雨上がりの話 8 (完)

カレーの食べ過ぎで、気持ち悪い^q^

やることがたまりすぎて爆発しそうなのに、なぜか部屋を掃除している自分。
…困った。八方ふさがりとはこのことか。


呟きは置いておいて、今日は小話の更新です!
なんだか久しぶりな気がする。
「雨上がりの話」の続編ですv


ついに、最終回…?


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【雨上がりの話 8】

「おはようございます…?はち、今日も顔色悪いですけど、余り眠れませんでした?」

食卓へやってきたはちの顔を見ると、しろは自らの目元を指した。
はちの目元のひどい隈。
日を追うごとにひどくなるそれは、今朝も、治っていない。

「表が明るくなってから、少し眠れたみたいだがな…。
パトカーに追われるところで目が覚めた…。」


はちは欠伸ではなく、溜息で応えた。
欠伸をする精気さえ、はちには残っていない。

「またその夢ですか。」

白飯と梅干、みそ汁の載ったお盆を、しろが運ぶ。
どれも通常の半分の量。
ここ一週間で、はちの食欲は激減していた。

しろは、はちが衰弱している理由に、気が付いているのか、いないのか。

「おとといはチョコレートに飲み込まれた。そんときの気持ち悪い感触が、まだ残ってやがる…。」

普段よりも、ゆったりとした、起伏のない声。
はちは、寝癖のついた後頭部を、くしゃくしゃと邪険に掻いた。

傘の持ち主は、未だに現れていない。

通常よりも青白い顔に浮かぶ、落ちくぼんだ瞳。
その眼で、堂内を見渡す。

存すべき存在がいないことに、たった今気がついた。

「…ゆりはどうした?」

「帰ってきてませんよ。」

「…え?」

寝不足の頭では、理解が一瞬遅れる。
しろが、目を伏せた。

「…昨晩から、ちょっと用事があるって言って。心配です。」

「…大丈夫だろ、あいつは。」

心なしか痩せた頬で、はちは食卓に座る。

その傍らには、忌々しい傘。
最早これが傍に無いと、不安で仕方がな…

…無い。

二階へ駆けあがる。
早送りのビデオのように。
あらゆる場所を文字通り、ひっくり返すが如く。
しろは

「どうしたんですかぁ?」

と、間延びした声をかけ、はちの様子を観察している。

「ねぇんだよ!」


「やっと、見つけたわ。」

心当たりは、最初からあった。
いや、一つしかなかったと言った方が正しい。
傘が持ちこまれてから数日間、ありとあらゆる場所を当たり、手掛かりを探していた。

そして、

「捕まえた。」

屋根の下には、月光きらめく繁華街の世界で、おぼつかない足取りを携えた人影。
夜明け前が一番暗いとは、よく言ったものだ。
空気全体に沁み込んだ、残存する酒と香水の匂いに、ゆりは顔をしかめた。

