【小話】鳴かぬなら…【更新】

さて、小話更新です。
本編は、一つだけ御注意点があります。
絶対に、真似をしないでください。(前置き)
器物損壊罪になる…のかもしれませんので…。

準備ができた方から、
現実と虚構の間へ、れっつらごーです。


【鳴かぬなら…】

中央通りの信号がサボり始めて、どのくらい経ったろうか。
機械の塊はご機嫌に通り過ぎ、スクランブル交差点を挟んで、歩行者は待ちぼうけを食らっている。

一向に変わる様子のない赤信号に、三者はそれぞれの感性において、「妙だ」と感じ始めていた。

はちは言う。

「・・・地下道通るか。」

地下へ降り、地上へ上る階段が手間で面倒だが、確実に向こう側へ到達できる。事故があって、やむを得ず信号の働きを止めているのかもしれない。だとすれば、これ以上待つのは無意味だ。

すると、隣のしろが口を開いた。

「強行突破します!」

彼がゆび指す向こうには、途切れることなく走り抜ける車の群。
車間距離の合間をを縫って行こうとすれば、遠慮無くはね飛ばされ、内蔵がはみ出した自分の体を縫う結果に終わる・・・かもしれない。

「その隙に、はちは車の上を跳んでください!」

「隙間ができりゃ、そっから渡るだろ。」

「あ、確かに。はちの体重で車さんが凹んじゃったら可哀想ですよね・・・。」

しょぼんと気を落とすしろに、はちは若干の心配を覚える。

会話が通じない相手の脳味噌は、すでにスクラップ気味なのだろうか。

――いや、今更か。
もちろん口には出さず、

「可哀想じゃねぇよ。機械だからな。」

一応、指摘をしておく。
それに、もし実行に移したら、車がスクラップになる前に体がスクラップになるだろう、とも付け加える。

と。
珍しく外に出ているゆりが、はちの上着の裾を引っ張った。

「あ?なんだよ。」

「あの百貨店を親の敵と思って頂戴。」

物静かに、かつ、唐突な提案に、しかめ面で即答する。

「思えねぇよ。」

しかし、
彼女の有無を言わさない鋭い視線が目に突き刺さり、

「・・・思いました。あー、憎い憎い。」

台風時のビニール傘も驚くほど、あっさり折れた。

「大根役者ですねぇ!」

「んだとこら!」

「これを、最大限の力でぶつけてやりなさい。」

しろとの喧嘩も半端なままに、
強引に掴まされたのは、黒い石の塊であった。完全な球体ではなく、所々に棘のような、痛そうな突起物が生えている。
掌から少々溢れるほどの大きさではあるが、ずしりとした重量がある。

「・・・届くわけねぇだろ。」

デパートまでは横断歩道を挟んで、100メートル少々。
こんな得物で敵討ちに出掛ける者など、どこにもいない。
それに、親の敵といっても危害を加えるとは限らない。
オレだったら、まずは裁判からだな・・・

はちの思案を、しかし、ゆりは涼しい顔で受け流し、

「目的を達成するためよ。」

そう言って、前方を見据えた。

はちは察した。

――こいつの事だから、何か考えがあっての発言だろう。

もしかして、簡単な事なんじゃねぇの?

びゅーんって感じで投げると、なんと!どこぞの信号のスイッチに偶然触れて青になる!人々は、やはり信号は青になって当然だ!との顔で日常に戻る。人知れず人々の困惑を救った堂長は、中途な自己満足を得るのであった・・・!

