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【小話】鬼桐さんと黒蝶堂【更新】

今日の朝から、町はお正月モードに着替えているのでしょう。
こんばんは、秋雨です♪
寒空の下、木々に絡みつけたイルミネーションを取り外す作業は、とても骨の折れることでしょう。

というわけで、小話更新です。
鬼桐さんメインのはずがあれれ…と、とりあえず、どうぞ!(脱兎)


【鬼桐さんと黒蝶堂】

――夢なんて、久方ぶりだ。

赤いお嬢と、灰色の髪を持つ老爺の後ろ姿。彼らの前には、片側2車線、3台の車「だった」ものが炎上する赤黒い影と、止めどなく立ち昇る煙。まだサイレンの音さえ響いてこない、「出来立ての」事故が、調理される暇も無く散らかっている。

「鬼桐、遅かったね。」

振り返り、逆光を受けながら柔らかく応えた老爺は、黒蝶堂堂長・黒川伊織である。

――またか!

私は上がる息を噛み殺し、黒い手袋に覆われた拳を握った。

彼ら――黒蝶堂はいつも、通報を受けた私たち――遙光の憑者で構成されている警察隊よりも早く、事故現場に到達している。

それは、なぜか。
答えは、簡単だ。

「ごきげんよう、極北東の万鬼。」

もう一度、確認しよう。

・・・答えは簡単だ。

隣の少女が口元だけで笑う。
漏れたガソリンに引火したのか。背後で、小爆発が一つ起きた。

答えは、この赤い眼の少女が・・・



「じゃかしいわっ!」

破裂音が大気を裂き、鋭い軌道で空へと飛んでいく。弾道上の椿の花が一花落ち、宿り木していた雀たちが一斉に飛び立った。

「た、隊長、落ち着い「これが落ち着いてられっかあっ!」

部屋の隅へぶっとんだのは、ゴーグルの少年・カコである。暴走する鬼桐からピストルを取り上げようとし、しかし適うはずもなく、あっさり振り払われた反動が彼の体を襲った。

指先から水流を発射し、水を多量に含んだ即席のクッションを落下点に設けたカコは、間一髪、そこへ不格好な体勢になりながら飛び込むことに成功した。


平屋建ての、客人が物怖じしそうな程、剛健な純和風の建物。その嘘のように広い畳の一室で、文字通り「鬼のような」赤ら顔の男が煙草をのむ。
彼の右手には白い煙が流れ出続ける短筒。レプリカ? 否、実物のピストルである。先ほどから、縁側ごしに見える東の空が陰り始めていた。季節外れの、雷雲だ。

「仮眠するから、すぐ起こせって言ったろうがあっ!」

倒れ込んだカコを掴み上げ、ぴきぴきと額の青筋を見せつけた。



耳障りな雀たちのさえずりに、安眠を妨げられ現実に引き戻された。寝かされていた布団を抜け出す。ぼうとした頭で席に着けば、机上に積み上げられた書類の山、山、ヤマがどっと倒れ込んできた。窃盗、殺人、事故、火災、大雨などなど。紙の雪崩に埋もれた鬼桐の前で、事情も知らぬ大なり小なりの出来事が、事後報告という形で繰り広げられていく予定のようだ。

とある部下が、爽やかな笑顔で寄ってきた。

「隊長、お目覚めですか!早速ですが・・・」

「一つ聞いていいか?」

「は。」

「私は、いつ眠りに落ちたか?」

男は澱みなく答えた。

「は。ちょうど1週間前の午後5時32分ですが。」

とりあえず、池に放り投げておいた。



遙光の警察隊が担当するのは、憑者関連の事故、事件だけである。であるのに、たった1週間ばかりでこの数量はいかがなものか。どこかの誰かのように「さすが、師走といったところですね!」などと、悠長なことは言ってられない。人間どもの気が逸りすぎているか、もしくは緩んでいるからに違いない。

これは一言言わねば気が済まない。

言う先はもちろん、黒蝶堂である。

そしてもう一つ。
これは、あくまで可能性の話であるが。

黒蝶堂のことだ。
これらの事件についての情報を整理している可能性がある。利用させてもらっても、これは、正義のためだ。感謝こそされ、文句は言わせない。

だからこそ!

鬼桐は命じる。

「堂長を呼べ!今すぐに、だっ!」

「伊織堂長は死んだんですって!」

「構わん!地獄から連れ戻せっ!」

「隊長が言うと、洒落になんないですって!」

「カコ、お前、私の言うことが聞けないのか?」

「いえ。」

きっぱりと断るカコのゴーグルが、青と赤に禍々しく光る。鬼桐は新しい煙草に火をつけ一息入れた。白い煙が、天井から縁側へ細い線を描きながら流れていく。

「ゆり嬢め・・・根に持ってやがるな・・・」

「根に・・・?」

「あれだ。ほら、この間会ったろ!」

鬼桐の脳内に、夏祭りの事が再生される。
しかし、その場にいなかったカコが、知るはずもない。
イライライラと、鬼桐の怒りのゲージがたまってくかのごとく、灰が畳に落ちていく。

