【小話】嗜好×思考=矛盾?【更新】

≪小話更新≫
読み切りです!お時間ある方はどうぞお付き合いください^^♪


【嗜好×思考=矛盾?】

冷たい風が肌をなぜる黒蝶堂屋上にて。

「音もなく忍び寄ってくんなって言ってんだろうが!」

静けさに包まれた空間を切り裂く、悲鳴にも似た叫び声が響いた。

「貴方がすぐ五感に頼ろうとするから。」

着古したジャージを着、土を鉢の底に敷き詰めていたはちの向かいで、いつの間にか椅子に座っていた彼女は平然と答える。
屋上へと続く古びた扉が開き、閉じる際の軋む音すら、彼女は必要としない。

彼女曰く、「私は黒蝶堂の憑者だから」だそうで。

「・・・第六感なんて都市伝説だ。」

そんな存在すら信じていない彼は、戯れ言宣う彼女へ深い深いため息をついた。

「18回目。」

「なにがだよ。」

応えない彼女・ゆりに、はちはもう一息。
すると、

「19回目。対前日比で12回の増ね。」

彼女はじっと、はちの目を見た。
しばしの沈黙、そして。

「・・・こいつを買った時のことなんだが。」

屈服というか、観念というか。
彼女の気迫に押され、はちはしぶしぶ白状し始めた。



それは先日、夕暮れ時のこと。
タグのついた商品をビニール袋に下げ、帰路についていた頃合い。
店を出たところで偶然すれ違った女学生がいた。顔見知りではない。彼女が、隣の友人に笑いかけたのが背後からの気配でわかった。

「見た?イチゴ育てるのかな?可愛いよね!」

タグには絵本に出てくるかのような、ファンシーなイチゴのイラストが描かれていた。



「・・・食いもんが可愛いって、どういう意味なんだ?」

苗を置き、土をかぶせ、花の咲く位置のあたりをつけながら、茎の場所を調整する。
ここはよく陽が当たるから、きっと大きく育つだろう。
鉢を柵にかければ、尚良いだろうと、植木鉢に専用の縄をくくりつける。

「百歩譲って可愛いとしてもよ、それを食うんだろ。可愛いもんは愛されるって前提だと考えりゃ、捕食って行動は矛盾してねぇか?」

はちは続ける。

「あの店、行きづらくなったな。やすくて結構気に入ってたんだが・・・仕方ねぇか。」

そこでふぅと息を吐き、彼女を見る。
無表情の彼女の、黒目がちの瞳はまばたき一つせず、はちの言葉を待っているようである。
居たたまれなくなったはちは、話を区切り、

「・・・俺が一人愚痴ってるみたいじゃねぇか。」

両手の軍手の口部分を引き上げ、続けざまに膝小僧の土を払った。
すると、彼女は少々の間を置き、静かな声音で告げた。

「貴方、菜園のことになると、途端に饒舌になるわね。」

はちはスコップを握り直す手を止めた。
そして、

「・・・気のせいだろ。」

ばつが悪そうに、視線を青い空へと逸らした。
彼女はふわりと椅子から降り、彼に問う。

「貴方は、自分の作物を愛していないとでも?」

「まさか。」

「なら貴方も、彼女たちと一緒よ。」

はちは腕を組み、首をひねる。
違うんじゃねぇの?いや、先ほどの前提にそぐわせれば、自分も食べ物を可愛いと思っている節があるのか?それは人間に対するそれと同じ慈愛の感情なのか?そんなまさか!だがしかし・・・?

一人思索の海におぼれる彼へ、彼女は一枚のチラシを投げた。
海から這い上がり、宙を舞うそれを慌てて掴む。
紙面にはきらきらと輝くかのような派手な広告が広がり、どうやら新しいレストランの企業広告のようである。
彼女の白い指が、一点を指す。

「いちごとちょこれぇとの漬け物。」

それは、真ん中に鎮座する大きなチョコレートの滝であった。
チョコレートは彼女の好物であり、時折食べている姿をはちも目撃する程である。

「・・・チョコレートフォンデュって書いてんだろうが。」

「漬け」といえば、「漬け」物だが。
はちはうぬぬと腕を組む。
その表現は誤解を与えるんじゃねぇのかと、言外に伝えようとする。
が、カタカナ用語に滅法弱い彼女は応えずに

「来春、楽しみにしてるわ。」

くすりと口元だけで笑い、屋上を後にした。
はちは頬を掻き、眼鏡を押し上げた。仕方ねぇなと呟きながら。

「…胸やけするくらい、食わせてやるよ。」

再び先の店に行く算段を、脳内で計算し始めた。

【完】


≪あとがき≫

一般家庭でイチゴを育て始めるには、今の時期がぎりぎりと言ったところでしょうか。
虫さんが付いてくるので、簡単に栽培できるとはいえ、注意が必要です。
市販のものだと2万円(一粒)くらいの贅沢イチゴもあるみたいで…いったいどんな味がするのでしょう。

お付き合いいただき、ありがとうございました!


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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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