『灰色の影』

知らないままのほうがよかった、って事を知ってしまったような気がする。
こんばんは、秋雨です。めっきり寒くなりました。
さきほど家の向かいでサイレンが鳴りまして、

「ついに捕まるのか。ここまでだな…」

と、意味のわからない事を思ったものです。
火事かと思って焦ったぜ!
ですが、パトカーとか警察官さんとか見ると、なぜか不安になります。

罪になるような事なんて、特に何もしてない…よね?

たくさんぱちぱちありがとうございます♪
非公開コメのお返事を追記からしてますのでどぞーです♪


↓↓てなわけで、本日分の更新です↓↓一話完結です↓↓

先にこちらを読まれた方がいいかもしれません⇒夕闇に流れる

【はちの月企画 一日一短編】

『灰色の影』

黒川はちは夜中に目覚め、暫くのタイムラグの後、着替えてこっそりと表へ出た。
到着したのは、街の端を流れる小川の脇。
小川の上には橋が架かり、その上から小川を北に南に見やれば、どちらも遠くに似たような橋が見える。
夜風が肌に突き刺さる。寒いと言うよりも、痛い。
なぜ上着を着てこなかったのか、と今更ながら後悔するが、やはり後の祭りだ。

人の気配はまったくない。ごくごく僅かな車の往来。
そのライトに照らされる橋の上のはち。
欄干に手を乗せると、異様なほどの冷気が指先から体全体まで冷やしていく。
小川を覗き込めば、街灯に光を反射させる水面がひどく暗く、
幾人もの苦しみを湛えたものののように思えた。

「なんてな。」

その声には覇気がない。
言いようのない罪悪感の様な胸中の重みに引き摺られ、水面へと落ちてしまいそうになるのを、
腹筋と足に力を入れ、なんとか耐える。

「遥光の夜は気をつけなさい。境界があやふやになるからね。」

祖父の口癖が耳に蘇る。何が危ねぇんだ、と呆れた当時の自分。
しかし今になって、なんとなくその意味がわかる気がする。

と、足元の橋。
その向こう側の水面が、石を投げ入れたかのように大きく揺れた。
はちははっと我に返ると、揺れる水面にごくりと唾を飲み込む。
そして踵を返すと、ゆっくりとした足取りで、ある場所へと向かった。

河原。
そよそよと水の流れる音。さらさらと夜風が草むらを揺らす音。
そこは、10数年前と変わらない景色ではちを迎えた。

柔らかな土の上に腰を下ろす。満月が綺麗な夜だ。

昔の夢を見た。
ただそれだけの理由で、ここにやってきた。

はちは脇に携えたスーパーのビニール袋から、緑色の細長い物体を取り出し、
地面に皿を置くと、その上にそれを横たえる。
棘が指に刺さるほど、青々しく、新鮮なきゅうりだ。
弁当用に製造されているマヨネーズの小袋を添えると、少々離れた場所にある茂みに身をひそめた。

「一体何をやってんだか。」

はちは息を吐く。意識は完全に覚醒していて、寝ぼけているわけではない。
夢遊病の類で、自分が何をしているか自覚がない、というわけでもない。
だが、この自らの行動には突っ込まざるを得ない。
何を得るわけでもないと言うのに。

観察し始めてどのくらいの時が経っただろうか。
しばしの自問自答にも飽きた頃。
はちは視界に一つの影を見つけ、体を強張らせる。水面が波紋を描く。
街灯の光は届かない。月からの光は反射し、小川の闇に飲み込まれる。

その影は、水をかきわけながらこちらに近づいてくる。
はちは場を動けない。
想像してはいたが、まさか本当に来るとは。
いつかの、あの晩が思い出される。

あの時は傍に祖父が居た。
幼い自分は、何が起こるのかさえ分からなかった。
だが、今は一人。
しかも、来る存在はおぼろげながらも何かわかる。

であるのに。

どうしても、腰が抜けてしまって動けないでいる。
視線は話せない…違う。離せない。
心臓が口から飛び出そうなほどの早鐘。
鳥肌が止まらない。
落ち着け、着座はしているんだから、心も座りよくなれ。

脳裏によぎるは、得体の知れない深緑色の、いぼのついた気味の悪い腕。
赤と青に光る、巨大な目玉のような物体。

暗い闇の中をゆったりとしたペースで進むその影は、目前の川岸に迫っていた。
呼吸が浅く、目にはうっすら涙。
こんなこと、あってはならない。
ありえねぇんだよ!と立ちあがって叫び出したい。
本当なら、立ちあがって叫んだついでに、走って逃げだしたい。

