【小話】用法要領を守って、楽しくお使いくださいませ!【更新】

はち

なぜ横向きで表示されるんだ。

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てなわけで、小話更新です。
この間の話があまりにあまりな商売風景でしたので、
今回は普通のを描こう!⇒なんか想像と全然違う!!いつもそんな感じです。

【用法要領を守って、楽しくお使いくださいませ!】

「・・・いらっしゃいませ。」

およそ客商売向けとは言えない低い声を発すると同時に、彼は頬杖をやめた。
足取り軽く、喜々としてやってくるサラリーマンと目が合い、にこりと笑われた。
またか。はちは、唇がひきつるのを抑えられないでいた。

普段ならば閑古鳥鳴く黒蝶堂。
なのに、今日はなぜか、来客が断続的にあるのだ。
しかも、皆が皆、上機嫌である。こんなに気味の悪い偶然があるだろうかと、はちは頭を抱えたくなっている。

秋の長雨がしとしと地上を濡らす表通りが、閉じたガラス戸越しに見える。それほど強くもない雨であるからか。屋根のあるアーケードまでの距離を、傘を持たない人々がここら一体に建つ店の軒下を伝ってアーケードに吸い込まれていく様子が、嫌でも目に入る席である。

時を遡っては、雨の降り出す数時間前の今朝方のことである。
はちは、軒出の下に小さなワゴンを設置した。そしてそこに、数冊の本を立てかけておいた。彼自身、なぜこんなことをするのかと疑問に感じていた。
だが、昼時の今、その理由が分かった。
普段はあっけなく通り過ぎていく類の人々が足を止め、本を手に取り、ぺらぺらとめくっては堂内に入ってきて、本を購入していくのである。

もちろん、カラクリはある。
本が瞬く間に紙幣と交換され、客の懐に収まるための条件はただ一つ。

「接客の勉強もして頂戴。」

――黒蝶堂の憑者・ゆりの指示通りに働けばいいだけだ。

雨の日だから本が濡れるんじゃねぇかと。出たくねぇんだけど。ぶつぶつ文句を言うはちにも構うことなく、彼女は朝、彼らに外のセットを準備するよう命じたのであった。

客足が途切れたところで、しろがお茶を入れた。
目をきらきらと輝かせながら、取っ手付きのマグカップを傾ける。

「まるで、本の処方箋ですね!」

皆さんほんと、嬉しそうに買って行かれてますし。しろが言葉を継げば、彼の脇でレジ打ちを終え、ほっと一息つき席に着いたはちが返す。

「本に治癒効果があるわけねぇだろ。病院が潰れるだろうが。」

「運命感じちゃうのかもしれないじゃないですか!」

雨の日に、自分だけの一冊に出会うなんて!と。
右手の人差し指を立てるしろを、はちは一笑に付した。

バカバカしい。運命なんて単なるコジツケだ、と。

「無意識に欲している書物なんて、人間を見れば直ぐ分かるわ。」

「・・・なんでわかるんだよ、そんなことが。」

棚の上。
意味深げなゆりの発言に、顔を向けて返事を促す。
ゆりは、手元の本から目を逸らさずに

「私は黒蝶堂の憑者だから。」

いつものように、淡々と答えた。

「・・・それは聞き飽きたっての。そのカラクリを聞いてんだ。」

はちの額に、鋭い痛みが走った。からんと机上に落ちるは、凝ったデザインの、いつぞやのティースプーンであった。表情は相変わらず能面のように冷たいが、はちの発言は、彼女の機嫌を多分に損ねたようである。

「堂長。」

「・・・な、なんだよ。」

ゆりは棚から降り、ぐっと詰め寄った。
はちは限界まで顎を引いた。時折、いやな予感の合図のように、赤く光る瞳が間近に寄ってきて、視界いっぱいに広がる。

彼女の小さな口が、ゆっくりと動く。

「貴方が感じる物全て、私に教えて頂戴。」

はちは、答えに詰まった。
痛覚が体を覆い、瞬間、視界が霞んでからの回復に、いくばくの時も経過していなかったからだ。

問われたのは、見えるものか?”感じる”なら五感か?それとも、現在の感情か?ぐるぐるぐると、考えうる候補が一斉に並び立ち、はちは、その中心で座り込んだ。

金魚のように口をパクパクと、しかし言葉を紡がない彼に、ゆりは肩をすくめた。

「貴方の世界は、内側も外側も、とてつもなく広いのよ。」

はちから距離をとったゆりは、目を閉じ、

「それを数文字の言葉で表すなんて、不格好だわ。」

再び開いた。
彼女の、まるで諭すような口振りに加え、

「ナンセンスですよ、はち!」

明るい調子で、しろが追い討ちをかける。

ひりひりと痛む額と、やんややんやと騒ぐ同居人に加え、ぎりぎりとひどくなる頭痛を押さえ、

「・・・オレにも薬をくれ。」

それも、とびきり効くやつな。

「はち、本に治癒能力はないんですよ!」

青い瞳を細めながら笑うしろに、はちはため息つくばかり。ぐったりと机に伏すも、再びゆりのスプーン攻撃を受けるとの結果に終わった。

黒蝶堂の扉が、再び開いた。

【完】

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!いかがでしたでしょうか。読んでくださる方が少しでも楽しい時間を過ごせていただけたら幸いです。
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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