【終わらない夢】

今年もあと3日。もういくつ寝るとなんとやら。

ちなみに、今日はきちんと正月を迎えるために、ブルーな気持ちで徹夜です…。
オススメなBGM募集中。

さて、今回の話は、これの後日談です。
あらすじを作ってみたので、参考までにどうぞ。

あらすじ
夏の終わり、黒蝶堂は床上浸水の被害を受け、大量の本がダメになってしまった。
それはゴーグルの少年の仕業であり、はちの窒息死も謀ったそれは、ゆりに対する復讐の意味を含んでいた。
雨上がりの翌日、ゆりは、はちを誘ってとある場所に向かうのだが…。


【はちの月企画 一日一短編】

【終わらない夢】


雨が上がり、イカ料理が並んだ夕飯。

その翌日。
時計の針は10時を指す。

「行くわよ、はち。決着を着けるの。」

ゆりは肩に下げたポシェットに、引き出しの物を仕舞う。
なんだろうか。
そう思う間もなく、堂の入り口で足を止め、振り返る彼女に、半ば引き摺られるようにして連れてこられたのは、いつかの川岸。
ゆりはどこから取り出したのか、どう見てもポシェットには入らないキュウリと、
これまたどう見ても、到底入る大きさでは無いリールの付いていない原始的で簡素な釣り竿を釣り針に突き刺した。

ゆりは上体をねじり、その釣り針を川へと投げ込む。その柄を渡され、強引に握らされる。

しぶしぶ受け取り、草むらに座って当たりを待つ…当たるわけねぇだろ。
魚にだって好みはあるだろうし。一つの光沢もない野菜になんざ、食いつくわけが…。

しかし、暫くすると水面が揺れ、針が沈む場を中心に描かれた渦は徐々に大きくなっていった。
状況把握に戸惑う間もなく、強い力によって体が川辺へと引き寄せられる。
反射的に、しなる竿を引く。

嫌な予感は重々していた。

暫しの力勝負。
そいや!と力任せに振り上げれば、水面がぐしゃりと歪み、そして。
赤と青のゴーグルが陽に照らされ、光が反射する。
水しぶきが舞い、空中に投げだされた少年の姿が眼鏡越しに見える。

思わず釣り竿から手を離してしまった。

反動で、地上に叩きつけられた彼は、うつ伏せの態勢で微動だにしない。
口にくわえるは、どう見てもキュウリ。
口の端には、釣り針が突き刺さっている。

「だ、大丈夫か…?」

激痛が走っているだろうその箇所は見ないようにし、少年に話しかける。
少年は頭を抱えながら、上体をゆっくりと起こした。
ゴーグルがずれ、下から覗く瞳と目があった。

瞬間、彼は慌てて背を向け走って行く。
いそいそとゴーグルを掛け、再びこちらを向いた。

「軟弱なあなたが二度とうちを襲えない様にしてあげるわ。感謝して頂戴。」

「はっ、たかが本屋の童子が笑わせるな。」

「あなたに言われたくないわ。偽物の零落童子さん。」

薄い笑みが浮かぶ少女の口元。対照的に、ぐにゃりと歪むのは少年の顔。

「偽物の零落童子…?」

言葉の意味は、まったく理解できなかったが、
少年の癪に障る言葉を、少女は投げかけたようだった。

「はっきり言ってあげるわ。――この、”できそこない”」

次の瞬間、少年は手にしていたキュウリを地に放った。
長靴が地を蹴り、こちらへまっすぐ走ってくる。

「私の居場所を奪おうとした代償、きっちり払ってもらうわ。」




少女は大きな本を取り出し、少年の蹴りを防いだようだ。
見えたのは両者が交錯し、静止した時になってから。

目で追うのが、精一杯だ。

彼が触れた箇所が、切り傷が走った痕のように、ビリリと裂けていた。

脇から覗くと、ゆりの目が、赤く光っているように見えた。

ゆりは楽しげに問う。

「知ってるかしら?目には目を、歯には歯を。裂傷には…?」

近づいた少年が体勢を整える前、彼女の手が斜め方向に空を切った。




信じられなかった。
次の瞬間、少年の白いTシャツが、真赤に染まったのだ。

力無く、膝から崩れ落ちる少年。
ゴーグルが割れ、中から赤と青の液体が流れ出していた。
Tシャツの赤色は、その液体が原因のようだ。
赤と青が混ざった紫が、足元の草むらを濡らす。

血では無い事にホッと胸をなでおろす。近寄り、大丈夫か、と問う。

しかし、どうも少年の様子がおかしい。
ガタガタと体を震わせ、だらだらと脂汗をかいている。

抱きかかえれば、泡を吹いている。
ただゴーグルが割れただけというのに、一体どうしたと言うのか。
微動だにしないその小さな体から、体温が急速に奪われている。

ゆりは、振り上げた右手に握っていた何か…おそらく凶器をポシェットに入れた。
焦点の定まらない瞳を揺らす少年を見下げて、

「あなたがちょこれーとでも持っていたら、話は別だったけど。」

無表情で、ぽつりと呟く。

「自業自得。今は身の不運を嘆きなさい。」



「朝ですよ!」

飛んできたのは覚醒の合図。
続いて、カーテンのレール上をおもちゃの車が走るような音。
眩しい光が、閉じた瞼の上を満遍なく覆っていく感覚。

布団からはみ出て、畳の上に直接寝転んでいた。
起き上がる。首が痛い。
手に在った感触が、思い出す猶予を与えられる間もなく脳裏によぎる。
その手をじっと見つめる。

「はち、手のひらに落書きでもされてましたか?」

「いや、これは洗っても落ちねぇかもしれねぇ。」

「…?」

しろの怪訝そうな表情は、珍しい。これは、収穫だな。
そうでも思ってねぇと、気が狂ってしまいそうだ。

起床、洗顔、新聞、朝飯。すべてが夢と一致。
なんとも気味が悪い。まさか、本当に起こってしまうのか。

だとしたら?ありえねぇ。でも?ふざけてるのか。

振り払いきれない不安に、そわそわと落ち着かない。
この座布団、座り心地が悪くなったか。

そして時計の針が10時を指した。

「行くわよ、はち。」

――来たか。

これは『終わらない夢』なのか。
そうだとしたら、とびきりの悪夢だ。

「決着を着けるの、か?」

先取りして言ってみれば、ゆりはポシェットに荷を詰める手を止め、じっとこちらを見た。
そして、ひと言。

「それは、私の台詞よ。」

強い視線と共に、彼女は冷笑を浮かべ答える。
その表情に、背を冷たい生き物が這う。
体温を失っていく、腕の中の少年。

――あれは、夢なのだ。だが、目に残る近視感がどうしてもぬぐえない。

彼女は手早く、銀色に光る針と糸をポシェットに仕舞うと、それを肩に下げ、先を歩き始める。
その後ろ姿を見送ると、堂長席、上から2番目の引き出しを開け、隠してあったチョコレートの欠片を上着のポケットに
こっそりと忍ばせた。

いざとなったら、こいつで釣ればいい。

もちろん、川の少年では無い。目の前の、赤いリボンの少女を、だ。

彼女が堂の入り口で足を止め、振り返る直前。

「さっさと行かねぇと、獲物が逃げちまうぜ。」

足早に歩を進め、ゆりの隣に並ぶと、彼女を急かすように外へと出た。


【終】

いわゆる、ゴーグルが本体。

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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