【小話】貴方に神の御加護がありますように!【更新】

小話更新です。
ごっどぶれすゆー!な感じで、一話完結をお楽しみください。
ピングーが見たいです。フラフープエンド。あの先が読めない展開に、なぜか心奪われます。



【貴方に神のご加護がありますように!】

この世界では、くしゃみを一つすれば、誰かが騒ぐ。
二つすれば、騒ぎはもう一回り大きくなる。

誰かは言う。

「きっとだれかが、君の噂をしているのだろう。しかも、おそらく”悪い意味で”」と。

そんなとき。
黒川はちは、鼻で笑う。

「そんな迷信、いったい誰が信じるっての。」



突然のくしゃみに、唐突な覚醒が訪れた。
体全体を覆っているのは、ひどい悪寒と吐き気だ。
震える腕を押さえ、がたがたと鳴る奥歯を力の限り噛みしめれば、先ほどの騒音は、どうやら自分の体から発せられたのだと知る。足下から冷風がそよいできており、足裏が異様に冷たい。その証拠に、誰もいないはずのこの部屋で自分以外の何かが、かたかたとリズムを刻む気配がある。

もぞりと起きだし、めがねをかけ、カーテンの隙間から刺しこんでいるわずかな月光を頼りに、暗闇を這う。

目を凝らして見ると、点けた覚えのない扇風機の、重たい頭を左右に振っている姿が闇に浮かんだ。

「・・・寒いんだよ!」

はちは叫ぶと同時に、勢いよくコンセントを抜いた。


翌朝。

青白い顔色をしたはちは布団の上に座り、首をひねっていた。

というのも、
足下の扇風機は元気よく、室内の空気をかき回しているのである。その原因を突き止めたいのだが、まったく思い出せない。第一、ぼんやりした頭では、まともな考察ができない。

・・・確か夜中に、電源を落としたはずだが

そこまでは思い出せる。しかし、いや、これは真実か?もしや夢だったか?とも思う。
まるで、鼻水が逆流して脳に達してしまったようで

・・・ありえねぇ、オレの体はそんな砂時計みたいな単純な作りじゃねぇだろ。

時は流れ、はちは可能性の波の中で一人葛藤しながら、漫然とした手つきで朝食を胃に押し込んでいた。
その合間にも、くしゃみの波は押しては返し、我慢すれば、ごほごほとせき込む始末である。確実に症状は悪化している。
ついには、食卓を一にするしろが、

「もしかして、あれですか。か」

「・・・断じて風邪じゃねぇよ。」

喜々として聞いてくる始末である。

なにがそんなに嬉しいんだ?
問い返したいほどに、鼻歌まで歌っている彼を視界から外せば、届きそうで届かない痒みのような、むずむずとした感覚がこみ上げる。無理矢理かみ殺せば、今度は鳥肌が立つ。
どうも、おかしい。視界がかすんできた。

これはもしや。か

ふと、しろが立ち上がった。
その音に、朦朧としていた意識が手元に戻り、一瞬にして現状が見えた。

目の前には、締め切った狭い居間が広がっている。そして背後からは、冷たい風がそよいできている。

まさか。
はちは慌てて振り返る。

そこには、一晩中はちを扇ぎ続けた、働き者の彼が座っていた。
仕事に汗を流している姿は、なんとも健気である・・・

とか思うと思ったか!
はちは一呼吸置き、

「なんでここにいるんだよ!」

一息に叫んだ。



話によると、夏の終わり頃から当の機械は誤作動を繰り返しており、しろはその修理のため、彼を階下に降ろしたところだったという。

「でも原因が分からないんです。寿命なのかもしれませんね。」

しろは腕を組み、うーんと唸った。

食後。
はちは身支度を整え、堂内へと向かった。
開店前に、本の整理とレジの点検をしなければならない。たとえ客が来ようが来まいが、準備は不可欠であるからだ。
はちの後ろをしろが続く。

そして彼の背中に、例の扇風機が背負われている。
はちが席に着くと、しろはそれを席の隣に置き、

「えーとえーと、コンセントはどこでしたっけ・・・?」

コードを持ってうろうろと、はちの背後をさまよっている。
はちはこみ上げる頭痛を抑えながら、

「片づけろ!」

彼の妙な荷物と行動に、語気を強めた。
頭がくらりと揺れる。
こんな涼しい気候のもとでは、彼の出番など無いのだと、滔々と語ってやりたいほどに、しかしそれ以上に体力が無く、机に突っ伏した。

