おひがんの話後日談

【おひがんの話後日談】

「働き者だな!」

黒蝶堂の中庭、初夏の燦々と降り注ぐ日にあてられじっとりと汗を描いた背中を、ツインテールの少女が卒塔婆でバシバシ叩く。
極めて楽しそうな表情。

「っせぇよ!誰のせいだ、誰の!」

叩かれている張本人、手に軍手をはめ、麦藁帽をかぶったはちは、青筋が浮かび、泥の付着した額を少女に向けた。
足下には、山盛りに山積みされた大量の緑。



「庭の雑草でも抜いてきなさい」

朝方、青天の霹靂に発せられた指令。


「なんでだよ。」

「来るわ。」

「なにが…違った。誰が。」

「深見の墓守。」

ゆりの即答にはちは、戸棚を整理していた手を止め、

「またやっかいな…。」

ふぅっと溜息をつき、手元の本を棚へ戻すと、庭に面する小さな縁側へと向かったのであった。

だが、ろくに手入れもしていなかった庭は、ほうぼうに草が、奔放に伸びていた。
始めたはいいが案の定、なかなか作業は終わらず。

結局、終わらぬまま冒頭に戻る。

「牡丹ちゃん!お茶でもいかがですか?」

「いただくんだぞ!」

縁側に駆けて行く後ろ姿。
はちは、スリッパを引っ掛け近寄ってきたしろから麦茶を受け取った。
冷茶を一息で飲み干し、湯呑を盆に置く。

「お前も手伝え!」

するとしろは、近くの樹に不安定な足取りで近づき、その根元にしゃがみこんだ。
自然と影を作っているそこは、陽のあたる他の箇所よりは随分涼しい。

「おい、どうした?」
怪訝そうな顔で、はちが問う。

「ちょっと酔ったみたいです。車酔いみたいな…」
青い顔で、しろが返す。

「酒でも飲んだのか?」
首を横に振るしろ。

暫くの間ののち、息切れ気味に、口を開いた。

「地球って、なんで回ってるんですか…?」

「それは地球が誕生した時に…って規模がでけぇ!」




「元気だな!」

「元気だけが取り柄よ。」


庭でぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を見ながら、縁側に座って茶を飲むゆりと牡丹。

「足の具合はどうなの?」

「もう大丈夫なんだぞ!」

足を庭方面に放り、ばたつかせる牡丹は、しろが用意した茶菓子の饅頭を頬張った。

「そう。」

ただ聞いてみたと言わんばかりのゆりは、茶を一口啜る。

「ゆりも風邪、ひかなかったか?」

牡丹は悪意なく問うた。
が。
ぎろっとしたゆりの睨みに、思わず目をそらした。
彼女にとって思い出したくない出来事だったようだ。

訪れた、軽い沈黙。
ブーツの空を切る音が、リズムを刻む。

「いきなり呼び出すなんて珍しい。ゆり、一体何の用なんだ?」

牡丹が先手を切った。

「あなた、はちのこと墓荒らして言って襲ったらしいわね。」

抑揚のないゆりの声。

「最初会った時は、まさか伊織堂長の孫とは思わなかったからな。」

対照的に明るい、牡丹の声が肯定する。



「なぜ嘘をつくの?」



牡丹が、足の動きを止めた。
手に持った四つ目の饅頭を、膝の上に置く。

ゆりは続ける。

「あなたは尋ねる前から、あいつがはちだと、気づいていた。いいえ、気づかないはずがない。
だけど、わからないふりをして仕事を手伝わせた。」


「どうしてそんなマドロッコシイ事をしなきゃいけないんだ?」
首をかしげる牡丹。

「簡単な事よ。」
ゆりは言葉を切り、芯のある声で淀みなく発した。



「あなたは、はちを殺そうとしていた。」



牡丹は盛大に吹き出した。

「ゆり、推理小説の読み過ぎだぞ。」

冗談交じりに、おちゃらける。

だがゆりは、極めて冷静に続ける。

「はちたちが三年間、深見に顔を見せていない事実。あなたが誰よりも理解していたはずよ。」

「確かに、不孝者だとは思っていたぞ。」

「あなたは待っていたはずよ。先代堂長のために、そして、自分のために。
日が経つにつれて徐々に思うようになった。
『姿を見せた暁には、その不孝を一身に受けさせるべきなんだぞ!』ってね。」


真似た口調で発したゆりを、じっと見つめる牡丹。

「見た瞬間に、伊織さんの孫だとわかった。危害を加えるための、隙を作る口実として、雑務を手伝わせた。」


「もし殺すなら、最初に出会った時が最大の機会だったぞ。」
真剣な声音で、牡丹が口をはさむ。
ゆりは首を左右に振った。

「最初捕まえた時、あなたがとどめを刺さなかったのは、
あなたがはちの口からの、わびの言葉を期待していたから。」


「聞いてないぞ。ならなんで、あいつらは生きているんだ?」

「それは機会を逸したからに他ならない。現に怪我までするほどに、あなたは慌てていた。」

そこでゆりの推理は、一段落した。

一通りゆりの主張を聞いた牡丹は、けらけらと笑った。

「なにがおかしいの?」

眉根を寄せたゆり。

「そういう推論もできるのか。確かにあたしは、亡き者を想わない人間は大嫌いだ。だけど、想うってのはどこだってできる。だから参らない奴を恨んだり、妬んだりはしない。あたしは、ゆりが考えてるほど、あたしは感情的な思考じゃないんだぞ。」

長々したセリフを、牡丹は巻き気味に、一息で言い切った。

「本当にそうかしら?」

疑いの視線を向け、続けるゆり。

「そうだぞ。なら聞くが、あいつらに深見へ行く許可を出したのは誰だ?」

「私よ。」

ゆりはよどみなく答えた。
牡丹は目を細めた。

「本当にあたしが堂長を殺そうって企んでいるってゆりが思うなら、許可を出さないだろ?」

「自分の身は自分で守るべきでしょう?」

「仮にあたしが本当にはちを葬っていたら、あたしの命が危うくなるはずだぞ。」

加害者本人候補であるゆりは腕を組み、

「それは、そうかもね。」

赤い瞳で、牡丹をじっと見つめた。

牡丹は一瞬息を詰め、

「閻魔大王よりも恐ろしいな。」

そう呟いた。

そして、

「そんな危険な橋を渡るくらいなら、橋をたたき割って、三途の川を全力で泳ぐ方を選ぶんだぞ。」

へたくそなウインクをかました。

「賢明な判断ね。」
微かに笑ったゆりに、牡丹ははにかんだ。

「あんなに似ているのに、気付かないはずがないんだぞ。」


牡丹はさらりと嘘を白状し、ぺろりと舌をだした。


「中身も、ちょっとだけ素質があるみたいだから、あたしは応援してるんだぞ。」
 
「それは、感謝に値するわ。」

ゆりは再び、お茶をすすった。

【終】


スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中