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【若造の主張】

【若造の主張】

「この子の言い分は間違って「彼女は「ばかげてい「この主役が「だから私が「こう言って「「「「「「「「・・・

突然だが。
黒川はちは、絶賛困惑中である。

飛び交う句点のない、読点だらけの主張同士が彼の前を行ったり来たり。当人同士にしか通じない会話を繰り返している。どうやら、とある小説の物語について議論を闘わせているようだ。堂長席に座って客人の相手をしているのはいつも通りだが、会話の高波が途切れないまま、はちは泳ぎにこぎ出せないという事態に、頭を抱えていた。

「・・・あの、お一人ずつ、用件を伝えてくれませ「なにを「この若造が「偉そうな「傲慢で「最近の「若者は「「これだから困る。」」

最後だけは口を揃えて言うものだから、

「・・・本の好みなんて、自分に合うか合わねぇか位のもんじゃ「なにをこの「若造が「若造のくせに「知ったような「口を利くん「「じゃない」」

「・・・そうすか。」

もはや、怒りを通り越して、呆れがこみ上げてきた。

なんでこいつらは、人の話を最後まで聞かねぇんだ。

しかも、互いに譲歩せず、自分の主張を通そうとしている。
「自分がいつも正しいと思ってはならないよ」祖父・伊織の口癖が思い出された。

はちは今度はため息をはっきり吐き、

「うちには置いてないっすよ。」

当初より言おう言おうと思っていた事実を、かき消されぬよう、簡潔に放った。

話は簡単だ。
チラシの上部、どちらにも”今月の新刊”と大々的に宣伝文句が書かれている。

が。

新刊が、黒蝶堂に入荷されるわけがない。
黒蝶堂は”古”書店であり、人々の手を巡り巡ってきた、縁のある書物だけが、この棚に並んでいるだけなのだから。

取り寄せることも出来ないことはないが、

「近くに最近出来たでっかい本屋があるんで、そっちに行ってくれますか。」

そう提案した。
その本屋に借りがあるわけではない。
今すぐほしいと熱意をぶつけ合う彼らにとって、取り寄せに必要となる約2週間は、とても長く感じられるだろう。そう推測したのが一つの理由で。

そしてもう一つ。

「これ以上こいつらの面倒を見るのは大変に面倒くさい。」

口には出さないが、単純な理由であった。

しかし、堂長席の前で男たちは微動だにしない。
黙っていたら黙っていたで、居心地が悪いな。
何かまずいことを言ったか?
はちが思考を巡らせる寸前。
両者はアイコンタクトを交わした。

そして、

「「あんたがさっさと言わないから、話がややこしくなったんだろう。」」
口を揃え、落ち着いた声音で、言い捨てた。

「な・・・!」

絶句するはちを置き去りに、2人はチラシを大切そうに鞄に仕舞って黒蝶堂を後にした。

「・・・理不尽だな。」

「営業者としては、許されざる行為ね。」

唐突に、本棚の上から声が降ってくる。
怒っているのか茶化しているのか、全ての顛末を観察していた少女が、無感動な感想を投げつけてきた。

「いいんだよ、相手にするのも面倒だったしな。」

「若いわね、若造。」

「どいつもこいつも若造若造ってな・・・」

てめぇにもこの年があったろうが。
はちは棚上のゆりを見やる。こいつは自称・憑者だから、一体何歳なのかまったく不明で・・・はちは苦笑する。

そんな馬鹿げた発想を受け入れる思考回路が自分にもあるか?
いや、ねぇな、と。
自分で自分につっこみを入れた。

と、
少女の手には、見覚えのあるかわいらしい女性が2人居た。
それは紛れもなく、あの2人がほしがっていた作品の、しかも「最新刊!」との帯までついている、正真正銘の本物だ。
はちの机へと本を飛ばしてきた。手に収まったそれを手に取り、中身をぱらぱらとめくる。

中身を流し読みしながら、はちは問う。

「知っていたのか?あいつらが来て、この本を買うってことを。」

あの客は初めて黒蝶堂に来ただろう。
さては、ゆりの顔見知りだったのだろうか。
少女は「違うわ」と、彼の心中の疑問を即座に否定し、

「”みえる”事実を積み上げたら、予見できただけよ」
事も無げに言った。

「…そんなまさか。なら、オレの未来も見えるのか?」

はちは少女達を机上に置き、ゆりを仰いだ。
期待したのではない。興味本位で聞いただけであり、そこには小馬鹿にする意図も含まれていた。
彼女は堂内を一瞥し、続けて、口元にニヒルな笑みを浮かべた。

「貴方は1分以内に、表通りで締め上げられるわ。」

「・・・なんじゃそりゃ。」

意味不明な事を言いやがって。
やっぱりインチキじゃねぇか。

・・・しかし、まてよ。
はちは逡巡する。
脳裏に、祭りの最後に出会った男が蘇った。
首を振って追い払おうとするも、バカ力で首を絞められた時の苦しい思いは忘れるべくもない。

もしや、あいつがやってくるのか。
それだけは勘弁願いたい。

と。
軽快なリズムを刻む早足の音が聞こえた。
冷たい風が、はちの背中を駆け抜ける。
まさか、来たのか。
ぶつぶつと何かが呪詛のように聞こえる。
はちは戦々恐々としながら、ゆっくりと振り返った。

「・・・以上より、僕のアイスを食べたのは」

クーラーもない黒蝶堂に、冷風が流れ込んでくるはずもない。
冷気の中心は、例の男ではなかった。
青い服に身を包んだ、白い青年が立っていた。

「あ」

はちの顔から血の気がさぁっと引いていく。
すべてを思い出した。

冷凍庫に氷菓が入っており、それを美味しく頂いたことを。残った小袋と棒きれをこっそり処分するつもりが、タイミング悪くあの客たちが来て、無意識のまま堂長席脇のゴミ箱に捨ててしまったことを。
そして。
白い青年・しろが、氷菓に関することとなると人格が変わったかのように大騒ぎをするということを。

――すっかり、失念していた。

おそらく、ゆりは小袋を見て失笑したのだろう。
こんなに予測が簡単な未来があるなんて、と。

しろの青い目は、瞼からつり上がっていた。

「許すまじです!」

「許せ!」

乱暴な音を立てながら、はちは席を立つ。
しろの左手にはギラリと光を反射する彼愛用の包丁。

オレの腹を裂くつもりか!

つっこむ余裕もなかった。
はちは黒蝶堂の扉を勢いよく開け、全速力で逃げた。

ーーはちが少女の予知に正面衝突する、数秒前の出来事である。


【完】



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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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