であるのに。

地面に体が縫いつけられたの如く、体が全く動かない。

緊張の糸が、ぴんと張り詰めた。

”彼”は水中から顔を出す事無く川岸にその腕を伸ばすと、あっという間にキュウリを
手に取り、すぐさま引っ込めた。
隣に置いたマヨネーズも、反対の腕でかっさらうかのように奪いとる。

残された小皿と、はち。



すべては、あっという間の出来事だった。



「な、なんだよ、大した事無いじゃねぇか。」



呼気の多い言葉が、自然と口から零れた。
四つん這いで前方に進む。
水底は覗き込めず、それどころか、皿に手の届くぎりぎりの位置までしか進めない。

「まったく、感謝の一つでも言ったらどうなんだっつーの。」

手を伸ばしながら、文句を垂れる。

だが、皿の端に指が掛かった時、”それ”は起きた。

水面が激しく揺れたと同時に、はちの右手首が強い力で押さえつけられた。


違う、押さえつけられたのではない。
手首が、水かきのついた両生類のような手に、掴まれたのだ。

冷たく、ぺたりとした独特の感触に、はちは言葉を失う。
力は強い。
足に力が入らず、水辺に引き摺られていく。
川岸でのせめぎ合いはひどく一方的なもので、服も顔も泥だらけだ。

「ここに一人で来てはいけないよ。神隠しにあってしまうからね。」

祖父の言葉が耳に蘇る。
そんなアドバイス、実践では何の役にもたたねぇじゃねぇか、と宛ての無いツッコミを飲み込む。
緑色の腕が水辺へ落ちる。
黒く、流れのある水が目前に迫った。

「くっそ…!」

はちに抵抗する気概が生まれたが、後の祭り。
力は圧倒的に相手が強い上、引きずるよりも引きずられる方がつらい。
姿勢もあちらが有利。
もう駄目だ。
ぎゅっと目をつぶる。瞼の裏に『灰色の影』が見えた。

「何をしてるの。しっかりして頂戴。」

聞き覚えのある声に目を開けると、自分を掴む緑の腕に、三本のナイフが立っていた。

…違う、ナイフでは無く、ペン先の尖った万年筆だ。

緑の腕は、全くの未練を残さず、あっという間に闇へと消えていった。

はちは手を自らへ引き寄せる。
手首にひどい痣ができているのがやけに生々しい。

橋の上に人の姿が見えた。
背後に月を背負った、でかいリボンの影が川岸まで届く。
それはふっと橋を蹴り、はちの元へと降りてきた。

「ごきげんよう、黒川はち。こんな夜中に一人で歩くなんて、命知らずも甚だしいわよ。」

「…ご、ごきげんよう。」

少女は相変わらず、一つも表情の浮かばない声音で言い放つ。
はちは少女が近寄ってくると、思わず後ずさった。

「あなたがここで何をしていたのかなんて、どうでもいいわ。」

「なら、なんで来たんだよ。」

「黒蝶堂から皿が一枚無くなったから。しかも、こんな夜中に。」

「たった一枚の、何の変哲もない皿を探しに御苦労なこった。」

はちは冷や汗を垂らす。
森で熊に会ってしまったような気分だ。
夜に一番会ってはならない存在と、会ってしまった。
そんな気がしている。

だが少女は皿を地から拾い上げると、くるりと踵を返す。

「だけど、お皿は回収できたから許すわ。」

「そんなに大事なもんなのか?」

「そうじゃないと困るわ。」

言葉の意図が分からず、眉根を寄せるはち。
少女・ゆりは皿を空へ放り投げ、再度キャッチすると、

「ついでに、あなたも見つけたから。」

ぽそりと呟くと、まっすぐに歩み始めた。

言葉の届かなかったはちは、彼女の後ろを不可解な表情で着いて行く。
もちろん、背後を振り返る事はできなかった。

【終】


まんねんひつこうげき!はお約束になりつつある…


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お返事

misia2009さん

先代支援しかと受け取りました(笑)
彼は私から最も遠い存在なので、あまり活躍させられず、もどかしい思いです。
…懐っていいですよねv
懐手って可愛いなって思います。

まさかしろに声優さんが…(●´ω`●)想像すると、楽しいですv
声優さんって本当に俳優さんなんだなぁって思います。ギャップがたまらないですよね。

はちにも言及ありがとうございます。
舞台裏では、はちが伊織にキレるバージョンも考えたのですが、
でも、こいつはそんなことはしないだろうと思って、あんな煮え切らない感じになりました。
ちょっとは らしさ が出てきたでしょうか…ドキドキ

過去の話はこんな風に、ちょろちょろ描いていきたいですね。
しろの話もゆりの話も、たくさんあるのでぼちぼちやっていきますv
支援ありがとうございました(●´ω`●)

きっと顧客リストはゆりが持っていると思いますv
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ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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