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『泡沫(うたかた)』

【はちの月企画 一日一短編】

お題④ 『泡沫(うたかた)』


朝から遥光の街が騒がしい。
どことなく浮足立っているというか、活気づいているというか。

「だって今日はお祭りですからね!」

しろの喜々とした声音に、はちは合点がいった。

そう言えば一週間前、ポスター片手に近所の子どもがやってきたなと思い出す。
許可を出した時の、少女のはにかんだ顔。
そうだ、ポスターには少女が描いた少々理解に苦しむが、
(恐らく花火とそれを楽しむ家族をモチーフにしているのだろう)
子どもらしく、かわいらしい絵が描かれていた。

黒蝶堂の表玄関には、今もそのポスターが張られている。

もうそんな時期なのか、とはちは腕を組んだ。
小さい頃はよく、じいさんに手を引かれて行ったものだ。

などと感傷に耽っている矢先、
表通りを浴衣の女性が通り過ぎ、アーケードへ吸い込まれていった。

「まったく、気が早ぇっつーの。」

今は昼前。当然ながら花火は夜からだ。

「始まる前の高揚感に中てられてるのね。」

「うわっ!」

堂長席に座るはちの隣。微かな気配も無く、いつの間にか迫っていたゆりが、
間髪いれず、ずいっと一枚の紙を差し出してきた。

「な、なんだよ。」

「招待状。」

いつもと同じ、無機質な声音。
半分に折り畳まれたそれを開けば、筆跡の美しい、流麗な文字が並んでいる。
黒蝶堂堂長様へ、との書き出し。

「花火見物のお誘い…一体どこからだ。」

「書いてあるでしょ。」

指摘され、下に目を移していく。
文末に書かれた、差出者。

「…櫻坂神社、か。」

思い出される、季節外れの桜並木。
ほのかと名乗る、自分を堂長と迎え入れた憑者。

ゆりの弾き返したナイフに刺さっていた、桜の花びら。

加えて現在、ゆりの視線が
自分の横顔に、突き刺さっているのをひしひしと感じる。

自然と、嘆息が出た。何か事情が、あるのだろう。

はっきりした根拠の無い、可能性の一つにすぎないが、

「…うちでゆっくり見るか。」

無用なトラブル、避けるが吉。
やはり根拠は何もないが、なんとなく、そんな気がした。

ゆりが微かに目を見開いた、気がした。
それでも、相変わらずの冷たい声音で。

「そう。わかったわ。」

と言うと、くるりと姿勢を翻し、奥間へと引っ込んだ。

夕方。

「こらぁ!深見ヶ原は憑者牡丹がやってきたんだぞ!」

どなり声と共に、ガラスの戸が派手な音を立てた。

「てめぇうちを壊す気か!…って酒臭ぇ!」

「まだ働いてるのか?!客も来ないのにか?」

「うるせぇ!」

「はは、きょうはぶれーぃこぅなんだぞ!」

肩を組んで来た異様なテンションの牡丹は、どうやら既に、”できあがって”いるようだ。

「騒がしいわね。」

外から帰ってきたゆりが、牡丹をはちから引き剥がす。

「どうせ神社で、昼から飲んでたのでしょう?」

「抜け出してきたんだ!ほら、持って来てやったぞ!」

背に下げていた風呂敷から零れ落ちた、大量のツマミと…。

「あ、甘酒?それにこれは…」

謎の茶色く、どろりとした液体。

「知らんのか。チョコチュウだ!」


夜。
買い物に行っていたしろが帰宅し、結局定時よりも早く店を閉めた。
しろは台所で軽食を作り、屋上へと持って上がっていく。

「遅くなっちゃいました。どこも人が多くって。」

「ほら、お前も呑むんだぞ!」

冷たい甘酒を、しろの頬にピタリとくっつけ、そのまま抱きつく牡丹。

「おぉ、たいおん低いなぁ!」

「すぐ元に戻りますけどね。」

「そうかそうか不思議だなぁ。まぁ呑め呑め!」

と、しろが絡み酒に遭っている時。

暗闇に光が灯された。城の真上に、大輪が咲いた。
遅れて届く、内臓に響く重低音。

