スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【小話】なつやすみをさがせ!【更新】

【なつやすみをさがせ!】

「夏休みなんて都市伝説ですよ!」

ニュースを読み上げるキャスターに相づちを打つかのように、しろはモニターへと語気を強める。

「・・・夏休みは一般的に知見された休日だ。」

それに対しての静かなる指摘が提示される、夕食時の黒蝶堂。

夕暮れが少しだけ早まり、赤とんぼがあちらこちらを飛行し始めた今日この頃。「まもなく二学期が始まります」との司会者の前置きが、白い青年のなんらかの琴線に触れたようだ。

「都市伝説なんざ、ただの嘘話でありえねぇことだ。二つはイコールじゃねぇだろ。」

口を動かすのも面倒だと言わんばかりの最小限の動きで、ぼそりと告げるは、向かい合って座るはちである。彼は”妖怪””幽霊””都市伝説”等々の存在をまったく信じていない。だから、その類の話に話題が及ぶと、すぐに「馬鹿馬鹿しい」と切り捨てる。それがゆえ、口を挟まずにはいられない性分を持ち合わせている。
すると、テレビに反射していたしろの青い目が、はちのレンズへと向けられた。

「ならば、なぜうちには休みがないんですか!」

「・・・開店休業状態だからだ。」

「事実だが、言葉にするとやっぱり悲しくなってくるじゃねぇか」と、いっそうの疲労感を濃くしたはちに対し、しろは不服そうに、

「希少価値は都市伝説と同じくらいじゃないですか!」

ヤジを飛ばす論客がごとく、声を張り上げる。

「だから、存在するはずがねぇもんと比べんなって!」

そんな反論にも耳を貸すことなく、しろは頬を膨らませ、ため息を吐いたはちの前で、「夏休み・・・なつやすみ・・・」と、呪文がごとく呟くのであった。

翌日。

”探してきます。
(はちは)探さないでください。”

丸文字の書き置きが、堂長席の机に張り付けられていた。

括弧書きする意味が分からんと、寝起きの頭をばりばりと掻くはちは推察する。

――昨夜の様子から察するに、探そうとしているのは、夏休みか、しろ本人かの2択。当然、夏休みは見つけに行くもんじゃねぇから、オレがやつを探すということになるだろう。ともすれば、文章に言葉を補うとすれば(ぼくを)になるのだろうが。

「・・・探さねぇよ。」

一蹴したはちは書き置きをくるりと丸め、ゴミ箱に捨てた。なにか皮肉の一つでも飛んでくるかと身構えるが、応答無し。棚の上を見ると、いつもの少女の姿が無い。ふらりとどこかへ出かけてしまったのだろう。

はちは腕を大きく回し、ストレッチを一つ。

――静かな一日になりそうだな。

思いも寄らぬ吉報が舞い込んだかのような、めったにない予感を大切に飲み込み、朝食を摂るため奥間に戻った。



――うちは、こんなに広かったんだな。

時刻は午前10時28分。先ほど時計を確認してから、まだ10分・・・正確には、9分しか経過していない。客人はまだ1人も来店せず、黒蝶堂前の弁当屋の主人が仕込みをしているさまがガラス戸ごしによく見える。堂内に一人で居るせいか、いつも以上に部屋が広く感じるのであった。仕方なく、書物の整頓をしたり、ハタキを持って棚をはたいてみたりする。棚の数が多いため、仕事の量は多い。更に、いまだ棚に並べていない書籍も、自宅の各部屋やら客間のあちらこちらやらに積まれているから、はち自身、この店の総冊数を把握し切れていなかった。娯楽小説の背表紙並ぶ一角で、その一冊を開き、すぐに閉じて、棚に戻す。

――よくもまぁ、こんなでたらめを書けるもんだ。

本が出版されているという事は、これを読む人間、もしくは読破した人間も存在するという事実にほかならず、

「物好きも多いんだな」と、感心すらする始末であった。

一度、堂内を整頓しなければならないと改めて思っていた矢先、彼は頭を悩ませるものにけつまずいた。

それは堂内の棚と棚の間のすきまに転々と転がる、謎多き骨董品らしき物であった。祖父の生前から置かれている物品で、どれもどう処分していいかわからず、そのまま放置している現状である。しろが毎日簡易な手入れをしているためか、埃を被っているものはないが、染みついた古さは隠しようがなかった。しかし、それらを片づけるスペースはない。ごったがえす本の群と、折り重なるがらくた達には、行き場がない。

はちは、一人思う。

――うちは、こんなに狭かったんだな。



昼時になり、席を離れた。台所に立ち寄るが、しろの姿はない。「まだ帰ってねぇのか」と呟きながら、はちは冷蔵庫を開けた。

彼は、目を疑った。

梅干しと調味料以外、なにも入っていない。冷蔵庫を閉め、周辺の戸棚に目を配る。米櫃も空っぽであり、菓子パンの類も、カップラーメンもストックがない。

「・・・オレは、いつもなにを食ってたんだ」

丸めて捨てた書き置きを再度拾い上げ、シワを伸ばしてみる。どこかに昼食のことが書かれていないか、確認するためだ。未確認、即、再投棄。と、朝食の味噌汁がまだ残っていることを思い出した。それを温めていると、隣に白飯が置かれているのに気づいた。それをすべて鍋に入れ、ぐちゃぐちゃぐちゃと混ぜ、容器に戻す。水分を含んで膨れ上がった米を強引に移し終わると、鍋底が焦げていたことに気がついてしまった。しろ気に入りの、そして、この家で数少ない料理道具の一つに、である。