とかだろ。

ばかばかしい。

はちは一笑に付した。

しかし、

――たまにはこいつの予測にこっちから乗ってやってもいいか。
疑いの心が緩んだ。鉱物を握り直す。

そしてそれを、助走をとって勢いよく、宙へと放った。

綺麗な放物線を描いて、石は飛んでいく。
次の瞬間。
派手な音とともに、キラキラと光る何かが吹き出した。
それは、大通りを走っていた車の、フロントガラスの破片であった。

ブレーキ音に人々のざわめき声と、町は騒然となった。
「なにどうしたの?」「なんか愉快犯?」「もしかして映画の撮影?」「テロだったりして!」「こわーい!」平和ぼけした発言も、写真を撮っている女子高生の姿も、はちの感覚器官に届くことはない。

頭の中が真っ白になっていた。

「本当にやっちゃいましたね!」

「てっめぇ!何とかなるんじゃなかったのかよ!」

我を忘れ、ゆりに詰め寄り、聞きただそうとする。

数秒後。
人々の無数の視線が、自分たちに注がれているのに気がついた。好奇であったり、露骨に嫌悪感を顕したものであったり。遠巻きにジロジロと様子を窺われるだけで、誰も話しかけてこない。

冷や汗が頬を伝った。

はちの隣には、青い白髪の男。その隣には、桃色の着物と長い黒髪の、時代錯誤甚だしい格好をした少女。

――こいつら、目立って仕方ねぇ!

人々の垣根の向こうから、ハザードを点滅させた車が見える。
30代後半の男が降りた。突然の不幸に、なにが起こったのかも、なにに対して怒ればいいのかも、全くわからない。そう言わんばかりの、能面のような顔で、かつてフロントガラスだったところを覗いている。彼の顔がガラスに映ることはなかった。

同時に、
サイレンの音が遠くから聞こえてきた。
誰かが通報したのだろう。何事かと、車が1台、また1台とスピードを緩め、路肩に車を寄せ、止まる。

そんな中。

「見て頂戴。」

ゆりが声と共に、目線で場所を示す。
それは、歩行者用の信号が、変わる瞬間だった。
赤い世界で、目を覚ましたのか。
通常よりも光度の強い青い光が、日中の日差しに負けじと輝き始める。
一方、道路側の信号は、何人たりとてこの先を通さない、そう言わんばかりの力強い赤い光となった。

それを見て、はちは決めた。
白い彼に顔を向ける。

「逃げるぞ」

「あいあいさー」

深刻な事態に似つかわしくない、愉快そうな声が返ってきた。はちは右腕にゆりを抱える。
咄嗟の判断は、ゆりも当然連れて行くとの結論を出したようだ。

そして。
止まった車の間を縫って、横断歩道を一気に通過した。

走る。
全速力で走る走る走る。

息が上がってきた。
意気は下がってきた。

――いったいなぜ、オレは逃げてんだ?

抱えられた少女は、大人しく捕まっている。
そうだ、捕まらねぇためだった。

霞みゆく視界の中。
アーケードの端の端。
古ぼけた建物、黒蝶堂が見えてきた。

と、
突然腹を捻られて、反射的にそちらを見た。
加速度が落ちてるわ、運動不足よ、と遠慮のない文句が垂らされる。

「うっせぇよ、だっ、誰のせいだと思ってやがる!」

舌を噛みそうになる、途切れ途切れの皮肉口調にも、ゆりは双鉾をわずかに細め、

「人間を動かすには、小さくてもいいからきっかけを与えることが必要なの。」

なに食わぬ顔で言った。
汗だくとなったはちには、彼女の言葉は途切れ途切れにしか聞こえていない。
が、彼女は老成した瞳で

「だから、世界なんて簡単に変えられるの。」

余裕のないはちの顔を見上げながら、すこしだけ口角を釣り上げた。

「貴方は、世界を変えたのよ。」

「過程も大事だっての…!」

黒蝶堂の扉を後ろ手に閉めたはちは、扉に背を預けながら、肩で息をした。


【完】

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
環境ってなかなか変わらないですよね。
世界を変える力を持っていて、真っ直ぐの方向に進んでくれれば問題無いのですが。

通りには通りの憑者さんがいて、車を直してくれたとかくれなかったとか。
そこらへんも、続きが描ければなと。
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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