【雑踏のベル】

視力がた落ちのため、眼科の予定を入れました。

発端は、車道の信号と、下に浮かぶの矢印でした。
あれが合体して、赤いチューリップ(赤が花弁で緑が草葉部分)に見えたとき

「これはまずい」
と思いまして。

すっきりした瞳で、新年を迎えられそうです。

ってなわけで、小話更新。
本日の御題は「雑踏のベル」。一話完結ですので、さくっとどうぞv


【はちの月企画 一日一短編】

『雑踏のベル』


かんかんかん。
遮断機が下りる。遮り断ち切る機材が、自分とあちらの世界を強引に裂く。
あちらの世界のその先、その向こう。

――先代堂長、黒川伊織が居た。

目を疑う。彼は三年前に死んだのだ。
彼の痕跡は、黒蝶堂の内外問わず、あちらこちらに残っているのに。

だが目前の彼は、余りにも自然に、風景に溶け込んでいる。

白昼夢?それとも幽霊?
いや、違う。
彼はすぐそこに立っている。
生前と同じたたずまいで、微笑んで、手招きをしている。

その唇が、ゆっくりと弧を描く。

「さぁ、おいで。ゆり。」

本物でも幻覚でも、もうどうでもよかった。
――手を、伸ばした。

「おい、どうした。ゆり?」

はっと我に返る。
若かりし頃の伊織に類似した声質は、”彼”を”彼”と錯覚させるには十分なのか。

気がつけば既に遮断機は空を指し、夕方の往来激しい人通りは『雑踏のベル』とも呼べる程、
騒がしく耳障りな雑音となっていた。

白昼夢?それとも幽霊?
いや、違う。
あれは記憶だ。昔この通りを彼と歩いた時の名残が、この場に染みついていたのだろう。

「珍しいな、ぼんやりするなんて。」

「これは何?」

「あ?」


見ずとも感触で解る。
左の手首が、はちの右手に掴まれている。
はちは溜息一つ。

「電車が来るって警戒音がうるせぇのに、てめぇが止まらねかったからだろうが。」

「そうだったかしら。」

「そうだっての。」

「……」

しばしの沈黙。

「…なんだよ。」

「あなたは伊織さんじゃないわ。」

他者から無感動と称される語調を飛ばしてみる。
突然挙げられた祖父の名に、はちの瞳孔は僅かに揺らいだ。

「…当たり前だ。悪かったな。」

予想通り、ばつが悪そうに、はちはそっぽを向いた。
これほどまでに次の仕草が予測されやすい人間も、そうそういないだろう。

「でもあなたは、私を制御したわ。」

「そらそうだ。」

「だから、私はこの道を通れるの。」

「…論理が飛躍しすぎて、意味不明になってるが。」

はちの不可思議な表情に、答えを与えず歩き出す。
手を離すタイミングを逸したのか。
彼は、半ば引き摺られるかのようについてくる。

「たまには自分で考えて頂戴。それが堂長の仕事よ、黒川はち。」

踏み切りを、横断していく。
伊織の姿は、どこにも見当たらなかった。



彼の声で白昼夢も、幻覚も消えた。
その瞬間、記憶は、過去となった。

――やはりはちは、黒川の人間なのだ。

今更だが当然の事実に、緩む口元。
波風一つ立たない、穏やかな水面。
そこに突如として投げ込まれた石。
その変化に不安と期待が交錯する。

――この高揚感は、紛れもない本物だ。

足元覚束ない青年を見返り、じっと観察してみせる。
眉間にしわの寄った彼と目が合い、思わず口走っていた。

「はち、早くここまで来て頂戴。早く、必ず。」

【終】

珍しくゆり視点でお送りしました。
彼女の言う”ここ”にはちが辿りつける日は、いったいいつになるのやら?
お付き合い下さり、ありがとうございました。


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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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