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【小話】しろとアイスの話【更新】

【しろとアイスの話】

「この寒いのにアイスなんざ食いやがって。お前の神経疑うぜ…」

「はちも食べたいんですか?」

指先の感覚が無くなるほどの鋭い寒さが、黒蝶堂全体を覆っている。
そんな中、しろはコタツに入り、木製のスプーンでカップのバニラアイスを掬っては口に運んでいる。
その様を、はちは同じくコタツに籠り、肩肘ついて見ているところである。

「オレは、自分の神経を信じてるんでね。」

『見えないものは信じねぇ!』っていつも言ってるじゃないですか。」

しろによるはちの物真似は、なかなか似ている。

「それはそれ、これはこれだ。」

「あ、もしかしてはちの神経ってコレじゃないですか?!」

急に立ち上がり、姿を消したしろ。
台所より駆け戻って来たその手には、夕飯の残りが載った白い小皿。
白い巻状の物体から、あたたかな湯気が登り、空気に溶けていく。

「…そりゃどう見ても、糸こんにゃくだ。」

「ぼくも糸こんさんの美味しさを信じてますよ!」

無邪気に笑うしろ。

「…そりゃよかったな。」

はちに、ふわぁと欠伸が出た。夕食後はやはり、眠たくなるものだ。



それから暫くして。
向かい合う二人を両隣りにした位置でコタツに入り、本を読んでいたゆりは顔を上げた。

「騒がしいわよ。」

視界に入ったのは、机を介してあーだこーだと言い合う二人。
その姿に叱責を加えると、右隣りのはちがゆりへと顔を向けた。

「こいつが『外気の温度と体温が同期してるんです!』だなんて言ってんだよ。百歩譲ってそうだとしても、どんな身体構造だっての。」

はちによるしろの物真似は、あまり似ていない。
呆れ顔を浮かべ、鼻で笑うはちは、やれやれだなと一蹴する。

「ほんとうですって!」

今度は、左隣のしろが頬を膨らませる。
ゆりは頷き、目を本に落とした。

「確かに。しろが冷菓を食すと堂内の室温低下が認められるわ。若干だけど。」

「は?人間から発散される温度で室温が?ありえねぇよ。あれだろ、『見てる内に寒くなってきた』ってやつだろ。」

「見て頂戴。」

ゆりの右手が本の中に溶け込んでいく。
水面のように、ページが波打つ。

波間を縫って戻ってきたその手が持つは、学校にあるごく普通の室温計。
少々の間の後、彼女は無表情で、今何℃かしら?と、はちに問う。
目の前で起きた事象に、脳内が処理落ちを味わっているはちは、目をぐりぐりと拭い、目盛りを読んだ。

「12℃だな。寒いな。」

すると彼女は、今度はしろに向かって、アイスを食べるよう指示を出した。
了解です!と喜び勇んで口に冷菓を運ぶしろ。
彼の様をぼんやりと見ていたはちが、ゆりの呼びかけに視線を戻す。

思わず温度計を二度見した。

ゆりが持つ室温を示す赤い帯が、ゆっくりとその背丈を下げていくではないか。
少々の間の後、彼女は不敵な笑みを浮かべながら、今何℃かしら?と、はちに問う。

「10℃…!嘘だろ、偶然だ!それか、ねつ造だろ!?」

「私はどこぞの考古学者じゃないわ。なんの利益も無いもの。」

今度はしろを見やったゆり。
身体を乗り出すと、白い彼の額に小さな手を重ねた。そして、軽く頷いた。

「しろ、あなた体温が下がってるわよ。」

「ですよね!」

一方のしろは体調を崩した風も無く、嬉しそうに笑うのであった。



「見て頂戴。冷菓を食べてるしろの周り。きらめく粒子が浮いてるでしょう?」

「あぁ、見えるな…」

納得いかねぇと頭を抱えるはち。
そんな彼に対し、席に戻ったゆりは夢中でアイスをむさぼるしろを示す。
彼の肩周辺から、キラキラした粒が出現している。

「しろが冷菓を体内に取り入れると、体が冷やされる。その冷気が拡散されて、周囲の温度が冷却効果に遭う。結果、凍った空気が電灯に反射して輝いて見える。つまりしろは室温を下げている。以上証明終了。」

「なるほど。…え?」

それらしい言葉運びに弱いはちは一瞬、そういうことか、と言いかける途中で我に返った。
つまりそれは…

「言うなれば、人工の氷ね。」

はちの内心を読み取ったのか、ゆりが先に答えを掲示する。
両者のやり取りを聞いていたしろは、慌てた仕草でアイスのカップをテーブルに置いた。

「もしかして、雪をいつでも降らせることができるんですか?!」

「訓練次第ね。」

思わず目を覆ってしまいたくなるほどの眩しい笑顔がはちに飛ぶ。ゆりは冷静に分析しているようだが、そうは言っても腑に落ちるわけも無く。

「ちょちょちょっとまてい!お前、人間か?!」

はちは突っ込まざるを得ない。そんなに身体が冷えるとしたら、心臓すらも止まってしまうだろうに。

「見ててください!この街を一晩で雪景色に変えて見せますから!」

そして、安定のスルー力を見せたしろ。両手を広げ、新たなおもちゃを手に入れた子どもの様に喜んでいる。

「現在進行形で雪景色だ!」

表を見てこい!と付け足すはち。青筋を浮かべながらの必死なツッコミであるが。

「そんなお堅い思考回路なんて、一瞬で凍らせちゃいますよ☆」

「いい歳して語尾に☆をつけるな!」

跳ね返ってきたのは、くやしい程サマになっているウインク。
やはり、はちの訴えは、白い彼には届かない。

しろが雪を降らせるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうである。


【終】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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