【小話】黄緑パラレル【更新】

黒蝶堂に乱立する本棚の片づけをしていた昼時のことだ。
最初は、膝が笑ったと思った。しかしそうではなく、床板に笑われていた。

「・・・嘲笑に似てるのかもな。」

四肢の自由を失い焦る自分とは対照的に、他人事のように冷静な立ち位置の自分は分析した。

臀部を強打した体は、すぐには動けなかった。後ろ手についた掌が、砂混じりのざらざらとした床を這う。はずみで飛んでいった眼鏡を探ると、並べるつもりであった書物の背表紙であろう、柔らかい装丁が指先に触れた。辺りは薄暗く、床は冷たい。膝を折り、勢いをつけて立つと、今度は頭を強打した。呻き声が口の端から漏れ、ぶつけた箇所を手でさする。こんなにも天井が低いとは想定外だ。

「・・・一体、ここはどこなんだ?」

場所は不明だが、下手人には心当たりがあった。
こんなことをする奴なんざ、あの正体の知れない無口な少女か、あの電波的思考回路の青年かだろう。目的も方法も不明だが、この店では、自分の身は自分で守らなければならない。だとしたら、この場から一刻も早く脱出し、いつものように堂長席に座り、時に流されるのが一番である。頭を切り替え、中腰の姿勢を取る。注意深く手を虚空に惑わせた。すると、ちょうど腕を伸ばしきったところで壁に触れた。少しの凹凸が指にかかる。べたべたと掌を密着させてみれば、

「はち、こんなところでなにを?」

世界は、横方向にあっけなく開かれた。
覗いたのは、誰でもないしろであった。青い目をまっすぐに注いでくる。

「ここは?」たった3文字の言葉が喉奥で絡まった。しろが「もしかして!」と、頬を緩める。

「猫型ロボットに、会うつもりですか?」

「・・・いつの間に、2112年になったんだ?」

ーー何でその話がいきなり出てくるんだ?

疑問を手で払うようにし、明るい方角へ這い出てみれば、がらくらたががらがらと置いてある見覚えのある部屋に足がついた。ここは、しろの居室で、自分はその部屋の端にある押入にいたようだ。通りで狭かったわけだと合点を得る。雑貨類の間を抜け、足早に黒蝶堂へ戻ることにした。壊れたであろう床板を修理しなければ、客人が下へ落下してしまう。そう、自分と同じように。

「・・・?」

階段を下りていると、違和感がふつふつと心にわき上がってきた。しかし、その正体は不確かだ。まずは1階の店の様子を見るのが先だ。考えるのは、その後でも遅くはない・・・はずだ。

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秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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