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【小話】奇特なセンタクシ【更新】

【奇特なセンタクシ】

晴れ渡る爽やかな初夏の空を天に仰ぎ、腹には製作に取り組みつつあった風景画の線画を抱え、彼は夢の世界に旅立っている。

こちらは黒蝶堂の屋上。
彼の近くには、洗濯機より取り出された洗濯物の山がバスケットに積まれ、日光に当たろうと首を長くして待っている。

「よく眠っていること。」

本のページをめくる気配が少女の型をなぞり、言葉を紡いだ。すると、彼女への返答代わりか、彼の握っていた水彩筆がころりと転がり、屋上の床面に空色を落とした。



「・・・そういや、見てねぇな。」

はちはそう呟くと、客人のいない黒蝶堂の中央に設置された堂長席を立った。
うろうろと堂内を徘徊する店の主を観察できる、昼間の黒蝶堂。
腹が減った。にもかかわらず、台所の主が包丁をきらめかせたり、パタパタと地を蹴り冷蔵庫を開閉したりといった気配が無い。時計を見れば、午後12時15分。いつもなら、質素な昼飯を腹に納めている時間である。彼は1階の縁側から台所、玄関から階段を上がり2階の各部屋へ。

探索を始めて、3分後のこと。

「・・・善良かつ勤勉な市民が労苦に苛まれながらも汗水たらしてるっつーのに。」

彼の顔は、呆れで歪められていた。

「のんきなもんだな。」

重たく古びた扉を押しゆけば、そこには狭い屋上が広がる。隅に設置された物干し竿の足下に洗濯物の山。その隣で、白い同居人が倒れていた。規則正しく上下する背中から察するに、どうやら息はしているようだ。近寄り、その後頭部をこずいてやれば、彼は妙なうめき声を発しながら、体を反転させた。

仰向けに寝ころび直し、ぼうと空を見上げているその様は、覚醒直後のぼんやりとした空気そのものである。まばたきの速度すら緩慢である。彼はふと、空を流れる雲に視線を乗せ、ゆっくりと人差し指で宙をなぞった。

「あの飛行機雲に洗濯物が干せたら。」

輪郭を持たないかすれ声とともに、手を空へと伸ばす。

「・・・飛行機雲?」

言われたはちが見上げてみれば、見事な飛行機雲の航路が視線と重なった。

「1年・・・いや、3年先まで、干し場には困りませんね。」

えへへと口元を綻ばせるしろは続ける。

「ほら、すぐに乾きそうですよ。それに、たくさん干せそうです。」

――まだ寝ぼけているみたいだな、こいつは。

それか、夢の続きでも見てるのか。
はちは、ふぅとため息一つ吐き、

「・・・ありえねぇ選択肢だな。」

お前がこんなふきっさらしの環境で、うっかり寝るなんてこともなと、小言を漏らす。するとしろは目を細め、

「こんなに天気がいい日ですから。」

そう答えると、ぐぐっと伸びをした。


【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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