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【小話】雨降って、地固まる【更新】

いやー、寒い季節になってきましたね。北海道では初雪を観測したとかなんとか。
朝、顔を洗う水が冷たく感じられます。ひぃー。
というわけで。

小話更新です。
いつも通り、一話完結の、今日は特に、間の抜けた話です。
それでもよろしければ、どうぞお付き合いください。



【雨降って、地固まる】

「これ気に入ってたんですよ!」

「…また買ってくればいいだろ。」

しろが詰め寄り、詰め寄られたはちは首を左右に振る。

現況を簡単に説明するとするならば、
2人はいつものように揉めている。

はちは主張する。
誰かが傷つけば解決する問題じゃねぇだろ。
だから、オレの臑を力一杯蹴るのはやめろ、と。

「諦めろと言うのですか。」

「・・・それ以外に何がある?」

はちの投げやりな相槌に、しろの足技が止んだ。

どうやら、彼の説得は功を奏したようだ。
はちが椅子に座り直し、伸びをひとつ。

すると、
ヒンヤリとした風が、ズボンの裾をからげていく。
はちは頭痛を覚え、眼鏡のブリッジを押し上げた。
そのレンズ越しに、俯いたしろが冷気の上に立っている様子が見えた。

そして、
はちの体感温度は急激に下がった。

「・・・イヤです。これじゃないとダメなんです!」

まるで駄々っ子のような口振りのまま、再度はちに詰め寄るしろ。
彼が近づけば近づくほど、周りの温度が下がっていく。

主張を降り曲げようとしないしろが執着しているのは、黒蝶堂と同じアーケードに存在している小さな雑貨店で購入したガラス製のコップである。

だからといって、
決して高価なものではなくむしろ安価の部類に入るそれは、どこにでもある大量生産型の商品であり、おそらく、今も同じ型の物が店頭に並んでいるはずだ

と、はちは思っている。

であるからこそ、

「・・・代わりなんていくらでもいるんだぜ。」

慰めと言い訳の意味を込めた言葉を宙に投げた。

ところで、
「言い訳」というのは理由がある。

寝ぼけた彼がそのコップを取り落とした。
結果、それは黒蝶堂の床の上で見るも無惨に砕け散った。ただそれだけのことである。

しかし、
耳を貸そうとしないしろは、幼児も手に持った飴を落とすがごとき見事なふくれっ面である。能面のような顔で、無言でひび割れたガラスの欠片を集めている姿は、どことなく狂気じみている。

「・・・くっつきますかね。」

「危ねぇから止めとけ。手ぇ切るぞ。」

「はちには聞いてません。」

「オレもお前に言ったわけじゃねぇよ。」

そんな2人のどうしようもないやり取りを、棚の上から観察している少女がいた。

少女・ゆりは膝の上の分厚い本を畳む。
そして、ふわりと舞い降りると、2人の間に割って入った。

「貸して頂戴。」

白い彼に向き直り、白くしなやかな指を差し伸べる。
はちの存在などまったく視界に入らないような様子で、破片を堂長席に置き、指を回し始めた。

「おいおい、何でだよ・・・!」

少女の指が触れ、瞳は赤く染まり、少女の周囲の人間たちは息をのむ。

欠片はそれぞれが意志を持ったがごとく机上を走り、順々に並んだ。かと思うと、割れた本体にめがけて順序よく飛び移り、触れ合うとともに、彼らの境界線は瞬く間に消えていく。

言葉を失った彼らを前に、ゆりはしろのわき腹をつつく。しろははっと我に返り、

「すごい!魔法みたいですね!」

「魔法じゃないわ。」

ゆりは簡単に答える。

「私は、ここの憑者だから。」

このくらい取るに足りないわと、まるで、念を押すように、じっとしろの瞳を見上げた。

「ありがとうございます!はち、ゆりちゃんに免じて許してあげますよ!」

言うや否や、しろは駆けだし、ガラスを大切そうに戸棚の奥へとしまう。
その後頭部を見ながら、はちはゆりに耳打ちする。

「・・・一度壊れた物は、元には戻せねぇだろ。」

「あら、あれが手品だと証明できるの?」

はちは、顎に手をやり、少し考えるそぶりを見せた。

そして、

「・・・いや、さっぱりだ。」

降参だと肩をすくめる。

と、
ゆりは堂長席机上の、ティースプーンを拾い上げた。先ほどのコップに入っていた物で、取手の部分に洒落たアンティーク調の装飾が施された一品である。
彼女はそれを右手に持ち、左手を添えるように上下へスライドさせる。目を閉じ、親指に力を込める。はちの脳裏に、「超能力者」という嘘くささ全開のイカサマ師が映った。


しばしの沈黙。

そして、

結論から言えば、スプーンは、曲がらなかった。


「曲げねぇのかよ!」

「私はこの子を大切にしたいから。」

冷淡ともとれる口振りに、彼女の言い分はとても反しており、はちは疑わしさを感じる。
「本当に思ってんのか?」そう確認したくなるのだ。

思案に耽るはちの隣で、少女は口を開く。

「わかったでしょう。」

「・・・何が。」

「貴方は貴方しかいないのよ?」

はちは目で呼吸をするかのごとく瞳を見開き、矢のように飛んでくる少女の視線を感じ、

「・・・いや、さっぱりだ。」

半笑いを浮かべ、堂々と答えた。
その頬にスプーンが突き刺さった。

【完】


ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
可愛いマグカップが欲しい、今日この頃でございます。
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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