スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【冬の朝の話】

【冬の朝の話】

シャキシャキシャキシャキ。
規則正しいリズムで右後頭部より左後頭部へ進む刃先。
その銀色が通り過ぎれば、自分だったものが胸部辺りで反り返るチラシに落ち、パラパラと音を立てる。

――良くできてるもんだ。

外気は肌を刺すように冷たいが、風はゼロ。簡易散髪装置の起動にこれほど適した日もそうあるまい。
見てくれこそ不格好だが、機能性はなかなかのものだ。
階下より運びこんだパイプ椅子に腰かけたはちは、街の奥に追いやられた山を眺め、集団で暖を取っているのかのごとくに密集し立ち並ぶ木々を数える。
うつらうつらと徐々に失われゆく意識に対する、ささやかな抵抗だ。
山肌近くの空が白んでいるのが見える。
冬の空に白い雲が眩しい。
背後で流れ続ける妙な旋律の妙な鼻歌が、さらなる眠気を誘う。

――そんなとこまで似なくていいっての。

自然と苦笑が浮かぶ。

「うまくなったでしょう?」

消えかかる意識の水面に石を投げられ、はちは潜めた眉の下にて言葉を咀嚼する。

「バイエルからやり直すんだな。」

「沖田総司じゃないんですから、さすがに厳しいですよ。」

「何を言ってんだ。」

「え?」

「は?」

ハサミの音が止まる。
寝ぼけ頭とボケ脳の衝突に、両者の話が食い違う。

――そうか、歌唱力じゃなくてハサミの腕前か。

はちが眼鏡を押し上げると、しろは彼の前に移動してきた。

「【音階を会得して、音速で切れ!】ってことでしょう?」

眩しい程の笑顔と共に手持ちの鋏で、手元より左上方へ空気を切り裂くしろ。
そのスピードに、ひゅう、と音が鳴る。
こいつに刃物を持たせるのは警察沙汰に繋がるのではないか。
はちは今更ながら、身の危険を案ずる。

「そんな勢いで切ったら、髪より先に首が飛ぶだろうが!」

やっちゃいましたと笑うしろの前で、血を流す自分の姿が容易に想像できる。

「大丈夫ですよ、痛いのは一瞬ですから。」

恐ろしい事を平然と言ってのけるしろに、はちは言葉を失う。
一方のしろは相も変わらずにこやかな顔で、ぽんと手を叩いた。

「美容師の沖田総司って、流行りそうじゃないですか?」

そして、「彼、美男に描かれることが多いですしカリスマになれますよ!」と続ける。

「…オレなら、絶対その店には行かねぇな。」

――今のご時世、サカヤキなぞ流行らねぇだろうよ。

「ならば、本日はいかようにしますか?」

おどけるしろに、はちは答える。

「適当に見栄えよく頼む。」



【終】

スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。