【小話】 (後) 【更新】

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というわけで、お待たせ(?)しました!
小話の続きを更新です。前回の分は以下のリンクからどうぞ。


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【 (後) 】

彼女の話によると、「すいっちゃん」とは、人が一人跨がれるほどの長大なホウキの名前らしい。

まさか

彼らは顔を見合わせた。半信半疑のまま、二人は彼女を連れ来た道を引き返し、指さす先に先ほどの(元)ホウキ(だったもの)を据えた。すると、彼女の青白い顔は、見る見るうちに青さを増し、白みを放つかのごとく色を失った。

そして。

「きみたちどうしてくれるんだ!?」

額から血を吹き出しながら、彼女は手近にあったはちのネクタイを力一杯引っ張る。赤いネクタイに、鮮血が散った。

「ギ、ギ、ギブアップだ!」

はちが反射的に彼女の手袋をはめた腕をつかむ。と、彼女は正気に戻ったのか、

「はっ!いけないいけない。魔女はもっとクールで、意地の悪い仕返しをするんだ。」

やけに大きな独り言を呟きながら、手を離した。

「ならば、新調したらどうでしょう?」

冷静を装おうとしながらも、ふるふると体全体を震わせ、あからさまにしょげる彼女に、「そろそろ帰ろうぜ」と、うんざりした顔を隠そうともしないはちを見渡したしろは、ぴこんと人差し指を立てる。

次の瞬間、しろは両者の背中を押し、

「ほらほら早く!」

強引に、足を踏み出させた。



三者が到着したのは、遙光の街でも有数の百円ショップであった。5階建ての各フロアには、新商品から用途不明の商品までが、天井渦高く盛られ、棚の合間を縫うように、数多くの人間たちが練り歩いている。

しろは種々の料理グッズを漁り、手元のかごへと入れた。
次に、パーティグッズのコーナーへ。そして、園芸ゾーンで油を売っているはちへ

「これ買ってくださいほらほら!」

あれやこれやと絡んでいる。

「・・・駄目だ。」

「なんでですか!」

騒ぐ二人とは対照的に、少女はじっと睨みを効かせていた。「考える人」のポーズを取る指を添えた額には、真白い包帯が巻かれている。これは午後の配達に出かける際、ゆりが「持っていって頂戴」と宣い、消毒液と一緒にしろへと渡したものだ。破れた帽子とスカートには、応急処置として大きな布きれが縫われ込まれている。これも、彼女の持たせた物で、しろが応急の処置を施した結果である。

「・・・まさか本当に役立つとは、な。」

「新しいすいっちゃんは見つかりました?」

あんたが主役!と書かれたタスキをかけ、クリスマス用のとんがり帽子を頭に載せたしろが問う。

「これにする。」

彼女が手に取ったのは、コゲ茶色を基調とした外掃用のホウキであった。立てた状態で持っているために、それは彼女の背丈よりも長いことがわかる。

そこで、はちは最初の違和感を覚えた。

――こいつ、こんなに小さかったか?

予測していた目線の高さよりも更に下に、彼女の顔はあった。気のせいか、彼女の丸眼鏡も気持ち大きくなっている。というか、顔が幾分幼く、小さくなっている。
頭一つぶんほど、縮んでいるような気がしてならない。
高校生が、中学生に逆戻りしたかのような、些末な違いのような・・・。

はちは、しばしの沈黙を行使し、

――気のせいだな。

彼女の容姿を見直し、苦笑しながら結論づけた。
と、彼の視線を感じた彼女がじっと見てきたので、

「・・・黒い服に長い杖に箒で、まるで魔女だな。」

自分の邪推をごまかし、ため息混じりに感想を述べた。
すると、

「違うよ。」

「そりゃそうだ。そんなもん、いるはずねぇんだから。」

「「まるで」じゃなくて、私、本物の魔女だから。」

「そりゃそう・・・え?」

はちの戸惑いを置き去りに、彼女は平然と、

「こういうのは、イメージが大切でしょ?」

真面目な声音で答えた。

「「あれは、こうだ!」って決めつけた方が楽ちんでしょ?「正義は勝つ。だから悪は破れて当然」疑いどころのない、共通認識ってやつ。」

「・・・訳がわからねぇ。」

自然と眉がひそまるはちに、
彼女はひっひっひと、意地の悪い老婆のような声をあげて笑った。周囲の人間が商品に手を伸ばす手を止め、遠巻きに彼女を見た。



彼らは店を出、近くの公園にやってきた。
昼間でも肌を刺すような冷たい風の吹きすさぶこの季節、公園には人っ子一人いない。平日だからでもあろう。仕事に疲れた営業担当のサラリーマンの後ろ姿も、砂場で遊ぶ未就学児も、井戸端会議を繰り広げる主婦たちの姿もなかった。

