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【小話】黒蝶堂の年の瀬【更新】

大みそかですね!
てことで、小話更新です。鬼桐さんの続きと年の瀬の風景を少し。
よろしければお付き合いください!

【黒蝶堂の年の瀬】

「大掃除ですよ!」

カーテンレールが金切り声をあげた。
部屋の主は跳び起き、枕元の眼鏡を装着する。

「な、なんだ!?」

「だから、大掃除なんですってば!」

だからほら、これどうぞ。
青い目を輝かせる同居人が渡すは、大量の新聞紙とバケツ、それに、複数枚の白い布である。

渡されたはちは夢と現実の狭間で尋ねる。

「・・・今、いったい何時だ。」

開かれたカーテンから覗く冬の空は、まだ暗い。
しろは階段をかけ降りながら答える。

「おそれ多くも、朝の四時ですよ!」

「・・・そうか。」

数秒後。
はちは暖かな布団へ、再び陥落した。



時は流れて夕方五時。
掃除は未だ終わらず、黒川はちはヘトヘトになりながら堂内の書物を整理している。厳しい監視がついているから、休憩することすらままならない。

その監視人が、

「ちょっと買い物に行ってきますよ。サボったら許しませんからね!」

びしりとはちを指さし、表戸を締めた。

「・・・わかってるっての。」

そして、堂内に一人取り残されて数分後。
はちは頃合いを見はからい、散歩に出た。



月は雲隠れし、星の瞬く夜空が頭上に広がる。
吐く息が白い。アーケードの皆皆は早々に店を畳み、思った以上に静かである。「今年も終わりだな」と、一人感慨に耽っていると。

「あと二歩、こっちに寄って頂戴。」

「へ?」

「ほら。」

聞き覚えのある声にぐいと、力強く引かれた。
同時に、「パツン!」と破裂音。

瞬間、数秒前まで居たコンクリートに、六角星が刻まれた。弾痕から、白い煙が立ち上り、

「な、な、ななな!?実弾!」

はちはさぁっと青くなった。
彼を引いた少女・ゆりは

「さぁ、年末の挨拶にむかって頂戴。」

近くのビルの戸を開き、淡々と告げた。



店の屋上には、立ち入り禁止の看板が下げられていたようだ。今、その看板は蜂の巣になり、階段の途中に投げ捨てられている。

屋上の端に座り込む影が二つ確認できた。
六角星のエンブレムが光る帽子の男と、ゴーグルが目立つ少年の後ろ姿である。黄色い男の腕が、反動で振り上がる。

と。
突然、急ブレーキ音が響いた。
下の世界でどよめきが広がっている。喧噪が一回り大きくなった。

帽子の男が振り返る。

「貴様が、呆けて歩いてるからだっ!」

「堂長、三歩右よ。」

傍らにいるゆりの指示通り動く。
と、先頃まで居たはずの空中に、何かが目にも留まらぬ速さで飛んでいった。
それが鉛の塊であることを、はちは知る由もない。

「ここは日本だ!人を銃で狙える国じゃねぇんだよ!」

「杞憂だな。隊長は百発百二十中さ!」

「・・・越えてんじゃねぇか!」

「それくらい凄いってことだよ、人間。」

得意げな顔で言うのは、構える鬼桐の側に控えているゴーグルの少年・カコである。

ため息をつくしかないなと、はちはため息をつく。
と、帽子の男・鬼桐は目を光らせ叫んだ。

「事故は未然に防げって言うだろうが!」

だから、危なっかしい動きの人間を片っ端から撃ち抜いてやってるんだ!口には空気の塊をお見舞いし、弾は足下を狙ってるから問題はない!これは正義のためだ!

