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【小話】おわるはじまり【更新】

【おわるはじまり】

「お客さんですよー」

半纏の背を丸め、炬燵で暖をとっていたはちは、弾む声に耳を疑う。年中開店休業中の黒蝶堂に、正月から来る客があるものか。

「はちー」

間延びした声の主は、黒蝶堂の表を掃いていたはずだ。彼は飛行機でさえUFOだと、たとえ一人でも大騒ぎできるほどの目を持っている。呼ばれたはちは、蜜柑を剥く手を止めて、重たい腰を上げる。居住空間を後に、暗くて寒い黒蝶堂を通り、硝子戸を開ける。
そこには、見覚えのある少女が居た。彼女が頭を傾け、二つに結った髪を揺らすと、彼女の周囲を漂う光の塊が同じく座標を変えた。

「相変わらず、忙しそうだな。」

「・・・皮肉はもっと巧く言え。」

「子どもは風の子だというのだろう?」

「子どもじゃねぇからな、残念だが。」

「てめぇが子どもじゃねぇか」と問うはちに、「そうだぞ」と彼女は素直に頷いた。はちは怪訝そうに眉をひそめる。なにか引っかかりを覚えるはちへ、彼女は白い掌を見せた。

「・・・なんだ?」

「あたしは子どもだから、大人の堂長がお年玉をよこすんだぞ。」

「・・・なるほど。」

「貴方にしては論理戦できたのね。」

はちの背後から、赤いリボンの少女が現れた。身をよじらす彼を余所に、少女は牡丹の脇に佇む。「悪くはないわ」と、地面に手元の書物を横たえた。

「何が「悪くはねぇ」だよ。」

はちは仕方なく、懐を探った。がま口財布の中を覗く。タイミング良く、箒を放ったしろが、ポチ袋を持ってきた。彼女らに背を向け封をすると、一つを牡丹に、一つをゆりに伸べた。

「有り難く頂戴するわ。」

礼を言い、帯にそれをしまうゆりは、隣の牡丹に顔を向けた。牡丹は中身を手に、太陽に翳して言う。

「高価な硬貨なのか?」

「線香と蝋燭の組が4人分買えるくらいだ。」

「もちろん、一般的なやつだがな」と、はちは懐手に付け加える。「子どもなんだから、そんくらいで十分だろ。」頭を掻くはちに、牡丹は大げさに、あからさまな落胆を見せる。

「船を買うにはまだまだかかりそうだ。」

がっくりと肩を落とし、「渡し賃にさえ足りないぞ」と、力無く首を振った。

「お前達の順番がくるまでには、準備してやりたいが。」

「目標は豪華クルーザーなんですね!」

寒空の下、吹きすさぶ風の通りには、彼ら以外に人の姿はない。しろから温かな甘酒を受け取ったはちは、

「・・・いったい何の話をしてるんだ。」

彼女達へ、順々に湯呑みを回した。掌から、彼女達は暖をとった。一口飲み下したゆりが、ふと牡丹を見やった。

「牡丹、東に二歩動いて頂戴。」

「ひがし?」

飲み干した湯呑みをしろへ返し、ゆりが地上へ横たえた書物を興味本位でめくっていた彼女は、右の指を惑わせる。

「卯の方角へ3尺よ。」

合点がいったと、牡丹は本を開いたまま、ブーツのかかとを鳴らして移動した。途端、彼らの視界をすさまじい落下音とともに横断するものがあった。彼らの髪が重力に反し、体は一瞬の熱風にさらされた。白い煙が昇る。アスファルト舗装の地面が抉れている。その中央に玉虫色に光る物体が鎮座していた。

最初に動いたのはしろだ。身を屈めて、それを眺める。

「これは、隕石ですか?」

キラキラしていて、とても綺麗ですねと、目を輝かせ嘆息した。はちは目を疑い、微動だにできないでいた。少しの間をおいて、やっとそれに焦点を合わせることができた。よく見ると、落下物は何かを下敷きにしている。

「・・・いや、違う。」

書物から煙が出ていた。表紙に「世界の終焉」というタイトルと、隕石の落下を見やる人間の影が4つ並んでいる。先ほどは、まったく味気ない表紙だったはずだが、気のせいだったのだろうかと、ヒビの入った地面を見やる。このまま地面を直さなければ、新年早々、窪みに蹴躓く者がいるかもしれないが、目の前の現象を巧く説明する自信が、彼にはなかった。

「ゆりの観測のおかげで助かったんだぞ。」

ゆりに感謝の意を伝えた牡丹は、ほっと胸をなで下ろした。

「・・・今年が平穏に終わることだけを願いてぇもんだ。」

不吉な予感を払拭できないはちは、祈るようにゆりを見る。地上の書物を胸に抱いた彼女は、

「あなたは、あなたらしくいればいいの。」

厄災は私が予測するから、心配はいらないわと、頁をめくった。

「予測がゆりちゃんなら、排除は僕にお任せください!」

案件を一番持ち込んでくる青年は、ぴしっと指を立てた。頭痛の始まったはちは、ため息混じりに言う。

「・・・未来なんざ、読めるわけがねぇだろうが。」

「そうかしら?」

「ゆりちゃんがいれば、うちは安泰ですね!」

まるで神様みたいですと喜ぶしろに、



少女と堂長の声は、寸分違わぬハモリをみせた。
驚いたのははちの方である。少女と視線を交わらせれば、人を挑発するような涼しい顔がそこにあった。
牡丹としろが、顔を見合わせて笑った。


【了】
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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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