黒い彼女は鼻歌を歌いながら、ホウキを握りしめている。その柄と毛を繋ぐ間には、大判のハンカチが黒いリボンで結びつけられていた。紫がかった背景に、大きな瞳、赤く吊り上がる口元が浮かぶ模様があしらわれていて。

「お世辞にも、洒落たデザインとは言えねぇな・・・」

それを巻き付けた本人に言えば、

「困っている魔女が落ちていたら、箒に結んであげて頂戴。」

声音から仕草から、やけに似ている物真似を披露したしろが、「ですって!」と自分に戻り笑う。

「ゆりちゃんの読み、ビンゴでしたね!」

「・・・あいつ、今日こいつと会うのがわかってたみたいじゃねぇか。」

なんなんだよまったく。

――もしかして、配達業務もあいつの仕業じゃねぇだろうな。まさかな。

そんな直感が働いたが、頭を左右に振り、彼女の姿を脳内から追い出した。

と。
嬉しそうにホウキを眺めていた黒い少女は、

「お礼に、といってはなんだけど。」

彼らに向き合い、ホウキを地面に横たえた。

「魔法、見せてあげるよ。」

彼らの返事も待たず、彼女は目を光らせた。
深緑に輝くそれが、はちに頭痛をもたらす。
衣服の下から取り出したのは大きな水晶玉であった。辺りの風景が透けて逆さまに見えるそれが、みるみる間に分裂し、1つだったそれが、彼女の足下にぼろぼろぼろと転がった。呆然と見つめていた二人のつま先にも、球体がころころと転がり、こつんと触れたため、二人は同じタイミングで我に返った。

「・・・手品だろ、どう見ても。」

痛覚にうなだれながら力なく言うも、目を輝かせ、光景に見とれている最中の隣人には届いていないようだ。自分の推測を肯定する材料も、否定する原料も落ちておらず、はちは、増え続ける水晶をぼんやりと見るにとどまった。

気づいたときには、水晶は元の一つに戻っていた。
彼女は俯き、

「でも、私、できないことがあるんだ。魔女なのに。」

「できないこと、ですか?」

「・・・空が飛べないんだよ。おかしいでしょ?」

自虐的な笑みを浮かべながら、か細い声で、口元をゆがめた。

「そうだったんですか・・・。」

「『うぃっち おん ざ すいっち』語呂も悪くないはずなのに。」

彼女は唇を噛み、肩を震わせる。

「語呂の問題じゃねぇと思うんだけどな。」

はちのつま先を、しろが思い切り踏みつけた。
彼女は顔を上げ、二人を見やった。

「努力は絶対報われるでしょ?はち堂長に、しろ副長。」

悶絶するはちが、涙の浮かんだ目をはっと開いた。

「・・・なんでオレたちの名前を?」

ここに来るまで少女の名前も、自分たちの名前も互いに明かしていないはずだ。
名乗り合う必要もなかったからだ。

「「私たち」の間で君たちを知らない「者」はいないよ、堂長。黒蝶のゆりが言ってたから、間違いないでしょ?」

「もしかして!」

しろが身を乗り出し、改めて彼女の頭の先からつま先までを見渡す。彼女はおとぎ話にでてくるかのような、「本物」の魔女のごとき、何かを企んでいるかのような不気味な笑みを浮かべ、

