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【小話】天然色近未来【更新】

【天然色近未来】

「・・・オレはただ、平穏無事な人生を送りたいだけだ。」

客のいない黒蝶堂の堂内にて、黒川はちはぼやく。肘を突き、顎を掌に乗せ、深いため息を吐く姿はもはや堂に入ってしまった所作である。

「つまらないじゃないですか!」

「・・・つまんなくていいっての。」

書棚と書棚の合間から顔を覗かせるのは、白い青年・氷山しろである。注文の入った書物を探すのは、堂長であるはちよりも、副長を任じられているしろの得意とするところであった。両手には3冊ずつ、古びた書物が積まれている。その一番上が、ある人物の懐古録であった。運ばれてきたそれを、はちは手に取り紙質を指で確かめる。内容を流し読みし、落丁のないことを認めて机に置いた。それを拾い上げたしろは、「色々あったほうが、楽しいじゃないですか!」と、山あり谷ありの著者の人生を掲げつつ頁をめくり、指をさしては「ほらほら」とはちにつきだす。対して、「事故を気を付けねぇとなと思うぐらいに、事件を斜め読みする程度に知ることができれば十分だろ」と、顔をしかめるはちは、

「・・・普通の暮らしがしてぇだけだ。」

それ以上のことは、事の善し悪しはあれ、面倒以外の何物でもねぇよと、肩を竦める。

「ならば、ゆりちゃんに聞いてみましょう。」

しろの提案に、

「明日、命を失う未来が訪れないわけではないわ。」

いつからそこにいたのか。書棚の上の彼女が定位置より舞い降り、ぽつりと呟いた。物が切れそうな程鋭い切り口の黒髪を揺らす。揃えた前髪から覗く未来予測の瞳が、ゆっくりと赤に染まっていく。

「仮に、貴方の行動が私の先をいくなら・・・」

「いくならば?」

彼女は目を伏せた。青く輝く瞳のしろとは対照的に、はちは怪訝そうに目を細める。10秒、20秒、30秒、彼はまばたきすらせず、微動だにしない。しないのではない、できないのであった。目の周辺に力が入る。瞳はじわじわと乾いていき、鼻の付け根に皺が寄っていく。

その時、少女が本を閉じた。空気を押しつぶすような破裂音に、はちの体が動きを許された。
ゆりは涼しげな瞳を開き、

「あまり心配しすぎないことね。」

「・・・誰が心配してるってんだ。」

はからずも涙目になる堂長の前で、微かににぃと笑って見せたのである。


【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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