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【小話】流行りの警戒色【更新】

マスク姿のしろが、ゴム手袋を左手で引き延ばす。ゴーグルに近い防護用のガラスが、碧い瞳に陰を落とす。

「流行真っ直中なんて、らしくないですよ。」

「・・・乗ったんじゃなくて、向こうから来やがったんだ。」

「時代に追いつかれたなんて、なおさらです。」

「・・・取り残されるのが、お似合いってか。」

検査してねぇから、ただの風邪かもしれねぇだろと、掠れ声で軽口を叩く、布団に横たわった黒川はちは、掛け布団を引き上げて咳込んだ。体のありとあらゆる場所が、金属のように堅くなり、咳の反動で体が跳ねると悲鳴を上げる。節々が痛いなど、単なる風邪の症状とは違うなと、薄々感づいてはいたが。

「僕が、かかるべきだったです。」

正座をし、はちの傍に控えたしろは、下唇を噛んでうつむいた。

「・・・お前は年中、熱にうなされてるようなもんだろうが。」

思考回路も、突飛な言動も、オレの常識とはかけ離れてるぜ。はちは肩で息をしつつ、生ぬるくなった氷嚢の位置をずらし、額にきちんと乗せた。

「このままはちが死んじゃったら、僕は天涯孤独の身ですよ。」

「・・・大げさだっての。んな簡単に、死ぬわけがねぇだろうが。」

両者の間を、沈黙が通り過ぎる。鼻をすすったはちが、手の甲で自らの額を覆う。すると、顔を伏せていたしろが、その瞳をきらりと輝かせた。寒気を感じたはちが薄目で見やれば、しろの手には、蛍光緑のどろりとした液体の付着した綿棒があった。

「鼻につっこむんですよね!」

彼は眩しい笑顔を弾けさせる。
膝上には、「自宅で治す家庭の知恵~迷信編~」とのタイトルの書があり、色褪せた頁が広げられていた。

「・・・もうだいぶ調子がいいから、それは不要だ。」と、はちが言えば、

「なら、僕が熱を出すまでは、ここからでませんからね!」

しろは強く主張した。

ーーこのままでは、新しい症状が追加されて更に苦しむことになる。

はちは働かない頭をフル回転させ、ようやっと見つけた台詞に全てを懸けた。

「・・・ここでオレから感染しても、ただの踏襲にすぎねぇぜ?」

深刻そうに言ってみれば、一刻の間を置いて、

「それでは、ぜんぜんおもしろくないですね。」

しろは唸り、「わかりました」と、綿棒を色付きの瓶にしまい込んだ。次いで手早く片づけを済ますと、

「なら、僕はこれで」

手を振り、あっさりと部屋を後にした。はちは、一人になった部屋で、小さくこぼす。

「・・・あいつの考えてることは、昔からわからねぇな。」

ーーわかったのは、言葉が通じてても理解できねぇこともあるってことだ。

そう感じたはちが意識を手放すのに、時間はそれほどかからなかった。

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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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