「君たちが生まれる、ずっとずっとずぅーっと前から、私たちは存在してるんだ。」

彼女の手のひらに、どこからともなく真っ赤な林檎が顕れた。

果物に目を奪われてたはちであるが。
ふと、少女に視線を戻す。

と。

「・・・嘘だろ?」

目を疑った。
そして、はちの違和感は、確信に変わった。

彼女の顔は、もはや少女のそれではなくなっていた。

丸まった背中に、深い皺が何本も刻まれた頬と目尻。細く、枝と皮で出来たかのような骨ばった指。艶のない髪に、筋肉の落ちた細腕。まるで別人のようなその様の中で、唯一変わらない、鋭い眼光が光る。掌の林檎が、勢いよく萎れていき、彼女の手の中で小さくなって、消えた。

少女だった老婆は、とてもよく似合う丸眼鏡を掛け直し、

「光陰矢の如しと表現した人間がいたでしょ?これから先、君たちはどれくらい生きるのか、推測は出来ても確信を持つことはできない。」

「・・・そりゃ、そうだろ。」

「しかし、どう生きるかは自分で決められるでしょ?」

「・・・そりゃ、そうかもな。」

「ならば聞くけど。」

働き盛りの女性然と変化した黒装束は、

「君たちは、何のために存在している?」

「何の為って・・・」

はちは口元をゆがめ、しろは目をぱちくりとさせた。

「先代は素晴らしい人だったよ。きみたちにも、期待していいんでしょ?」

二人の返事を待たず。

「これ、ありがとう」

ホウキ・・・もとい新「すいっちゃん」を指さし、再び熟した果実と化した林檎をしろへと放ると、彼女は去っていった。彼の手元に届いたとき、それは8等分のうさぎを模した形になっていた。

ぴょんぴょんとホウキを跨ぎ、地を蹴る少女の姿は、まるで本当に、空を飛ぶ練習をしているがごときであった。

彼女の後ろ姿が見えなくなった頃。
はちはため息一つ吐き、

「・・・生きてるから、生きてるんだろうよ。」

言えなかった言葉は、遅れて呟きとなった。
しゃりしゃりと、しろが林檎をかじる音が耳に残った。



「どう?魔女におちょくられた気分は?」

今日の日誌を書き、ゆりに提出したはちは堂長席で頬杖をつく。

「・・・どうもこうも、あまり気分のいいもんじゃねぇな。」

頭も痛ぇしよ、と続ける。

言いながらはちは、公園に向かう途中に彼女と交わした言葉を、順々に思い出していた。

「クールで冷静で」

「未来が読めて」

「人を簡単に籠絡して」

「心が読めて」

「空も飛べる」

「それが魔女なんだよ。」



「・・・魔女なんているはずねぇんだけどな。幻影だ。」

言いながら、それに当てはまる奴を、知っているとも感じていた。

はちは、改めて正面の少女を見た。
その定義に当てはめるとするならば。

――こいつが本物の魔女みたいじゃねぇか。

「誰が魔女ですって?」

「・・・だから、人の心を勝手に読むなっての。」

黒目がちの瞳を揺らしながら、少女は板に付いたニヒルな笑みを彼に返した。

「安心して頂戴。」

彼女は日誌を閉じ、彼をじっと見た。

「悪が勝っても構わないわ。」

「・・・へ?」

何を言い出しているんだ?はちは記憶の糸をたどり、黒い少女の台詞を思い出した。ゆりはその事を言っているのだろうか?

「必要とあらば、貴方が世界を征服したっていいわ。」

「本当ですか!」

食器を片づけていたしろが、ひょいと堂内に顔を覗かせる。
はちが魔王ならば、僕は影の支配者で、裏で世界を牛耳っているんですねと、くすくす笑っている。

「本当なわけねぇだろ!」

がくりと肩を落とすはちに、ゆりは眉一つ動かさず、林檎よりも赤い瞳を向けた。

「その暁には、林檎を飽く程まで食べ尽くして、笑って頂戴ね。」

「・・・オレにもわかる言語で話してくれ。」

話の展開についていけねぇんだよと、はちは混乱しながら、後頭部を掻いた。

【完】



先代とは、はちの祖父・黒川伊織のことで、先の黒蝶堂堂長。
ちょいちょい話に顔を出してきています。

最後に、タイトル

【美味しい林檎の食べ方とは】


お付き合いくださり、ありがとうございました!

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テーマ : オリジナル小説
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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