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白骨取扱専門店黒蝶堂 5

板敷の上で自らの右足を踏みながらも、何とか靴下を脱いだはちは、慌ただしく庭先へ降りた。
ぺらぺらのサンダルを引っ掛け、しろの隣を通過し、液体を足裏に感じながら、隅の菜園へと走る。

しかし、一歩も二歩も遅かった。

そこは集中豪雨が襲ったかの如く大きな水たまりと化しており、青い液体からのぞく赤いイチゴの実が
海の沖合に漂う”浮き”と見紛うかである。
透明の水は土を透過し、水底に沈んだ絡み合うツタが、遥か昔、この場所に在り滅亡を迎えた古代都市の城塞のようにさえ見える。

がくりと膝から折れたはちの向こうに、ばしゃばしゃとはしゃぐしろの姿がある。
はちは完全に生気を失った瞳で、音の鳴る方を見やった。

すると、どうしたことであろうか。
振り返ると、しろの顔が霞んだ。
脳みそが半分眠りに落ちたかと錯覚しそうになる、唐突な障害が発生した。
眼鏡を取り、袖で拭いてから掛け直す。
水面より立ち上がる白い湯気が付着し、真っ白に視界が覆われていた。

しろは躊躇いの欠片も見せず、その左手を液体に浸け、空へと放つという遊びをしていた。
キラキラと反射する青い水の粒が、はちの眼鏡に映る。
しろは腕まくりをしたままで、靴がずぶぬれになっているにもかかわらず楽しそうである。

そして、はちが気の付かなかった事項をあっさりと指摘した。

「これ、あったかいですよ!温泉に違いないです!」



はちは恐る恐る、しろの傍へと近寄り、彼の掘った穴を見つめた。
湯気と共にこんこんと湧き出る温水の様は、確かに温泉のそれであるようにも見える。
人工の着色料を染み込ませたかのごとき青色を除けば、の話であるが。

「…なんか気持ちわりいな。」

はちは呻くように声を絞り出した。

「そうですか?とても綺麗ですよ!」

対照的に、しろは目を輝かせる。
その左手が、水底付近を指差した。

「ほら!自然豊かなところには、希少な生き物が棲んでるんですよ。」

あ?今掘ったところに生き物がいるだなんて何かの見間違いだろう。
きっと、水に呑まれた虫の死骸か何かだ。
それでも腕をぐいぐいと引かれるので、指差す方をしぶしぶ見てやる。

…危うく、”目”を取り落す所だった。目から鱗、ではない。
そもそも鱗が無かった。

そこに泳ぐは確かに生き物だ。群をなし、一定の方向に向かって波間を漂っている。
だがしかし、何かおかしい。
そのままを言うなら、それは…

――水中を泳ぐ、白い魚…の骨。しかも、奥深い水中下にて大量に泳いでいるようである。

彼らの身体を繋ぎ止めるは、周囲の青い液体であろうか。
バラけることなく、彼らが骨だけで動いている。それは事実か?
いや、そんな事があるはずがない。
そんな非現実的な生き物が、この世にいるわけがない。
まるで、魚の死骸…ゾンビが意思を持って動いているようではないか。

考えれば考えるほど、魚の骨たちの持つ落ちくぼんだ黒い眼球の跡が、心に迫ってくるようで息苦しくなる。
はちは手近にあったビニールシートを穴の先端に掛け、さっさと黒蝶堂の縁側に足を向けた。

――三十六計逃げるに如かず…って誰の台詞だったか。

混乱する脳内では、何を考えてもまとまる予感すら見当たらない。
一端眠りに落ちようと、はちは考えた。きっと、これは夢なのだ、と。


【続】

続き⇒白骨取扱専門店黒蝶堂 6


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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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