言い放ち、帽子から覗く鋭い眼光で、地上を見下ろした。

「その考え方、嫌いじゃないわ。」

ゆりが明るい夜空の下に姿を見せた。
鬼桐のくわえる煙草の灰が、一掴み落ちた。

「ごきげんよう、極北東の万鬼。」

「・・・ゆり嬢、元気そうだな。」

「そうでもないわ。」

「斜に構えるところも変わってないな。」

「そうかしら。」

彼女はゆったりと、彼らに近寄っていく。屋上を踏みしめる音が二者分。静かな対立のような、剣呑な空気に、はちは体が震えるのを感じた。

鬼桐は再度、下界を見やった。

「事故が多いのはぼうとしている人間が多いからだ!堂長も見てればわかる!」

ほら、まるで、あいつみたいな!
黒い手袋が指さす先に、白い後ろ頭。鼻歌でも歌っているのか、足取りは軽く、どこか危なっかしい。

「・・・げ!」

はちは呻いた。

あの白髪は、間違いなくしろである。
帰っとかねぇと、面倒なことになりそうだ。例えば、帰宅したら掃除する部屋が氷漬けになっていそうな。

「・・・あり得ねぇけどな。」

だが、早く帰るに越したことはない。はちは慌てて、階段を下りようときびすを返した。

そのとき。
鬼桐は短銃を構え、トリガーを、躊躇なく引いた。
乾いた音が、辺りに響いた。

しかし、どういうことか。
こちらを見ていないしろは、ステップを変え、ひらりとかわした。

数秒後。
ははっと乾いた笑いが宙を舞った。

それをこぼしたのは、事の顛末を見送ったはちである。

「あいつ・・・やるじゃねぇか。」

その隣に、イライライラと、音が聞こえてきそうな鬼桐が青筋を浮かべている。再び指をかけ、照準を絞る。しかし、結果は同じくしてふわりとよけたしろにより、弾丸は明後日の方向に飛んでいった。

後ろに控えるカコが、青い顔をしている。

「おかしいだろうがあっ!」

「お、落ち着いてください隊「やっぱりお前等がくると禄な事がないっ!」

「隊長!百発百十八中になっただけですか「黒蝶堂、来年も宜しくするなっ!」

「あら、来年の話をするなんて

「鬼が笑いますよ。」

ゆりの言葉を継いだのは、いつの間にか屋上に到着したしろである。
「声が聞こえたので。」彼は小さくはにかんだ。

「一つ情報を提供するわ。」

悔しさを隠そうともしない鬼桐に、ゆりは持参した本を開いた。

「10分後、四條境通りで車の自損事故。負傷人1、負傷「者」1。」

鬼桐の動きがピタリと止まり、煙草からまっすぐ煙が立ちのぼる。

「・・・四條境だな。」

ゆりの顔を念力で歪めようとしているかのごとき目力で、彼は低くうなる。「間違いないわ」との返事を受け、鬼桐はカコを呼びつけた。

「は。」

「事件だ。私も直ぐ向かう。」

鬼桐の言葉から瞬間後。
カコは体を液状化させ、屋上の床面に溶けて消えた。

はちはぼそりとつぶやく。

「・・・まさか、起きるわけねぇだろ。」

すると、

「お前は、ゆり嬢を信じないのかっ!?」

鬼桐に喉元を締め上げられた。

「そう言われても・・・」

どれだけ直近でも、未来なんて誰にもわかんねぇだろ。
はちは、鬼桐の言動の意図が分からず、苦しみにもだえる。

「善良な者からの重要な情報提供だ。動かぬわけにはいかん!」

鬼桐はホルダーに短筒を収め、はちをなげうった。
途端、彼の姿は闇に消えた。

はちは派手に尻餅をつき、ごほごほとむせ、なんだったんだよと、頭痛に頭を抱える。

「災難だったわね」

いつもより楽しげに声をかけるは、ゆりである。
涙目になりながら、はちは問うた。

「・・・てめぇこそ、大丈夫か?」

「私も、騙して良い相手くらいは選んでるわ。」

本を閉じ、簡単なことよと前置きして彼女は告げる。

「事故が起これば予知の正確性が、起きなければ彼らの行動が未来を変えたことの証明になるわ。」

「・・・そんなもんか?」

「何れにせよ、彼らが働くことで無為な事件が防げたわ。」

「ところで、真実はどっちなんですか?」

事故が起きるんですか?
不安げに問うしろに、ゆりはほんの僅かに目を細め、

「貴方たちの心のままに。」

言葉をはぐらかした。

「・・・まぁいいけどよ、どっちでも。」

はちは呟き。

「・・・さて、帰るとするか。」

下界の喧噪が元に戻ったことを確認し、今度こそ、くるりときびすを返した。しろが笑いながら

「おそばを食べてもうひと頑張りですよ!」

買ってきた材料を高々と持ち上げた。

「・・・どんだけやれば、気が済むんだ。」

力ない苦笑いを浮かべては、はちは黒蝶堂への帰路を照らす星々を見上げた。

【完】

≪あとがき≫

今年の更新はこれでおしまいです。
来年もどうぞ、よろしくお願いいたします。
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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