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【小話】涼やかさを求めて【更新】

【涼やかさを求めて】


春うららかな気候に誘われて、ツバメが巣を作ろうとあちらこちらを滑空する。
古書店・黒蝶堂。
つい先月までの寒さはどこぞへ消えてしまったのやら。
黒川はちは堂長席にて、自らの顔をうちわで扇いでいた。

が。
風通しの悪い黒蝶堂の中では、さしたる効果もない。むしろ、古書に降り積もった埃が舞い散るがため、居住者である彼自身ですら、せき込むほどであった。

「・・・世間ではクールビズだっつってんのに。」

首周りを締め付ける赤いネクタイに、彼は指をかける。
と、頭上斜め45度からひんやりとした視線が飛んできた。

その視線から外すなとの意を汲んだ彼は、その当てどころの無くなった指先を顎に当て直し、咳払いを1つ。
視線の主・書棚の上の少女は、膝上の書物を畳みながら

「わかってるわ。くるびずね。」

地上へと舞い降りてきた。

――わかってねぇんだろうな、こいつ。

常日頃からカタカナ用語をほとんど理解できていないと推測させるゆりの言動を思い出し、はちは席に伏せた。

「つまり、涼しくなればいいのでしょう。」

少女の言葉に嫌な予感がしたのは、言うまでもない。



「ぽかぽか陽気ですね~。」

縁側にて、しろが茶を一口すする。

「・・・じじいくせぇな。」

今日は風が強い。しろの隣に腰掛けたはちは眼鏡のブリッジを押し上げ、事の成り行きを傍観していた。

目の前では、見飽きるほどに見慣れた戦闘が繰り広げられていた。

「貴方も飽きないわね。」

「挑戦状を叩きつけられて」

逃げ帰るにはいかない!

ゆりに相対するのは、おかっぱ頭に赤青色ゴーグルの少年であった。
唇を尖らせた少年は、人差し指をゆりにびしりと突きつけた。



話は数分前に遡る。



はちはゆりに命ぜられ、おつかいに駆り出されていた。

ペットボトルをしろから受け取り、それに水道水を入れて川岸に置くとの、至極簡単な内容である。

「なんでオレがこんなことを・・・」

わけもわからぬまま堂を追い出されたはちが、ぶつぶつと呟きながらも仕事を終え、その場を立ち去って間もなくのこと。
川から岸へと這い出でて、ペットボトルを握りしめた一者の影。それが、ゴーグルの少年・カコであった。

そして、はちが黒蝶堂に戻って来た頃合い。

「あら、釣れたのね。」

「どういうつもりだ!」

庭先にて、カコとゆりとの衝突は、すでに始まっていた。



ゆりが口を小さく開く。

「そのお水、とても冷たかったでしょう。」

冷蔵庫を使っているのよ。知ってるかしら、冷蔵庫。

もちろん、その水は事前に冷やしていたものではなく、水道から直で流しこんだものである。
だが、

「バカにするな!」

青筋を浮かべたカコには関係のない事柄の様である。

彼は続ける。

「文明の利器か何か知らないが、人間なんぞの発明が山の神を超越するなどあり得ない!」

彼は威勢良く啖呵を切ると、左手のペットボトルを握りつぶした。そして右手の指先を宙へと突き刺した。すると、その一点から水が溢れ始め、一直線になってゆりの横っ面を襲った。
縁側二人の脳裏に、彼女の姿が焼き付く。同時に、彼女が彼の真横に移動してニヒルな笑みを浮かべている表情が存在した。

前者は残像とやらのようであるが。

――まるで2人いるみたいじゃねぇか。

「…ありえねぇけどよ。」

はちは眼鏡を衣服の裾で磨いた。

「貴方の軌道が走るのは、私の予測上よ。」

「うるさい!」

「あら、どこを狙っているのかしら。」

「数打てば当たるはずだ!」

だんだんと、カコの息が上がって来始めていた。
それらを全部かわし、尚も余裕の表情を見せる彼女は、傍観者と目を合わせた。

次の瞬間、傍観者・黒川はちの視界を、鋭い鉄砲水が襲った。
カコの弾道を誤ったそれが、家屋の方へと飛んできたのであった。

山神の冷水を頭から被り、更に、春の夕暮れ時に似合う肌寒い風が体温を急速に奪う。

「寒っ…!」

はちは体のふるえが止まらなくなった。

一方、被害現場の横にいたしろは、半歩横に移動し、「あらあら」と笑った。
彼はいつの間にかレインコートを纏い、急須と湯呑を脇に回避させていた。


そんな一方的な攻防も、荒い息を吐いていたカコがぐったりと地面に倒れ込むことで終結した。
泥水が跳ね、彼の衣服を汚した。ゆりは彼を見下ろし、さしたる興味も引かれなかったのか、くるりと踵を返し、傍観者達へと向き直った。

同時にはちはくしゃみを一つし、しろは人差し指を立てた。

「まだ夕暮れ時は寒いですね!」

あ、これが花冷えってやつかもしれませんね!と、目を輝かせる彼に、

「・・・少し遅れてきた花冷えだな。」

はちは相槌を打つ。
そして、頬を引き攣らせながら、

「まだネクタイが必要みたいだ。」

再度、くしゃみを庭に向かって飛ばした。


【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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