、ただそれだけだ。

が、再度再々度、それらは復活してくる。
その上、
復活するたびに光は分裂し、まったくもってキリが無い。

「予想通り、だ。ダメみたいなんだぞ…。」

いつの間にか光は増え、八つになり、文字通り四方八方を包囲される。
それでも叩き落としていくが、さすがに疲れが蓄積されていくのを感じざるを得ない。
息が上がる。
視界がぐらりと歪む。

左右すれすれを掠っていく、交差弾。
それをかわすため、

牡丹がブーツで地を蹴った時だった。


一瞬の、迷いがあった。
砂利に足を取られた。

一斉に飛びかかってくる、光の束と熱量。

重力をまともに受け、地へと吸い込まれる、浮遊感。



「簡単には変われないんだぞ。堂長…」




牡丹はその中で、目を閉じた。



体が、ふっと包みこまれたのを感じたのは夢か現か。



「大丈夫ですか!?」



見上げれば、しろの顔がそこにあった。

「なん、なんだ…?」

抱きかかえられた牡丹の、キョトンとした顔。
それはほんの一瞬で、慌てて光へ向かい直ろうとする。
くじいた足に、ずきりと痛みが走る。

が、それ以上の衝撃が、牡丹を迎えた。

「足、挫いてんだろうが。高ぇヒール履いてるからだ。」
広場の中央。樹の正面。

そこには柄杓片手に全てを引きつける、はちの姿があった。




「愚か者!人間には無理だ。さっさと逃げるんだぞ!」

「はいそうですか、って下がれるわけねぇだろ!」

語気は荒いが、微かに震える声で、はちは答えた。


左手のバケツを、草むらに置く。

半端な長さの柄杓を、両手でしっかりとにぎりしめる様は、

「だせぇ。」

「ださいですね。」

「るせぇよ!」

お世辞にも、格好がつくとは言えない体勢である。

空のバケツ片方を盾にして、対峙するはちは、あさっての方向に咆哮する結果に終わった。


闇夜に浮かぶ、八つの光の不気味な異形。

極度の緊迫感の中、はちは口を開いた。

「てめぇらはただの、でけぇ蛍だ。」

「せんせー、蛍にはまだ季節が早いと思いま―す。」

「『ひとだま』だと、言ってるだろうが!」

「あーあー、聞こえねぇ。聞こえねぇ!」

不躾にも耳に突き刺さってくる声を、自らの声で弾く。

途端、光の一つがはちへと飛んだ
牡丹が飛び出そうとするのを、しろが懸命に抑える。

「無理だ!堂長!」

声が届くかどうかの瀬戸際。

はちは素早く、振り向きざまに柄杓を持った手首を返した。

飛び散り、分裂する光の欠片が宙を舞い、はらはらと細く、見えなくなっていく。

しろに抱えられた姿勢の牡丹が、その手際のよい鮮やかな動作に、はっと、息をのんだ。

キラキラ輝くに、目を奪われたまま、逸らせずにいた。

「目には目を、歯には歯を。火には…さぁなんだ?」

ずれた眼鏡をかけ直したはちは、火の中央で誰とはなく問う。

明かりを失い、地へ失墜した『ひとだま』の、表面を滴り落ちる水滴。

光だったその物体らは、音も無く闇に溶けていく。

「本物の墓荒らし、火事場泥棒が現れる前に、片をつけようぜ?」

残りの七つに向き直り、眉根を寄せた真剣な顔つきで、熱を発する眩しい光をぎりっと睨んだ。




「痛いんだぞ!」

「我慢してくださいね~。」

どこから取り出したのか。しろの手元の、木製の救急箱。
慣れた手つきで牡丹の右足に白い包帯を巻いていく。
広場の脇の、アスファルトでできた腰かけ。牡丹の隣に座るはちが

「ドジなんだな。」

シテヤッタリ顔と共に、鼻で笑った。

「戯けたことを言うななんだぞ!って痛っ!」

「じっとしてください!」

笑顔で押しつけるしろを、涙目で睨んだ牡丹は、袖でゴシゴシと目を拭う。

月夜は、明るい。

「この辱め、きっと覚えてるんだぞ!」

「良いのか、んなこと言って。」

はちは意地の悪い表情で、柄杓に水を掬い、牡丹の前にちらつかせた。
身をよじらせ、ピャッとしろの後ろに隠れる牡丹。

「はち!」

諌めるその言葉より早く、その鉄拳が額にヒット。

怯えた表情で、牡丹がそろりと顔をのぞかせた。

「女の子をいじめるなんて、最低の最低です!」

怒りを露わにするしろと、隣の伸びたはちを見た牡丹は、声をあげて笑った。



しそびれた彼岸の参りは、仕切り直す事になった。
黒川家の墓前に戻り、祈りを捧げ、顔をあげる。

「仮堂長に、仮副長。」

「だから、本物だって。」

「今日は助かった。礼を言うんだぞ。仕方ないから、仮を取ってやる。」

すがすがしい顔で、牡丹は胸を張った。

「それはどうも。」

はちは牡丹から顔をそむけ、苦虫をかみつぶしたような顔で溜息をついた。


「素直じゃねぇってのは、こういうヤツを言うのかね。」


突如の物音。
と同時に、墓の脇に現れた人影。
はち、しろ、牡丹の三者はさっと身構える。
穏やかな空気が一瞬にして、張りつめた。

「墓荒らしか…!?」
「も、もう怖くねぇぞ!」

はちはバケツ内の柄杓を手に取った。
そして、その影を狙い澄まし、若干腰が引き気味ではあったが、うまいこと水をぶちまけた。

「やったぞ!…げぇっ?!」

「良い挨拶ね、はち?」

もっとも怒らせてはならない、頭に大きな赤いリボンをつけた少女が、切り揃えられた前髪から水滴を滴らせ、にこにこと笑っていた。
ただし、目は微動だにせず、口元だけが不自然につり上がっている。
あまりに、あまり。極めて、極めて、見慣れない表情。

張りつめた空気は、絶対零度に凍りついた。

「帰りが遅いから心配してきてみたら…」

「ち、違うんだ。これは…!」

柄杓を取り落とし、冷や汗に顔面を支配されたはちは、しどろもどろになりながらも言葉を探す。

が。

「問答無用!」

いつの間にかバケツを抱えたゆりは、大量の流水をはちの顔面へ。

「頭を冷やして、出直しなさい!」

牡丹としろは、顔を見合わせて笑った。
夜風に吹かれながら、黒蝶堂に戻った後、くしゃみが止まらなくなったはちが風邪をひくのは、また別の話。



【おわり】


追記よりとるにたりないアトガキ


こそーり後日談

追記

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
長々続いたお彼岸も、なんとか終わりを迎えることが出来ました。

拍手をくださった方、コメント、感想をくださった方、なにより、ここを見てくださっているあなた。
本当に、感謝しております。

・・・って、なんだこの黒蝶堂自体がおわってしまうような文脈。

まだまだ彼らと成長していくので、のろのろ見守っていてください。

とにもかくにも、おひがんの話は、後で手直し等加えると思いますが、これでひと段落。

最後に。
卒塔婆は振り回してはいけません。寺社関係の方、すみません。

次はまた、平和な日常が帰ってくることを・・・。


牡丹や黒蝶堂に物申す!って方は、コメントしていってください。
どんな内容でも、質問でもかまいません。
それ次第で、今後の牡丹の登場回数が左右されるかも。



スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中