カコは空気の淀みを感じ取り、冷や汗を垂らす。
おそらくは黒蝶の小娘と鬼桐の隊長が、衝突したんだろう。それも、隊長に不快感を与える結果だったに違いない。

強引に、そう推測した。

先代の伊織が堂長の任にあった頃は、警察隊と情報を共有していた黒蝶堂であった。以前は、事件の度に首を突っ込んで来ては事態をややこしくして去っていく厄介な存在であった。
にもかかわらず、ここのところはだんまりを決め込んでいる。

鬼桐は考える。

――いたらいたで調査の邪魔だが、いなければいなければで、調子が狂うことこの上ない。

利用できるものは利用したい。
だが、ゆりの嬢ちゃんは一筋縄ではいかないタイプの上、夏の夜のことを根に持っているようだ。

しかし。

「面倒だっ!私がなぜ折れなきゃならないんだっ!」

頭を抱え、机を叩けば、真っ二つに折れた。

「隊長が、自省だなんて・・・」

口を滑らせたカコの頬が、力一杯左右に引き延ばされた。

「辞世の句でも詠んでおくんだなっ!」

「ひぎれますって!」

言った瞬間、大量の水が頬からあふれた。
畳へこぼれ、水浸しになる。血は一滴も流れない。
かたまりの形を維持したまま、頬の肉片が庭先へ投げ捨てられた。

面白くないなと言わんばかりの冷たい表情で、鬼桐は手を離す。

「ここも鍛えとけっ!」

「むひへすっへ!」

「この畳、何度変えたと思ってんだっ!」

カコは傷口を押さえ、うずくまった。

と、カコの眼が、部屋の隅に転がった者の影を捉えた。一体ではない。複数いる。

彼らももちろん憑者であり、鬼桐の部下であった。
・・・生きていれば、これからも彼の部下である。
先だって、寝覚めの悪い鬼桐が暴れた後に、彼らも次々と、あちらこちらに飛ばされたのであった。

それでも、

「た、隊長・・・話を聞いてくだ・・・」

それぞれが各々に呟く彼らに、カコは嘆息がでるばかりである。

と、

そのうちの一者が、顔をやっとの事であげ、わずかな力の限り呻いた。

「隊長、俺たちを見捨てないでください・・・!」

少々の沈黙があたりを支配する。

鬼桐は、室内でも絶対にとろうとしない六芒星の飾りが光る帽子を、深く被り直した。

立ち上がり、彼らの前にゆったりとした足取りで近づく。

カコは生唾を飲み、事の展開を見守った。

「おい・・・」

鬼桐は彼の胸ぐらを掴み、鋭い目で噛みつかんばかりの視線で彼の目を覗いた。犬歯気味の歯が、煙草をくわえる唇の隙間から見える。

「よく聞け。」

鬼桐は顔をゆがめ、つばを飛ばす勢いである。

「お前たちが地獄送りになる日まで、お前たちは永続的に私の部下であり続けるんだろうがっ!この憑者ならぬ愚者どもがっ!」

「た、隊長・・・」

手を離し、ヘたり込む男と、周囲を見渡し、鬼桐はわずかに眼を細め、再び額に青筋を浮かべた。

「そんなくだらんことを考える暇があったら、さっさと現場へ案内しろっ!」

「はい!」

男は目を輝かせ、痣だらけの顔に誇らしげな笑みを浮かべながら、びしりと居住まいを正した。

「隊長!俺にも直接喝を!「私にも一番辛いやつを!「いや、オレに!

「仕事が先だ!さっさと行くぞ。」

次々に立つ部下たちに背を向けた鬼桐。
カコは素早く身を翻し、立ちはだかる。

「隊長!書類がまだ

「それどころじゃない!」

「しかし、

「カコ、お前が責任を持って片づけておけ!」

「で、でも、隊長の承認が必要な

「だから、現場を確認に行くんだろうがっ!」

「ですが、

「いいな、これは、隊長命令だっ!」

「そ、そんなぁ・・・」

「困ったからって黒蝶堂に頼み込むな!癪に触るからなっ!」

「それは隊長も同じことを考え

「わかったな!あと、畳換えとけっ!」

縁側をかけてくる足音が聞こえた。
飛び込んできた男は言う。

「隊長、事件発生です!」

「よっしきた。お前等、地獄の底まで着いてこいっ!」

「「「「はい、隊長!」」」」

黄に染まった瞳を光らせながら、鬼桐は外へと飛び出していった。

いつの間にか、天気は快晴。
椿の花が咲き誇る、冬の朝のこと。
取り残されたカコは、がっくりと肩を落としたのであった。

「・・・僕だって行きたいのに。」

書類がバサリと、畳に落ちて広がった。

【完】


<あとがき>

上司に恵まれないカコと、鬼桐さんのお話でした。
この続きはまた年末に!続く…かもです。黒蝶堂側を絡めて、描けたらいいな。

”夏祭りの事”は、リンクを貼っているのでそちらもよろしければ。鬼桐さん初登場シーンへ飛びます。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございましたv



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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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