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【(よくない)共犯者】

【(よくない)共犯者】

夏の朝9時。
ゆりとはちは早朝より出掛けており、黒蝶堂はいつも通り客足遠く、それでいて蒸し暑い空気が垂れ込めていた。

「暑い!足りない!干からびてしまう!」

「こんにちは、カコちゃん。」

「うわっ!人間・・・!?」

堂前にて打ち水をしていた留守番担当のしろは、放った単なる水から形成された少年の型に、躊躇無く話しかけた。
彼の右手の肘から先が液体のままに、まるでロウソクのろうが溶けかけているかのごとく、肩から垂れ下がっている。

「冷たいお茶でもどうですか?」

しろは顔見知りの少年に、涼しげな顔でにこっと微笑みかける。
一方のカコは右手をかばい、警戒心むき出しで睨んでいる。

しかしながらも、しろの人当たりの良さそうな雰囲気に圧され、結局折れたカコは、堂内へと案内されることになった。



見せたい物があるんです。
客間で冷たい麦茶と、よく冷えたキュウリを振る舞われた後。
屋上に通されたカコは、陽の当たる場所に大々的に造られた家庭菜園の前で息を呑んだ。

「キュウリが!こんなにたくさん出来てる!」

これ、はちの趣味なんですと、しろは説明を加える。

「実ははち、野菜一個一個に名前を付けてるんですよ。本人はバレてないと信じてるみたいですけど。」

見ちゃったんです。
はちが「今日もいい感じだな、○○」って呼んでる所を、と。
優しげに微笑むしろは、唖然とし、口を開きっぱなしのカコの返事も聞かず続ける。

「はちは諦観主義者を装ってますから、滅多な事じゃ本気で怒ったりしないんですけど」

そして、青い空を青い瞳で仰いだ。

「菜園に干渉したら、一発でどーん!ですよ。」

どーんとは一体・・・きっとよくない事が起こるんだろうと、カコは唇をとがらせる。
昔から、普段怒らない奴が切れたら手が着けられないと言うが、堂長もその類なのかもしれないな。
彼は、つい最近堂長に就任したとか言う黒川はちの生態に興味を覚えた。

そして、それ以上に、目前の白い男は何者なのだろう。
訝しげな瞳で観察してみる。妙に、そして常に上機嫌を保っているが、朝っぱらから酒でも呑んでいるのだろうか?

白い彼は人差し指を立てる。

「もっと僕の事で怒ってくれてもいいのに!」

「怒られたいのか?」

解ったことは、どうも変わった奴のようだという事だ。
カコは自分の上司に怒られた時の重苦しい雰囲気を思い出し、げぇ、と舌を出し、吐くポーズをとった。

「だって言うじゃないですか。怒られる内が華だ、って。」

「そういう意味じゃないと思うけど。」

「カコちゃん。」

「何だ?」

「だから、僕らは共犯です。」

「へ?」

その時。
ばたん!と、地を揺らすような激しい音がした。
二階と屋上を繋ぐ唯一の扉。
噂をすれば影、か。

片手にスコップを持つ堂長が、その前に立っていた。

「言ったじゃないですか。」

怒られたい、って。
とんでもない事を言い出す彼は、しかし顔色一つ変えず、平然と佇んでいる。
カコは訳も分からず、乱暴な足取りで、近づいて来る堂長を見やる。眼鏡のフレームがギラリと光っている。

「ずいぶん早いお帰りでしたね。」

「予定調和の為の、予定変更だ。」

「はちの河太郎を食べちゃったのは、カコちゃんですよ!」

「「なに!?」」

カコとはちが同時に声を上げる。

聞いていない!

確かに、先程のお茶の時に出されたキュウリは瑞々しくて旨かったが、それが堂長の育てた大切な物だったとは。
もしかすると。

「お前たち、僕をはめるために謀ったな!」

そうだ、白いこいつは僕を陥れる為に堂長のキュウリを敢えて喰わせたのだ。

しかし、どうも堂長の様子がおかしい。

「・・・そうか、てめぇらは共犯か。ゆりの助言通り、急いで帰ってきて正解だったぜ。」

「え、違う!共犯なのはお前たちじゃないのか!?」

「・・・正直に言わねぇと、スコップの錆にしてやるぜ。」

「はち、その台詞、あんまり括弧よくないですよ。」

「(よくない)って何だ!格好だろうがフザケやがって!」

怒りに我を忘れた堂長はしろへと飛びかかる。
しろが華麗に避けた為、はちはコンクリートの地面とぶつかり、ぐぬぅ・・・とうめき声を上げた。

今ですねと、しろは振り返り、カコへと合図を送る。

「さぁ、逃げましょう。」

いいのか、これで。
こいつはお前の上司じゃないのかと、カコはひるみ、

「お前は、何者なんだ。」

「単なる同居人ですよ。」

堂長も苦労が絶えないだろうと知った。
と、笑顔の彼の背後には、恐ろしい形相のはち堂長の姿があった。
カコは咄嗟にその顔に向かって思い切り、周囲の物質から集めた水を指先から噴射すると、再び彼はひるんだ。

自然と口の端が上がる。
こんな子供じみたいたずら、何年ぶりだろうか。

カコは笑い、頭に乗せたゴーグルで目を覆った。
レンズに陽の光が反射し、キラリと光る。右手で足下に円を描けば、コンクリートの地面がどろどろと溶け、液体状に変化した。
扉を堂長に遮られているため、疲れるが、この手段しかない。
隣のしろに声をかけ、準備はいいか?と確認する。

しろは笑いで応えた。

「共犯なら、逃げなきゃな。」



「夕飯までには帰りますよー」

「お前が作るんだろうが!」

鬼のような形相の堂長が、水際の向こうへ消えていく。しろはカコの後に続き、水の沼へと足を入れた。なるほど、この度胸はすごいなと、カコは感じた。
と、ゴーグル越しに白い彼と目があった。
そして、完璧に水へと体が飲み込まれ、溶けて終う前。

彼にしては締まりのある表情で、それでも喜々とした声音は崩さずに告げた。

「人の感情がぶつかってくる瞬間って、生きてる!って感じがしませんか?」

もっと違う方法と感情もあったろ。
カコは率直な感想を口にせず、自分たちの入り口に蓋をした。

逃亡者は、いつもは自分だけだが、今日は違う。
背負った荷物を早く空気のある場所へ脱出しなくては。
それも、夕飯を作れる時間に帰れるような場所に。


【完】


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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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