【小話】悪事の温床候補を探せ!【更新】

小話更新です!
読み切りのさらりとした読み物です。それでは、どうぞ!↓↓

【悪事の温床候補を探せ!】

黒蝶堂の朝。

「すごく、すっごく大変なことに・・・」

微かに聞こえる、上擦り、息も絶え絶えな声を耳が拾った。
どうやら、先に堂内へ向かった男が、ぶつぶつ呟いているらしい。

「・・・一人でも、賑やけぇやつだな。」

はちは重たい足取りで、店内へ様子を見に行こうと立ち上がった。
と、

「血が止まらないのですか?何も、見えないですね・・・」

更に聞こえてきた困惑の声が、扉の向こうでか細くなり、途絶えた。
物音一つ聞こえなくなり、しんと静まり返る。
物騒な言葉に疑問を覚えつつ、はちは自然と急ぎ足になった。

意識よりも先に、目が彼を探し始める。
と、堂長席の脇に、声の主・しろの後ろ姿があった。

「・・・どうした?」

平静を装い静かに問う。しろの他に人間はいないようだが、用心するに越した事は無い。
おそるおそる、近づいていく。

その時。
血の気の引いた、青白い顔が振り返った。

たじろぎ、一歩後退したはちに、彼は言った。

「手からものすごい血の臭いがするんです」と。



堂長席に置かれたレジスターが、年期の入った色味を反射させる。その横に、大小様々の硬貨が散らばっていた。
はちは昨夜の出来事を思い出した。

「たまにはいいじゃないですか」
白い彼が言い張るものだから、今日のレジの整理を担当させた事を。

内容は簡単だ。金庫からレジ用の現金を取り出し、引き出しに仕舞う。
ただそれだけの仕事のはずだった。

「でも、僕は出血してないんですよ。」

はちは、全身から力が抜けるのを感じた。

「・・・それは血の臭いじゃねぇ。」

きょとんとするしろへ一言。

「金属臭だ」と短く吐いた。

パニック気味の声が届いたものだから、もしやしろが目に怪我でも負い、一時的な視界不良になったのではないか。
もしくは、何者かに刺されたのではないかと。
可能性は低いが、最悪の展開の一候補として、あり得ない話ではないと勘ぐっていた彼は、目の前のあんまりに平凡な現状に脱力し、なだれ込むように席に座り込んだ。
最近じゃ、鉄砲を携帯している奴まで現れた。黄色い男が持っていたあれはきっとモデルガンに違いないが、物騒な世の中になったものだ。

一方のしろはというと。

「そういえば・・・こんな臭いだった気もします」

他人事のように言い、「どうしてですかねぇ」と脳天気な疑問を出すほどの余裕を見せた。

「…さぁな。」

「わかりました!」

「…なにがだ。」

「血と涙の結晶だから、血の臭いがするんですね!」

そうに違いないと、青い目を輝かせるしろに、はちは返す。

「それは、汗水垂らして、の間違いだ。」

血の臭いがするなんざ、どんな修羅場で働いた対価なんだよと、自身のこめかみを叩く。

しろは首を傾げる。

「あ、汗と涙のでしたか。」

「海が近ぇのか、それとも運動会か。」

「笑いあり涙ありなんですよ、つまり。」

「・・・そりゃ、波瀾万丈な人生だな。」

脈絡無く織られていく話に、はちの適当でいい加減な相槌が飛ぶ。

「そんな世の中、渡り歩くには、」

「まず真っ先に、金が必要だと。」

肩を竦めるはちに対し、楽しげに笑むしろは続ける。

「でも、この家は昔からお金の匂いなんてしませんね。」

「・・・金がなくても、生きていかねぇといけねぇからな。」

「血じゃだめですか?」

食用にどうですかと、彼は提案する。
はちはあっさりと応える。

「そりゃ、駄目だろ。」


表通りでは、向かいの弁当屋の店主が、のれんを出し、店の前を箒で掃き始めた。
彼女が時折差し入れしてくれる料理が、彼らの食の一部を支えているのは疑いのない事実だ。

硬貨をすべて元通りに仕舞い、レジスターの鍵を閉めたしろはその鍵をはちへと渡した。
伸びをしていたはちはそれを受け取り、確かに、と呟く。
と、思い詰めたような表情のしろが頭上に豆電球を点灯させた。

「あ!血を換金したらどうでしょう。」

こいつ、まだ考えていたのか。
はちは少々ためらい、

「生産性のある話だな。捕まるなよ。」

一般的に血液は人間誰しもが作っているのだから、商品にできればいいかもしれない。なんてったって、元手はゼロみたいなものなのだから。
そういう意味で、話を合わせることにした。

だが、

「注射大丈夫ですか?痛いですが。」

「大丈夫だ・・・ってオレの血かよ!」

しろが本気で心配している。
前言撤回だ。「ダメだ」と、キツく否定する。
仮に、「大丈夫だ」と言ってしまえば、即刻病院に連れて行かれ、太い針をぶっさされかねない。
白い彼はそこまでする男である。
発言のどこまでが本気なのかが計りしれず、かつ、一度やると言い出したら聞かない。
その上、冗談に聞こえないからタチが悪い。はちは左手首の脈を取った。まだ、大丈夫のようだ。

眼鏡を押し上げながら、確認のためにレジを開けた。

すると、ふわりと甘ったるい匂いが立ち上った。

「・・・今度は、なにをやったんだお前は」

しろを見やれば、彼は深緑の小瓶を掲げて見せた。ラベルの中央に”バニラエッセンス”とアルファベット表記されている。
しろは得意げに鼻を鳴らす。

「もし、お金の匂いが、人を狂わせてるんだとしたら」

「・・・だとしたら?」

「もしも硬貨がいい匂いだったら、なにやら怪しいお金の匂いがする人も、匂いが分からなくなっちゃうんじゃないでしょうか?」

「・・・クリーンになるってか?」

「そうですそうです!」はちは眉間を掻き、ふぅと息を吐いた。

「・・・残念だが、そういう奴らは現金なんて持って歩かねぇの。」

「え?」

「・・・カードとかでさっさと払うんだよ。キャッシュだ、キャッシュ。一括で、ってやつだ。」

少々の間。
そして、

「あぁ!失念していました。」

しろは地団駄を踏み、大層悔しがった。「やはり悪は手強いですね」と瞳をぎらぎら輝かせ、闘志を燃やしている。
はちは唖然としながらも、鼻につくその香りを外へ出すため、表の扉を開けた。
初秋の冷ややかな風に鼻先をくすぐられ、くしゃみを一つ。
押さえた掌から、甘ったるいバニラの匂いがした。

「…ケーキ屋が悪事の温床になったら、困るだろうな。」

ありえねぇけどな。
はちは自らの馬鹿げた妄想を振り払い、ふたたび堂内へと踵を返した。

【完】

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
ハロウィンと全く関係のない物語でしたが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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