藍色の世界で、相手の顔は、よく見えない。

「捕まったねぇ。」

頭上から言葉が降ってくるようだ。

言葉とは裏腹。
相手の声に焦りはなく、余裕すら窺える。

「単刀直入に問うわ。これはあなたの物?」

手元の黄色い傘を、足元へ放る。
できれば、近寄りたくない相手である。

怖いわけではない。
が、
距離をとっておいて、しかるべきな相手だ。

「そう。」

「部下を使ったの?」

「怪しい。」

月光に照らされた、淡い黄色に飴模様が視界に入った。

「確かに、あなたには不釣り合いね。あのお金は?」

「餞別。」

「祝儀にしては、随分安いわね。」

「祝儀じゃない。香典。」

「舌を抜くわよ。牛タンならぬ、鳥タンね。」

ゆりの減らず口に、男は肩をすくめた。
どこか演技じみた動作でもある。

「今の堂長に。」

「贔屓?それとも、女に飽きちゃったの?」

男の纏う雰囲気が微かに揺れた。
笑っているようだ。

「贔屓じゃない。同情。

怪我無いは堂長だけ、でしょ。」


男の口角が、僅かに上がったのが見えた。

あぁ、やはりこいつの策略だったのか。
はちだけが、災難を避けられたこと。

いや。

災難の側から、避けられていたこと。

ゆりは僅かに、息をのんだ。
自分の憑場に、他者が関与しているのに、侵略の事実に気づけない。
できる者も、限られている。
だからこそ、この男は、特殊だ。

感情を押し殺した声で、言葉を紡ぐ。

「遠くから観察するなんて、随分趣味がいいのね。」

「今回だけ。」

観察が今回だけというのか、それとも、贔屓が今回だけなのか。

少なくとも、次回があるのだ、と示唆しているようだ。

「返すわ。もう楽しんだでしょう?」

「それなりに。」

男は楽しそうだ。
単語の端々に、好奇の色が見え隠れしている。

「今日はおしゃべりじゃないのね。」

「もう朝が近い。」

笑みを含ませた言葉に、偽りはなさそうだ。

「夜行性にはきついわね。」


ゆりは踵を返し、場を後にした。


傘を拾った男。幼児用のそれには、到底入りきらない体。

ゆりが立ち去る前、最後に言い残した台詞が思い出された。

「不自然だけど、普通の喋り方もできるんじゃない。」

ほんの少し、スズメの涙程度に、感情のこもった声だった。
男は睡魔に襲われた頭で、文字を選ぶ。

「慣れない。無駄口、避けるが吉。」

なんて、と、男は呟きながら内心苦笑する。
こんな目立つ所で、下手に口を滑らせるわけにはいかない。

自分から闇を破るわけにはいかない。

黒装束をまとった姿は、陽が明けるのを待たず、煙のようにすっと、音も無く消えた。

それはまさに、立つ鳥跡を濁さず。を体現するかの如くであった。

明るくなりつつある東の空に、鳥の鳴き声が響いた。




「おかえりなさいゆりちゃん!」

「…ただいま。」

真っ白い犬が駆けてくる錯覚。

ゆりは、黄色い傘を持っていた。

「あ、やっぱりゆりちゃんが持っていたんですね!」

「てめぇ…!一言言いやがれってんだ!」

これは、打ち出の小づちでは無い。
見た目はまったく同じだが、
本当の、単なる幼児向けの傘である。
本物は、本来の持ち主である男に渡してしまったからだ。

「ちょっと思う事があってね。」

「…まさか【ちょこれーと☆はうす】建造しちまったのか?」

はちは傘を受け取り、大事そうに抱えた。
恐る恐る問う彼に、ゆりは「さぁね」と言葉を濁す。

はちが、青い顔をする。さぁっと、血の気が引く音が聞こえるようだ。

その時、戸が開かれる音がした。
入ってきたのは幼い少年。黄色い帽子と鞄、それに、幼稚園指定の青い制服。

「あの、僕この辺りで傘をなくしちゃったんですけど。」

はきはきとした態度。
どこからどう見ても、黄色い飴玉模様の傘が似合う風体だ!

はちは素早く立ち上がり、立ちくらみを覚えながらも、少年に近寄った。

少々上擦った声と共に、少年に傘を差し出す。

「ほら、これだろ。こんな大事な物、もう失くすんじゃねぇぞ。」

と、そのとき。

一体何を思ったか、はちが傘を自分の目に近付けた。
眼鏡をかけ直し、じっと見つめる。

ゆりは彼の振る舞いに、違和感を覚えた。

もしや。

「…あ。これ…?」

はちが眉をひそめる。

ゆりは、はっとした。その感情の高まりは波風の立たない、自分にだけわかる程度だったが。

まさか傘が偽物だと、はちに気付かれたのか?
違和感は、確信に変わりつつあった。

一瞬にして、ゆりの頭脳の中で、そろばんが、はじかれる。
はちを察しのいい性格だとは、正直思っていない。
…まぁ、鈍感ほどではないかしら、との予断が、そろばんの邪魔をする。

もし気付いたのだとしたら、それはなぜなのか?
察しが良いのは、むしろしろの方だろうとの判断を、変更せねばならないだろうか。

原因を探るため、目をつぶる。
そして、合点がいった。
単純な話だと、ゆりは悟った。
偶然が生み出した、必然の結論。
判断の変更も、必要なさそうだ。

「こいつ直ってやがる。…あぁ、そうか。ゆり、直してくれてたんだな。」

「えぇ。だから、忌々しい金具は必要ないのよ。特に、銀色のは、ね。」

はちのポケットに、本物の傘の金具が入っている。
ゆりはたった今、それに気がついた。
今まで気づくのが遅れたのも、黒装束のせいだろう。
調子だけでなく、気までも狂いそうだと、ゆりは思わず下唇を噛む。

