スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【小話】白い錯覚【更新】

【白い錯覚】


「大発見です!」

黒蝶堂の古時計が、午前11時半を指す。外界の方が暖かいというのと、空気が乾燥するからとの理由で、店の表戸は開店時から解放されっぱなしだ。店の最奥にある堂長席に座るはちの目に、表通りを左から右へ通り過ぎる白い頭が映った。店をいくばくか過ぎたところで気がついたのか、体を反転させて、帰宅するや即、白き彼は言葉を発した。

「少しの謎と、それを解決する美女かイケメンかダンディーなおじさまがいれば、完璧なんです!」

「・・・一体、なんの話だ」

耳を押さえるはちへの質問に、しろはどこから持ってきたのか、抱えていた大量の書物を堂長席に置き、表紙を叩いた。「読めちゃいましたよ」ロマンの在処がと、目を細める。が、はちの顔を見、一言

「おかしいですね」

顎に手をやり、思索に耽る探偵のようなポーズを取った。

「・・・人を見て、首を傾げるんじゃねぇよ」

顔を険しくしたはちは、置かれた本を手に取った。整然と並んだ本棚の境に座り込む女性のイラストが描かれている。頁をぱらぱらと走り読みすれば、どうやらこの女性は本屋の店員でありながら、客が持ち込む謎・・・といっても、ささいな事柄ではあるが・・・の解読に挑んでいるらしい。左手に取った方はシンプルな装丁の表紙であるが、頁をめくると、今度は自分のことは何も語らない、いかにもわけありのにおいを漂わせる若い男が・・・そこから先は、一冊目と同文で紹介できる。堂長席に積み上げられた優に30冊はあるだろうこれらの本はすべて、本屋を舞台にしたミステリー物、といったところかとはちは察し、よくもまあこんなに集めてきたなと、本の中の謎よりも、しろの行動力の方が謎に思えて仕方がなかった。

「・・・で、お前は何が言いたいんだ?」

こんな架空の物語を持ってきて、何の意味があるのだと問う。これらの物語は本屋が舞台になっているようではあるが、ならば実際の店が謎の集まる怪しい場所かと言われれば、答えは「ノー」だ。著者の趣味か、はたまた偶然か、もしくは宣伝のためか。街は本で溢れているのだから、こんなに舞台と設定が重なっていたとしても、不思議ではないように思えた。

すると、しろは

「遺されたロマンを掘りおこすしかないです」

ぼくらの未来に、光明をもたらすために、と本棚の裏をあさって何かを取り出した。数秒後、なんで、そんなところにあるんだと、はちは頭を抱えることになる。

それは、巨大なつるはしであった。

「・・・まさか」

はちに遮る暇を与えず、ヘルメットをかぶったしろはそれを両手で支え、店の床に振り降ろした。とたん、ガツンとつるはしの先が堅い床に衝撃を与える音が響いた。「修理費がいくらかかると思ってんだ!」と、勢い余って立ち上がったはちであったが、一方のしろはつるはしを右手に渡し、左手で何かを拾い上げていた。「あれ、これは」との、しろの戸惑いに引かれて、勢いがそがれたはちがその手元を覗く。と、彼の手には、銀色に輝く輪に繋ぎ止められた指輪があった。衝撃を受けて転がっていったらしいそれは、円上に輝く宝石が組み込まれている。黒蝶堂の古い蛍光灯の下でも、美しい輝きを放っているそれは、傷の一つも入っていないところからして、ガラスではないだろう。

「・・・なんで、こんなところに。」

戸惑いが伝線したはちに対し、

「謎がここから生まれましたよ。ロマンは、やっぱり埋まっているんです!」

しろは目をキラキラリと煌めかせ、輪をポケットに詰める。そして、再度、店を飛び出して行った。

黒蝶堂に数分前の静寂が再来したとき、

「誰があれを、宝石と言ったかしら?」

本棚の上から、少女が地上に声を投げた。

「・・・傷一つ入らなかったじゃねぇか。」

あれがダイヤじゃなかったら、なんだってんだ。誰か客人の落とし物だろうから、しろが帰り次第警察に届けねぇとなと、はちは「・・・面倒くせぇな」と言いつつ席に座った。

少女は言葉を続ける。

「その必要はないわ」と。

疑り深い視線で彼女を見上げるはちに、

「あれは、砂糖の塊よ」

彼女は手元の書物を閉じ、表紙を撫でつつさもなげに答えた。

「さ、砂糖・・・?」

いよいよ、はちの顔が険しくなる。ゆりは

「角砂糖を宝石に変えることなど、簡単なこと。」

私は黒蝶堂の、憑者なのだから。

ふわりと堂長席の前に降り立ち、机の上を指さした。
対するはちは、

「・・・堅ぇ砂糖も、世界にはあるのかもしれねぇな」

深呼吸をし、指さされた先の山をみた。深く考えずそれに指を伸ばし、すっかり冷えきったコーヒーに落とす。じわりと溶けていくその様を見、はちはぼそりとつぶやく。

「・・・砂糖は、砂糖に決まってんだろうが」

彼はピラミッド型に置かれていた砂糖のうち、てっぺんの一個分が無くなっていることに未だ気がつかない。



【了】
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

メニュー
twitter
    更新情報配信中
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。