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【小話】紅色ハードル【更新】

【紅色ハードル】

「なにを思って、この競技を選んだんだろうな。」

朝方に家庭菜園で収穫したトマトの赤をチェックする黒川はちは、眼鏡越しの瞳で世界規模の体育大会を鑑賞している。地球上のどこかで開催されている世界ナンバーワン決定戦にエントリーした者たちを見て、ふとわき出た疑問を口にした。時刻は午後7時50分、テレビからは異国の焼けるような日差しが、黒蝶堂の脇に設けられている居住スペースの壁に容赦なく突き刺さる。

「もれなくムダなくムキムキです。」

はちの向かいで力こぶを作るのは、同居人の氷山しろである。「レースが見えねぇ」と、手首のスナップを利かせ彼を追い払ったはちは続ける。

「・・・鍛えてねぇと、国の代表になんざなれねぇだろ。」

「そうですかね?」

「・・・そりゃそうだ」

はちの断定に、「僕思うんですけど」と、今度はしろが言葉を繋ぐ。

「あのムキムキの方たちの中に、ごく普通のスーツ姿のお父さんとかお母さんとかが居たら、やっぱり応援しちゃいますよね。」

もしもそんな人たちが優勝したり、いい記録を残したりしたら、子ども大人も、かなり勇気づけられると思うんです。

しろは頷き、「どうでしょうか!」とはちに机越しに詰め寄る。2秒ほど思案したはちは、

「・・・んな奴らは、プロじゃねぇんだから、勝てるわけがねぇだろ。」

「自分の土俵を離れるなってんだ」と、右手のトマトを蛍光灯に翳した。上々の出来だな、と頬がゆるむ。感慨に浸るはちをよそに、

「この競技なら、僕がコーチをしてもいいですよ。」

画面を指すしろである。彼の指先を追うはちの目が、生中継の予定一覧にある”ハードル跳び5000m”に止まる。

はちは深い溜息を吐いた。

「・・・日々、障害物ばっかりだっての」

まるで自分が選手で、ハードルを置くのがこいつみたいだなと、首をすくめる。

――オレも人知れず選手だったのか…?いや、まさか。なにを惑わされているんだオレは。だが、まてよ。仕事とこいつの面倒に付き合わされるのがハードルと思えば・・・

そんなことを考え始めて数分後、

「野菜で遊ぶんじゃねぇよ!」

はっと我に返った彼は、しろの手から収穫カゴをもぎ取った。

向かいに座る白い彼は、トマトを絶妙な色合いのグラデーションに並び替え、見事なバランスでアーチを机の上に作り上げていた。

「ハードルが高ければ」と言うしろは、アーチを倒さずにトマトを一つ抜き出す。そして、

「食べちゃうか、土に埋め直せばいいんです!」

と笑い、それを丸々かじった。赤い汁を飛び散らせ、咀嚼しながらしろは続ける。

「食べてみないとわかりませんからね!」

「勝手に食ってんじゃねぇよ!第一、それは土の中で育つ代物じゃねぇっての!」

はちはうなだれるも、「おいしいですよ」とのしろの感想に「・・・当たり前だろ」と自らも一口頬張るのであった。


【了】

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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