「あいつ、今度捕まえたら、ただじゃおかないから。
唐揚げにして、夜のおかずにしてやるわ。」


脳裏によぎった黒装束を、脳内に引きずり込んで、ぎったんぎったんに伸すゆり。
余った分は、肉を割き、粉をまぶし、高温の油で揚げ、店頭に並べればいいだろう。
美辞麗句を並べれば、もしかしたら、売れるかもしれない。
揚げ物の中身がなんであろうと、きっと人間は鶏肉と信じて疑わないだろうから。

言葉では、表現のしようがない。
いわゆる、年齢指定が入りそうな勢いになるのを、
ゆり自身、気が付いていない。
しかも。
自然と顔に笑みが浮かんでいることにすら、気付いていないようである。


「ほら、この金も持っていけ。」

はちが差し出す茶色の菓子箱の中には、傘から零れてきた金銭全てが入っている。
小銭がじゃらりと、音を立てた。
だが少年は、首を横に振る。

「僕、知らない人から物貰っちゃだめだって、母さんに言われてますから。」

歳不相応とも思われる、はきはきとしたもの言い。
はちも負けじと食い下がる。

売り言葉に、買われぬ言葉の押し問答。

その末期。

「だから!貰ってくれねぇと困るんだって!オレの存在が、
こいつで狂わされてんのは、間違いねぇんだからよ!」


小さな少年に食ってかかる、
何とも大人げないと評すべき、はちの姿勢に、
しろから言葉の鉄槌が下るのは、時間の問題だった。

「はちの存在なんて、彼の人生にこれっぽっちも関係ないでしょう!
自分の存在価値は、駅の自動改札に通れるか通れないかで判断してください!」


「オレの人生は線路上にはねぇ!
駅がありゃ、こんな、次元のずれた、ふざけた道を進んでねぇよ!」


「ちょっとだけ、かっこいい台詞だと思ったじゃないですか!」

「これが精一杯だ!」


「うるさい!」

ゆりが怒鳴る。はちの足元に浮遊感。
見事に掬われた。いや、掬われていた。

転倒、暗転、白い天井。痛覚。意識混濁、一歩手前。

しろが顔を覗き込んでくる。

「…はち、にやにやしてて気持ち悪いですよ。」
「…うるせぇよ。」

しろの指摘も否定せず、はちはしばし天井を仰いだ。
あぁ、悔しい。悔しいが。

これがオレなんだ。

「…オレは、ここにいるんだな。」

口元に笑みがこぼれ、留める事ができない。
そして、タイミング良く、腹の虫が鳴った。


結局、金銭は手元に残ったまま、少年を見送ってしまった。

「僕にくれたってことにしていいです。そして、僕が進呈したってことにしてください。」

見かけに似合わない思考回路と口調で、はちたちを説得した少年は、
深々とお辞儀をした。

「しっかりした子がいるんですねぇ。」

しろはほぅっと、感心したように目を細めた。

「だな。…どうすっかな、これ。」

「警察はまずいですし、募金したらどうですか?氷山募金がお勧めですよ。」

「そんな胡散臭ぇとこに募金するわけねぇだろ、氷山しろ。」

「なら、ちょこれーとを買いに行きましょう。」

「じゃあ僕は、アイスとラムネがいいです!」

「…仕方ねぇ。板チョコなら一枚、駄菓子なら100円までだからな。」

けちーとのユニゾンが、後方から聞こえるが、はちはそれを華麗に無視する。

まぁ、なにはともあれ、これで一安心だな。

はちの顔に、安堵の笑みが浮かんだ。


【終】

追記から、しょうもないあとがき

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あとがき

お付き合いくださり、ありがとうございました!
こんなところまで見てくれているなんて、感謝してもし足りません…!

梅雨が終わる前に、完結してくれてほっとしています←

長編は、短編よりもずっと難しい気がします。
描きたいところだけなら、話が見えないし、
文字が多くなれば、より周囲の描写をしなければならない。

だけど細かすぎると、説明っぽくなって流れがぐちゃーらになる。
…物書ける人って、すごいなぁ―。

言葉足らずでも、過剰でもなく、ちゃんと伝えられる人になりたい。

それが達成できるのは、まだだいぶ先になりそうですg(ry

なにはともあれ、次は短編を上げていきたいですv
まだ描きたいことは山ほどあるので。

お時間のある方は、ぜひぜひお付き合いくださいませv

あ、最後の黒い男も、機会があれば再登場します。


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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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