「うわぁ、綺麗ですねぇ。」

敷かれたレジャーシートの上で、ちびちびと甘酒を口へ運んでいるはち
の隣に座ったしろが、目を爛々と輝かせた。背には牡丹を乗せたままだ。

「冷やした甘酒も、なかなかいけるんだな。」

「はち、ちょっとは風流を解したらどうですか?」

「お前にまっとうなツッコミをされる日がくるとはな。」

と言うと、また空が明るくなった。
遠くの城が、光に照らされる。

「昔っから人間は、儚いものが好きだな。あたしも好きだぞ。」

「桜に花火に、それから切腹。どれも潔いですよね!」

「並ぶにふさわしくないもんがあるだろうが。」




「いい加減に、仲直りしたらどうなんだ?」

席を外し、チョコチュウを手酌で傾けるゆりの傍に牡丹が寄って行く。

「あなたには関係ないわ。」

びしりと言い放たれたが、牡丹はそれでもひるまない。

「ぴきぴきした空気に、周りも辟易だぞ。」

「そうね、これこそ花火みたいに、『泡沫』のように消えてしまえば簡単なのにね。」

「気持ちも軋轢も、簡単には消えはしない、ってか。」

けらけらと冗談めかして笑う牡丹。

「そんな甘い物じゃなくて、ドロドロした、醜いものよ。」

自らの言葉に苦笑した彼女。
珍しく饒舌なゆりに、牡丹も楽しそうである。

「引き返せなくなる前に、さっさと和解することを勧めるぞ。」

「もうだいぶ、未来に来すぎたわ。」

「素直になる事も、大事だと思うぞ!だから、呑め呑め!」

御酌を注いだ牡丹は立ち上がり、花火に向かって叫ぶ。

「たーまやー!」

真似してしろが、

「かーぎやー!」

と継いだ。

図らずも、人びとの喝采が、遠くから聞こえてくる。
花火大会も、そろそろ終焉を迎えるようだ。

「なぁ。」

「なに?」

はちがゆりに歩み寄り、座り込んで話しかける。

「てめぇと櫻坂神社。昔何かあったのか?」

「盗み聞きは感心しないわ。」

「この距離で聞くなって方が難しいんだ。」

と、はちの空になった湯呑に注がれた、茶色の液体。

通称、チョコチュウ。

…つまり、チョコレートを溶かしたチュウハイらしい。略してチョコチュウ。

はちには、味覚が狂っているとしか思えないようで、

異様ともいえるほどの甘ったるい匂いに、激しく顔をしかめた。

「てめぇ!何しやがる!」

「余計な詮索は無用。今日くらい楽しみなさい。」

「…まったく。」

ゆりはお得意の、お高くとまった笑いをかました後、再び空に視線を移した。

「いつか、話す時が来ると思うわ。」

「え?」

その幼い横顔は、それ以上何も語らなかった。
はちは自らの後頭部を掻き、その場に寝転んだ。

【完】

櫻坂神社とはちとの接触は、本サイトに掲示してある小説にてお確かめくださいv
(めんどうですみません…)
関係無いですが、サマーウォーズ見ました。
蝉が早朝から鳴いていて、こっちが泣きそうでした 涙


追記からお返事です⇒夢さん
拍手だけの方も、ありがとうございますv


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夢さん

こんばんは^^
コメントありがとうございますv

なぜそれが起こりうるのか…これは考え始めたらきりがないですからねv
私自身も、しろ側の思考回路だと思います。
パソコンがなぜ動くのか?とか、きっと説明されても理解できないですから(笑)
動けばいいのさ!みたいな←

失くした物を見つけられる能力…これは実用的で、つかえますね!
気づいたら掃除を済ませている能力とかもほしいでs(殴)

好きだなんて…(照)ほんとに感謝です!がんばりますb
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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