【黒蝶】

かこちゃん

カコのドット絵です!
これ、すごく可愛い。
作ってもらっちゃいました。
あざーっす!

はちの月企画も今日で終わりです。
な、ながかった・・・。
お付き合いいただき、ありがとうございました★

皆様、よいお年をお迎えくださいv

【はちの月 一日一短編】

【黒蝶】


電話から漏れる声。

「そちら、くろちょうさんですか?」

「いいえ、こくちょうどうです。」

「あぁよかった。もしくろちょうさんじゃなかったらどうしようかと。」

「だから、こくちょうどうですよ。」

「私、ずっとこくちょうさんだと思ってたんですよ。おかしいですよね。」

「……おかしいですよね。」

――この状況がな。
馬耳東風とはこの事か。彼女の耳はもしや馬の耳なのか。
電話の向こうは牧場か競馬場か何かなのか。我が道を行く高飛車なサラブレッドなのか。

はちは受話器をペンに持ち替え、もうウンザリと顔に書きたくなった。
別に店の名前を間違えられたからと言って、腹を立てているのではないが、
やはり同じ事を繰り返し指摘するのは気後れするし、第一面倒だ。
声色に話を聞けと言う色味をつけられたら、まっさきに耳に突き刺さって都合がいいだろうに。

「あの、くろちょうさん。」

「…はい。」

性質の悪いいたずらなのか。彼女の声に歯切れ悪く応じるはち。彼女は逡巡するように間を置く。
その間さえもどかしい。

「…あの?」

はちは眉をひそめる。無音が耳に取りついたからだ。
馬なのか、人なのか。
もしや彼女は出走してしまったのか。彼女の馬券が人を救い、地獄へ落とすのか。
それとも、のどかな牧場で子どもと触れあっているのか。
そんな事を考える余裕が横たわっている程、沈黙は長い。

そんな想像にふけっていると、気配が戻ってきた。

彼女は唐突に

「頼みたい本があるんですけど、いいですか、くろちょうさん。」

穏やかな口調で言葉を紡いだ。



「なんでございましょうか。」

予想だにしない事を言われ、違和感丸出しの敬語になってしまった。
いや、本屋に掛けているのだから当然、予測すべきお問い合わせ、ってやつなのだが。

先程までの澱んだ気分はどこかへやらに消えて行った。
注文を受け、在庫と代金を確認する。
受話器を置く。リンと高音が、堂内に反響した。
明日には取りに来ると言う。

数分前は馬車を引く馬のイメージだった彼女が、今は馬車に乗ったお姫様のように思えた。

「…それは言い過ぎだな。」



「現金な子ね。」

堂内、はちの腹を察したゆりは薄く笑った。


「なんでじいさんは、『黒蝶』だとか読みにくい名前にしたんだ?地名でもねぇし、洒落てるとでも思ったのか。」

本棚上でページをめくるゆりに問う。
彼女は指先の動きを止め、無表情の白い面持ちではちを見た。

「…黒蝶堂は、伊織さんの命名によるものではないわ。」

静かな声音。高い位置にいるため、はちを見下しているようだ。見降ろしてはいるが。

「そうなのか、初耳だな。」

はちは驚く。

「なら、てめぇがつけたのか?」

ゆりはかぶりを振る。

「私でもないわ。」

「なら誰が…」

はちが言い切る前に、再び書物へ目を落としたゆり。どうやら、答えるつもりが無いらしい。
はちは、宙ぶらりんとなった疑問を、溜息で吹き飛ばした。

【終】
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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