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【小話】無の背景色【更新】

「未来が見えますよ!」

客の姿のない黒蝶堂にて、彼は一冊の本を堂長に提示した。彼の指さす先には、中央部分のみを乱雑かつ器用に破り取られている頁が開かれている。いびつな形の穴の周囲は焦げ茶に変色しており、残された文字が散らばっている。次の頁が破られた箇所から読めるのを指して、彼は「未来が見える」と騒いでいるようだ。ぼんやりとその様子を観察していると、彼は今度はその1枚をめくり上げ、紙の縁を目の縁に合わせた。そして万華鏡を覗くような姿勢で、堂内を歩き始めた。
感嘆の声を上げながら見慣れた景色を楽しむ彼の笑顔は、堂長席にて頬杖を突く堂長に向き直った途端、瞬く間に色を失っていった。

「・・・どう見ても見えるのは現在だろ。」

売り物にはならねぇなと、はちは渡された本を堂長席に置いた。ちょうど、書棚を整理していたところであった。ぺらぺらと時間を右から左へ進めれば、他に欠損している箇所は無いことがわかる。物語の中央付近で、この本になんらかの不幸が襲ったらしい。焼け焦げたようにも、虫喰いのようにも、水に濡れてよれた結果抜け落ちたようにも見える、不可思議な痕跡だ。

「一期一会ですからね。」

もし今、手に取らなかったら、その本に出会うのはまた何百年後かですよ。

「・・・そんな先なら、もう生きてねぇだろうが。」

「本は、生きていると思います。」

「無機物なんだから、最初から、生きてなんざいねぇよ。」

ため息を吐いたはちは、ふと呟く。
表紙をなぞる手を止め、椅子に深く腰掛け直し、腕を組んだ。

「・・・なんか、変じゃねぇか?」

「貴方にしては、珍しく察しがいいわね。」

はちはぎょっとし、目を丸くした。
堂長席の脇に、いつの間にか赤い少女が佇んでいた。

「頁そのものを破り捨てるか、この書物自体を捨てれば良かったのよ。」

彼女の指摘に、はちの眉を寄せる力が弱まる。違和感のしっぽを掴んだ気分である。

「理由なんざ、ねぇんじゃねぇのか?」

彼の発言は、彼女の冷ややかな視線により真っ二つに折れ曲がって地に転がり沈黙した。
代わりにと言わんばかりに、しろがびしっと人差し指を立てた。

「ここに”なにか”があったことを、”誰か”に教えるためですか?」

すると彼女は、

「可能性の一つ、ね。」

軽く頷き、「察しのいい子は嫌いじゃないわ」と、しろを見やった。

「・・・勘ぐりすぎだろ。」

妙なやりとりを繰り出す同居人たちを前に、はちは再度ため息を吐いた。渦中の本を机上で広げる、それを合図にゆりが小さな手をかざす。すると、紙の繊維を織るように繋がっていき、段々と文字が濃くなり、穴はゆっくりと塞がっていった。

以前の所有者の、隠したいが晒されたくもある過去が、徐々に姿を現す。
彼らは音のない魔法のような現象を前に、じっと書物を見つめ、

「な・・・!」

「これは、何百年前の記録なんですか・・・?!」

二の句が継げなくなった。

それは黒白の彼らが珍しく揃って蒼白になる、少し前の話。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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