冷や汗が、背中を伝い落ちた。

「・・・水に浸けときゃ綺麗になるだろうか」

完成した雑炊のような食物を腹に収め、残りを冷蔵庫に入れた。そして、カラにした鍋をシンクに置き、蛇口を捻った。



傘を持っていったのだろうか。
ふと気になったところで、連絡を取る手段はない。

しろもゆりも帰宅しない昼過ぎの黒蝶堂。朝方のまぶしい日差しはどこへやら。表通りは雨雲で灰色に染まり、ぽつぽつと地を濡らしはじめ、道行く人は皆、思い思いの傘をさして通り過ぎていく。

この時間帯になると、冷やかしの客がちらほらやってくる。売れるときもあるが、売り上げゼロの日が多いのは確かである。例えば、「これが最新のいちおしで」と、アパレル店の店員のような接客が可能であれば、もしかしたら売れぬ本も流行らせることができるかもしれない。

――いや、本はそんな風に売るもんじゃねぇか。第一、人の好みなんてわかるかよ。

一人で悶々と考えていると、頬杖がバランスを崩し、重力に従って自分の顎が机に引き寄せられた。睡魔に襲われたのだと気づき、慌てて体勢を整え口元を拭い、席に居直る。が、咎める者もなく、万年筆も飛んでこない。

湿度は高いが暑くもないし、極めて快適な気候だ。



通常なら夕食の時間帯。はちは空腹に押され、机にへばりついていた。

「・・・まだ帰らねぇのか」

思わず出た言葉が、更に空腹感を煽る。
と、

「ただいま戻りましたよー」

間の抜けた声が、黒蝶堂に響いた。
はちは足早に玄関へと向かう。サンダルを脱ぐしろが、「帰りました」と笑った。顔が陽に焼けて赤くなっており、ところどころ服も汚れている。彼の両手には大小様々の紙袋やら大判の布袋やらが提げられている。

「・・・どこいってたんだ?」

「書いてたでしょう!」

「あれじゃ、意味が分からん」

「夏休みを探しに行くって」

「・・・そっちだったのか。」

「あ、そうそう。おみやげがあるんです」と、しろは背中に背負っていたクーラーボックスをタタキに下ろし、勢いよくそれを開けた。ばばんと突き出すは、透明なビニール袋の中を漂う2の物体。怪訝そうなはちに、

「くらげちゃんですよ!」

しろは回想を語って聞かせた。



「海に入りたかったのに!」

「夏と言えば海だ!」と、彼にしては一般的な観念を採用し、思うがまま海岸線を目指した。だが、夏も終わりのこの季節に彼を出迎えたのは、プカプカと浮かぶ白いビニール袋のような生き物。それでも海に――それも、洋服のまま――入ろうとするしろの前に現れたのが、浅黒い肌をした男だったという。彼は漁師と名乗り、冷えたスイカをごちそうしてくれた。そして、「海には入らない方がいい」と助言し、肩を落としたしろに、クラゲをくれた、ということらしい。

「涼しげでしょう!」

「・・・で、夏休みは見つかったのか?」

水槽に移した2匹のクラゲに、きらきらとした目を向けるしろである。はちは、「どこがいいんだろうか」理解しがたいと感じながらも、しろに答えを問うてみた。

「ぼく、気がついたんです。夏休みとは」

「・・・とは?」

人差し指を立て、しろが機嫌よく答える。

「思い出話を、いかに楽しく伝えるか、なんです」

「・・・つまり、第三者に自慢したいだけじゃねぇか」

「これすなわち、共有と共存ですよ」

「よくもそんな、わけのわからん事を思いつくな。」

「それほどでも」

えへへと照れるしろに、眉をさらに一層寄せたはち。海の家すら退屈を持て余している海岸で、漁師はかき氷やら
やきそばやら焼きトウモロコシやら、いろいろと買ってくれたらしい。だから、「3個ずつ買ってもらっちゃいました。これが、はちの分で、こっちがゆりちゃんの分です」と、はちに白い袋の一方を手渡した。

「よくこんなによくしてくれたな」

「漁師さん、変な事を言ってたんです。」

「変な事?」

「『買ってやるから、2度と変な気を起こすんじゃない。若いから、やりなおせる。』って。」

「…そうか」

はちは多くは語らず、さっと受け取り、良い匂いに釣られて中身を取り出す。
「うまそうだな」と、海風香るようなそれらを手にとって、素直に反応した。




それからしばらくして。
堂長席にて、はちがそれらを食べ終えた頃、

「返す?」

更に、はちの眉間のしわが寄っていた。
しろはうんうんと頷く。

「くらげさんたちが生きていく上で、一番いい場所に。」

ひとっぱしり行ってきますと、白い彼は2匹を再度袋に詰め、表通りへと続く扉へと走っていった。

「せわしない奴だな・・・」

「貴方も探してきては如何?」

降ってきた言葉に、はちは息をのむ。

「・・・面倒なことは御免だ。」

平穏無事な毎日が送れるなら、それ以上のことは望まねぇよ。そう言うなり、傍らの棚を見上げた。

「てめぇがもう少し普通に帰ってくれば、オレの平穏はいくらか保証されるんだがな・・・」

高望みはしてねぇつもりだ。ただ玄関から帰ってくるなり、店側の表戸から入ってくるなりして欲しいだけなんだがなと、力無い嘆願をする。

「人間は、慣れる生き物よ」

常識の定規は幾度も書き換えられるわ。

音もなく棚の上に現れた少女は、能面のような無表情を瞬間、ほんのわずかに緩めた。その様子にはちが気づいたか否か、ゆりは気にも留めることなく、いつものように手元の書物をめくるのであった。



【了】

スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。