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【小話】緑茶の話【更新】

【緑茶の話】

午前中に電話予約の客が来店し、
「本当にあった!信じられない。」
感嘆符を発散させながら、上機嫌で5冊ほど買って行った。

その日、午後三時の黒蝶堂。

「お茶って、どうして緑なのに茶色なんですか?」

「逆だ。緑色なのになんで茶なのかって事だろ?」

「緑茶って、矛盾してるように思うんです。」

「確かに緑色で茶色…って、手元見ろ手元!」

しろが傾けていた急須から湯呑を経て、溢れた緑茶が、テーブルへ。足を伝わず空へ放たれた水滴は落下し床へ。
ぼたぼたと流れ落ちていく。

「お前がしろって名前でも、たまには腹黒い事を思ったりするだろ。」

「そんなことないですよー」

台拭きを働かせるしろは、表情に影一つ浮かべず、爛漫な笑顔で返す。

「それと同じだ」

はちは彼の言葉を真に受けず、うんうんと頷きながら断定した。
しろは茶菓子のせんべいに手を伸ばし、

「という事はつまり、はちが”八”なのに、少しも末広がる気配が無いのと同じですね!」

こぎみいい音を立てながら、咀嚼した。

「お前がその発想を少しも悪気なく口にしたっつーんなら、それはもう才能の域だろうな。」

はちは、うんざりだと言わんばかりに溜息をついた。
一方、しろは「才能だなんて…」と食べるスピードを上げた。

どうやら照れているようだ。

嫌味が通じない相手というのは、意外と厄介である。

「で、結局、緑茶はなんで茶色なんですか?」

爛々と目を輝かせながら、テーブルに手をついた体勢で体を乗り出してくる。
その横面を邪険に振り払い、眼鏡を押し上げる。

「辞書を引けばいいと思うぜ。お前の才能が、努力で磨かれるぞ。」

適当にあしらったつもりだった。
だが、しろは翡翠色の目をきらりと輝かせ「確かにそうですね!」直ぐに席を立った。
堂内に消えた彼の後ろ姿を見送って、はちは茶を一口啜り一言。

「まったく…困った奴だな。」

「そうね。」

予想外の冷たい相槌。
気配を全く感じさせない背後からの声に、喉の奥が痙攣した。

「妙な鳴き声ね。」

「…てめぇが普通の登場をしてくれれば治るんだがな。」

背後霊のように音も無く存在する少女は、はちの向かいに座った。
はちは居住まいを正し、咳払いで間を取る。

「あなたにも辞書を持ってきてあげましょうか?」

珍しく殊勝なことを言うゆり。

「いや、大丈夫だ。黙っていても、あいつが教えてくれるだろ。『聞いて下さい!すごくないですか!』とか言ってな。」

容易に想像できる。数分後の出来事だろう。
すると、ゆりは焦点をはちに合わせ、

「あら。やっぱりあなたも、知らなかったのかしら?」

淡々と告げた。
――どうやら嵌められたようだ。
苦々しい思いを言葉にする事も出来ず、はちは返す。

「…お茶を濁すのは、得意なんでね。」

湯呑を口につけたゆりは「美味しいわ」座布団に正座したまま、はちを視界に入れることは無かった。
はちは居た堪れない気分になりながら、しろが置きっぱなしにした台拭きで机を拭いた。

白い台拭きには緑茶が沁み込み、淡い茶色が広がっていた。
緑茶の温かみが、はちの傷心にしみこんでいった。


【終】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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