すると、

「うーっす!」

予想に反し、野太い声が返ってきた。
何事かと顔を上げれば、赤と黄色のアロハシャツに黒いサングラスというなんともアンバランスな格好のしろが、これまた似合わない仁王立ちのポーズを取っていた。

いつの間に・・・と問う前に、はちは合点を得、

「・・・片づけろってのは、殺せって意味じゃねぇよ。」

至って冷静なテンションで、真面目につっこんだ。

「あれ?てっきりそうかと。衣装も準備しましたのに。」

ほら、これもです。
そう言ったしろは、どこで買ってきたのか。
右手の指に火のついた葉巻を挟み、煙を昇らせた。
そして、それをくわえると、

肺一杯に吸い込んだ。
結果、

「えふえふえふ!」

盛大にむせた。

そしてしろは走った。
黒蝶堂の表通りに面する戸を開き、自分が汚した空気の換気をするためだ。

「何むせてんだ・・・」

一連の流れを、唖然とあきらめの色が混じった瞳で見ていたはちは、今日はつっこみ切れねぇかもしれねぇなと感じていた。体の芯から沸き上がってくる微熱に蓋をすれば、くしゃみが再々々度飛び出した。

これは、
もしかして、か

そんな懸念は、ガラス戸の引きずられる音に擦り潰された。
途端、

「へくしゅっ!」

表通りへ向かって、体を跳ねさせた男が一人。
はちではない。
この空間での、もう一人の存在者である白い彼が、である。
ヒンヤリとした初秋の爽やかな朝の風が、堂内を吹き抜け、堂内の埃がふわりと舞ったからであろうか。

と。
丁度、通りかかった登校中の女子高生が、彼の声に驚いて堂内を横目で覗いた。そして、どうやら顔を上げたしろと目があったようで、軽く挨拶を交わしている。
彼女たちは顔を見合わせ、足早に去っていく。

そんな彼女たちの声を、はちの耳は拾い上げた。

――直後、耳を疑った。

「かわいかったね~。」

「え、かっこよかったの間違いでしょ?」

「でも眼鏡って、やっぱずるいなぁ。」

「3割り増しだよねー」

「あんな人が住んでるなんて知らなかった」

周りの目をはばからない女子高生たちは、キャアキャアと楽しげに語り合い、若さを発散させながら通り過ぎていく。
一方、噂の中心である、白い髪色に青い目の当人は、いってらっしゃ~いと、間延びした声で彼女たちを見送っている。

まるで茶番劇を見ているような気分になったはちは、

「・・・あれは眼鏡じゃなくて、グラサンだろ。」

眉をひそめ、堂長席で肘を突いた。

”ずるい”の意味と、”3割り増し”の理論展開がわかんねぇけどと内心前置きをしながら、はちは推理する。

恐らく彼女たちはしろの容姿についてーしかもかなりプラスの評価を下しー語り合っていたようだ、と。

はちは、席に伏せたい気分になった。

「・・・くしゃみが噂を作るってか。」

なんて馬鹿らしい話だ。
自然と、ため息がこぼれた。

奴の中身を知らねぇから、そんな陽気なことが言えるんだ。こいつの電波具合は、半端なもんじゃねぇ。

そんな白い彼がこちらに向かってくる。

「・・・人間は見た目じゃねぇぞお嬢さん方。」

「何か言いました?」

葉巻を吸い、再びむせるしろは、珍しい外見を持ち、確かに目を惹く存在である。
しかし、

「ほら、見てみろ」

はちは思わず、ここにはいない彼女たちに指摘したくなる。

――降ろしたはずの、重たい扇風機を背負っているじゃねぇか、と。

「こいつは、本当に変な奴なんだ」

「え?」

「いんや、なんでも、ねっ」

くしゃみが一つ飛び出した。
彼の背負った扇風機から、冷たい風が吹き出し、はちの顔を襲った。

そのころ。

「そう言えば、もう一人いなかった?」

「あーいたような、いなかったような」

「超曖昧だー!」

「そうかもね!」

学校に到着した女子高生2人組は、顔を見合わせ、けらけらと笑い合った。

【完】


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
最近の女子高生はどんな口調で話すのでしょう。完全なイメージですので、現物とは異なりますご了承を。
もしかして、か
そんな展開にならぬよう、きちんと電源を落として寝た方がいいです。

スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中