【小話】ねぐせの話【更新】

【ねぐせの話】

「寝癖、すごいですよ。」

はちは、指摘された前髪を軽く押さえ、

「うるせぇ。なおらねぇもんはなおらねぇんだよ。」

しろが運んできたお茶を一口啜った。

今朝はちが見た時にはすでに、黒蝶堂のレジ兼堂長席の机上に、一冊の冊子が置かれていた。
表紙には『黒蝶堂日誌』の文字。
黒川はち、と名前欄は丸みを帯びた字で埋まっている。

「おい、これは何だ。」

視線の先には背の高い本棚の上に座り、書物を膝に乗せた少女・ゆりが黙々と文章を追っている姿があった。
ゆりははちを一瞥し、

「あなたが堂長としてやるべき仕事の一つよ。今日からさぼらず、毎日書きなさい。」

一息で言うと、再び本の世界へ旅立った。

「つまり、日記ですね。」

閃いた!と言わんばかりのしろの隣で、はちは苦虫を奥歯ですりつぶしたような表情でページをめくった。
まっさら。日付も罫線もない。
ただあるのはページとページを区切る、赤い栞。黒い蝶が描かれている。
はちはそれを机へ放り、天を仰いだ。

「こういうのは、苦手なんだよなぁ…」

夏休み最終日、慌てて日記を涙目で埋め尽くした小学生の頃の自分が、未だにここにいる。

【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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