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【小話】しかくからのしかく【更新】

【しかくからのしかく】

耳をそばだて、左手の人差し指を自分の顔前に立てた彼は、

「死角からの刺客です。」

西日射す台所にて、左手に包丁を、右手にまな板を構え、後方のはちに注意を喚起する。
しかし、はちには、彼の言う「刺客」がいくら探しても認識できないでいる。
むしろ、しろの方が不気味に映っている。随分昔に観たテレビ番組の特集であった、人に憑依した悪霊とやらを鎮めるエクソシストのようで、宙に向かって「でてきてください」と発する姿は、不可解きわまりない。

「・・・気のせいだろ。」

ぼそりと発せられた言葉に、しろは目を開いた。
そして、はちに顔を寄せ、

「はちは、視覚に頼りすぎてるんですよ!」

言うと同時に、彼のめがねを奪い取った。視界が一気にぼやけ、輪郭を失う。「返せ!」と、靄のかかったような不安定な世界でもがくはちであったが、さらに、瞼の上が白い布のような、鉢巻のようなもので覆われた。

めがねをその上に掛け

「これでよし、はちの鉢巻巻きです」

こんな分厚いレンズを掛けてまで、目を酷使するなんて、絶対よくありませんよと続けるしろである。

「・・・おい、刺客はもういいのか」

「はい」と、清冽な声で彼は答える。

気配を感じるので、しばらくは。

平然と答える涼しげな目元は、はちには見えない。ため息を吐いた彼に、しろは何かを握らせた。シリコン製の、柔らかい柄のようなものに、はちは布の下で眉をひそめる。

「まな板の上にはサンマがありますよ。」

「・・・そうなのか」

「だから、どうした」と続けるはちに、しろの楽しげな声が降り注ぐ。

「秋と言えば、サンマですよね。だけど、無駄にはできませんよ。3枚おろしです。」

はちは彼の発言の意図を汲みとり、ほぼ同時に再度、ため息を吐く。

目が見えてもできねぇんだからよ。
できるわけないだろうが。

しかし、しろは「やってみなきゃわかりませんよ」と、声を張り、「さあ」目の前ですと、はちを促した。

しぶしぶ包丁を握り直し、自分の指を切らないよう指先を丸める。付き合う必要もないが、白い青年は、一度やると決めたらなかなか引き下がってはくれない性質の持ち主であるから、適当にやってみせるほうが、事態は早く収束することをはちは知っている。

はちは包丁を振り上げ、いきおいよく物質にたたきつけた。

と、刃先が魚に触れた瞬間、大した抵抗もなくそれが二つに分断されたような感触が、彼の手に残った。

はちはしばしの沈黙を作り、叫ぶ。

「これは・・・サンマじゃねぇ!」

「正解です!秋ナスですよー」

しろの声が、やけに遠くから聞こえた。はちは目隠しをとり、眼鏡を掛け、彼を捜す。

と、彼はなぜか、奥の部屋でテレビを見ていた。だから、声が遠かったわけである。

「飽きが来てんじゃねぇか!」

「秋は、前から来てますよ!」

「ほら」と、しろが平然と指さす先、キャスターが見事な作り笑いを見せる。

「明日は久しぶりの秋晴れで、行楽びよりでしょう」

「うるせぇよ!」

聞こえるはずもないが、天気予報士にさえも、即座に突っ込まざるを得ないはちである。

そんな彼の足下を、小型の刺客が通り過ぎていった。
口に、大きなサンマを一尾くわえて。

しろは言う。

「はち、夕食が通り過ぎて行きましたよ。」

【了】

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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まとめ【【小話】しかくからの】

【しかくからのしかく】耳をそばだて、左手の人差し指を自分の顔前に立てた彼は、「死角からの刺客です。

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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