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【小話】春風のうつり【更新】

「じいさんくさいと思ったんだぞ。」

「・・・冗談だろ?まだ若いっての。」

永く続いた寒さも和らぎ、うたたねの増えた季節柄、黒蝶堂を訪れた少女は、我が物顔で縁側に腰掛けた。暇を見つけては顔を見せる少女の名は牡丹と言い、深見ヶ原墓地の憑者である。

ただし今日、彼女は一人ではない。

「たしかに、ここは!」

鼻をひくひくとならすのは、彼女の散歩仲間であり朝咲寺の憑者である青年である。名前は獅子之丞。彼は黒蝶堂にやって来るや、巨体を感じさせない俊敏な動きで、中庭を駆け回り始めた。すみずみまで探索しないと落ち着かないのか、伸び放題の草木や剪定していない樹木に立ち寄っては、指や掌、頬を使って、その感触を感じ取っている。時折、四つん這いになりながら走る姿は、見る者に脅威さえ与える。外に張り出した廊下には、彼の破れ提灯が放置されていた。

「・・・犬のリードは、ちゃんと持っとけよ。」

色濃く染まり、開いた梅の花弁が南風に晒されては舞い上がっていく。茶菓子を持たされ遣わされたのは、黒蝶堂の堂長・黒川はちである。呆れ顔の彼の後ろから、もう一人の居住者が顔を覗かせた。真白い髪の青年は5個の湯飲みを載せた盆を示した。

「梅昆布茶でも、どうですか?」

すると、背中に二本の卒塔婆をくくりつけた少女は、浅瀬の海の瞳を一層輝かせ、

「それが目的で、ここに寄ったんだぞ」と、悪びれもせずに宣った。

一列に腰掛けた彼らは、注ぐ日差しに目を細める。

「昨日よりは2度も、気温が上がるみたいですよ。」

白い青年が人差し指を立てれば、

「・・・絶対的な温度なんざ、実感できねぇだろ。」

黒い青年が、肩をすくめる。

「昨日よりどうだとか、明日よりはましだとかで、曖昧にしか感じられねぇよ。」

彼は思考する。
日没の時刻が遅くなり、日が段々長くなるのも、暖かくなっていくのも、それに気がつくのはいつも、変わりきってからだ。日々の若干の変化など、ただの誤差の範囲内としか認められないのかもしれない、と。

「・・・結局、”昨日との差異”ってだけなのかもな。」

「少しずつ変化して、大成功を掴み取るんですよ。」

うーんと背伸びをしたしろは、自分の腕を枕に寝転がった。体全体で日光を浴び、口の端を上げたまま瞼をおろして呟く。

「春は、今年も来てくれるみたいですね。」

「・・・春は、毎年飽きずに来るもんだろ。」

肩の骨を鳴らしたはちは、同じく後頭部で両手を組ませ、青い空に瞳を映した。

「そーれ、取ってくるんだぞ!」

その耳に、快活な少女の声が通る。
ブーツの踵を鳴らして、牡丹は円盤型の玩具を宙へと放った。

あれほど動けたら、どれほどすがすがしい気分になるだろうか?

そう堂長が思いをめぐらす程度に、軽快に飛び上がり、しっかりと玩具を捕獲する獅子之丞が視界に映り込んできた。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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