【小話】きなこの証言【更新】

しろの背後から体を乗り出す。いそいそと開き、黙々と読み進めている目は鋭い。余程の内容が論述されているのかと少しだけ興味を覚えたら、それは、雑誌の占いの隣に設けられた、懸賞の欄であった。

「・・・クロスワード?」

「難しいんですよ!」

設問を広告チラシの裏に書き写し、ペンを指先で器用に回しつつ唸っている。クロスワードの答えを導き、その順番に隣の不規則に並ぶ丸を塗りつぶして繋いだ結果、浮き上がってきたイラストの正体を見極めろ、という二重の問いになっている。

「・・・簡単だろ、こんなもん。」

しろの手からペンを奪い、丸を乱雑に繋いでいく。案の定、「ちょっと待ってください!」と、横のクロスワードに苦戦していたしろが騒ぎ始めた。

「こっちが解けていないのに、おかしいですよ!」

「・・・丸の配置で、何となく予想は付くだろうが。」

そもそもこれは、子ども向けの雑誌である。薄目で紙面をなぞってみたら、点が脳内で黒と白に区分され、勝手に線で繋がれて絵が見えた、というだけの話だ。説明をしてみたが、やはり、しろの機嫌は直らない。作業をしていた手を強引にねじ曲げられ、筋肉が痛んだ。一応、抗議をしてみる。
しかし、

「たとえばですよ」と、彼は意にも介せず続けた。

「はちの大好物を、きなこが大量にまぶされたコッペパンだとしましょう。」

「・・・別にいいけどよ。たとえ話なら、もう少し高級な食べ物でもいいだろ。」

「大量のきなこですよ!カロリーもお腹も大満足な一品ですから十分ですよ。」

「・・・それで?」

いちいち引っかかっていたら、話が二転三転して終わりすら見えてこない。とりあえず、先を促してみる。

「お昼に食べようと思って大切にお皿に乗せておきます。いざお昼になって確認したら、置いておいたはずの皿からパンがなくなっていた。はちは驚き怒り、そして悲しみます。」

「・・・いや、そこまでは」

「たとえばの、話です。」

ぴしゃりと遮られた。ため息が出る。いつもこうやってペースに巻き込まれていくんだよなと感じつつ、仕方なく、彼の妄言に耳を傾けることにした。

「そのときに、僕が、きなことパンクズにまみれた口元で登場したらどうですか?」

「・・・そりゃ、疑うだろ。」

「なぜですか?」

僕はその日、きなことパンクズの山からキャンディを口で探り当てるゲームに参加して、帰ってきたところかもしれないーーと、仮定にしても強引な論理で、しろは自分を擁護する。

「・・・お前は、何の大会にエントリーしてたんだ?」

「無数の可能性を同時に探る力を披露してました。」

胸を張るしろに、「それはつまり」と言いかかって、口を塞いだ。なんとなくだが、彼の言わんとしていることがわかってしまったような気がしたからだ。反論できなかったところを、びしりと指を突きつけられ畳みかけられる。

「その手段で、真実を見抜くことが出来ますか?」

「・・・名探偵なんざ、現実には、存在しねぇだろ。」

かと言って、すべてが関連していないとも言い切れねぇと思うんだがな。
むしろ、関連してると考えるのが普通じゃねぇのか?と、肩をすくめてみせた。

すると、しろは「お!」と歓喜の声を上げた。どうやら、クロスワードの最後の一つが埋まったらしい。真剣に検討していた自分は何だったのだと、再度の抗議をしたくなる。が、どうせ効果がないのだろうから止めておいた。

「ほら、見てください。」

走らせていたペンを止めた、得意げな様子の彼は、裏紙を見せつけてきた。
そこには、そんなに埋める箇所があったか?と疑いたくなるほど、キメの細かい絵が完成していた。

「ご覧の通り、答えは、猫なんかじゃなくて。」

「・・・助手が間一髪、友人を助けてる図ってか?」

絶対、オレの答えが正しいだろと主張したところで、受け入れられはしないだろう。古い雑誌だから、懸賞の応募期日はとっくにすぎている。十中八九、答えは猫だろうが、その答えを知る術はない。自分もクロスワードから取り組むべきか?応募したところで、景品は最高でテレホンカードなのだから、惜しい気持ちはそれほど強くはないのだが。
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説明

秋雨

Author:秋雨
人間と憑者のライトホラー物語。

現実世界その他諸々の事象とは、一切関係ありません。著作権は放棄していません。なにかありましたら拍手からお願いします。

【管理人】

秋雨。成人済。

【主な登場者紹介】

黒川 はち

古書店黒蝶堂堂長。
気苦労の絶えない受難者。

氷山 しろ

黒蝶堂副長。
電波的言動の目立つ青年。

ゆり

黒蝶堂憑者。
冷静沈着な少女。

深見ヶ原 牡丹

深見ヶ原墓地憑者。
猪突猛進イノシシ娘。

カコ

川辺の憑者。
人間嫌いで鬼桐の部下。

鬼桐

煙草が手放せない隊長。
熱くなると誰にも止められない。

黒川 伊織

はちの祖父で先代堂長。
3年前に他界。

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